3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
試合こそ敗れはしたものの、背を向けていたかつての自分を取り戻した。
過去、現在、それら全てを受け入れたアランには、確かな未来が待っているのだ。
ダンデとアランの死闘においてもフィールドは盛大に荒らされ放題となり、試合が終わればすかさず清掃ロボットが素早く元の状態へと整地してゆく。
正午に始まったトーナメントも1回戦の4試合目を迎える頃にはすっかり日が落ち、ナイター中継として18時30分ちょうどに1回戦最後の試合は開始と相なった。
「さぁー、準決勝を戦う最後の椅子を賭けてのトーナメント1回戦、第4試合が始まります!イッシュとカロスの女性チャンピオン対決!!ワタルさん、ミクリさん!ズバリ、試合の見どころはどんなところにあるでしょうか!?」
「そうですね。皆さん知っているかと思いますがアイリスは今シーズン絶好調で今1番勢いに乗っています。その勢いをそのままバトルに持っていければ凄いことになると思いますね。」
「その辺りはカルネさんもよく熟知しているはず。演劇殺法でどうアイリスちゃんの勢いを封じ込めるか…その辺りかな?この試合の焦点は。」
第3試合での興奮から禁断症状のままにたまらず脱ぎ出そうとするミクリをワタルが必死に抑え込み、どうにか沈静化させ放送事故を防いだのはオフレコとして処理し、頭に真新しいタンコブをつけたミクリがワタルとともに淡々とコメントを残していた。
「カルネさんとアイリスかぁ〜。どんなバトルになるんだろうなピカチュウ?」
「ぴかぴかっちゅ。」
アイリスはこれから試合で、アランがマノンを連れて帰ったのでアイリス側のベンチにはサトシとシンジの2人きり…互いの身内が見るならば気まずくも映るが、互いに毒を吐かない限りはそこまで悪い空気でもなかった。
シンジとしても試合に臨む2人の女チャンピオンたちの生のデータは不足しており、その収集を優先しているのでわざわざ隣のいけすかない野郎を相手に何か物を発することもない…。
「これよりマスターズトーナメント1回戦第4試合!チャンピオンカルネvsチャンピオンアイリスの試合を行います!!」
「シロナやワタルくんに勝った手並み、是非拝見させてもらうわアイリスちゃん!」
「本気で行きます!カルネさん!!」
互いに投げ込むモンスターボール、先発ポケモンは…
「けぇぇぇい!!」
「るるるぅぅッ!!」
『チャンピオンカルネはツンドラポケモンアマルルガ!チャンピオンアイリスはさいこどりポケモンアーケオス!!奇しくも両者ともに化石ポケモンをそれぞれ先発だーッ!!』
「スピードはこっちのほうが上!アーケオス、先手必勝!いわなだれ!!」
「けぁぁぁッ!!」
色彩に富んだボディを羽ばたかせながらいわエネルギーでくり抜き、制御したフィールドの地表を固めた弾丸にて先制するはアーケオス。
それらいわの弾丸が青いボディの首長フォルムへぶつかることはなかった。
その直前に冷気によって凍結させられ、力を失ったからである。
「お返しするわ!」
「るるぅぅッ!」
「はがねのつばさッ!!」
凍結した弾丸をアマルルガは頭から背首にかけて伸びるヒレを普段の黄色から赤の攻撃色へ変色させ、瞬時に鋭利な氷柱として撃ち返す。
「けぁぁぁい!!」
シャッキンッ!!
