3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
セミファイナルのサトシの試合は、そんな最強ライバルシンジが相手と決まるのであった。
『さて皆さん。第1試合は打ち込まれながらも盤石のバトル、第2試合は大番狂せでベスト4最初の対戦カードが成立!!フィールド整備が終わり、これから行われる残り2つの席を賭けた2試合、どれも激闘が予想されます!!』
「いよいよアランだー…大丈夫かなー…?」
「ねぇ、マノンちゃん?」
「あっ、マノンで大丈夫、です!」
「はりゃんま。」
アイリスに、チャンピオンに声をかけられガチガチな主人にやれやれ、とハリさんは首を横に振って見せる。
コレも人生経験だ、と特に助け船を出すでもないが。
「ならマノン。大丈夫かな…ってことはアランって、まだ調子は良くなってないの?」
「そういえばPNTTでも控えで出てこなかったな。」
夏場のことを思い出すサトシに直接手合わせしたアイリス、それぞれにアランと関わりがある2人にマノンは口を開いた。
開くよりなかった、ともいえた。そこには縋る思いがあった。
「サトシとの開幕戦を終えてからのアランは2戦目にドラセナさん、3戦目にはガラルに乗り込んでキバナさんにも勝って絶好調のまま5月の半ばごろに4戦目を迎えたんです。」
「ドラゴン使いでめちゃくちゃ強いあの2人に勝つなんて、やっぱアランは凄いぜ!」
「ぴかぴかぁ。」
3年前にランクマッチで対峙したサトシ故にマノンの語る話の中に出てくる2人の強さはよく知っていた。
ピカチュウも頷いて見せる。
「5月の半ばごろ…あぁ、もしかしてコレ?」
アイリスがスマホロトムを操作して検索をかければ1つのWEB記事が映し出され、それをマノンに見せる。
「なんだなんだ?」
横から覗き込むサトシの目に飛び込む見出しはこうだ。
『若きリザードン使いのリベンジ粉砕!チャンピオンダンデ圧勝!!』
「はりゃあ〜…。」
ハリさんも記事を見て苦い顔をする。アランは今回のトーナメント前にも1度ダンデとの試合に挑み、敗れていたのだ。
ランクマッチの性質上、同じランク帯の中から試合が組まれるのは当然の措置である。
マスタークラスならばマッチアップされるのはたとえ自分より下位であってもマスターズエイトの席を奪い合う強豪揃い。
そんな中で戦い続ける関係上、同じランク内にいるダンデとの試合が起こるのも当然の流れと言えた。
「確かこの頃ってCDルールを浸透させる目的でマスターでも3C1Dでやってたわよね。」
「はい…。ダンデさんもアランも最初からリザードン対決で、やっぱりダンデさんは強くって…。」
気分が沈み込み、言葉に詰まるマノン。それだけでサトシもアイリスも事情を察するに余りある話だった。
アランは2度目となるダンデとの試合に臨み、またもリザードン対決にて完膚なきまでに叩きのめされ、それが原因で現在進行形のスランプに陥ってしまっていたのだ。
「フン、ぬるいやつだな。いくらリザードンが強くてもトレーナーがそんな体たらくでは。」
「シンジ!」
いつの間にやらアイリスの右隣のベンチにドカリと座り込んでいるシンジに3人は目を見開く。
併設のポケモンセンターにポケモンを預けUターンしてきたのだろう。サトシは気付けば食ってかかっていた。
「おい!そんな言い方ないだろ!?」
「事実だろうが。実力上位の存在を相手にするのが明らかな舞台でトレーナー自身がコンディションを上向けられぬなど使えないにも程がある。」
「いい加減にしろよシンジ!マノンが可哀想じゃあないか!アランだって頑張ってんだぞ!!」
「頑張るだけならヒコザルにだって出来る。」
「なにィ〜…!」
「コラコラコラ!どっちも盛り上がらない!」
睨み合いの中に割って入るアイリスは、なぜシンジがわざわざこちらのベンチに顔を出すのかの理由に見当がついていた。
反対側、ダンデが入場してくる予定の後方ベンチには地元ガラルの報道陣がたむろしスタンバッていた。
ダンデは地元の英雄だ。マスコミが群がるのも無理はない。そんな中に入り込むよりはそりゃあこちらの方マシだろう、と思う。
アイリスとしても同じ行動をしたという共感とともに新鮮さを感じたのは、シンジへのサトシの荒い応対だった。
イッシュ時代、悪人相手に感情を露わにする人一倍の正義感の強さは度々見ていたアイリスだったが、シューティーを始めとしたライバル関係については割とドライに受け流しているような印象を持っていた。
少なくともシンジに対して見せる感情任せの激発は、悪人に対して以外イッシュでは見ていない。
ウオオオオオオオッ!!ヤッタレヤッタレ!!
