3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 オーキド研究所の戦いは、シンジの貫禄勝ちに終わった。
 サトシとシンジは、再戦を誓い、それぞれの道を行く。
 両者が次に相見える時、それは…戦いの時。


それぞれの戦い 勇気凛々元気溌剌 興味津々意気揚々

 シンジとカスミの試合の後、サトシはホウエン地方へ向かう航路にあった。

 リーグ挑戦やリサーチフェローとしての調査で何度か乗ったことのある便を利用しているので、乗るまでは慣れたものである。

 

「チャンピオンサトシ、サインください!!」

 

 道中のサイン攻めは相変わらず熾烈ではあったが。

 目的としては、マッチングが成立したPWCSのランク戦である。PWCSのマッチングとは、互いのランク差があまり大きくならないよう調整が幾重にもされている。

 それはトレーナー間の実力差の均一化と共に、バトルに参加するポケモンの保護という観点からも大切なこととして扱われている。

 しかし、ことワールドチャンピオン、ランク1位ともなると、対象となる参加者の絶対数が少なくなるが故にどうしてもマッチングそのものが難航する。その分一戦一戦にかかる意義がとても大きいのだ。

 スポンサーの意向や利権が絡み、数少ない成立したマッチングの為にチャンピオンがあちこちを動き回ることにもなる。

 3年前まで絶対的チャンピオンとして君臨していたダンデは、その重度の方向音痴から、ほとんど相手側が彼のホームであるガラルでの試合に臨むことになり、これが『無敵のダンデ』の伝説を助長した一因だと指摘する識者も一定数いるがこれはまた別の話だろう。

 ホームにしろアウェイにしろ、戦うことになるトレーナーのレベルが極めて高くなるのは言うまでもないし、変わりはしないのだから。

 

「サトシー!」

 

 頭に巻かれた真っ赤なリボンが爽やかな潮風に揺れつつ、可愛らしい顔立ちのすぐ下ではたゆんたゆん、と巨桃が、その顔立ちとはまるで違う淫靡さを無意識に撒き散らしている。

 出迎えてきた、走り寄り飛びつく少女をサトシは満面の笑みで抱き留めていた。密着する『女』の部分にはピクリとも反応していない。

 

「ハルカ!久しぶり!バシャーモも!」

 

「ホント久しぶり!3年ぶりカモ?」

 

「しゃあも。」

 

 赤いリボンの少女、ハルカの赤基調の衣装と並び立つバシャーモは、ハヅキの個体とはまず目元が違う。

 戦う男の目をしていたハヅキのとは対照的に、ハルカのバシャーモは優しさを携えたものだ。

 バシャーモという種が持つ強靭さを、雌の個体特有の肉感的な柔らかさが包み込んでいるその肉体は、ポケモンコンテストの世界にて『ホウエンの舞姫』の異名をとるハルカの相棒に相応しい仕上がりと言えよう。

 受け止めたハルカを抱き上げ、くるくると回る。

 さながら人力メリーゴーラウンドからそっと降ろしては、サトシは尋ねた。

 

「あれ?マサトは?」

 

「はぐれちゃったのよ。ホント、世話が焼けるカモ。」

 

「ぴーかちゅう?」

 

「大丈夫よピカチュウ。」

 

 ハルカはやれやれ、といった表情で答える。

 ホウエンへ出向くための船を待つ間のサトシと、スマホロトムのトークアプリ『ポケライン』でのトークが奇跡的に繋がったハルカが、弟のマサトと港まで出迎えに行くという形であらかじめ話はまとまっていた。

 サトシからしたらそのハルカはいてもマサトが一緒にいないのだ。そのことにハルカはまるで心配する様子もない。

 

「(また喧嘩でもしてるのか?)」

 

 こうサトシは訝しんだ。

 3年前のホウエン地方を巡っていた際、同行していたこの姉弟は、事あるごとに喧嘩していたのを覚えていたのだ。

 喧嘩の理由の八割ほどはどちらが発端にせよ取るに足らない、しょうもないものではあったが、一人っ子のサトシにはどこか羨ましさを感じさせるものでもあった。

 

「そのうち見つかるわよ。それよりサトシに会って欲しい娘がいるんだけど、いいかな?コンテストライブで凄く頑張ってる娘なんだけど、ここ最近元気がなくって。」

 

