3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
トレーニングの最中ナンテがやってきて、連れてきたアランとのバトルになる。
カロスリーグ決勝と同じ対面で、早速2人は死闘を開始するのであった。
「なぁなぁ聞いたか!?今ホテルのバトルコートでチャンピオンサトシとマスターズエイトのアラン選手がバトルしてるってさ!!」
「マジかよ!?そいつぁ見に行くっきゃないじゃん!!」
「野試合ってレベルじゃねぇぞ!!」
シュートシティのカフェテリアにて煩わしい雑音の中から聞き分けた会話にシンジの視線がギョロリと動き、ストローを口から離す。
「何だか面白そうだね。」
シンジより若干濃い紫髪を後ろに結ぶ青年が席を立つ。
ピンク色のシャツに薄水色のエプロンは本人曰く、育て屋としての正装だから譲れないと言い張るレイジに続いてシンジも立ち上がった。
「やっぱり気になるかい?」
「兄貴を1人で行かせたら奴らに何を吹き込むか分からんからな。」
そうぶっきらぼうに返すシンジは、飲みかけのオレンジジュースに一瞥くれることもなく兄の後に続いた。
「さて、コレであのメガリザードンXは事実上、技4つ中半分に深刻なダメージを負ったがここからどうするか。」
ナンテが呟くのにカスミは暫し思案の後、その解に辿り着く。
かみなりパンチもドラゴンクローも両手よりエネルギー管理を行うことで成立する技だ。
その両手をいあいぎりでズタズタにされてしまっては技の制御もままならないだろう…。
ただ、あくまで深刻なダメージ、であって使えなくなったわけではないという見方も出来はする。
「リザードン、両手を合わせてドラゴンクロー!!」
「ぐぉるぅッ!!」
切り付けられた両手を重ねることで片手ずつで制御しづらいエネルギーをひと纏めに合わせる荒技がアランの解答だった。
それはさながら、両手持ちの大剣を構える剣士の佇まいである。
その場凌ぎながら、アランはこのスタイルが妙に気に入った。
「斬りかかれ!!」
「ぐぉるぅうううッ!!」
後退のネジを外し、ただひたすらにドラゴンエネルギーの大剣を振り下ろす。
ガギィィィィィッ!!
「げっこ…!」
「ううッ…!」
クナイ二刀流で受け止めるサトシゲッコウガを中心としてフィールドにクレーターが出来上がる。
「蹴っ飛ばせゲッコウガ!」
「こが!」
パワーで押し込まれるのが見えたサトシの声にゲッコウガはすかさず右足をリザードンのお腹に突き刺す。
技ですらないただの蹴りで吹き飛ばすのは叶わないものの、蹴られた痛みでリザードンの上体が僅かに上向けばそれでじゅうぶんだった。
「つばめがえしッ!!」
刹那、クナイを忍者刀に切り替える。ノーマルからひこうへ技エネルギーの変換を行い斬りかかった。
そのほんの一瞬のラグの内にリザードンは大きく口を広げ、
「かえんほうしゃ!!」
ボァァァァァッ!!
蒼炎を至近距離から捩じ込んだ。
「くぅ…!」
「こぁが…!」
たまらずサトシゲッコウガは飛び退き、忍者刀を振り下ろせばひこうエネルギーの風圧にてブレス攻撃の軌道を自らの左右へ均等に裂け分ける。
「手強いなー…流石アランだぜ!」
「それはこちらの台詞だ、ワールドチャンピオン!!」
キズナ現象によってゲッコウガと感覚をリンクさせているサトシは、リザードンの吐く強烈なブレスの熱も感知して全身から多量の汗をかいている。
事実上両拳を活かしてのフレキシブルな立ち回りを封じられたアランもまたその形相を『鬼』へと変えてゆく。
それこそがサトシにとってリベンジを果たすべき『本来のアラン』であり、コレを見せるためにアランはここに来たのだ。
トバリシティの兄弟は人混みが詰めかけるバトルコートの片隅からサトシとアランの死闘を見つめている。
シンジとしては周囲の喧騒が煩わしいのは目を瞑るとして、問題は何をしでかすか分からない兄の方が面倒であった。
「これじゃあんまりよく見えないな。そうだシンジ、肩車してやろうか?昔みたいにさ。」
「要らん!」
こんなやり取りもフィールド中のバトルに気を取られる野次馬たちの耳にはろくに響いていないことがシンジには幸運であった。
「これなら!!スクリュー・ドライバー!!」
ギュルルルルルゥゥゥッ!!
