3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 次の目的地としてホウエン地方に降り立ったサトシとピカチュウ。
 出迎えに来たハルカと街の騒ぎを覗いてみれば、そこではショータと、マサトがポケモンバトルをしていた。


それぞれの戦い 余裕綽々大器晩成 臨機応変初志貫徹

 ショータが先程まで陣取っていたトレーナーサークルに、今度はサトシが入る。

 自然体でありながら、これから行うポケモンバトルに胸躍らせていた。

 その歩みをマサトは目に焼き付ける。どれだけ、この日を待ち望んだか…。

 

 

 

『マサトがポケモントレーナーになったら、真っ先に俺とバトルしようぜ!』

 

『えっ…?』

 

『だからその時はすぐに知らせてくれよな!』

 

『ぴかぴか〜!』

 

 

 

「僕が…サトシと、バトルを…。」

 

 3年前の、夕焼けに染まった男と男の約束が去来する。

 一番最初に、と言うのは流石に無理があったけど、今こうして同じトレーナー同士、向き合うことが出来ている現実の前では些細な誤差であった。

 それは、サトシにとっても同様だ。

 

「マサト!手加減はしないからな!」

 

「したらサトシの負けだよ!しなくても勝っちゃうけどね!」

 

 

 

「ワールドチャンピオン相手にとんだビッグマウスカモ。」

 

「言うほどの素質はじゅうぶんありますよ。貴女の弟さん。」

 

 再会もそこそこに早速バトルと洒落込むサトシとマサトの舌戦に、ハルカは嘆息、しかしその表情には万感の思いがあった。

 そこに先程までマサトと熾烈なバトルを演じていたショータが実感のこもったフォローを入れる。

 ハルカからしてこのショータと名乗った少年と言うのは、純朴さがまず先に来て、お世辞にもリップサービスが上手く出来る類には見えなかった。

 と、なればこのフォローは本心からなのだろう。それも嬉しかった。

 3年越しの夢のバトル、ハルカはスマホロトムを撮影モードに切り替え一部始終を撮ることにした。

 

「タケシにも見せてあげなきゃ。」

 

 

 

「いくぜマサト!ジュカイン!キミに決めたッ!!」

 

「じぃっかッ!」

 

 サトシが勢いよく投げ入れたボールから飛び出したのは、ジュカイン。

 マサトやショータのとはまた違った、どこかニヒルな佇まいと口元に咥え込んだ木の枝がトレードマークの、サトシにとってトップエースのうちの1体である。

 

 

 

「またジュカインが出てきたぞ!」

 

「それもワールドチャンピオンのジュカインだ!さっきの2体とはレベルも風格も段違いだぜー!」

 

 野次馬たちのテンションが爆上がりする。

 ここ、ホウエンでは初心者用ポケモンとして親しまれている種なのだ。この反応も当然といえた。

 

 

 

「ジュカインか。」

 

「じかっ?」

 

 マサトにとっても、彼はキモリの頃からよく知る顔見知りだ。

 サトシのジュカインもマサトを見て一瞬おっ?と目を丸くし、そして細めてみせた。

 お前が相手か。さながら、しばらく見なかった親戚がいつの間にかに大きくなって会いにきたのを見たかのような、懐かしいものを味わうジュカインがジッ、と軽く視線だけでサトシを見やれば、サトシもジュカインに頷く。

 マサトは握り込むボールをじっと見つめる。何度も夢に見てきた、シミュレーションを重ねてきたこの日のための1体は、3年前からすでに決まっていた。

 

 

 

時は今年の始まりまで遡る。

 ホウエン地方トクサネシティとルネシティの間に位置するイザベ島。そこにハルカとマサトの姉弟の姿はあった。

 

「なんでついてきたのさお姉ちゃん。」

 

「別についてきたわけじゃあないわよ。私も仕事よ仕事。プリカシティに用事があっただけ。」

 

