3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
ほのおのテラスタルでフィールドを焼き尽くすほどのパワーを叩き込むイーユイとともにハッスル状態のサトシだが、またもやタクトの過去のビジョンをキャッチするのだった。
『タクトよ、お前はワシが幾度となく申し伝えた禁を破り俗世へ足を踏み入れた…あまつさえ、俗世の力比べで名声を得て悦に入るなど言語道断!!』
『ポケモンリーグで勝ち抜き、嬉しかったのは事実です。しかしそれはダークライやラティオスと力を出して戦い、より絆を深めることができたからのこと!そして、俗世に生きる人やポケモンたちも同じであり、世界とは人とポケモンの絆に満ちていると知ることが出来た…このことは、里にいたままでは理解しきれなかった。僕は、自らの行いに後悔はありません!!』
『黙れ!!掟は守る為にある…破る為ではない!大方同志の誰かが余計な気を回したのであろうが、掟を破りし者を再び里に入れるわけにはいかぬ!!それがお前の選んだ道ならば、母の死に目に会えず、死に顔も看取れぬ結果も甘んじて受け入れよ!!』
『ぐ…父さん…!!』
『ワシは、寄り人の民を纏める里長の使命に依って立つ身なのだ…!!』
それは、どこかの秘境の奥深く、里の入り口にて問答するタクトと里長の姿であった。
ほどなくしてタクトはラティオスの背に乗り飛び去ってゆく。
『お互い寄り人の民として生まれておらなんだらば、お前の行く道も放蕩息子の笑い話と出来たのかも知れぬのう、タクトよ…。』
それからタクトの足が里に向くことはなかった。
母の死に目に飛んで帰っている間にチャンピオンリーグは終わり、やがて世間もシンオウリーグを騒がせたダークライ使いのことを忘れていく中、まどろみの森の奥でタクトがザシアンにくちたけんを託されるところでビジョンは途切れた。
「ぴかぴ!ぴかぴ!」
「ン…あぁ、ピカチュウ。」
足元からの相棒の呼びかけでサトシは意識を引き戻す。
『呆けるなよ』そう、目で訴えてきていた。
「うッ!?」
吹っ飛ばされたザシアンの元へ審判が駆け寄れば、眩い光とともにその姿が変化していた。
シアンと白の体色と欠けた左耳が特徴で、三つ編み状に結わえた髪型のような部分と尻尾はオレンジ色の歴戦の勇者の姿の傍には熱に負けて融けゆくくちたけん…。
「ザシアン、戦闘不能!イーユイの勝ち!!よって勝者、チャンピオンサトシ!!」
力なく倒れたままの姿に審判は高らかにジャッジを下した。
ウオオオオオッ!!ナイスチャンピオン!!
「決着ですッ!!ダークライ使いのタクト選手を前にチャンピオンサトシ圧勝!!伝説のポケモン攻勢に対して同じステージに立っての完全勝利ですッ!!」
「うーむ…タクト選手の強みはなんといっても伝説のポケモンの圧倒的なスペックに加え、それを熟知し引き出せるトレーナーレベルの高さにありました。そこでチャンピオンはまずスペックから対等の立場に立ち、純粋なトレーナーレベルの差で勝ち切った…見事な勝利です。」
「イーユイ最後の1発、あのオーバーヒートもよかった!ポケモンとトレーナーの熱い魂!その眩しさ!全てが調和しての必殺技!!ありゃあいい!ほのおポケモン使いとして、俺も盗んで見せるぜ!!」
目を爛々と輝かせるオーバにナンテも笑みを見せながら頷く。
こういった真っ直ぐな貪欲さこそが彼を四天王たらしめ、人々を惹きつける魅力たり得させているのだとしみじみ思った。
「やったやった!サトシが勝った〜!サトシ〜おめでと〜!!」
