3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 3年前のカロスリーグ決勝再現となったトレーニングマッチでサトシは万全になり、前を向いたアランに快勝をする。
 その戦いぶりを見届けたシンジともライバル同士の死闘を熱く誓い合うのだった。


最終章!マスターズトーナメント セミファイナル サトシvsシンジ①

 12月18日、マスターズトーナメントセミファイナルは15時からスタートと予定されている。

 その1時間前にはサトシはシュートスタジアムの東側、シンジは西側にそれぞれあてがわれた控え室へと篭り、試合に臨む最終メンバーを固めていた。

 

「ぴかぴ、ぴかぴか?」

 

「コレで決まり!今日も頼むぜピカチュウ〜?」

 

 選び抜いた6体のパーティーメンバー、その編成データを大会運営から支給されたタブレットロトムでタケシが本部へと送信。

 後は入場の時を待つだけだ。

 

「なぁカスミ。お前、PNTTではずっとシンジと一緒だったんだろ?なにかないのか?」

 

「分かってることはこの2日中で全部伝えたわ。っていうか、ウチはそもそもそんなにベッタリしてるチームでもなかったのよね。Zワザが使えたことだってシロナさんとの試合で初めて知ったんだから。」

 

 カスミの語るチーム<セキエイ>の裏話としては、チーム<マナーロ>以上に個人主義の色合いが強いとのことだった。

 メンバー全員揃っての合宿などは、発足当時まるでやる気のなかったキクコ監督がメディアへのあまりの供給のなさからセキエイリーグに泣きつかれ、仕方なしに大会開始1週間前に急遽実現したという有様だと言う。

 キクコのチーム方針は、ポケモントレーナーとは皆個人事業主として、それぞれに必要なスキルを各々磨けばいいというスタンスをより先鋭化させた形であった。

 その結果がPNTTにおいては準優勝という形に繋がったのだから手法として一定の評価はされるのだろうが今はそれはいい。

 

「出たとこ勝負でやってみるさ。シンジだって俺とポケモンたちの全部を知ってるわけじゃあない。」

 

 無鉄砲ではあるが無頓着ではない。サトシなりに現状を把握した上での言葉だ。楽観的な訳でもない。

 既に少年が『戦う顔』になっていたのでカスミもタケシも余計な心配はしなくていいと思えた。この3年間でなのか、自分たちが関わっていない旅の中でか…?

 その辺りは判然としないがとにかくサトシは空回りすることのない気合の入れ方を習得しているのが分かったからだ。

 それを直接本人に言わないのは、長らく旅を共にしてきた腐れ縁故の『照れ』であった。

 

「チャンピオン、入場お願いします!」

 

「はい!じゃ、行ってくる!」

 

「また後でね!」

 

「ぴかぴかぁ〜!」

 

 トレードマークである青いジャケットに袖を通しサトシはピカチュウを左肩に迎えながら控え室を出る。

 そこから少ししてカスミとタケシもクーリングタイムに向けた準備を整え、ベンチへと向かった。

 

 

 

 サポーターとしてシンジの要請を受け、シンオウ地方からやってきたレイジは試合開始より45分前にはもうベンチに入りクーリングタイムの支度を完了していた。

 控え室をそそくさと出る際の弟は程よく気合いがノッている。そんな印象だった。

 

「本当はスポーツドリンクの類がいいんだろうけどね。」

 

 オレンの実の果肉を潰し、橙色に着色された『オレンジジュース』がシンジは昔から好物で、現在でもメーカー問わず愛飲しているほどだ。

 理由を聞いた時のバツの悪い反応からおそらく弟にしてはさして深い訳があるでもない、ただただ味覚的なフィーリングの話なのだろうとは推察された。

 そんなオレンジジュースもバッチリ水分補給用に準備してある。

 

ウオオオオオオオッ!!

