3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
パフォーマンスを優先されるほどに圧倒的なリザードン同士のミラーマッチに、アランの視界は絶望で歪んでいた。
ガラルチャンピオンダンデへの憧憬は幼き日のアランがトレーナー適齢期を迎えるより5年前にまで遡る。
ポケモン歴1985年にはもう既にダンデはPWCSにて無敵街道を驀進しており、5歳のアラン少年にとってテレビの中のダンデはまさにヒーローであった。
ダンデの圧倒的な強さに近づく為にはポケモンへの理解が先決…そう思い、10歳となって最初のポケモンにヒトカゲを受け取ったプラターヌ博士の下に半ば強引に助手として転がり込んだのがトレーナー人生の始まりであった。
『ポケモンの進化と変化』そして『メガシンカ』を研究テーマとして扱う博士の人柄にも惹かれ、これまた半ば強引にアランは研究所を飛び出していった。
最強のトレーナーとなり、博士の研究の一助となる…純粋無垢たるアランの青雲の志は、潔癖に過ぎる漆黒の意思を引き寄せた。
『己の想いを成し遂げたければ最強であれ。』
フレア団のボス、フラダリ。
今の自分の強さの源泉と、彼の存在は切っても切り離せないものだとアラン自身認めざるを得ない。
奪い、奪われの連続である世界の愚かさと醜さを憎み、その憎しみの炎を体現したかのような灼熱色の髪の男はアランを自らの組織へと引き入れ、その尖兵に仕立て上げた。
甘言…というわけではなかったのだろう。
確かにフラダリは美しい世界、平和な世の中の為に邁進していた。ただその行き着く先は生者の否定であり、彼の唱える平和な世界、とは詰まるところ人もポケモンも等しく死に絶えた完全なる無…。
その為に無差別な殺戮を是とした在り方を知ったアランは最終的に彼と袂を分かった。
フレア団との関わりを断ち、リスタートを切って今のアランはここにいる。
「ぐ、るぅぅぅ…!」
『おーッとメガリザードンX、立ち上がりました!まだまだ戦えるとファイティングポーズ!ダンペー審判も納得して審判サークルへ戻ります!』
時を戻そう。
近づいて来る相手を押さえ付けての接射攻撃はダンデのリザードンの十八番、そこを頭に叩き込んでいたが故に咄嗟のかえんほうしゃでりゅうのはどうをある程度は相殺できた。
それはいい。ならこの後どうする?そこがアランには見えてこなかった。
「ハァー…!ハァー…!」
完全なる八方塞がりにまたぞろ動悸の激しさがぶり返す。
ポケモンのレベルで負け、トレーナーの腕で負け、切り抜けてみたところでどうなるというのか?やられるまで多少時間が延びるだけでしかないのか?
こんな思考を振り払えないところまでアランのメンタルは『負け』に傾いてしまっている…。
「(ここまで、か。)」
スン、となりながらダンデは鼻からため息を吐く。
「なぁアランよ。お前がどんな風にここまでやって来たかは俺は知らないし正直興味もない。ただな?"力"を選り好みしてるような奴に負けるような鍛え方はしてないぜ。俺もリザードンもな。」
「選り…好み…。」
ダンデの言にサトシの中の引っ掛かりが完全に解けた。気付いてしまえばなんてことのない話だった。
「ぴかぴ?」
サトシが、ベンチから出る。アイリスの膝の上にいたピカチュウは主人の足元まで一足で跳んだ。
「伝えることは伝えたぜ。」
トレーナーたちの規範として教え導くリーグチャンピオンの顔から頂点を目指す一個のポケモントレーナーの顔へと、ひたすらに勝利を目指す勝負師としての顔へとダンデは立ち戻る。
先の言葉はいわば最後通牒…コレで気付かねばアランはこれからずっと燻ったままだ、そんな意思を込めた。
そして、この試合を締め括るための指示を飛ばす。
「リザードン、りゅうのはどう!!」
「ぐるがぁぁぁ…!!」
ダンデのリザードンは大きく開いた口にドラゴンエネルギーをチャージしてゆく。
「アラン!まだ勝負はついてないぞ!!リザードンを信じるんだ!!」
避ける?避けてどうする?
