3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
もう1本外伝挟みます。
ポケモン歴1968年。場所はシンオウ地方カンナギタウン。
深い霧に行く手を覆われるこの『昔を伝える町』にて『華の68年組』筆頭として扱われ、現代ポケモンリーグ史における3大女性チャンピオンに数えられ、『シンオウの女神』と称されることとなる少女がこの世に生を受けた。
その名は、シロナ。
両親は共働きかつ出稼ぎで、母もシロナを産んでそそくさと町を出ていき、彼女の養育は祖母であるカンナギタウンの長老に任せられることとなった。
そんな彼女の幼少期とは…、
「待たんか〜〜〜!!この"酒蔵破り"めが〜〜〜!!」
「だぁれが待つもんですか!べろべろべろべろベロリンガぁ〜!!」
ハチャメチャに最悪であった。
村社会特有の寄合に顔を出し、悪い大人から酒の味を覚えたのがケチのつき始め…シロナは隙あらば町の酒蔵に忍び込み、貯蔵されている酒をちびちびやっては見つかって赤ら顔で逃げ回っていた。
『あの町、基本霧に囲まれてる210番道路か険しい山岳のある211番道路しかアクセス先がないでしょう?だからろくに娯楽も作りようがなくって、暇潰しのスリル体験ついでのようなものだったわね。』
後に本人は方々に対してこう語る。
酒蔵に忍び込み、祠へ逃げ込んで追っ手を撒き家に帰っては祖母から折檻を受ける…。
そんな日々を物心ついた頃から送るシロナ7歳の頃に訪れた最初の変化、それは、孫娘のあまりの奔放さに困り果てた祖母がもとよりパイプを持っていたシンオウの竜の里から取り寄せた1個のタマゴがもたらした。
「がう。」
「あ、産まれた!」
祖母よりあてがわれたタマゴの世話、そこから孵ったフカマルはシロナにとって友にも妹にもなった。
タマゴのお世話によりシロナ自身も幾分か気性は穏やかにはなった。
「待てやコラ〜〜〜!!」
が、フカマルが産まれたことでタマゴのお世話の為に控えていた酒蔵破りは再開され、むしろフカマルとの共謀でより手口が悪質化する始末であった。
『ホント、顔だけは良かったのよね。』
本人がインタビュアーの前で回顧するのはトレーナーデビューがいよいよ間近に迫った9歳の冬、シロナは生まれて初めてカンナギタウンの外に出た。
10歳となる前にポケモントレーナーとしての基礎を学ぶべく、マサゴタウンのナナカマド研究所にて泊まり込みの研修に参加する為だ。
「やぁ。僕はプラターヌ。よろしく。」
「よろしくね。」
爽やかな笑みとともに握手を求める少年にシロナは応じる。
カンナギタウンはシンオウの辺境で、ハッキリ言ってコミュニティも狭い。子供同士の付き合いがなかったではないが、カロス地方からわざわざ越境してまでナナカマド博士に師事して来たこのプラターヌの熱心さはシロナにとって鮮烈で、出会った当初は好意さえ抱いていた。
出会った当初、だけは…。
「やぁお姉さん。ポフレのフレーバーは何が好きかな?え?リッチサワー?あ、ほんと?僕たち気が合うかも〜。」
このプラターヌ少年、とんでもない女好きで、道ゆく女の人にひたすらアタックを繰り返すナンパ野郎であったのだ。
そんなプラターヌを女の人から引き剥がす役割に自然に回っていたシロナの不満と言えば…
「ねぇプラターヌくん?あなたの目の前に今超がつくほどの美少女がいるんだけど気付いてない?」
「え!?超がつくほど美少女!?どこ!?どこどこ!?」
このやりとりに集約されている。
瞬間、シロナの右膝がプラターヌ少年の顔面にめり込んでいた。
そんな研修の場を設けたナナカマド博士は、当時のシロナの事をこう評した。
『正しき道にせよ悪しき道にせよ、間違いなくこの娘は将来大物になるであろう。彼女の行く道が正しき道である事をただただ祈りながら指導するのみであったよ。』
ナナカマド博士の元での研修を終え、10歳となりいよいよポケモントレーナーとしてのデビューを果たしたシロナは、最低限の旅の用意と、餞別として行きつけの酒蔵からかっぱらってきた一升瓶をリュックに詰め込み冒険を開始した。
「おっしゃあ〜〜〜!今晩のアテ、ゲット〜〜〜!!」
「!?!?!?」
そんな旅立ちの中で、シロナのパーティーにパートナーのフカマルの次に加入したさかなポケモンヒンバスは、一歩間違えば酒の肴にされるところからのスタートであった。
文字通り命懸けの説得とアピールによりギリギリゲットしてもらい、今では立派なミロカロスへと進化してシロナの主力として活躍している。
ポケモン歴1979年。
シロナはルーキーイヤーの前年にあっさりと予選大会を優勝で潜り抜け、この年に当時のシンオウチャンピオン『メギ』とのタイトルマッチが成立。
