3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 ベスト4最後の椅子を争う女性チャンピオン対決が始まった。
 互いに先発を化石ポケモンに託してからのサイクル戦から、先制はアイリスが奪う。
 続けてのヌメルゴンミラー対面は、なんともお間抜けな立ち上がりであった。


最終章!マスターズトーナメント 1回戦 カルネvsアイリス②

「ぬめめ、めぬッ!?」

 

「めーっぬっぬ、るごあッ!?」

 

 アイリスのヌメルゴンが先に起き上がったところからまた盛大に滑って転ぶ様をケラケラ笑うカルネのヌメルゴンもまた同様の無様を見せる。

 

ギャハハ!クスクス…!

 

 さながら起き上がり小法師のように立ち上がり歩いては転んでの繰り返しは、観客に妙な笑いを呼んでいた。

 

 

 

「おっとー?両チャンピオンのヌメルゴン、互いにぬめぬめに足を取られて前進もままなりません!」

 

「ヌメルゴンの分泌液は一見皆全く同じように見えるけれど、実際には個体ごとにかなり差異があるんです。群れの中で同じものを食べて過ごすならば問題はないのですが、カルネさんとアイリスとではまず育成方針も与えてきた食べ物も違うでしょうから。だから互いのぬめぬめで滑ってしまうんです。」

 

「食生活は人もポケモンも大事だからね。とはいえどちらも少しずつセンターサークルへ、相手へ向かって近づいてはいるようだ。」

 

 言ってからミクリは、この一連の流れもまたカルネの演劇殺法に含まれているのではと気付く。

 ジャンルとしてはコメディ作品のそれか…?

 

 

 

「やっと間合いまで来た!ヌメルゴン!」

 

「「パワーウィップ!!」」

 

「ぬめ〜!!」

 

「めぬ〜!!」

 

ガッシィ!!

 

バシバシバシバシ!ビシビシビシビシ!

 

 ぬめぬめで足を取られまくってからようやくセンターサークルまで辿り着くヌメルゴン同士、がっぷり四つで組み合いながら今度は頭の角をぶつけてゆく。

 

 

 

「ぬめぬめからの頭シバき合い対決だ!!」

 

「ぴっかぁ〜!!」

 

 最初こそヌメルゴンが転げ回るだけの間抜けな…コミカルな絵面にも見えるミラーマッチであったが、流石にセンターサークルに入っての殴り合いの前には客席からの笑い声も歓声へと戻っていた。

 

 

 

「ぬんめめめめめ…!」

 

「めんぬぬぬぬぬ…!」

 

 互いに退くことなく頭の角の鞭打を浴びせ合わせ続ける中、両者の体から徐々に赤いオーラが噴出し始めてゆくのにいの一番に気づくのはシバき合い対決に握り拳を作るサトシだった。

 

 

 

「がまんだ!どっちのヌメルゴンもがまんで一発逆転を狙ってるんだ!」

 

「ぴかちゅ〜…!」

 

「あの距離では双方共倒れになるぞ。」

 

 シンジの言がサトシにもピカチュウにも届いていないのは、かつての仲間のことを思い出していたからだ。

 3年前、カロス地方にてミアレシティからクノエシティの道すがらにある湿地帯を巡っての縄張り争いに敗れて落ち延びていたなんたいポケモンヌメラを保護し、そのままゲットしたサトシはその子を立派なヌメルゴンに育て上げ、故郷の湿地帯へ辿り着いたところで別れる選択をした。

 身内が聞けばポケモンの気持ちを最優先とするサトシらしいエピソードの1つとして扱う話である。

 今もあの子は、故郷の湿地帯にて仲間たちと平和に暮らしていることだろう…。

 

 

 

 互いに赤いオーラを噴出させたままヌメルゴン同士頭の角でビシバシとシバき合い続ける。

 やがてオーラが迸り、激しくスパークしながらもカルネ、アイリスともにヌメルゴンを引き退らせる選択は取らなかった。

 

「ぬぅぅぅめあああああッ!!」

 

「めぇぇぇぬあああああッ!!」

 

 

 

「どっちのヌメルゴンもがまんが解かれるぞーーーッ!!」

 

 観客の1人が叫んだのと同時だった。

 

カッ!!ドドオオオオオオオッ!!

 

 赤いスパークオーラが膨大ながまんのエネルギーとしてフィールド全体を覆ってゆく。

 

 

 

『ヌメルゴン同士の対決はがまんのエネルギーが最大級にまで高められた状態から共にパワー爆裂だーッ!!』

 

 

 

ミシシ!ミシシシィ!!