グチャグチャになった視界にさわやかな風が吹き抜ける、そんなような声を背中越しにアランは聞く。
それは、まさしく『光の声』だった。
「思い出すんだアラン!!俺と戦ったカロスリーグ決勝戦を!!あの時のアランは本当に強くて、凄かったんだぜ!!」
サトシは魂から叫んでいた。アランに気付いて欲しいと心底願ったからだ。
ここで気付いてくれなければアランとは二度と同じ舞台で競い合うことができなくなる。そんな予感からだった。
ライバルがいなくなるというのは寂しいことなのだ。
アランの脳裏にフラッシュバックされるは、『頂上決戦』。
メガリザードンのパンチやクローが唸り、サトシゲッコウガの影が縦横無尽に走り回る。
ミアレスタジアムを怒涛の声援が包んだ後にも語り継がれる名試合の中で、ただただアランは楽しんでいた。
そこは対峙するサトシが相手を熱くさせる性質なのもあるが、最も大きかったのは自分の力において是々非々を一切度外視していたからだと気付く。
あの時は、フレア団と関わって得た力にもこだわりなどはなかった。ただただ勝利のためだけに、最強であるために『その力』を振るった。
『その力』を、今の俺はどうしてる…?
「そうか…そういうことか…。」
ポケモンバトルとは『力』を比べ合う世界。
そこに命を賭ける者たちは皆過去、現在、未来のみならず善も悪も関係なくあらゆるところから『力』を搾り、捻り出して勝利へ邁進する…それがトレーナーの本質だ。
そんな世界の頂点において、過去から目を背け、過去に手にした力を忌避して勝てる道理などあるはずがないのだ。
「ぐぅる。」
りゅうのはどうが襲いかかる。
アランのリザードンには焦りも不安もない。強い絆で結ばれたが故のメガシンカ。
だからこそ信じられるのだ、主人の覚醒を。
「俺はッ…!!リザードン!!ドラゴンクロー!!」
過去があるからこそ今がある。過去をひっくるめて今の自分がいる…!
ズッバアアアアアアアッ!!
「あーーーッとメガリザードンX!りゅうのはどうをドラゴンクローで、き、切り裂いたーーーッ!!」
「ドラゴンタイプは同じドラゴン技に弱い…そのタイプ相性を利用するとなれば確かに相殺は可能…!」
理論的には、とワタルは付け加える。
基礎トレーニングを積み重ねていないビギナーが真似するには無茶なことだと注意も添える。
「むっ、彼の顔付きが。」
ミクリは面構えからアランの変化を認める。
それは直接対峙するダンデがより痛烈に感じているだろうと見た。同時に思う。
この試合、結果はともかく互いに残るものがどうなるかはまだ分からないぞ、と…。
「色男がイイ顔するようになったじゃあないか。」
ダンデがそれまで見てきたアランとは、間違ってもドラゴンクローによる荒技など使ってくるタイプではなかった。
無数に有る選択肢の中から最良のものを選ぼうとするあまりに熟考が過ぎ、最良の選択肢のタイミングを逃すようなトレーナーに見えていた。
だがどうだ?今こうして改めて対峙する青年は強引な択を押し通し、ギラギラと射殺すほどに双眸を血走らせ、こちらを睨み付けているではないか。
「俺は最強であらねばならないと誓った!ならば、あらゆるところから『力』を引き出してゆくしかないんだ!!例えそれが、人やポケモンたちを、世界を滅さんがために利用されていたものであっても!!」
「ぐぉるあああああッ!!」
シュボアアアアアアアッ!!
アランの決意が伝染し、メガリザードンXの口元から漏れ出るのと尻尾の炎が勢いを増し、青く輝く。
「今こそ俺は!!失ったものを取り戻すんだぁぁぁぁぁッ!!!」
青年の咆哮が、シュートスタジアムの夜空に響いた。
「そう!それだよアラン!!」
「アラン…!」
「はりゃあ〜。」
サトシが快哉し、沈みゆくしかなかったマノンが表情を上げ、アランの激発を前に表情に生気が蘇る。
『峠を越えた、もう大丈夫だ』…ハリさんはそう思いながら主人に寄り添う。
「帰ってきた…!あの頃の強くて凄いアランが、帰ってきたんだ!!」
アランの復活を確信するサトシは全身を震わせ、両の拳を握り締める。
カロスリーグ決勝を戦った時の興奮が蘇っていた。
「仕掛けるぞリザードン!かみなりパンチで攻め込め!!」
「ぐぉるぅぅぅ!!」
それまでとは打って変わり、トレーナーサークルの中でダイナミックに全身を動かしながら指示を飛ばすアランにメガリザードンは両拳から放電させながら応える。
先程と同じく正面突撃、だが今度は圧力がまるで違う!