「ほら、試合始まるんだし座った座った!」
いつの間にやら清掃ロボットが引っ込み、フィールド中央にてダンデとアランが握手を交わしていた。となればいがみ合っている場合ではない。
アイリスとマノンを内側に、シンジはアイリスの右隣、サトシはマノンの左隣に座り込む。互いに仏頂面のまま腕を組んだ。
「(神様…どうかアランに力を貸してあげてください…!)」
無言で手を組みマノンは祈る。アランの勝利というよりはスランプに陥り、長く暗く、そして苦しいトンネルの中を彷徨したままの彼にほんの一筋でも出口への道を照らして欲しい。
そんなこれまで連れ添ってきた相方であるが故のささやかな願いであった。
「これよりPWCSマスターズトーナメント第3試合!チャンピオンダンデvsアラン選手の試合を行います!!」
「さぁ、今度はどんな手で来る!?」
挑発がてらに言いながらダンデがアランに対して思うことは『こいつ大丈夫か?』の一点である。
『あなたのリザードンとバトルすることは俺の夢でした…そして超えていきます!!』
3年前、同じこの舞台で相対する本人から浴びせかけられたこの台詞に類するようなことは、ダンデとしては18年のトレーナー人生において飽きるほどに聞かされてきていた。
それでもマスターズトーナメントまで駒を進めてきたならば、と期待をしてみたがこの青年、年を重ねた分の成長しか出来ていないようにしか見えないのがダンデからの正直なところであった。
端的に言えば『予想通りの進歩しかしていない』のだ。さらに言うなら、どこか自分で自分を押さえつけているようにも感じる…。
「「ゆけッ!!」」
互いに投げ込むモンスターボール、姿を現す先発は…
「ぎゅわッ!」
「めしゃしゃ〜!!」
「しゃめめ〜!!」
「ばぁぁぁんッ!!」
『チャンピオンダンデはドラパルト、アラン選手はバンギラスを投入だぁーッ!!』
ビュアワアアアアアッ!!
バンギラスを中心にして巻き起こるは砂嵐。
特性『すなおこし』によりバンギラスが有利に立ち回れるすなあらし状態へとフィールドを切り換えたのだ。
「バンギラスはこうやって自分の領域をすぐに展開できるのが強いんだ。すなあらし状態でのいわタイプは特殊技のダメージを低減できるのもいい。」
「ドラパルトはそのスピードと広い技範囲がウリな分、パワーに関しては若干他のドラゴンポケモンに譲る面もあるからね。この盤面はバンギラスに対してタイプ相性的に不利だけど。」
ワタルが簡潔にバンギラスのスペックについて語れば、ミクリもドラゴン使いの前で恐縮ではあるが、と前置いてから言葉を紡ぐ。
「戻れドラパルト!」
そんな中肝心の試合はダンデの即時交代から幕を開けた。
「ゆけッ!!」
ボールの回収光線を浴び、そそくさ退散してゆくドラパルトに代わり飛び出す影にアランは『しめた!』とほくそ笑む。
「バンギラス、じしん攻撃!!」
「ばぁぁぁッ!!」
ズガァン!!