この時はまだチャンピオンリーグ制は施行どころか提唱すらされておらず、四天王の配置もされていなかった。故に基本的には各々の地方の予選大会を勝ち抜けばそのままそこのリーグチャンピオンとの試合にもつれ込む形が通例であった。
試合当日を迎えたシロナのコンディションは…、
「うげるげぇぇぇぇぇ…。」
ハチャメチャに最悪であった。
チャンピオンとの大一番を前に気をよくしたシロナは活動拠点の1つであったミオシティで連日居酒屋を渡り歩き、居合わせた人々を酔い潰してハシゴしまくるツケが回って来ていた。
この時酔い潰された哀れな犠牲者の中に当時からミオジムのジムリーダーとして活動していた『鋼鉄ボディの男』トウガンがおり、介抱してもらった一般女性と交際に発展。そのまま結婚し、『ザ・ロックと言われる男』ジムリーダーヒョウタが産まれるきっかけとなったのはここだけの話である。
自業自得からの盛大な二日酔いだった。
「これよりシンオウリーグタイトルマッチ、チャンピオンメギvs1978年度予選大会優勝者シロナ選手の試合を行います!!ルールは6体フルバトル、試合開始ッ!!」
この時の試合運びや戦略、戦術など実践的な面は、シロナの脳裏には一切記憶として残りはしなかった。
あるのは二日酔いによる最悪なコンディションを引き摺りながら、気付けば新チャンピオンとして勝ち名乗りを受け、大先輩の先代チャンピオンより右手を高々と突き上げられていたことくらいである。
シロナ、11歳の年末の夜に戴冠成る。
むず痒いのは、一切覚えていないこのタイトルマッチこそがチャンピオンシロナのベストバウトであるという評価が支配的なことだ。
まぁ、だからといって酒を控える、などという話には現在に至るまでなりはしないのだが…。
新たなシンオウチャンピオンとして行った4度の防衛戦、その舞台で戦ったリョウ、オーバ、ゴヨウらに加えOK時代からの猛者であるキクノがポケモン歴1985年にカントーから制定され、シンオウでも取り入れられたチャンピオンリーグ制における四天王として迎え入れられた。
ポケモンリーグの施策で、現チャンピオンと、それに次ぐ実力者をピックアップしての人気商売を押し上げてゆく目的だというリーグから派遣されたマネージャーの説明を17歳のシロナは終始上の空で聞いていた。
要はバトルとなればとりあえず勝てばいい…そう、勝手に解釈を済ませるシロナの興味は考古学に向いていた。
その源泉は酒蔵破りを繰り返していた幼少期にまで遡る。
『時間とは止まらないもの。過去と未来、そして今…。』
『空間とはすべての広がり。そして心も空間…。』
『そこには神がいた。それらは強大な力を持っていた。その力と対になるように3匹のポケモンがいた。そうすることで鼎の如く均衡を保っていた。』
カンナギタウンの中央部にある祠、その奥の遺跡の入り口を挟むようにに刻まれた時の神ディアルガと空間の神パルキアの壁画…入り口を通った先の、三角形に並んだ3つのなにか…そして中央に光るものを見て回りながらの祖母の語り。
それが去来したことでチャンピオンとなってから渦巻いていたシロナの中の虚無感は晴れた。
考古学の観点からこの世界の謎に迫るという新たな目標を見つけたからだ。
『あたしの故郷を思わせるあの遺跡…はじめはシンオウのように雪が多い土地だからそう感じるんだと思ってたわ。でもそうじゃなかった。大昔、シンオウ地方からあの土地に移り住んだ人がいたの。彼らは故郷を想ってあの神殿を作ったのね…それが、シント遺跡。』
考古学者としてのシロナもまた非凡であった。
25歳の折に訪れたジョウト地方フスベシティから更に北方の豪雪地帯に位置する、積り続ける雪に囲まれた遺跡の発見が大きな功績として認められたのだ。
遺跡の内部に存在する、そうぞうポケモンアルセウスを祀るために造られた神聖な舞台。
アルセウスの偉大な力を音楽と踊りで表現し、その伝統が今に受け継がれているとも突き止めた。
舞台には世界を創り出したポケモン達の文様が描かれており、中央の円は『すべての源、アルセウス』左下の円は『時間を司るディアルガ』、右下の円は『空間を司るパルキア』、上の円は『反物質の世界を司るギラティナ』を表すことを調べ上げることができたのも、シロナが幼少期より故郷で歴史を伝える一端に触れ続けていたのが要因であった。
こうしてポケモントレーナーとしても、考古学者としても成功したシロナ。それは公私でいう『公』、ハプリックの部分である。
もう1つの『私』…即ち、プライベートの方はと言うと…、
「もうあたしチャンピオン辞める〜〜〜!!普通の女の子に戻るぅ〜〜〜!!」
ハチャメチャに最悪であった。
「女の子、って歳でもないだろ。」
「あ゛ぁ゛!?」
やべっ、と口を噤むがもう後の祭り。オーバは相手の背後から両足を内側から引っ掛け、両手をチキンウイングで絞り上げるシロナのパロ・スペシャルで地獄の苦しみを味わう羽目となった。
ミシミシミシミシ!