「近づかせるなリザードン!エアスラッシュだ!!」
バチ!バチ!バチ!バチ!バチ!
ダンデのリザードンは両翼を振るわせ空気の刃を撃ち放つ。
接近を嫌ってのエアスラッシュに対するアランの返しはこれまた余りにも強引…。
「ぬううッ!!」
かみなりパンチで空気の刃を一方的に消し飛ばし、メガリザードンは再度間合いへ飛び込むことに成功する。
「ひこう技のエアスラッシュに対してでんき技のかみなりパンチならばこれまたタイプ相性により打ち消すのは可能…しかしこれほど上手くいくというのはスペック以上の力が働いているとしか考えられませんね。それは即ち…。」
「「絆。」」
ワタルとミクリのコメントが綺麗に被る。
メガシンカとはポケモンとトレーナーが強い絆で結ばれることで発現する更なる強さの次元…その源たる絆を生むのがメンタルならば、アランのメンタルが強まることで絆の力もまた強まるというのが物の道理と言えた。
「また掴んで止めてやれリザードン!!」
「ぐるぅッ!」
再度接近戦の間合いまで飛び込まれたならばとダンデは殴りかかるメガリザードンへカウンターの接射戦法へ走る。
リザードンも任せろ!とばかりに腕を掴み取る…
ボコアッ!!
「ぐッるぁ…!?」
「な、なにィ!?」
のも構わず、メガリザードンは無理矢理右拳を振り抜いた。
パワフルな拳が、ダンデのリザードンの顔の左側面を殴り付けた。
『かみなりパンチがヒットーッ!!』
「さらにもう1発ッ!!」
「ぐぉるがッ!!」
ドボアッ!!
続けて左拳が腹部へ突き刺さる。
これにはダンデのリザードンも口が開き、苦悶の表情を浮かべた。
「ぐッふッ…!?」
「くっそ!リザードン!こっちからも殴り返せ!!」
ここでダンデはリザードンを得意の距離へ飛び退かせる、ではなく敢えてメガリザードン側を退かせる択を取る。
こうまで張り付かれてはバックしてみてもまたすぐに詰められるだけだ。
それに加えて、焚き付けるだけ焚き付けて退くのはダンデもリザードンも性に合わない。
ボコォ!
「ぬッ!」
ダンデのリザードンが左拳をメガリザードンの脇腹に放り込む。
そこが契機であった。
「「いけぇぇぇ!!リザードン!!」」
「「ぐるぅぅぅおおおおおッ!!」」
ボカァ!!バゴォ!!バキィ!!ドボォ!!
「あーーーッと両者ともにリザードン!!チャンピオンダンデ側のニュートラルポジション近くで互いに足を止めたノーガードの殴り合いだーーーッ!!技ですらないぞーーーッ!!」
「ダンデくんとしては同じリザードン使い同士の意地から相手の得意距離での肉弾戦に応じたようだね。」
「それに対してアランもメガリザードンの拳一本で勝負に出る…あぁ、なんともエキサイティングしてきた!」
スコア的には一方的なことに変わり無い。ただ、これまでの2試合に並ぶほどの熱狂が確かにそこにある。
血湧き肉躍る死闘、男たちのドラマにミクリは激しくリビドーを刺激され悶え始めるのを横目にワタルは終始真面目にコメンテーターとしての役割を果たしていた。優等生である。
ベッキィィィィィッ!!
『互いの右がクロスカウンターーーッ!!』
「こ、この野郎ッ…!」
シンプルな殴り合い、それでも受けるダメージとして大きいのはダンデのリザードン側だ。
メガリザードンXの特性は物理攻撃力を高める『かたいツメ』…このまま殴り合っていては先に参ってしまうのはダンデ側だった。
「これ以上付き合っていられるかッ!!」
打撃の間隙を縫うようにダンデのリザードンはバックジャンプをした。いや、実力下位のアランにさせられた。
が、当然ただ退くだけで終わる男ではない。
「ぐるぅぅぅ…!!」
灼熱のほのおエネルギーは口の中ですでにチャージされている。
弱点を突くりゅうのはどうでは切り裂かれて防がれる恐れがあるのと、もうかの特性を活かして放つフィニッシュは…
「だいもんじ!!」
ボァァァァァッ!!