ズッシン!重量感たっぷりに降り立つはドサイドン。
その着地に合わせバンギラスは体内でじめんエネルギーを振動させ、大地を断ち割く衝撃波を発射し交代際の一撃を叩き込んだ。
『ファーストアタックはバンギラス!じしん攻撃は効果は抜群だーッ!!』
「上手い交代読みだ。」
「読みは、ね。」
ミクリにワタルも首肯を見せる。
「いいぞ!やっぱアランはすげぇや!!」
「ぴかぴかぁ〜!!」
「あれくらいは"必要経費"だろう。見ろ。」
目を輝かせるサトシとピカチュウ、シンジが冷徹に言いながら指を差せば、
「どぅさぁい…!」
そこには全身至る所に備えた赤茶色のプロテクターを存分に活かしてピンピンしているドサイドンの巨体があった。
「効いてないの!?」
「ドサイドンの特性は"ハードロック"…効果抜群のダメージを軽減するんだ。」
驚くマノンへ説明をするシンジの声色が若干柔らかくなっているのをアイリスは感じる。明らかにサトシに対する物言いとはトーンが違うのだ。
ジムリーダーともなれば流石にその辺りの分別はつけているのだろうと勝手に納得する。
マノンもマノンでシンジの放つ空気感が、どこか在りし日のアランに近いような感覚を得ていた。
「コレくらいじゃあ俺のドサイドンはビクともしないぜ!!」
「くッ…!」
自信満々の笑みを浮かべるダンデにアランは若干気圧されるも、それを振り払いながら次なる攻め手を打ちにかかる。臆しては負けなのだ。
「バンギラスはカイリューやボーマンダ同様捕まえるのが難しいが上手く育てれば強さは天下一品、体も丈夫だし小手先の攻撃も無駄と強力なポケモンだ。そのスペックをどう活かすかがカギになるかな。」
「ドサイドンも重量級としてはもちろん、アレできちんと教え込めば水を克服した一流のスイマーとして目覚めるんだよね。」
ワタルが定型的なコメントに走り、ミクリは自らの趣味を全開にする。
それでも試合展開から目を逸らすことはなく、意識もフィールドへしっかり向けたままだ。
「バンギラス!」
「ドサイドン!」
「「じしん攻撃!!」」
「ばぁぁぁぁぁッ!!」
「どッさぃぃぃッ!!」
バンギラスは再度体内から振動エネルギーを発し、ドサイドンは左拳で大地を殴り付ける。
同時に放たれる衝撃波がフィールド中央でぶつかり合えば、
バッチィィィッ!!
「ばんぎゃ!?」
一方的に競り勝つのはドサイドン側のじしん。バンギラスはその直撃を受け、エネルギー爆発に呑まれてしまう。
『じしん対決はドサイドンに軍配!今度はバンギラスに効果抜群ダメージだーッ!!』
「ぴかぁ〜…。」
「あのバンギラスがあんな簡単にパワー負けするなんて!」
「当然だな。いくらバンギラスが強力だろうと同等以上のパワーを持ち、なおかつじめんタイプであるドサイドン相手にじしん攻撃をぶつけ合って勝てる道理などない。」
言葉に突き刺すような棘こそあれど正論な以上サトシは言い返せない。
同じ技のぶつけ合いとなればポケモン同士のスペックと同様、技が持つタイプエネルギーとの調和も競り勝つには不可欠な要素なのだ。
「ば、んぎゃあ…!」
「いいガッツだ。」
致命傷ながらも倒れず持ち堪えるバンギラスを讃えながらもダンデは指先で指示を飛ばす。
ドサイドンがまた左拳を振り上げるのを見るアランはじしんによる追撃を察知した。
と、なればコレはチャンスとボールを両手に構える。
「戻れバンギラス!そしてゆけッ!!」
「ほぁぁぁーーーッ!!」
バンギラスを引っ込めるのと同時に次のポケモンを繰り出すダブルボールで大空へ飛び出す翼はケンホロウ。
ピンク色で2本の触覚が生えたようなトサカを頭部に纏っているので雄の個体だ。
ジャキン!
「ッ!?」
アランの目が見開かれる。フィールドを殴り付けんとしていたはずのドサイドンの左拳がケンホロウへ向けられているではないか…!
「俺だって交代読みくらいできるんだぜ?ドサイドン!がんせきほう!!」
「どぉさい〜〜〜ッ!!」
ドシュウウウウウッ!!
「ほろるぁッ!?」
ボールから飛び出した直後に放たれた岩弾に不意を突かれたケンホロウは回避が間に合わず直撃。
そのままフィールドへ落着し目を回してしまった。
「ケンホロウ、戦闘不能!ドサイドンの勝ち!!」
ダンデ、残りポケモン6体。ダウン可能数残り3体。
アラン、残りポケモン5体。ダウン可能数残り2体。
ウェェェェェイ!!チャンピオンサイコー!!
最序盤こそ先手を譲ったもののすぐに切り返し、見事な交代読みで逆にリードを奪って見せる地元のチャンピオンの戦いぶりに観客はより大きな盛り上がりを見せる。
先の試合で吹っ飛んでいった人たちもすっかり元の席に帰りつき観戦を楽しんでいた。
ガラルの人たちのポケモンバトル好きは筋金入りなのだ。
『マノン』
13歳。ポケモントレーナー。
面倒見のいいハリマロンの『ハリさん』にいつも助けてもらっているおっちょこちょいだが一生懸命な女の子。
旅の中でアランと出会い、かけがえのない仲間として絆を育んだ仲だ。