 

「そろそろかな。」

 

 客席からの喧騒がにわかに増してゆく。スマホロトムを見れば時刻は試合開始30分前を切っていた。

 

 

 

「全国のポケモントレーナー、ポケモンバトルファンの皆さん、こんにちは!本日は15時より始まるPWCSマスターズトーナメントセミファイナル2試合の様子をお送りしたいと思います!実況は私、ジッキョー!解説はポケモン評論家で、今年開催された地方代表戦PNTTにおいて優勝したアローラ代表チーム<マナーロ>を率いたナンテ監督、素敵なゲストにはそのチーム<マナーロ>と死闘を繰り広げたガラル代表チーム<シュート>のポプラ監督にお越し頂いております!お二方、今日はよろしくお願いします!」

 

「よろしくお願いします。」

 

「この部屋、ちょっとばかしピンクが足りないんじゃあないかい?」

 

 シュートスタジアムの放送席ではジッキョーがオープニングトークから入り、ナンテは一礼。

 ポプラは周囲を見回しながらの平常運転であった。

 

「ははは…そこはさておき、まずはセミファイナル第1試合、どういうところが見所でしょうか?」

 

「そうですね。今回戦う両名は過去の地方予選でも対戦歴があります。そこからどれくらい成長をしたのかがカギになるかと。」

 

「互いの積み重ねたものを比べ合い、だね。」

 

「あとはなんといってもフルバトル。長丁場を意識した立ち回りをどう構築していくかですかね。」

 

「なるほどッ!」

 

オオオオオオオオオオッ!!

 

「おっ、いよいよ選手入場からの試合開始です!」

 

 

 

『"試される大地"シンオウ地方よりやって来た孤高の求道者!!求めるは"最強"の称号に非ず!!"最強"という証明ただ1つッッッ!!トーナメント初戦にて故郷の絶対王者を粉砕し、セミファイナルに見参!!カントー地方トキワジム、ジムリーダー…シンジィィィィィッッッ!!』

 

オオオオオオオッ!!ウヒョヒョ〜!!

 

 

 

「アハハ、恥ずかしがってる恥ずかしがってる。」

 

 側から見れば普段と変わらぬ無表情。その細かな差異を読み取れるのはやはり肉身故であった。

 ベンチから覗く弟の横顔をレイジは朗らかに見送る。

 シンジは観客の声援に応えることもなくセンターサークルまで辿り着いていた。

 

ドワオオオオオオオッ!!

 

 シンジの三白眼がギョロリと対面の入場口を射抜くように向いたまま動かない。

 姿を見せるは肩にピカチュウを乗せた能天気な面構えだ。

 

『真のバトル世界一まであと勝利2つというところまでやって参りましたご存じマサラタウンの、いやカントー、いやいやバトル業界期待の星ッッッ!!トーナメント初戦は盤石のスコアで勝ち上がって来ました、ワールドチャンピオン、サトシィィィィィッッッ!!』

 

 シンジとは打って変わり、降り注ぐ声援に両手を振って応えながらサトシもまたセンターサークルまでやってくる。

 フィールド中央にて睨み合うは肩書きなど関係のない、ライバル2人…!

 

「今日はよろしくな!シンジ!」

 

「ぴかぁ!」

 

「ふん…。」

 

 相も変わらずのぶっきらぼうなまま、それでもサトシの差し出す右手にシンジは素直に応えて見せてはいた。

 それはトレーナーを導く立場であるジムリーダーとしての自覚…そんな建前からであり決して馴れ合いなどする気はない。

 そんなシンジだからこそこれから行われるバトルへの期待で胸が熱くなるサトシであった。

 

『さぁ両名スポーツマンシップに則った熱い握手からそれぞれトレーナーサークルへと入り、いよいよ試合開始となります!!』

 

「これよりPWCSマスターズトーナメントセミファイナル第1試合!チャンピオンサトシvsジムリーダーシンジの試合を行います!セミファイナルは6vs6のフルバトル!相手のポケモン6体を全て戦闘不能にした者が勝者となります!!それ以外のルールはマスターランク及びトーナメント初戦のものと同様であります!!」

 

「む…!」

 

 サトシの右手にボールが握られていないのをシンジは見る。その意味するところは大一番においてよく見られる戦術だ。

 無論、シンジの先発はそれを踏まえてのもの…!

