3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 サトシの準決勝の相手が決まる第2試合。
 シンジはキタカミの里でゲットしたアカツキを先発させる。初見のポケモンに探りを入れながらのシロナから2ダウンを奪うもののまだまだ勝負は分からない。
 チャンピオンの底力こそ計り知れないものだからだ…。


最終章!マスターズトーナメント 1回戦 シロナvsシンジ②

オオ…?オオオオオッ!!

 

『チャンピオンシロナ、2ダウン目を奪われました!!ジムリーダーシンジ、押し込んでおりますッ!!圧倒的優勢ッ!!』

 

「ゴーストタイプの実体を捉えて、なおかつ回避能力を高めても無意味って…あのアカツキってポケモン、つまりはきもったまとするどいめのいいとこどりした特性を持ってるってこと!?」

 

「シンジは"しんがん"って言ってたな。」

 

「しんがん…心眼、か。」

 

 咀嚼するようにアイリスは呟く。歓声にどよめきが混じるのも無理からぬことと思えた。

 シンオウにて最強たるチャンピオンシロナがこうまで追い詰められるなど普通ならありえないことなのだから。

 

 

 

「戻れアカツキ。」

 

 その全身を灰色の泥炭で鎧のように包み込み、外敵から身を守る習性は元をただせばガチグマである以上特異個体のアカツキも同様だ。

 その泥炭がグレイシアの凍結攻撃を受け剥がれ落ちたとなれば丸腰も同然。防御機能は完全に死んでいる以上交代は必然であった。

 が、シンジがアカツキを引っ込めた理由としては別にある。

 

「(バトルのルールがどうあれ、追い詰められたトレーナーはエースに場を託し打開を狙うもの…ことチャンピオンであるシロナさんならばここで繰り出すは…)」

 

「(あの目…あたしがこの子を出すのを読んでるわけね。)」

 

 両者それぞれにボールを構え、投げ込むは…

 

「天空に舞え…ガブリアス!!」

 

「がぶぁぁぁ!!」

 

 

 

「「キタキタ、ガブリアス!!」」

 

 サトシとアイリスもこの辺りは読み取れている。

 

 

 

「マニューラ、バトルスタンバイ!!」

 

「まんにゅう!!」

 

『追い込まれたチャンピオンシロナはエースのガブリアス!!追い込んだ側のジムリーダーシンジはマニューラをそれぞれ投入だーッ!!』

 

「ふぶき!!」

 

ビュオワアアアアアッ!!

 

 

 

「あーッとジムリーダーシンジ、今度はこちらがとばかりにマニューラの凍気攻撃をガブリアスへ浴びせかけるーッ!!効果は抜群だーッ!!」

 

「妙だな…。」

 

「うん。マニューラは素早い身のこなしと鋭い鉤爪を使って戦うのが得意なポケモンだ。そりゃあ遠距離からの凍結技も使えはするがやはり本領は物理攻撃にある。それに…!」

 

 シンジの速攻は悪いものではない。ただ、あまりにシロナを打倒するにはあまりにもストレートすぎる。

 ワタルとミクリの懸念はそこだった。

 

 

 

「あたしのガブリアスにこおり技は効かないわ。」

 

「がぁぶぁ!!」

 

ガキィン!!

 

 じめんとドラゴン…こおり技に滅法弱い2タイプを併せ持つガブリアスのボディが瞬く間に氷の中に閉じ込められてゆく。が…

 

バリィン!!

 

『氷を一瞬で砕いて脱出〜〜〜ッ!!』

 

「さっきアカツキとかいう子でやっていた"体内振動"は、元はと言えばあたしが考えついた戦法!!」

 

 その咆哮はハイパーボイスなりじしんなり…ポケモンの内なる振動エネルギーを利用してボディに付着するマイナス要素を弾き飛ばすテクニックの開祖としての意地であった。

 

ギヌロッ!!

 

「にゃぴッ…!?」

 

 ガブリアスが双眸にマニューラを捉える。

 ポケモンとして生来持つ狩人としてのプレッシャーすら抑え込む王者の覇気とともに距離を詰めれば、マニューラの体が一瞬硬直をする。

 その一瞬で、回避も防御も封じ込めていた。

 

「ドラゴンダイブ!!」

 

「がぁぁぶぁ!!」

 

バッキィィィ!!