「まだフェンスは熱持ったままだぞ?」
身を乗り出そうとしたところのヒカリをケンゴが制する。
あやうく火傷しそうになるのをギリギリで踏み止まりながらヒカリはケンゴへ感謝と照れ隠しの苦笑いを向けた。
ケンゴもそんな幼馴染に笑みを返す。ポケチューバーのグループ同士、これからも幾度となく交わすやり取りであった。
「やったなサトシ。いい試合だったぜ。」
快勝となるサトシにククイ博士は目を潤ませる。
火傷からではない。押しも押されもせぬ圧倒的な戦いぶりにチャンピオンとしての風格を垣間見た。
それほどの男になって見せてくれたのが嬉しかったのだ。
「タクトさん。くちたけんは…。」
スタジアム中央にて、試合後の儀礼としてサトシとタクトは向かい合う。
ピカチュウは指定席の肩の上に登り、2人の周りをイーユイがご機嫌に飛び回っている。
サトシが謝意を込めて話を切り出すのに対し、タクトは爽やかな笑みを向ける。
「気に止む必要はないよ。くちたけんは常にザシアンと共にある。明日にでもなれば再生し、ザシアンは剣の王の姿を取り戻すのさ。」
融けてなくなり、フィールドの土と混ざり合ったくちたけんに心配は無用とタクトは返す。
ならばよかった、と安堵したサトシは生来の明るさを表情に取り戻し、右手を差し出した。
「タクトさん、対戦ありがとうございました!」
「ぴかぴぃか!」
「こちらこそだよ。対戦ありがとう。完敗だ。」
サートーシ!サートーシ!サートーシ!サートーシ!サートーシ!
タクトが快く握手に応えれば、スタジアム中からドッと沸き起こるサトシコール。
儀礼を済ませれば、ワールドチャンピオンとして客席全方位に両手を振りながら応える少年の横顔をタクトは目に焼き付ける。
「(今こそ確信した。これから先、この世界はどれほど揺さぶられようとも安心なのだ。"マサラタウンのサトシ"…彼が世界一のチャンピオンとして君臨し、仲間たちとともに正しい道の先を行く限り!)」
同時に確信するのは、旅の終わり。
タクトは確かに見つけたのだ。この俗世に…ポケモン世界に燦然と輝く光を。
それは、一族を捨て、母の死に目に会えなかった過去を補って余りある至上の喜びであった。
サトシがタクトと戦ったランクマッチから3ヶ月間は、ポケモンバトル業界の1年間でも怒涛の日々であるのは例年通りの話だった。
「ぴるぅ〜…!」
「ムクホーク、戦闘不能!サーナイトの勝ち!!よって勝者、トウカシティのマサト選手!!」
「さなぁ!(マサト!)」
「やったぁ!やったねサーナイト!!」
『ホウエンリーグサイユウ大会優勝はぁ!!準決勝にギンチヨ選手、決勝にムネシゲ選手と、ホウエン一の強豪トレーナー夫婦を立て続けに破りましたマサト選手に決定です!!』
「あらまぁ、ホントに勝っちゃった。」
「マサト〜!おめでと〜!」
フィールドで抱き合うマサトとサーナイト。
それを家族みんなで応援に来た姉のハルカと姉弟の両親。
母親のミツコが感極まり涙しながら手を振る中、腕を組みながら無言で試合を見届ける父センリはただただ何度も頷いていた。
「でねぇ〜〜〜あ!!」
「ばっちぁ〜ッ!!」
「クロバット、戦闘不能!デデンネの勝ち!!よって勝者、ミアレシティのユリーカ選手!!」
「あは!やったぁ〜〜〜!!」
「で〜ねね〜!!」
『やりましたユリーカ選手!!カロスの雄、"百年元帥"ジル選手の吸血殺法を前に元気溌剌フレッシュな戦いぶりを見せて勝利を収め、カロスリーグミアレ大会を制しましたッ!!』
