3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
その事実は、シンジが間違いなくサトシに迫る実力を全国へ向け示していたに他ならない。
ライバル対決、後半戦が始まる…!
サトシとシンジの視線が交錯する。
刹那、サトシが視線を下ろすは怖気付いたに非ず。最高の相棒と頷き合うためだ。
「ピカチュウ!もう一度頼む!!」
「ぴかぁ〜!!」
試合開始の先発であったピカチュウを再度サトシはフィールドへ送り込む。
対するシンジは…
「ラグラージ、バトルスタンバイ!!」
「るぁぁぁじ!!」
頭に2つのヒレを持ち、ガッシリとした青いボディのぬまうおポケモンラグラージがピカチュウを見下ろす。
キツイ視線が主人にそっくりだ、ピカチュウはそう思った。
「(ラグラージはみずと、じめんタイプ…でんき技は通じない。でもやりようはあるはずだ!)ピカチュウ!でんこうせっか!!」
「ぴっかぁ!!」
シュバババァ!!
「じぁッ…!?」
ファーストアタックとして黄色い弾丸がラグラージのお腹に突き刺さる。
ピカチュウのでんこうせっかで巨体が後退りさせられた。
「あまごいッ!!」
「じぁ〜らぁ〜!!」
ラグラージの咆哮がフィールド上空に雨雲を呼ぶ。
ポツ…ポツツッ…
「雨、か…なにィッ!?」
あまごいにより降り始める雨に視線を上へ向けられるサトシがシンジに向き直れば仰天を隠せなかった。
その左腕には、紛れもなくメガリングが巻かれていたのだから…。
「強く…ただ強く!俺たちが目指すのは頂点あるのみ!!勝利への道筋を照らせ、キーストーン!ラグラージ、メガシンカ!!」
「あーーーッと!ジムリーダーシンジ、いきなり仕掛けてきました!!ラグラージをメガシンカだーーーッ!!」
「各リーグが公式サイトよりアップしている試合記録や、独自に調べ上げた過去のスコアデータからもジムリーダーシンジがラグラージを起用している場面は見つかりませんでした。おそらくは対チャンピオンサトシ用の1体としてここまで温存していたのでしょう。」
「じあああああッ!!」
本来の面影をそのままに、さらに全身をマッシヴかつ丸みを帯びたスタイルへと変貌させたメガラグラージがメガリングより放たれた7色の繭より姿を現す。
「ぴぃぃ…!」
四つ足の姿勢でピカチュウは構えを取る。
メガシンカしたラグラージが強くなったことなどは見れば分かる。しかしそれで引き下がる道理はないのだ。
「ピカチュウ!アイアンテール!!」
「ぴかぁーッ!!」
「れいとうパンチで迎え撃て!!」
「じらあああぐぁ!!」
バチチチチチィッ…!!
空中に飛び上がって一回転することで勢いをつけながら硬質化した尻尾を真一文字に振り下ろすピカチュウに対し、ラグラージは右拳にこおりのエネルギーを纏わせて殴りかかる。
相手を凍結させる、というよりは純粋に自らのパンチ力を高めるためにエネルギー運用をしていた。
「(コレでようやくパワーは互角、か。)」
『化け物め』、そうシンジは呟きに付け加える。
ホウエン地方のオダマギ博士から引き取った初心者用ポケモンの『余り物』をサトシのピカチュウ対策に『使える』と判断して育成を仕上げ、メガシンカによる奇襲まで仕掛けてコレでは正直割に合わなかった。
が、それはあくまで自らの育成不足故の結果でしかないし、メガラグラージのスペックが決定的に劣っているとは思わない。
この辺りの自分のポケモンに対して責任を求めない姿勢に関しては『凄いもうか』を持つヒコザルを育てきれなかった反省が絡んでいる、とは他人に対して素直に認められない辺りが未だ残るシンジの若さであり、青さであった。
「スピードで撹乱だ!でんこうせっか!!」
「ぴかぁッ!!」
「逃すな、追えラグラージ!」
「じあああッ!!」
シュバ!シュババ!!シュバァッ!!