 

「ぐにゃあ〜ッ…!」

 

 分類通りマッハのスピードとパワーで叩き出される肉弾攻撃は、同じくスピードとパワーに優れる分耐久力に不安を残すマニューラには到底抗しきれるものではなかった。

 宙を舞う小さなボディが背中から落ち、その顔は完全に目を回している…。

 

「マニューラ、戦闘不能!ガブリアスの勝ち!!」

 

「がぁぁぁぶぁぁぁ!!」

 

 

 

「うおっ!相性最悪の相手にこの戦いっぷり!!すげぇぜ!!」

 

「やっぱチャンピオンは違うなー!」

 

 反撃の狼煙を天へと舞わせるガブリアス。

 まだまだシロナはこれからだと誰しもに思わせる1撃KOで鮮烈なイメージを刻み込んでいた。

 

 

 

シロナ、残りポケモン4体。ダウン可能数残り1体。

 

シンジ、残りポケモン5体。ダウン可能数残り2体。

 

 

 

「やっぱりシロナさんは強い。流石にタイプ相性だけでどうにかなる相手じゃあないわよね…。」

 

「ぴかぴ?」

 

 マニューラがあっさり倒された流れに唸るアイリス。

 隣のサトシが無言なのは頭の片隅に小さく何かが引っかかっていたからだ。それを言語化できるほどの語彙量がないのが悲しいところであったが。

 

 

 

「戻れ。」

 

 無表情のままマニューラを戻し、すぐさま次のボールへ持ち変える。

 

「ドンカラス、バトルスタンバイ!!」

 

「んかぁ〜!!」

 

 おおボスポケモンドンカラス。

 ソフト帽を髣髴とさせる意匠の鶏冠に豪奢なファーあるいはマフラーを思わせる白い胸毛、その名の通りマフィアのドンといえる風貌の鳥ポケモンでガブリアスお得意のじしん攻撃をタイプ相性から封じてきた以上にサトシとシロナの目を見開かせたのは、この子を出して来た時点でシンジの意図に気付いたからだ。

 

「シンジくん、あなた…!」

 

「くろいきりッ!!」

 

「かぁッ!!」

 

ボファァァッ!!

 

 見るものの視界を奪う黒霧が瞬く間にフィールド全体へ撒き散らされてゆく。

 

 

 

「本来ならばポケモンのパワーアップ効果を打ち消すためのくろいきりだが、この場合はシンプルな搦め手、目眩しか。」

 

 

 

「ガブリアス、跳んで!」

 

「がぶぁッ!」

 

 視界不良の誘発狙いと看破するワタル。

 それを嫌ってガブリアスを空中へ逃がすシロナの表情には険しさがこびりつく。

 

「かぁ!」

 

 そんなガブリアスの背後には、『彼女たちの予想通りに』ドンカラスが回り込み…

 

「ゴッドバード!!」

 

「(そうはいくものですか!)りゅうせいぐんッ!!」

 

 漆黒のボディに白色のひこうエネルギーを纏い突撃を敢行。空中での方向転換と同時にガブリアスは口から竜星を発射、

 

バッカァァァァァッ!!

 

 即座に拡散するりゅうせいぐんがドンカラスを襲うも、

 

「スクリュー回転をかけていけ!!」

 

ギュルルルルルゥゥゥッ!!

 

 夜空に螺旋を描くことで勢いこそ弱められるもゴッドバードは止まらない…!

 

「ッ…!ギガインパクト!!」

 

 苦虫を噛み潰したような表情でさらなる迎撃をシロナは指示する。

 心得たガブリアスは全身に膨大なエネルギーを纏い、真っ向からドンカラスと正面衝突!

 

ズッガァァァァァン…!

 

「かぁ〜ッ!!」

 

 りゅうせいぐんをやり過ごすのでパワーを減退させられたところにギガインパクトを合わされ、ドンカラスはひとたまりもなかった。

 

「がふッ!」

 

 競り勝つガブリアスはそのままニュートラルポジションへ着地。

 撃墜されたドンカラスはフィールドに腹這いで墜落し、目を回して倒れていた。

 

「ドンカラス、戦闘不能!ガブリアスの勝ち!!」

 

 ダンペーのジャッジもそこそこにシンジはドンカラスをボールへ戻す。シロナは険しい表情を向けたままであった。

 

 

 

シロナ、残りポケモン4体。ダウン可能数残り1体。

 

シンジ、残りポケモン4体。ダウン可能数残り1体。

 

 

ウオオオオオオオッ!!