「ぎゃあ〜ッ!!」
「し、シロナさん!オーバくん死んじゃいますって!」
「ちなみに、何があられたので?」
「いつもの如く婚活だよ。」
黄緑色のショートヘアで大きく跳ね上がった毛とノースリーブのシャツがトレードマークの青年リョウが慌ててシロナを止めにかかる。
髪は紫色のウェーブヘアで、ワインレッドのスーツを着て眼鏡をかける美丈夫のゴヨウが尋ねれば、シンオウリーグにおけるチャンピオンと四天王の纏め役を務めるキクノはサラリと告げた。
二足の草鞋を上手く履いて見せたシロナが次に求めたのは、女の幸せ。
結婚相手を探し求める婚活に臨み始めたが、その結果は惨憺たるものの連続であった。
ある時はチャンピオンという立場に尻込みし、またある時は考古学者としてあちこちを飛び回るシロナと温もりを共有できないから、と都度お相手に離れられる理由は様々だが、その中で1番の理由は、やはり酒癖の悪さからだった。
「ちなみに、今回で何回目です?」
「467連敗。」
婚活に失敗するたびにヒステリーを起こし、チャンピオン辞任騒ぎを起こしては適当な幸運ごとをきっかけにして持ち直し、また婚活に臨むの繰り返し…。その敗北の歴史が更新されたのをまたサラリとキクノが告げる。
それでなくてもシロナのメンタルとは存外不安定であり、何かにつけてヒステリーとともに普通の女の子に戻りたがるのがいわゆる身内知り合いの共通認識としての悪癖だった。
「「ぶっは…!」」
それはそれとして、此度の婚活失敗による連敗記録が奇跡的な語呂合わせに繋がり、思わずリョウとゴヨウは噴き出してしまう。
それが命取りであった。
ギシギシギシギシギシギシ!!
「「ぎゃああ〜〜ッ!!」」
リョウとゴヨウの4本の足をまとめてステップオーバーし、二人羽織のようなシャープシューターを極めるシロナによって青年たちの端正な顔立ちが苦悶に歪む。
なんともしょーもない、とキクノはため息を吐いた。
この分ではしばらく嫁の貰い手はなさそうだ。
「ま、今はその方がこの娘にもシンオウリーグにもいいかもしれないけどね。」
「がぁぶぅ。」
「貴女にとってもね。」
暴れ回る主人の様子にどうしようもないものを見る目のガブリアスの首筋をキクノは優しく撫でた。
ガブリアスがその撫でる手を受け入れて安らぐのは、彼女がじめんタイプのエキスパートである以上に主人とは比較にならない女性としての豊かな包容力を持っていたからだ。
シンオウリーグチャンピオン、シロナ。
その抜群の美貌から繰り出される圧倒的なポケモンバトルの妙技と考古学者としての高い知性、プライベートではお酒をこよなく愛する自由人としての立ち振る舞いが今も人々の心を掴み、魅了するのだ。
『トウガン』
45歳。シンオウ地方ミオシティのジムリーダー。
キャッチコピーは『鋼鉄ボディの男』で同地方クロガネシティのジムリーダーヒョウタの父親。
元々は採掘鉱夫であり、その生活から鋼のような筋肉を鍛え上げている。親分肌で豪快なナイスガイだ。
時間設定をしくじりました。申し訳ありません。