「ユリーカちゃ〜ん!おめでと〜!」
「あっ、お義姉ちゃんとお兄ちゃん!!」
客席に見つけたドラセナとシトロンの下へ駆け込み、デデンネを抱き上げニシシとユリーカは白い歯を見せる。
その晴れ姿を見届ける2人の左手薬指には、指輪がキラリと光っていた。
「どうだ、どうだ!どうだッ!」
渾身の大熱波を前に、通常の5倍近くの体躯であるこだいがめポケモンアバゴーラの巨体が倒れ伏し、そこに審判が駆け寄る。
「アバゴーラ、戦闘不能!ウルガモスの勝ち!!よって勝者、ザンギタウンのバンジロウ選手!!」
「おっしゃあああああ!!」
『試合終了ーッ!!バンジロウ選手、強豪バウザー選手のド迫力ファイトにも怯まず応戦、真っ向から跳ね返し怒涛の勝利!!イッシュリーグヒガキ大会優勝決定です!!』
「やりましたね。我が師アデク。」
「まだまだ。真のつわものたちが集うチャンピオンリーグこそ本番よ。お主も出るのだしな?」
「はい。」
イッシュリーグの事務所から試合を見ていたレンブにアデクは厳しく返していた。孫に甘い祖父の姿を弟子に見せるのは恥ずかしいという認識からだ。
そんな師の振る舞いを察することが出来るのは、やはりレンブがアデクの一番弟子である証左なのだ。
ホウエン、カロス、イッシュとデビューしたてのルーキーが地方予選を勝ち上がる中、若き力の台頭はなにもルーキーだけではないとまず気を吐く1人は、アローラ地方マナーロスタジアムにて…
「イナフ。」
「カマスジョー、戦闘不能!アシレーヌの勝ち!!よって勝者、メレメレ島のスイレン選手!!」
「勝った…?勝った!」
「きゅおーん!!」
「「お姉ちゃ〜〜〜ん!!」」
「わわ、ホウ!?スイ!?」
『第4回を迎えるアローラリーグマナーロ大会決勝は、タケナカ選手のフィッシュ戦法を見事読み切ったスイレン選手が優勝を一本釣りであります!!』
勝ち名乗りもそこそこにというタイミングでフェンスを飛び越え駆け込んで来た妹2人を慌ててスイレンは抱き止める。
観客のフィールド乱入は重大なマナー違反では在るが、この場に関してだけはそれを咎めるのは野暮と皆厳しく指摘はしなかった。
「そう!天下に名高き名門予備校ポケモンゼミの1番星!!銀河の果ての、そのまた果てに…光り輝くアンドロメダかとも人は呼ぶ!しかしてその実態は…!」
「がらぁ〜。」
くるくると回転する主人にガラガラも楽しげに倣い、回転の勢いを活かして骨の棍棒をパルシェンの殻の間、本体たる顔面に叩き付ける。
「優 藤 聖 代 !!」
高々と挙げられた右手は天高くを指差し、自らがNo.1だと誇示。
同時にパルシェンは倒れ審判のジュン少年がジャッジを下した。
「パルシェン、戦闘不能!ガラガラの勝ち!!よって勝者…。」
一瞬の為、
「一番星のセイヨ選手!!」
かつての級友の粋な勝ち名乗りにセイヨは満面の笑みを向ける。
『ポケモンリーグ本部のお膝元、セキエイ大会の長丁場を潜り抜け、決勝にてニビシティのセイジ選手を破ったは"帰ってきた令嬢"セイヨ選手!!PNTTでの活躍そのままの強さを見せつけましたーッ!!』
「(約束は果たしたわ。チャンピオンリーグで勝負よ、カキくんにスイレンさん。それに、まだ見ぬライバルたち!!)」
そしていずれはサトシともまた戦って、今度は勝つ!セイヨの情熱もまた星々の輝きの中にあった。
そんな地方予選突破者たちがしのぎを削るチャンピオンリーグは翌年3月に行われるがそれはまた別のお話…。
10月中に各地で行われたポケモンリーグ地方予選の優勝者で、新たにチャンピオンリーグへ進出する顔ぶれが定まり、11月の終わりにはPWCSのランクマッチも終了。