 

『チャンピオンシロナ、2ダウン目を奪い返して逆王手!ジムリーダーシンジ、追い込まれました!!』

 

「やっぱシロナさんつえー!!」

 

「あのガチグマだっけ?あいつが強いだけだったみたいだな。所詮ジムリーダーじゃチャンピオンには勝てないんだ。」

 

 

 

「ぴかぴ、ぴかっちゅう?」

 

「あぁ…間違いない。シンジの奴、3年前と同じ戦い方を…!」

 

「えっ、どういうこと?」

 

 

 

 結局勝つのはシロナなのだという観客の言葉など耳に入らない理由としてサトシの脳裏に蘇るのは3年前のことだった。

 

 

 

 時は遡る。

 ヒカリ、タケシと旅をしていてヨスガシティを目指す道中、近くの遺跡に足を運ぶチャンピオンシロナの話を聞き付けたので行ってみることにした。

 そこに居合わせたのがシンジであり、

 

「俺はトバリシティのシンジと言います。ポケモンバトルをお願いします。」

 

 野次馬など眼中に置くことなく、公然とシロナに対しバトルを申し込んだのだ。

 

「野試合の申し込みなんて久しぶり…シンオウリーグに挑戦中?」

 

「はい。」

 

「なるほど…どうやら、他のリーグを転戦して来たみたいね。」

 

 遺跡の石段を降りながらシロナはシンジの見聞を瞬く間に済ませる。

 今思えばその眼力もチャンピオンであるが故のスキルであったのだろうとサトシは思う。

 

「いいわ。挑戦を受けましょう。」

 

 柔和な笑みとともにシンジからの宣戦布告に応じるシロナ。その結果は、言うまでもなくシロナの圧勝だった。

 シンジからすればヒコザル、マニューラ、ヤミカラスを捨て石にしてからのドダイトスを繰り出し、せめてガブリアスだけでもというタスクをクリアすることも叶わなかった。

 

「ほ〜らな、だから恥かくだけだって言ったんだ。」

 

「ざまぁねーぜ!」

 

「「「ははははははは!」」」

 

「笑うなッ!!」

 

 シロナに挑み惨敗したシンジへ浴びせかけられる嘲りの声にサトシは吠えた。気付けば吠えていた。

 確かに結果こそついてこなかったものの、シンジは堂々と偉大なチャンピオンに挑みかかり戦い抜いたのだ。

 なんならシンジがやらなければ自分が挑む気でいた。

 ポケモンのことを友達としてではなく、『使えるかどうか』でゲットし、見込みがなければ逃がすというシンジのやり口はトレーナーとして今でも決して好いてはいない。

 ただ、ひたすらに『上』を目指して強さを求めるシンジの精神性には強いシンパシーを感じずにはいられなかった。

 

 

 

「うん?ちょっと待って?ガブリアスが出て来てからの流れがサトシが昔見たバトルと同じってことは、シロナさんはこの2ダウンに関してはあの子に"取らせられた"ってことじゃない!」

 

 時を戻そう。

 経緯を語られたアイリスはギョッとしながらシンジを見る。早い話がシロナはまんまとシンジの描いた筋書き通りに乗せられているというのだ。

 

 

 

「(ヒコザルこそいないが…。)」

 

 チラ、とシンジの後方ベンチから試合を観るサトシの顔を視界に入れてからまたすぐシンジへとシロナは向き直る。

 思えば彼ら、全くアプローチは違いながらも強さを求める同じ青雲の志を持つ少年たちは初めて会った時も自分の前に揃えて顔を合わせていた。

 そこからサトシはチャンピオンとして自分を破り、ワールドチャンピオンにまでなって見せた。

 そうして今度はシンジが自分を踏み越えようとしている。

 

「コレがあなたの思い描くあたしを倒すための戦略…ということね。」

 

「あの時上手くいかなかったのは俺と、ポケモンたちの修行が足らず、レベルが追いついてなかっただけに過ぎません。」

 

 戦略として間違っていたつもりはない…そう証明するためにシンジが繰り出すのは…、

 

「ドダイトス、バトルスタンバイ!!」

 

 頬からは白い岩の棘が伸び、白いフレームで全体を覆う背甲の右側には3つの白い岩が突き出し、左側には1本の木が生えている。

 たいりくポケモンドダイトス…シンジのファーストポケモンであり、あの日と同様、シロナのガブリアスを倒すためのフィニッシャーとしてフィールドに降り立つ。

 

「どぅだぁい…!」

 

「…フッ!」

 

 重量たっぷりなボディとともに咆哮する相棒にシンジは口角を上げる。

 同時に左腕の袖を軽く捲ればそこにはZリング…緑色のクリスタルがキラリと輝いていた。

 

 

 




 『体内振動』
 シロナが開発したバトルテクニック。
 振動を発するエネルギーの応用により、相手の攻撃がダメージとして浸透する前に弾き飛ばすもの。
 理論上、シロナのガブリアスには本来大弱点であるこおり技すらタイプ相性通りには通用しないのだ。
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