 嘘ではない。今や『ホウエンの舞姫』の異名の下、トップコーディネーターとして活躍する彼女の舞台は、現役としてコンテストに参加するのみならず、各地のコンテストの審査員やグラビア誌の撮影などにまで及んでいた。

 今回も主目的は、自身もかつて参加したプリカシティ開催のポケモンコンテストへ、特別審査員兼デモンストレーションの為に招聘されていた。

 正式にオファーを受けた仕事なのだ、それは間違いない。ただ、それと同じくらいにはこの弟の旅の始まりを見届けたいという気持ちも大きかった。

 

 

 

「全く、我が弟ながら人騒がせカモー!!」

 

 イザベ島への便に飛び乗るよりさらに時を遡ってのことを、潮風に当たりながらハルカは思い返す。

 10歳を迎え、オダマギ博士から初心者用のポケモンを選ぶよう促されても、マサトは頑として首を縦に振らなかったという。

 困り果てたオダマギ博士から父のセンリへ、そのセンリから連絡を受ければハルカは、グランドフェスティバル優勝の副賞としてもらった最新型のマッハ自転車をかっ飛ばしていた。

 全速力でペダルを漕いでミシロタウンへ向かうハルカも、マサトの意固地の理由そのものは知っている。

 マサトが最初に迎えたいポケモンはすでに決まっていたのだから。

 

「マサト。マサトの気持ちはわかるわ?でもここからイザベ島まではどう頑張っても1人じゃあ無茶よ。道中助けてくれる子がいてくれなくっちゃ、"あの子"の下へは辿り着けない。」

 

 研究所に駆け込みマサトの元へ歩み寄れば、少し屈み、視線を合わせてから怒るでもなくハルカは諭す。

 普段の姉弟としてのくだらないいさかいの時とは違う、真剣な眼差しを携えて。

 ここで頭ごなしに叩き付ければ、それこそこの弟はポケモンも持たずに飛び出して行ってしまうだろう。そこは家族だ。分かりきっていた。

 

「お姉ちゃん…。」

 

 普段とは違う真面目に諭してきた姉の姿に、ずっとごねていたマサトもようやく頭が冷えたのだろう。

 オダマギ博士に向き直り、頭を下げた。

 

「オダマギ博士、わがまま言ってごめんなさい。」

 

「いや、いいんだ。仲間に迎えたいポケモンがいるって言うのは素敵なことだからね。この子たちの中から選んだので、その子とよりよく歩めるよう練習していけばいいんだよ。初心者用ポケモンには、そう言う役割もあるんだからね。」

 

 マサトの謝罪をオダマギ博士は快く受け取り、改めて3体の初心者用ポケモン…キモリ、アチャモ、ミズゴロウを向く。

 マサトが熟考の末選んだのは…。

 

「キモリ、僕と一緒にあの子を迎えに行くのについて来てくれるかい?」

 

「きゃもッ!」

 

 もりトカゲポケモンのキモリだった。やはりマサトにとって、サトシへの憧れは大きいのだ。

 キモリはキモリで、目の前の自分を選んでくれた眼鏡の少年の大切な約束、その思いの深さを汲めるだけの度量を備えていたのが大きかった。

 そうして旅の支度を整えたマサトが、正規のルートを思いっきり逆走して一直線にイザベ島まで向かうことはハルカにも読めていた。で、あるが故の姉弟の道中と相成ったのだ。

 

 

 

 緑深いイチョウ並木から落ち葉が舞い散る通り道。

 姉弟にとってもよろしくない日常にまでなっていた、サトシのピカチュウを狙うロケット団から、肺炎寸前にまで弱り切っていたあの子を守り、抱えて駆け込んだポケモンセンターの前。

 あの子を保護者であろうサーナイトとキルリアに返したあの場所に、マサトは立っていた。

 ハルカがポケモンセンターのロビーの窓からそれとなく様子を見ているのは分かっていたが、今のマサトにはどうでもいいことだ。

 ぶわっ!と落ち葉が舞い上がる。

 あの日と同じように、テレポートで目の前に現れたサーナイトとキルリア、そして…。

 