時は、年の暮れの12月に差し掛かる。
「兄様、いよいよですね。」
「あぁ。」
「ぐむ〜、ドキがムネムネして参りましたぞ。」
パルデア地方オレンジアカデミーの生徒寮。
そのフリースペースに集まり大画面テレビを見るのはグラジオ、リーリエ兄妹と親友のサワロにとってもはやお決まりのスタイルとなっていた。
「胸がドキドキ、では?」
「楽しみですね。我らがサトシの晴れ舞台。」
そして、そのお決まりのスタイルに乗りかかるのはオモダカとひばりである。
サワロのミステイクにひばりがやんわり突っ込む中、オモダカはちゃっかりテレビの真正面に座り込んでいる。
今回は彼女たちだけではない。生徒たちが集まる最後方、壁にもたれかかる形でグズマもこの場に混ざっていた。
年の瀬前、今年最大…いや、今世紀最大の死闘を見届ける為に。
「らっしゃ〜せ〜!って、あねさん!!」
「どうした?」
「いや、姐さんじゃあなくって…。」
「ちゃんと頑張ってるみたいだね。感心感心。」
ジェニーに振り向かれ、文字にしないと分からない言い回しの違いを表現出来る語彙力が備わっていないバイトのスカル団をカラカラ笑い飛ばしながらアイナ食堂にやって来たのはプルメリと、彼女が引き連れたスカル団のご一行であった。
「いらっしゃいませ〜!」
「団体なんだけど席大丈夫かな?」
「大丈夫でーす!ジェニーさん、ご案内よろしく!」
「了解だ、マオ。」
ジェニーがスカル団ご一行を開いたテーブル席に案内する中、食堂のテレビ画面にはシュートスタジアムの光景…。
「いよいよね。ククイくん。」
「あぁ。我らがサトシの大一番だ。」
「にいちゃ!にいちゃ!」
別のテーブル席からテレビを見るククイ博士の一家。
レイは、目を輝かせながら夢の舞台を見上げていた。
「博士ー!ママさんお連れしました!」
「すまんのケンジ!ささ、ママさんこちらへ。」
「あらま、こんないい席!」
「ママさんには特等席でいてもらわないとこの特注映像機の意味がないでのう!」
オーキド博士のポケモン研究所、その広大な庭の一角に設置されたパブリックビューイングには、マサラタウンの人たちがこぞって足を運んでいた。
その最前列ど真ん中にはハナコの指定席をサトシのフシギダネが死守。
「ありがとうダネちゃん。」
「だねふし。」
ハナコは観念した苦笑いとともにパイプ椅子に座り、膝の上にフシギダネを乗せる。
その両サイドにオーキド博士とケンジが座った。
「いよいよですね。連覇をかけた戦い!」
「うむ!この日のためにサトシは今まで念入りに準備して来たからのう!」
口々に話す2人やご近所さんたちをよそにハナコが望むのはただ1つ。
我が子が無事息災に帰ってくることのみである。
「対戦相手の方やお客様の方々に迷惑かけなきゃいいけれど…あの子、そそっかしいから。」
いつまでも可愛い盛りの我が子へのハナコの呟きは、ガヤガヤとした喧騒の中に溶けていくのだった。
ポケモン歴2000年12月15日、昼12時。
ポケモンワールドチャンピオンシップス・マスターズトーナメント開催。
それは、白熱の終章の幕開け。
PWCSランクマッチ サトシvsタクト
シングルバトル 6C3Dルール
サトシ タクト
メルメタル◯ ダークライ●
→アーゴヨン
アーゴヨン◯ ラティオス●
→イーユイ
イーユイ◯ ザシアン●
(テラスタル使用)
勝者 サトシ
今回でこのパートは区切り。外伝を挟み、次のパートに入ります。