 

「それでは両者、先発のポケモンを!!」

 

「ピカチュウ!キミに決めたッ!!」

 

「ぴっかぁ〜!!」

 

「ギャラドス、バトルスタンバイ!!」

 

「ぐおおおおおう!!」

 

 サトシが右手でフィールドを指差せば右隣に降りていたピカチュウが飛び出してゆく。

 その黄色い影を見下ろす青の巨体はギャラドスだ。

 

「ぎゃおおおおおす!!」

 

「ぴぃ…!」

 

 強面な顔を存分に活かした『いかく』にピカチュウはたじろぐも闘志がブレることはない。

 背後には全幅の信頼を寄せる最高のトレーナーがいるのだから。

 

「いくぜ〜!ピカチュウ!10まんボルト!!」

 

 でんき技に滅法弱いギャラドスとなればサトシの指示は単純明快だ。

 

「ぴぃ〜かぁ〜!ちゅうううううッ!!」

 

 開幕を告げる1発、ピカチュウは飛び上がり強烈な電撃を放てば、

 

「ギャラドス交代!ガチグマ、バトルスタンバイ!!」

 

 シンジはダブルボールでギャラドスを引っ込めるのとガチグマを繰り出すのを同時に行った。

 

「わぎゃあああああ!!」

 

バチチチチチィッ…!

 

 

 

「ジムリーダーシンジ、先発のギャラドスを早々に交代からのガチグマでピカチュウのでんき技を防いだーッ!」

 

「典型的なタイプ受けですね。」

 

「対戦相手を見てのメタも入ってるみたいだねぇ。」

 

 ポプラにとってサトシは知らない仲でもない。

 リサーチフェロー時代に幾度か交流があった。だが言ってしまえばそれだけであり、正直なところとしては、ダンデが気まぐれを起こしたからと彼をすぐさま玉座より引き摺り下ろせるような器とも思ってはいなかった。

 それが今やワールドチャンピオンとして、そのダンデを目標に立派に立ち振る舞っているというのは『新時代』の到来を否応なく肌で感じざるを得ない。

 そんな若い世代の台頭は、ポプラにとって好ましいものであった。若者の活躍を妬む歳の取り方はしていないという自負故でもあるが。

 

 

 

「わぎぃぃぃ!!」

 

「ぴぃッ!!」

 

 ピカチュウは舌打ちする。

 ほっぺの赤い電気袋から0.4mの黄色いボディ全体を通して放つ電撃の束が、自慢の攻撃が泥の鎧の前にあっさり弾かれ無効化されたのが面白くないのだ。

 しかしこればかりは余程条件を整えない限りはどうしようもない話であった。

 でんきタイプの技は、じめんタイプには全く効果がないのだ…。

 

「出て来たなガチグマ…ピカチュウ!戻って来い!」

 

 ガチグマを相手にサトシはピカチュウを呼び戻す。

 ピカチュウは一瞬嫌悪の表情を見せたが、トレーナーに従うのはゲットされたポケモンの義務だ。

 

ピョイン!

 

 着地する際に尻尾をボディと地面の間へと挟み込ませ、バネのように跳ねる形でピカチュウはバックジャンプ。

 そのままトレーナーサークルへと舞い戻ってゆく。それを見送るシンジはまたボールを構えていた。

 

「戻れガチグマ。」

 

 初手を最も信頼するピカチュウに任せて試合のペースを握る…サトシの常套策をまんまと読み切ったシンジの表情は変わることはない。

 

「もう一度だギャラドス、バトルスタンバイ!」

 

「ぎゃうぉぉぉぉぉう!!」

 

「ブイゼル、キミに決めたッ!!」

 

「ぶいぶいーッ!!」

 

 ピカチュウに代わって繰り出されるはオレンジ色のボディに顎から腹にかけてはクリーム色、目の上と背中にもクリーム色の模様がある勇ましい顔立ち。首を取り巻く浮き袋は黄色で、両腕には水色のヒレがついたうみイタチポケモンブイゼル。

 3年前のシンジとの決戦にも参加したシンオウ組の精鋭だ。

 

 

 




 『ダブルボールの欠点』
 ボールを両手に構え、ポケモン交代を迅速に行うのに適したテクニックであるが、交代先のポケモン投入が速すぎれば『フィールド上に規定数以上のポケモンを繰り出してはならない』という公式戦のルールに抵触し、遅すぎれば通常のポケモン交代と同じで意味がない。
 故に高等テクニックなのだ。
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