「ラルトス…!」

 

「らぁる。」

 

 ラルトス。

 あの日、ポケモントレーナーになったらば必ず迎えに来ると約束した、その約束を今、果たしに来た。

 お互い言葉は要らない。駆け寄り、強く抱き締め合う。

 少しだけ大きくなった体で、両腕にラルトスの体温を、鼓動を感じる。

 あの日、獣道を駆け抜けながら背中に感じた弱々しさは何処にもない、頼りないと姉に茶化されながらも成し遂げ、守り切った、小さな命の鼓動…。

 

「(ずっと待ってたわ。あなたが迎えに来てくれる今日この日を。)」

 

 ラルトスの透き通った声が響く。エスパーポケモン特有の、サイコパワーによる念話だ。

 

「(待たせてごめんよ。ラルトス、僕のラルトス。)」

 

 マサトも口では紡がない。念じるだけでじゅうぶんだった。

 跪いたままそっとモンスターボールを目の前に置く。ラルトスにも迷いはなかった。

 互いを遮るものは、もう何一つない。

 自らボールの開閉ボタンに手を触れ、中に入ってゆく。ボールがコトリコトリと揺れ動き、やがてストン、と動きを止めた。

 

「サーナイト、キルリア。僕、この子、大事にします。」

 

「さな。」

 

「きぃる。」

 

 ボールを手に取り、胸に当てる。そしてマサトはサーナイトとキルリアに深々と頭を下げた。

 全てを見届け、満足げに頷けば2体はテレポートで姿を消す。

 ラルトスを託すのに異存なしということだ。

 

「ラルトス、これからよろしくね。」

 

 改めてボールを手に取り、語りかける。中からまた、声が聞こえた。

 

「(こちらこそよろしくね。私のマスター。)」

 

 イチョウ並木の落ち葉が、舞い散る涼風が、彼らを祝福する。

 『ポケモントレーナー』マサトの物語は、この時幕を開けたのだ。

 

 

 

「あの日から僕たちはホウエン地方を回り、たくさんバトルもしてきた。バッジだって8個集め切ってあとはリーグ予選を待つばかりさ!」

 

 元来の生意気さからの多弁は照れ隠しか。

 聞き入るサトシとジュカインは決して茶化さない。マサトの放つ波導の強さを、しっかり感じ取っていた。

 

「ワールドチャンピオンでもサトシはサトシさ!この日の為にたくさん研究してきたんだ!」

 

「いいじゃん!お前の全て、ぶつけてこいよマサト!!」

 

「じかぁ!」

 

 ジュカインも顎をしゃくって見せる。

 かかってこい、そう伝えたのだ。

 

「いくよ!サーナイト!!」

 

「さなぁ!」

 

 眼鏡のズレを左手で直し、勢いの良いスローイング。ボールから飛び出したのは、もちろんサーナイト。

 幾多の経験の末に成長を重ね、進化し続けたマサトの相棒だ。

 

「先手必勝ッ!いっけージュカイン!!」

 

「じッか!!」

 

 所詮はまともな審判も間に入れていない野試合、先に仕掛けたもの勝ちの世界。

 遠慮も何も一切なく先攻してくるサトシの容赦のなさが、マサトには心地よかった。

 ようやく、憧れていたサトシと同じ舞台に建てたことを実感していた。

 それはそれとして、既に手は無数に用意してある。サトシの戦法、指示のパターンは頭に叩き込んでいる。

 眼鏡の奥の瞳は、万感の思いとは別に、飽くなき勝利への探究の下、冷徹に組み上げた方程式を弾き出していた。

 

 

 

 




 『ショータ』
 13歳。ホウエン地方出身ながら、カロス地方でデビューしたポケモントレーナー。
 カロス時代のサトシのライバルで、サトシを目標として日々努力している。
 エースポケモンはメガシンカでよりスピードを増して相手を圧倒するジュカインだ。
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