 

「「やな気持ち〜〜〜!!」」

 

 観客保護の為のバリアフィールドが軋み、すり抜けてゆく爆風が観客の幾らかを吹っ飛ばしてゆく。

 

 

 

「く、ううッ…!」

 

「むううッ…!」

 

 トレーナーサークルの中でカルネもアイリスも爆風を前に踏ん張り堪えていた。

 

 

 

「どっちのヌメルゴンが勝ったんだ…?」

 

 ベンチから身を乗り出し、戦況を見守り続けるサトシの視界にその結果はすぐ飛び込んだ。

 強烈ながまんのエネルギー爆発でフィールドの表土をひっくり返しての衝突により、ヌメルゴンはどちらもうつ伏せに倒れている…折り重なるような形の中で、向く方角的にはアイリスの個体がカルネの個体の上にのしかかっている。

 ともあれダンペーのジャッジとしてはさして変わりはなかった。

 

「チャンピオンカルネのヌメルゴン、チャンピオンアイリスのヌメルゴン、共に戦闘不能!両者ダブルノックアウト!!」

 

 

 

カルネ、残りポケモン4体。ダウン可能数残り1体。

 

アイリス、残りポケモン5体。ダウン可能数残り2体。

 

 

 

オオオオオオオオオオッ!!

 

「ミラーマッチからの壮絶なダブルノックアウトで両陣営ともに1ダウン!!チャンピオンカルネはこれで追い詰められました!しかし、あのがまんの破壊力が見えてなぜどちらも退くことはなかったのでしょうか?」

 

「下手に引き下がれば一方的にがまんが解かれた一撃を受けるからですよ。だからどちらも退くに退けなかった。」

 

「もう1つあるとするならプライド、かな?カルネさんには先輩チャンピオンとしての、アイリスちゃんにはドラゴンチャンピオンとしての、それぞれのプライドからヌメルゴンを退かせたくなかったんだ。」

 

 その結果としての相討ち、それがカルネに何をもたらすかといえばミクリからして1つしかあり得ない。

 アイリスが真に自分を追い詰めてくる脅威として認識を改めることであろうと思った。

 そして、そんなミクリの読みはズバリ的中している。

 

 

 

「お疲れ様、ヌメルゴン。」

 

 ヌメルゴンをボールへ戻してからのカルネは、正しくアイリスを『可愛い後輩』から『同格の好敵手』として、対人関係という脳内フォルダの中で整理整頓を済ませていた。

 

「(シロナちゃんが負けたわけだわ。)」

 

 今から約4ヶ月ほど前、PNTTにてアイリスに敗れたシロナからポケラインで通話が来た日のことを思い出す。

 2人だけのプライベートのトークルームからのほんの5分にも満たない通話の中でシロナはカルネに語っていた。

 

『これから先、確かに若い世代が台頭してくるわよ。サトシくんたちの世代が。』

 

 これより程なくしてカルネ自身もいわゆる『サトシ世代』の洗礼を味わうことになる。カントー代表のヒロシを相手に敗戦を喫したのだ。

 

「(私たちが時代遅れのチャンピオンになるとして、それは仕方ない話だわ。受け入れましょう。ただ…。)」

 

ゴットォン!!

 

 上着のジャケットを脱ぎ捨てる。

 鍛錬として羽の装飾に埋め込んだ片方50kg分の重りが鈍い音を立てる。

 

「そう簡単に負けてなるものですかッ!!」

 

 身軽となったカルネが吠えながらボールを放る。

 出てくるのは彼女のバトルという晴れ舞台を飾る『主演女優』以外あり得ない。

 

「さぁなッ!」

 

『チャンピオンカルネが繰り出すはエースのサーナイト!!対するチャンピオンアイリスの次なるポケモンはーッ!?』

 

「頼んだわよ、カイリュー!!」

 

「ばううッ!!」

 

 穏やかなイメージの強いカイリューに似つかわしくないキツイ面構えをした個体がドシン!とフィールドへ降り立つ。

 バトル再開のジャッジと共にその巨体はあっという間に姿を消し去る。

 

「これぞフスベ流ドラゴン奥義!!」

 

「ばうあああッ!!」

 

 巨体が再度姿を見せたは既にサーナイトの左手側面、自らのボディを弾丸に見立てての肉弾攻撃に走っていた。

 

 

 

「あれは、しんそくか!」

 

「ぴぃー…!」

 

 バトルをする当人たちよりいくらか俯瞰出来る距離感のベンチからはサトシもシンジもカイリューの動きを追うことが出来ていた。

 ピカチュウは『あの巨体であのスピードかよ』と辟易していたが。

 

 

 

 カイリューからすれば絶対の自信の裏付けとして大きい『竜の穴』での修行の末身につけたしんそくによる絶対的な先制攻撃…その急襲の中、サーナイトと目が合うなどはあり得ないことだった。

 その右手には、既にフェアリーエネルギーが球状に凝縮されている…!