両手合わせのエネルギーを有効活用する術としてドラゴンクローを展開したままリザードンは錐揉み回転とともにゲッコウガへ襲いかかる。
避けたところで当たるまで追尾してくるのが目に見える以上、受け止めるよりなかった。
ガッキィィィッ!!
「ぐぐぐッ…!」
エネルギーの忍者刀で受け止めにゆくも、倍以上の質量が回転の力を加えて迫るのは如何ともし難いところがあった。
「げッがッ!!」
忍者のひこうエネルギーが霧散し、サトシゲッコウガは吹っ飛ばされる。
「サトシゲッコウガが体勢を崩した!」
「見ろ!メガリザードンXが!」
野次馬の1人が指差す先、メガリザードンXは渾身の一撃を叩き込むべく灼熱のほのおエネルギーに包まれていた。
「サトシ…思えば3年前から常に俺を正しい道へと導いてくれたのはきみだった。きみのおかげで俺は過去の自分の生んだ力と…在り方と向き合うことが出来た!俺は、リザードンと共に最強を目指す!!もはや見失うことはない!!」
「アラン…嬉しいぜ!」
すぐさま体勢を立て直し、フィールドに着地してはリザードンを見上げながら右手を高々と上げる。
そこに水流が生まれ、渦巻きがやがて手裏剣状に形作られてゆくはサトシゲッコウガも必殺の構え!
「みずしゅりけん…全開パワーで撃つ気だな。」
審判サークルのタケシが呟く。とんでもない、とギョッとした顔を見せるのはカスミだ。
「この流れって、3年前に負けたパターンそのまんまじゃない!!」
カロスリーグ決勝、その最後の攻防においてもサトシゲッコウガはフィニッシュとして渾身のみずしゅりけんをチョイスしていた。
「あの時と同じように、俺たちが勝つ!!リザードン!ブラストバーン!!」
「ぐぉるぅぅぅがぁぁぁぁぁッッッ!!」
灼熱のほのおエネルギーがフィールドの地表部分を突き破りながら蒼炎の柱を幾重にも空高く打ち上げて迫る。
その様をゲッコウガの視点から共有するサトシにはつゆほどの不安も迷いもない。それ自体は3年前と変わらない。
問題は、この盤面をどう競り勝つかに尽きた。
「みずのタイプエネルギーを引き出すにはパッションばかりじゃあ駄目なのよ!心の片隅にクールさを残してなきゃあ!」
「流石はみずポケモンのスペシャリストにして世界の美少女カスミさん。しっかり把握しておられる。」
ナンテの言にカスミはついついにへら、と口元が緩む。
比喩表現の話ではない。ポケモンの技が内包するタイプエネルギーを効率よく運用するにはタイプごとに感情的な性質があり、ことみずタイプに関してはサトシのように燃え上がる熱い心ばかりではままならないというのは、そのナンテが提唱するエネルギーの流動活用における重要なテーマであったのだ。
3年前のカロスリーグにおいてもサトシは『熱くなりすぎた』ことが理由としてみずしゅりけんへのエネルギー伝達が空回りしていたのが敗因になった。キズナ現象にてゲッコウガとリンクしていたのが最後の最後に仇となった形だ。
そんな巨大みずしゅりけんはやはりというべきか、サトシの思念が上乗せされ赤熱化している。
これではまずい!識者ほど目を覆う場面であったが、
「こぅぅぅ、がぁぁぁぁぁッッッ!!」
ビッシュウウウッ!!