『大』の字に広がるほのおのブレスをぶつけてみせた。
「ぐるぅッ!?」
散々に殴られ、もうかにより強化されただいもんじの圧力にメガリザードンは空中へ持ち上げられてゆく。
「リザードン、フレアドライブ…いいや!!」
アランの中で過去、現在、そして未来…マノンの笑顔がフラッシュバックする。
もはやこの道に、我が道に迷いなし!!
「ブラストバァァァァァン!!!」
「ぐおおおおおッ!!!」
チュッッッ!!!ドオオオオオオオン!!!
だいもんじに打ち上げられながら放たれたメガリザードンの蒼炎がフィールドに落着すれば、膨大なエネルギーが爆発を起こし、爆心地のダンデのリザードンへ強烈なダメージを叩き込む。
それと同時にメガリザードンもまただいもんじのエネルギー爆発に呑み込まれていった。
『両者殴り合いからの渾身の大技を炸裂させあったーーーッ!!』
膨大なほのおエネルギーの残滓から冬場でも真夏の如き熱気が渦巻くフィールドの中へダンペーはギルガルドを走らせる。
「むむッ!」
まず見つけるはフィールドに仰向けに倒れるメガリザードン、そのメガシンカが解除される様…。
次いで、ダンデのリザードンもまた倒れ伏し、起き上がる気配は見られなかった。
「チャンピオンダンデのリザードン、アラン選手のリザードン、共に戦闘不能!両者ダブルノックアウト!!よって勝者、チャンピオンダンデ!!」
ウオオオオオオオ!!ウオオオオオオオ!!
「やっぱりチャンピオンダンデが勝ち上がった!」
「でもメガリザードンXも凄かったな!」
壮絶なリザードン対決の結果が相討ちに終わり、負けはすれども数少ないアランのファンらも確かな手応えを共有している。
「この試合、スコアだけ見れば3年前と同じだが、内容としては全然違うぞ。」
「うん。アラン選手はダンデくんのリザードンを相討ちとはいえ倒してみせた。それは即ち『リザードンの扱いに関しては無敵のダンデに並ぶ力がある』と証明したことになる。」
ミクリはワタルと言葉を交わしながら、3年前にカロスへ赴き、帰ってきたダイゴの言っていたことを思い出していた。
『面白いやつがいたよ。リザードンの使い手でね。『リザードン使い』として極めることが出来たなら化けるかもしれない。』
「ダンデさん。対戦ありがとうございました。」
「あぁ。にしてもやられたぜ。あそこまでとは。」
試合の後の握手を交わす2人の表情はあべこべであった。
勝ったはずのダンデがどこか悔しそうで負けたはずのアランが晴れやかな表情をしている。
アランにも悔しさがないなんてことはない。それ以上にこの試合を通して大切なものを取り戻したのだ。
「アラーン!!うわわ!?」
「マノン。」
握手を済ませたところに駆け寄らんとするも、亀裂があちこちに入ったスタジアムに足を取られ盛大に転びかけるマノンにアランは素早く体を入れ抱え起こす。
「テヘヘ…。」
「はりゃま。」
よくやらかすドジに照れ隠しで笑うマノンから、それを苦笑いで見上げるハリさんへと視線を移しながらアランは改めて心に誓った。
もう過去に得た力から目を背けたりはしない。己が力の全てでこれからも最強への道を歩み続けるのだ、と。
「よかったなーマノン。負けちゃったけどアランも完全復活だぜ!」
「ふん…リザードン使いのアラン、リザードン以外は使えないが、そのリザードンが厄介な奴、か。」
ベンチからサトシが健闘して見せたアランに拍手を送り、やがて観客もそれに応える。
拍手に乗りこそしないものの、シンジもある程度は認識を改めたようだ。
そしてアイリスの姿は既にない。試合の決着もそこそこに入場口へと向かっていたからだ。
PWCSマスターズトーナメント 1回戦
ダンデvsアラン
6C3Dルール
ダンデ アラン
ドラパルト バンギラス
→ドサイドン
→ケンホロウ
ドサイドン◯ ケンホロウ●
ドサイドン◯ キリキザン●
→リザードン
リザードン● リザードン●
(メガシンカ使用)
勝者 ダンデ