 

「ムーンフォース。」

 

「さぁなッ!」

 

 しんそくの軌道を丸見えに捉えるカルネからすればカイリューの方から距離を詰めてくれたのは楽で助かった。

 サーナイトは僅かに後退し、右手のムーンフォースをそっと突撃してくるカイリューのお腹に添えるだけで事足りた。

 

「(しくったッ…!)」

 

 迎え撃たれる形のムーンフォースでカイリューが吹っ飛ばされる中アイリスは臍を噛みながらもすぐに冷静さを取り戻す。

 なんてことはない。カルネもまたカロス四天王で親交のあるドラセナを経由してドラゴンの奥義に精通していることなどは軽く想像出来ることであった。

 ましてカルネは、ドラゴンチャンピオンを自負する自分とミラーマッチができるほどにヌメルゴンを仕上げてきていたのだから。

 

『ポケモンの中には強靭に育つ分、より多くの経験を積み、困難を乗り越え続けねばならない種も確かにいる。その多くがドラゴンである以上我らドラゴン使いも日々研鑽に努め、誇り高くあらねばならないのだ。』

 

 将来はフスベに構える竜の里を治める立場となることが決まっているワタルより受けた訓示だった。故に下手を打つことは許されない!

 

「れいとうビーム!」

 

 サーナイトの左手側最後方ベンチより凍気の光線を放つ狙撃に走るのは、モヤに身を隠しての不意打ちであった。

 

「ッ…!」

 

『あーッとサーナイト!カイリューを迎え撃っての追撃の前にれいとうビームを受けてしまったーッ!!』

 

カチコチカチコチ…!

 

 カイリューへ向け翳していた左手から凍結が始まる。サーナイトの表情は変わらず、カルネは口角を吊り上げた。

 

「シャドーボール!」

 

パキン!!

 

 構うことなどない、そんな意識のままカルネが指示を飛ばせばサーナイトは瞬時に凍結の進行を停止させ、左半身へ侵食していた氷を粉砕する。

 そしてそのまま翳していた左手より闇色の球体を発射した。

 

ボシュウ!ボシュウ!ボシュシュシュシュウ!!

 

「カイリュー!!」

 

 無慈悲な連射が突き刺さり、モヤが幾重にも重なる。

 やがてそれらが晴れれば、フェンスを背もたれに崩れ落ちたままの巨竜の姿があった。

 

「カイリュー、戦闘不能!サーナイトの勝ち!!」

 

 

 

カルネ、残りポケモン4体。ダウン可能数残り1体。

 

アイリス、残りポケモン4体。ダウン可能数残り1体。

 

 

 

ウオオオオオオオッ!キタキタキタキタ!!

 

『チャンピオンカルネの追い上げ、カイリューダウンで逆王手!!チャンピオンアイリスも追い込まれて参りました!!』

 

 

 

「あのサーナイトの身のこなし…初めてカルネさんとバトルした時よりずっと洗練されてるぜ。」

 

「ぴかぁ…!」

 

 ヌメルゴンの思い出同様にカロス時代のこと。

 プライベートタイムのカルネと偶然出会い、知己となったことで受けてもらった野試合においてピカチュウの攻撃が全く当たらずに終わったのをサトシは思い出す。

 

「(サーナイトはトレーナーの感情に特に敏感に作用するポケモン…故にサイコパワーを最大限かつ最高効率で引き出す術をカルネさんは知っている…。)」

 

 シンジからして恐るべきは、ここからさらにカルネのサーナイトにはメガシンカという奥の手があるということだ。

 奥の手がある、というのはアイリスも同様だが…。

 

『さぁ互いにダウン可能数は残り1体!ミレニアムイヤーを飾るマスターズトーナメント!ベスト4最後の椅子を手にするのはチャンピオンカルネか!?チャンピオンアイリスか!?バトルはいよいよ大詰めでありますッ!!』

 

 

 




 『分け合ったガトーショコラ』
 3年前、チャンピオンカルネは営業の合間にガトーショコラが有名なスイーツショップに足を運んだがすでに売り切れていたという。
 そこで善意から分けてくれたのが当時カロス地方のジム巡りをしていたサトシとその仲間たちだったそうな。
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