ゲッコウガの手から離れ、投擲された瞬間だった。
赤熱した巨大みずしゅりけんは膨張した規模を維持したまま遥か広がる青空と同化するほどに紺碧の軌道を描き、リザードンめがけ飛んでゆく…
「ハハハ、サトシくんらしいや。」
野次馬に紛れたまま破顔するレイジからすればひどく単純明快な理屈であった。
なんてことはない。肥大化し続けるサトシの闘志を、ゲッコウガのクールな精神がさらに包み込む形でみずしゅりけんに伝播させたのだ。これもポケモンとトレーナーが感覚をシンクロさせるキズナ現象故にできる芸当であろう。
シンジはそのメカニズムよりは、技の破壊力から相手する際にどう打開するかをひたすら脳内シュミレートしていた。
「ぐぉぶぅッ!?」
「げッこァッ!?」
みずしゅりけんがメガリザードンXのお腹に突き刺さり、ブラストバーンの火柱がサトシゲッコウガを呑み込む。
ドドッッ!!ガガァァァァンン!!
「どひゃ〜〜〜ッ!!」
「あ〜〜〜れ〜〜〜ッ!!」
凄まじいエネルギー爆発同士がぶつかり合えばそこから生まれる衝撃波で野次馬の最前列から何人かが吹っ飛ばされてゆく。
シンジは邪魔がいなくなってせいせいした、とはならなかった。
ここで十中八九決着であると読んでいたからだ。
「げぇ…こぉ…!」
「はぁ…はぁ…!」
「ゲッコウガは健在…リザードンは…?」
全身が焼け焦げたゲッコウガはサトシと動きをシンクロさせながら両膝に手を置き肩で息をする。
それでもサトシゲッコウガ状態が解除されていない以上は戦闘可能であるとタケシは判断した。
ズゥン…!
対するメガリザードンXはうつ伏せで墜落し、そのままメガシンカも解除されるのをタケシは見た。
勝負アリだった。
「リザードン、戦闘不能!ゲッコウガの勝ち!よって勝者、サトシ!!」
「やった…やったぜゲッコウガ!」
「ぴかぴー!」
勝ち名乗りを受けるサトシは疲労などなんのそのと飛び上がり、走り寄るピカチュウを胸に受け止める。
ゲッコウガも主人のもとに歩み寄り、ゆっくりと頷いた。
「負けたな、リザードン。俺たちの完敗だ。」
相棒をボールへ戻すアランは天を仰ぐ。
負けたとはいえなんとも晴れやかな気分であった。そこに不思議はない。
戦う者たちの気持ちを熱くさせ、清々しい幕切れを呼び込むのがサトシのトレーナーとしての性質であることは3年前から知っているからだ。
「アラン。対戦ありがとう。」
「あぁ。」
互いに歩み寄り固く握手を交わす。
爽やかな空気が包む中、カスミが外野の中から鋭い眼差しを見つけていた。
「サトシ!あそこ!」
「シンジ!それにレイジさん!」
吹っ飛ばされていった野次馬によって後方気味に試合を眺めていた兄弟の姿を見つけてはサトシは駆け寄る。
「(そうか…レイジさんはシンジのサポーターとしてベンチに入るんだな。)」
トバリシティの兄弟に駆け寄るサトシの背中からレイジを見やるタケシの読みは正しい。
ジムトレーナーを雇うことはなく、師であるキクコが顔を出さない以上シンジが裏方として呼べる相手とすれば兄くらいしかいないのだから。
「調子はいいみたいだな。」
「あぁ。見ての通り絶好調さ!」
「そうでなくては困る。調子を崩している奴に勝ったところで何の自慢にもならん。お前みたいなタイプは特にな。」
「言ってくれるぜ。」
相変わらずどこを切り取っても棘しかな物言いにサトシはむしろ安心した。
これでこそシンジが絶好調であると分かるからだ。
「行こう、兄貴。」
「あぁ。じゃ、サトシくん。明後日スタジアムで。いい試合を見せてくれよ。」
「はい!」
気さくに挨拶してからレイジは背を向け、立ち去る弟の後を追ってゆく。
熱い戦いを一番近くで見るというサポーターの役得もまた目当てとしてあるのはカスミ、タケシの両名と同様であった。
サトシvsアラン
ゲッコウガ◯ リザードン●
(メガシンカ使用)
勝者 サトシ