アーケオスは硬質化させた翼でボディへのダメージを防ぎ被弾を最小限にとどめる。
つららばりをやり過ごしてはそのままアマルルガめがけて突進。はがねのつばさを攻撃に転用する為だ。
「ッ!?アーケオス交代!戻ってきて!」
「けぇあ!?」
いざ肉弾戦、というタイミングでアイリスはアーケオスをボールへ戻す。
「頼むわよ、ドリュウズ!!」
「りゆう!!」
代わりに繰り出すはちていポケモンドリュウズ。
刃物のような両腕の爪とリーゼントのように湾曲したどちらも金属製の部位が煌めく姿から『ドリルキング』とガラル地方では呼ばれているポケモンだ。
「流石に気付いたか。」
カルネは不敵な笑みを浮かべる。殺気は完全に消せていた。アイリスの野生のカン、その察知力の高さを褒めるよりなかった。
「なんだろう?アマルルガの周りに…ドーム?」
ベンチからうっすらと見える展開された領域をサトシは目を凝らして確認する。
アマルルガの周囲には強烈な冷気が充満している…。
「バリアーだ。バリアーをドーム状にアマルルガの周りに展開し、その中に冷気を閉じ込めて凝縮させているんだ。もしあのまま突っ込んでいってたらいわ、ひこうタイプで冷気に弱いアーケオスはあっという間にやられていただろう。」
したたかな人だ、そうシンジはカルネを見る。
アーケオスを相手に先手が取れるわけないとなれば、突っ込んできたところを仕留めるための罠を張っていたのだ。
「アマルルガ、自ら動く気配はありません!ワタルさん、ミクリさん。この場合どう攻めるべきなのでしょうか?」
「カルネさんのアマルルガは演劇殺法としてはガチゴラスと同じく怪獣映画の範疇でこそあるもののパニック路線のガチゴラスとは違い、人と怪獣が心を通わすハートフル路線…故に自らは攻め込まず相手の力を凍気で受け流し、近付くところを絡め取る!」
「ドリュウズは確かにこおりに強いはがねタイプだが、同時にこおりが弱点のじめんタイプでもある…アマルルガの"バリアー・フィールド"への対策として出てくるとなればその一手は…。」
「ドリュウズ、じわれ!!」
「どりゅあああああッ!!」
ドリュウズは咆哮、それと同時に全身より振動エネルギーを発し強烈な衝撃波を放つ。
それは放送席の先輩チャンピオンが思い浮かべる『待ち』の戦略を崩す最適解とピタリ一致していた。
そして、その辺りはカルネとしても想定の範囲内…。
「アマルルガ、バリアーエネルギーを前方へ集中!!」
「るるる…!!」
バッチャイイイイイッ!!
バリアーとしてドーム状に張り巡らせていた防御用のエネルギーがバリケードとなりじわれの衝撃波の行く手を遮る。
いかに一撃必殺のパワーといえども一方向に集中させたバリアーを前には問答無用に突き破るとはいかず四散する。
それこそがアイリスにとっては手繰り寄せた好機であった。
「るるぅッ!!」
アマルルガが目を見開く。
先程までアイリスの程近くで背を見せていたドリュウズが既に肉弾戦の距離にまでその影を踊らせていたのだ。
じわれはあくまでバリアー・フィールドをご破算にさせる為の布石でしかなかった。
「アマルルガ、戻って!」
ドラゴンチャンピオンのアイリス相手にこおりタイプのアマルルガを使い潰す選択をカルネは嫌った。
新世紀を迎えたミレニアムイヤーにおいて、ポケモントレーナーはよりアスリートとしての創意工夫を求められるようになったが、タイプ相性の基本を外す戦略思想も決して度外視していいものではないと持論を持っていたからだ。
交代と次の1体を繰り出す流れを同時にこなすダブルボールの妙技から飛び出すのは、
「るッッッちゃぁい!!」
「ぴかちゅちゅ!!」
「ルチャブルが攻撃態勢に入ってる!!」
バキィィィッ!!
同じルチャブルのとびひざげりでもサトシのルチャブルのそれとは技の入り具合や力の掛け方が違うのは至極当然の話であった。
サトシのルチャブルがプロレスをベースとしているのに対して、カルネのルチャブルはカンフーをベースにしての右の膝がドリュウズへと突き刺さる…!
「るちゃッ!?」
「りゅう…!」
『あーッとドリュウズ、両手の爪を硬質化させたメタルクローを活かしてすんでのところでとびひざげりをガードだーッ!』
アーケオスがはがねのつばさを使ったガードで防御を固めて見せた。
本来よりはがねタイプであるドリュウズのそれは技エネルギーを活用できるだけのアーケオスとは硬度が違った。
「くッ…!」
ボールから繰り出して即座の一撃ではいかに弱点を突いたとしてもパワーが不足している…。
突き刺した膝を戻し空中で交錯したままのルチャブルの前でドリュウズは頭のツノと両爪とで顔を覆う形で組み合わせていけば…
「今度こそ一撃必殺!ドリュウズ、つのドリル!!」
「りゅおあああああッ!!」
ズドォン…!