 サトシと違い、ハルカが専門としているのはポケモンコンテストである。

 ポケモンの華やかなパフォーマンスと、その華やかさを前面に押し出したコンテストバトルの二面性が競技としての奥深さを現出させ、現在ではポケモンリーグに並ぶほど、トレーナーにとって需要の高い進路となっている。

 そのポケモンコンテストから、バトルの要素を排除した形で派生していった競技がコンテストライブなのである。

 その経緯から両者は非常に近い競技性なのもあり、人口のスライドも頻繁に行われる都合上から、厳密には別競技ながら顔見知りも増えやすい環境なのだ。

 

「3年前のサトシのマスターズトーナメント決勝線を一緒に観た縁で知り合ったんだ。凄く熱心なサトシのファンなの。」

 

「そっか。やっぱりサインとか欲しがるのかな? 」

 

「とびきり上手に書いてあげて欲しいな。」

 

 サトシとハルカ、それに2人と会うことになる娘はこの後とんだ『世間の狭さ』を味わうことになるのをここに先述しておく。

 

「おい急げよ!すげえジュカイン同士のバトル見逃しちまうぞ!」

 

「なんでも片方はカロス帰りで、リーグ予選にも出たくらいのやつらしいぜ。」

 

「んっ。」

 

「ちゅぴかぁ?」

 

 目の前を横切る若者たちが口走るのにサトシはピクリと反応する。

 サトシもジュカインを所有するトレーナーだ。気にならないはずがない。

 何より向いた先からは見知った波導も感じる中、ハルカの腕の中のピカチュウはサトシを見上げる。

 

「ちょっと覗いてく?」

 

「あぁ!」

 

 そんなサトシの様子に察してみせるハルカが寄り道を切り出せば、サトシは思い切り食いつく。そして2人で街中の広場へ向かうのだった。

 

 

 

 ホウエン地方ミナモシティは、海路の受付口でもある。

 港は商業を発展させ、人の往来を活発化させた。ストリートは常に人に溢れ、そのおこぼれ目当ての野生ポケモンも町に溶け込んでいる。

 

シュバン!シュバン!

 

 そんな活気のある街だ。当然道行く人同士目が合うこともある。

 目と目が合えば、それはポケモントレーナーにとって開戦の合図なのだ。このぶつかり合いはある種必然とすら言えた。

 ビル街という密林の下、目まぐるしいスピードで駆け回り、何度も何度も腕の葉をぶつけ合わせる2体のみつりんポケモン、ジュカインの姿があった。

 

「じゅかぁッ!!」

 

「じッッか!!」

 

ガキン!バチバチバチィ!ギキン!

 

 片方は背中の種子が尻尾にまで規則的に生え揃い、その尻尾も巨大に先鋭化、緑の体色のアクセントである赤もより濃い危険色となっているメガジュカインが緑色に発光させた腕の葉を振り下ろせば、もう片方のジュカインは空色に発光する腕の葉を鍔迫り合わせる。

 攻守の入れ替わりはこの瞬く間に幾度となく繰り返されていた。

 

「(なんてことだ…メガジュカインのスピードについてきて、完全に合わせてくるなんて。)」

 

 メガジュカインのトレーナーである緑髪の褐色肌をした少年、ショータは正直絶句させられていた。

 ジュカインというポケモンのことは隅々まで把握しているつもりだ。なにせ一番最初のパートナーなのだから。

 で、あるが故にそのポテンシャルの幅も理解していた。だからこそメガシンカによって上乗せされたパワーで有利に立てるはずだった。

 それがどうだ?端的に言えば、追い詰められているのは自分の方だ。

 そもそもの話、目の前の同じジュカインを繰り出してきた眼鏡の少年相手にメガシンカを切ったことが、いや、切らされたこと自体が衝撃であり、想定外なのだ。

 話を聞くに、ホウエンリーグ出場を目指して今年デビューしたばかりと言うのに、その指示は的確で堂に入るものである。

 

「(こちらがジュカインをメガシンカさせた途端リーフブレードからつばめがえしへ、振るう技をシームレスに切り替えてきている。)」

 

 右手で僅かに眼鏡のズレを直し、相手は不敵な笑みを崩さない。

 認めざるを得なかった。こちらの動きは完全に読み切られている。おそらくメガジュカインのスタミナに翳りが出たところを確実に仕留めに来る…。

 ジュカインも眼光からその時を今か今かと待ち構えているのがショータには分かった。詰みの状態まではそう遠くない…。

 

