3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
これによりついにセミファイナルの対戦カードが決定。
サトシの試合はセミファイナルに勝つならばあと2回。目下の相手は、あのシンジだ。
「チャンピオン、ロビーの方に来客がありまして。」
「はーい。行きまーす。」
ベスト4進出を決めた翌日12月16日の朝、サトシはPWCSの大会運営を主導するマクロコスモスからあてがわれているシュートシティのホテル『ロンド・ロゼ』にて宿泊し、受付の人からのコールを受けていた。
「誰だろう?」
「ぴかっちう。」
サトシにピカチュウは『分かんない。』と返す。
昨日のトーナメント初戦の後、取材攻めにより結局ホテルへ帰り着けたのは日付が変わる頃であり、目を覚ましたのは朝の10時半過ぎ…寝起きにシャワーを雑に浴びたところであった。
トーナメント参加者の滞在場所はマクロコスモスによって厳重に管理されている。
昨日の今日で取材を重ねてくるマスコミの愚行などは事前に弾かれるのがオチであった。
ともかく着替えて降りるよりないだろう。
「あっ、来た来た。サトシー!」
「カスミ!タケシも!」
「ぴかちゅぴ!」
いつもの私服に着替えてロビーまでやって来たサトシを待っていたのはカスミとタケシであった。
ピカチュウはカスミの姿を見るや一目散に飛びついている。
「どうしたんだよ?2人とも急にさ。」
「マスターズトーナメント、次はシンジとフルバトルだろ?クーリングタイムのサポートが要るはずだってナンテさんから連絡を受けてな。」
「あたしはそんなタケシからサトシのスパーリング相手としてどうだ?って呼ばれて来た、ってわけ。」
「そうだったのか、助かるぜ!」
サトシの返しにカスミもタケシも内心苦笑する。
試合に臨むサポートメンバーの打診と派遣という重要な話が当の本人にいってないはずがないのだ。
それでもサトシからの『たった今知った』という反応からするに、ポケラインはやはりまるでチェックしていないのだろう。
グゥゥ〜
「あっ。」
「とりあえずは腹拵えからだな。」
腹の虫を鳴らすサトシ、次いで3人は朗らかに笑い合った。
「ヘイガニ、クラブハンマー!!」
「へいへーい!!」
ガッツゥンッ!!
「とにょぶッ!?」
ごろつきポケモンヘイガニの振り下ろしたハサミがかえるポケモンニョロトノの両手のガードを突き破る形で頭に直撃。
ニョロトノはたまらず昏倒し目を回してしまった。
「ああっ、ニョロトノッ!!」
「やったぁ!リベンジ達成だぜ!」
「へいへいへーい!」
腹の虫を鳴らしたサトシはホテルに併設されたレストランにて空腹を満たし、そのまま施設内のバトルコートにてトレーニングとしてカスミとのバトルに入った。
3年前に活きのいいウデッポウを巡っての決闘で負けた分の借りを返せてサトシとヘイガニは小躍りで喜んでいる。
「本来全身の防御力を高めるためのかたくなるをハサミだけに集中させて硬度を高める、か…やられたわ。」
「これも技エネルギーの流動活用、だったよなタケシ?」
「あぁ。それにしても…。」
「それにしても?」
「なんやかんやでまた"この3人"だな…ってさ。」
タケシにサトシもカスミもあぁと頷く。
サトシ、カスミ、タケシ…3人にとって、この面子での旅は最も深く刻み込まれていた。
『と、いうわけでサトシ。お前の旅に付き合わせてもらうぜ。』
『ま、好きにして。1人増えようが2人増えようが関係ないよ。』
『なんだ…?あいつさっきから、お前の後ついてきてるぞ?』
『自転車のこと忘れないで!弁償するまでついていくわよ〜!!』
『んも〜、分かってるってば!いくぞピカチュウ!』
『ちう。』
『待ってくれサトシ〜!』
『逃がすかぁ〜!!』
サトシとカスミの馴れ初めは壊された自転車で、タケシとはジム挑戦をきっかけとしてのカントーからオレンジ諸島の途中まで、ジョウト地方のジム巡り…サトシがワールドチャンピオンとなってからのアテのない旅…三者三様に目指す方向は違えど長らく同じ道を歩み続けて今がある。