変形したドリル形態の全身回転攻撃を叩き込んでみせた。ルチャブルのお腹へ直撃し、そのままフィールドへ落着する。
「りゆ!」
モヤの中からドリュウズが飛び退き、視界が晴れた先には仰向けに倒れ、目を回すルチャブルの姿…ダウンを先に取るのはアイリスだった。
「ルチャブル、戦闘不能!ドリュウズの勝ち!!」
カルネ、残りポケモン5体。ダウン可能数残り2体。
アイリス、残りポケモン6体。ダウン可能数残り3体。
ウオオオオオオオッ!!
『つのドリル炸裂!交代攻めを仕掛けたルチャブル、返しの一撃必殺でダウンですッ!!』
「ご苦労様、ルチャブル。"爪痕"は残せたわ。」
ピシシシッ…!
「りゅぐう…!」
「やっぱり、流石はカルネさんのポケモン…完全に無傷とはいかなかった、か。」
固く鍛えたはずの金属製の両爪にヒビが走ってゆく様にアイリスは苦笑い。
ルチャブルのとびひざげりは確かにドリュウズの体力を奪い、意識を刈り取るまでには至らなかったが、そのガードに使った自慢の爪に関してはきっちり致命傷を与えていたのだ。
「戻ってドリュウズ。」
両手の爪は攻防双方においてドリュウズの生命線…そこが半ば不全となれば続投は不可能であった。
カルネに続きアイリスもドリュウズを引っ込める。
スコアとしてはカルネ側にのみ付いたダウンだが事実上の相討ちであった。
「次なる幕を開けましょう!」
「頼んだわよッ!」
「「ぬぅめぇ〜!」」
カルネとアイリス、同時に投げ込み姿を見せるはヌメルゴン。
本日開催のトーナメントにおいて、3度目のミラーマッチとなった。
「両チャンピオン同時にヌメルゴンを投入!ワタルさん、ドラゴンチャンピオンとしてはズバリどう見ますかこのミラーマッチ?」
「うーむ、種類に限らずミラーマッチとは純粋にトレーナー間の腕の差が勝敗を分けます。その辺りが明確化してくるとは。」
「なるほどッ!」
ドラゴンポケモンに対する習熟度で言えば既にアイリスの方が上ではあろう。
だがトレーナーそのものとしての経験はカルネの方に分がある…ワタルからすれば要するに『やってみなければ分からない』の一言に尽きた。
「ヌメルゴン!ぬめぬめフィールド展開よ!」
「ぬぅめ〜!」
「負けちゃ駄目、こちらもぬめぬめさせてくわよ!」
「めぇぬ〜!」
ビチチチチチッ…!ボトトトトトッ…!
双方ともにヌメルゴンが頭を振り乱しフィールド中に全身の粘液を撒き散らしてゆく。
ひとしきり散布が済めばいよいよ本格的にやり合う時!
「「ヌメルゴン、お願い!」」
「「ぬめぬめぬ〜〜〜!!」」
それぞれ主人の指示に頷けば、キリリとした表情でヌメルゴン同士走り出す。
短い手足と頭の長い角を懸命に振るいながらセンターライン目掛け走る中、
ツルリンッ ツルリンッ
「ぬめぇあ!?」
「めぬぅあ!?」
2体同時、さながら鏡合わせのように転び、ひっくり返ってしまった。
『アルティメット・ドレス』
アイリスがイッシュリーグチャンピオンとなったお祝いでシャガが仕立てさせたオーダーメイドのドレス。
あらゆるシチュエーションでの着用を想定されており、華やかな見た目に反して極めて丈夫な素材でできている。
製作費用を聞いたアイリス曰く『目玉が飛び出そうになった』とのこと。