「いたいた、マサト〜!!」

 

「い゛ッ、お姉ちゃん?」

 

 それは、『弟』という生き物にとってはどうしようもない生理的反応であった。

 ポケモンバトルの真っ最中、顔を丸ごと声のした方角に向ける愚こそは犯さない。

 ただ、眼鏡の少年、マサトは『弟』であるが故に潜在的に『姉』の声音に、ほんの一瞬意識が逸れる。

 それが致命的であった。

 

「今ですジュカイン!!」

 

「じゅるぁぁあ!!」

 

「し、しまったッ!!」

 

 マサトの意識が逸れた一瞬は、ショータにとってまさに僥倖そのものであった。

 単純なステータスとしてはやはりメガシンカしているだけ、ショータのジュカインに分がある。

 バトルを始めてからの短期間でマサトはその動きの癖を読み取り、受けを合わせていたに過ぎないのだ。

 それはそれで高い技術なのは間違いないのだが、不意を突かれた代償が、思考の揺れとなって重くのしかかる。

 

「つばめがえしで迎え撃つんだ!」

 

「じゅっか!」

 

「ここで決めますよジュカイン!ドラゴンテール!!」

 

「じぃぃぃぃっかぁ!!」

 

 マサトの焦りが伝播したジュカインのつばめがえしが先に振り下ろされてはメガジュカインは冷静にそれを腕の葉で受け流し、ジャンプ。

 空中で縦回転し、巨大な尻尾をジュカインの脳天に叩き込んだのだ。

 

ズガンッ!

 

「ああっ、ジュカイン!」

 

「じか…か、じゅっ。」

 

 頭部を撃ち抜かれうつ伏せに倒れるジュカインの目が回っている。戦闘不能の表情であった。

 それまでの打ち合いで蓄積していたダメージもあったのだろう。

 

「はぁ、はぁ…危なかった…経験値、頂きました。」

 

 ショータ的に正直なところを言えば、古巣に帰郷してすぐのバトルは軽く済ませ、弾みをつけてからホウエンリーグ挑戦のためのジム巡りに入る予定であった。

 それがこの薄氷の勝利である。とても褒められた内容ではない。であるが故に大きな経験になった。

 メガシンカを解除したジュカインが倒れたマサトのジュカインに手を差し伸べ掴み起こすようにショータが右手を差し出せば、マサトもそれに応え握手を交わした。

 

「流石メガジュカイン。凄いパワーですね。次は僕たちが勝ちますから!」

 

「ありがとうございます。僕たちも今よりもっと強くなって見せますとも!」

 

パチパチパチパチ…ヤルジャネーカワケーノ!

 

は両者の健闘を讃え、野次馬たちも拍手喝采盛り上がる。

 バトルがひと段落したところで、ハルカがサトシを伴ってマサトに近寄る。

 それを見たショータが位置角度的に先に反応を示した。

 

「サトシ!?」

 

「やっぱりショータだった。久しぶり!」

 

 マサトはデビュー前から、サトシの試合記録を何度も見てきた。

 だからこそ、古巣に帰郷したばかりのショータの姿を認めては、すぐに特定できたのだ。彼が3年前のカロスリーグにてサトシと準決勝を戦った相手だということを。

 挑みかかった結果はつまらない自己本能に呑まれての半ば自滅に近いものであったが、自分がリーグを知る相手にもそれなりに戦える位置にいるというのは大きな収穫であった。

 それはいい。

 目の前でショータと再会の握手を交わすサトシの存在、そのインパクトが、そんな収穫を忘れさせていた。

 

「サト…シ…?」

 

 ショータから視線をこちらに移すサトシ。

 肩には、あの日々と同じ、いや幾多の戦いを繰り返してずっと強くなった、けれどもあの頃と変わらない笑顔を向けるピカチュウ。

 

「よう。あの日の約束、果たしに来たぜマサト。」

 

「ぴかぴかちゅ。」

 

 無邪気で好戦的な笑みをサトシが、自分に向けている。それだけでマサトは感慨無量となっていた。

 

 

 




 『ハルカ』
 13歳。『ホウエンの舞姫』の異名を持つトップコーディネーター。
 ホウエン地方でのサトシの旅の仲間の1人で、よく食べる分の栄養は主に胸にいくタイプ。
 エースポケモンは、バトルでも高い実力を誇る相棒のバシャーモだ。

容姿はORAS版イメージです。
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