そんな巡り合わせに自然と3人とも笑みが溢れていた。
「世間じゃあまだまだお前がマスターズトーナメントで優勝出来たのはダンデさんの気まぐれと運がよかったからだって意見が大半だ。だからこそこうしてまたPWCSに出て来たんだろ?今度は対等な条件で戦って勝つ、って。」
「うん。」
「昔っから運だけはいいもんね〜サトシって。」
「悪かったな〜運だけで。」
「でも今は、運だけでもないんでしょ?」
カスミのウインクにタケシは大きく頷くのでサトシは面映ゆい気持ちになる。
歯に衣着せぬ間柄の2人からの混じりっ気のない信頼と期待が新鮮だったからだ。
「だがまずはシンジだ。あいつもあいつでお前にリベンジする為に万全の準備を整えてくるだろう。セミファイナルを乗り越えなきゃダンデさんどころじゃあないぞ。」
「ヘヘッ、分かってるって!」
面映ゆさから鼻を擦るサトシはヘイガニをボールへ戻す。
ニョロトノをボールへ戻すカスミもとことんスパーリングに付き合う腹積りだ。
「おっ!やっとりますなぁ。」
「らいちう!」
そこにふらりと顔を出すのはサトシにサポートとしてカスミとタケシを寄越した張本人であるナンテだった。
相棒のテディもコッペパンみたいな右手を『よっ!』と気さくに振り上げている。
そんな背後にはサトシへのさらなる手土産…。
「ナンテさん!それに、アランにマノン!」
「やぁやぁチャンピオン!スパーリング相手のおかわりを用意して来ましたよ!」
ほら、とナンテは目配せする。
アランは軽く会釈を返しながら普段のキリリとした面持ちにどこか気恥ずかしさを内包してサトシを見る。
そんな視線の交錯を見ていたカスミは、個人的な付き合いこそないものの選手としてのアランを把握しており、そそくさとトレーナーサークルを開け渡すことにした。
「いいのか?」
「その為に来たんでしょ?」
カスミとてただ単に仲間への親切だけでサトシとのスパーを譲った訳ではない。
エキスパート同士のやり取りから『見て盗む』大切さもカンナより教わっているのだ。
どのみちサトシがトーナメントで勝ち上がればその分スパーの相手はいくらでも出来るのだし…。
「すみませんね。気をつかってもらっちゃって。」
「いいんですよ。少なくともこの場は、あたしはお邪魔虫みたいだし。監督さんもあの2人のバトルが見たくてけしかけたとこあるんでしょう?」
ナンテはハハ、と渇いた笑いを返す。カスミの指摘は図星であった。
PNTTでの優勝をきっかけにポケモン評論家としての仕事が増えたナンテは、その中でPWCSのセミファイナルとファイナルの解説役のオファーを引き受けていた。
いわゆる特需景気的な扱いながらも喜んでいた中、サトシとのコンタクトを求めて来たのがアランだった。
「今出せる全力、その全てをサトシに改めて見せておきたい。」
真剣に語る青年の眼差しにナンテはやられた。
「分かりました。存分におやりなさい。」
開幕戦とはまるで熱量が違う血湧き肉躍る戦いを予期し、気づいた時にはこの場にアランらを連れてサトシのもとへ足を向けていた。
「2人とも、ルールはどうする?」
「サトシにもトレーニングがあるはずだし手短に済ませたい。使用ポケモン1体同士のタイマンでどうだろうか?」
「オッケー!いいぜ!」
「サトシのトレーニングなんて雑にバトルするしかないんだけどねー?」
「ぴかぴかぁ〜。」
メニュー、なんて上等なものはないとバッサリ切り捨てるカスミは、審判サークルに入ったままのタケシの後方からピカチュウを抱えて観戦する姿勢だ。
同じくナンテがフィールドへ意識を向ける中、アランの付き添いでやって来たマノンは終始晴れやかな表情をしていた。
「あんなに活き活きしてるアラン、いつぶりだろう?」
それだけ呟き、アランの清々しい横顔を目に焼き付けることにした。
「よし!では使用ポケモン1体同士で、試合始めッ!!」
「ゆけッ、リザードン!!」
「ぐるぅぅぅッ!!」
声からして気合いのよく乗ったアランがスローイングするボールより飛び出すは相棒のリザードン。
主人の復調は、リザードン自身の肌ツヤにも現れ最高のコンディションを示している。
「ゲッコウガ、キミに決めたッ!!」
「げこぉッ!!」
サトシが帽子のツバを後ろに回し、投げ込むボールから繰り出されるはゲッコウガ。
いうまでもなく因縁の対面…アランとしては僥倖に尽きた。
「早速いくぞ!我が心に答えよ、キーストーン!!」
「いきなりメガシンカ!?」
「アラン選手からすれば今更チャンピオン相手に小手調べもないでしょう。」
最初から全力あるのみ、そんなアランの初手メガシンカにカスミは目を見開き、ナンテは特に動じることもない。
「アラーン!いっけー!」
マノンは晴れやかな気分のままエールを飛ばしていた。
「進化を超えろ!メガシンカッ!!」
「ぐるぅぅおあああッ!!」
7色の繭に包まれ、姿を見せるはメガリザードンX。
言うまでもなくアランのエースポケモンであり、その存在そのものがフラッグシップだ。
「(来たなアラン…!あの時の気迫を取り戻した、本当のアラン!)」
口角を吊り上げながらサトシは右手を胸の前に翳す。
合わせてゲッコウガは左手を胸の前に翳し…
「俺たちもフルパワーで勝負だ!いくZ!!ゲッコウガ!!」
「くぅがぁぁぁぁぁッ!!」
互いの意識をシンクロさせてゆく。揺るぎないキズナの発露が水流と化して渦を巻き、四散した中から姿を現すはサトシゲッコウガ!
「ありがたい…!」
それはとりもなおさずサトシもまた本気だという証左であった。
僥倖に次ぐ僥倖、アランにとってこれほど嬉しいことはない。
「かげぶんしんッ!」
「げこここッ!!」
ゲッコウガはリザードンめがけ駆け込みながら瞬く間に周囲を包囲するように分身を作り出す。
「かえんほうしゃ!!」
「ぐるぅぅぅぼぉぉぉ!!」
シュボアアアアアアアッ!!
これしきの撹乱でたじろぐアランではない。
メガシンカによって強化された蒼炎のブレスにてリザードンはフィールド中を焼いてゆく。
瞬く間に数百といた分身は薙ぎ払われていった。サトシからすれば何の問題もないことだ。
「つばめがえしッ!!」
メガリザードンXの漆黒のボディを視界に捉える。これ即ちゲッコウガの見ている景色とリンクしている証だ。
右手に逆手持ちする真っ直ぐな刀身に鍔が四角いそれはさながらひこうエネルギーを凝縮させた忍者刀を飛び上がりながら振り下ろす。
「ドラゴンクロー!!」
「ぐぅるぅッ!!」
ガキィン!!
「こがぁ…!!」
忍者刀の一閃をリザードンは両手から発するドラゴンエネルギーの爪でガードする。
「ぐがぁ!!」
両腕をクロスする形のガードを振り抜けば空中のゲッコウガはたまらず後方へ吹っ飛ぶ。
絶好の追撃チャンスだ。
「リザードン、かみなりパンチ!!」
バチチチチチィッ!!
両手に纏うエネルギーを瞬時に猛るでんきへと変換しながらリザードンは地上を滑空。
着地前に効果抜群の1発をくらわせに来るのをみすみす受けるサトシゲッコウガでは、ない!
「いあいぎりだぁッ!」
「げぁーッ!!」
シュッパパパパッ!!
「うっそぉ!?」
仰天するよりないカスミ。
追撃で殴りかかるリザードンの両手より絶えずバチバチと迸るスパーク…そのでんきエネルギーをゲッコウガは両手のエネルギークナイでバラバラに解体して見せたのだ。
それだけではない。
「ぐぉうるぅッ!?」
リザードン自慢の黒腕すら切り付けていたのだ。
アランは『それくらい出来て当然』と、サトシと共に口角を吊り上げたままだった。
『キズナ現象』
特性『きずなへんげ』を持つポケモンが強固な信頼関係を結んだトレーナーとの間に稀に発生させる現象。
大昔の文献にわずかな記載が残るのみであったが、現代においてサトシゲッコウガとしてその実在が確認された。