「な、なんだぁっ。」
「ピカチュウが消えた!」
でんこうせっかで生まれる爆発的な瞬発力をフルに活かして縦横無尽にフィールド中を駆け回る…その軌道を追えるのは一部のエキスパートのみで、一般客の目からピカチュウの姿は早々に消えていた。
「ラグラージもだ!」
そして、それはラグラージも…。
「な、なにッ!?」
サトシは驚愕する。一般客の視界を置き去りにしたのはラグラージも同様で、ピカチュウの全力機動に追従してきていたのだ。
「ラグラージはメガシンカすることで特性がすいすいに変化する…それにしたってピカチュウのスピードについて来れるなんて!」
「流石シンジだな。サトシのことをよく研究している。」
カスミもタケシも舌を巻く。これではピカチュウのパフォーマンスを押し付けることでムードを引き込みようがないのだ。
「ハイドロカノン!!」
「らぁぁぁ…!!」
ラグラージが口を開けばエネルギーが凝縮された水球を生成する。
雨という天候がみずタイプエネルギーに作用し、よりパワーを増幅させていた。
「ピカチュウ!!」
「じらあああああッ!!」
ボッシュウウウウウッ!!
発射された水球がピカチュウを捉え、カスミとタケシが見守るベンチ右手側のフェンスまで吹っ飛び激突する。
「…チッ。」
シンジの舌打ち、それ即ちピカチュウを仕留めるには至らなかったということ…。
「ぴぃー…!かぁー…!」
バチチチッ…!
「メガラグラージ!スピード自慢のピカチュウ相手にスピードで対抗!!パワーのみならずスピードでも拮抗して見せ、必殺のハイドロカノンを叩き込みました!!が、そこはチャンピオンサトシのエースポケモン!エレキネットでガードを固めておりましたーッ!!」
「この辺りの咄嗟の判断はやはりチャンピオンの方が一枚上手ですな。それでもあと少しエレキネット展開が遅かったら危なかったかもしれません。」
「だけれど盤面の空気はジムリーダーの坊やが握ったね。」
エースポケモンの戦いぶりは戦況に無視出来ない影響を与える。
もとより前半戦でピカチュウに並ぶエースのゴウカザルを倒され、今こうしてピカチュウも押し込まれているのがサトシ陣営に後々響いてくるのだとポプラもナンテも意見が共通していた。
「(すいすい、か…ブイゼルを残してたら良かったのかな。)」
そう思いながらサトシはラグラージからの追撃がないことに気付き、すぐ理由へ辿り着く。
それはサトシにとって幸いであった。
「ピカチュウ、戻って来い!」
「ぴか!」
『おっと、ピカチュウ交代!チャンピオンサトシ、エースに仕事をさせられておりません!』
フェンスから這い出たピカチュウは四つ足でスタタと走り、トレーナーサークルに入ってゆく。その様子をシンジはむざむざ見逃すよりなかった。
雨状態からのハイドロカノンを凌がれ、技の反動でラグラージは動くに動けなかったからだ。
「戻れ。」
サトシがピカチュウを引っ込めるのに合わせてシンジもラグラージを引っ込める。
どさくさ紛れにハイドロカノンの反動を帳消しにしながら繰り出すは…
「ドダイトス、バトルスタンバイ!!」
「どぅだぁぁぁい!!」
「あーッと、ジムリーダーシンジもメガラグラージを交代!投入したのはドダイトス!これにより、ジムリーダーシンジ側の6体が判明です!」
「戦闘不能になった子を含めて登場順にギャラドス、ガチグマ、メタグロス、エレキブル、ラグラージ、そしてドダイトス…と。ジムリーダーシンジらしいパワーファイト優先の重量級を揃えた構築ですね。メガラグラージはその中でチャンピオンサトシのピカチュウ対策として、雨の中ならばスピード対決においても互角に立ち回れるから大事に扱っていきたいのでしょう。」
「対してチャンピオンの坊やはイマイチノリ切れてないね。ダンデと同じ気分からノッてくタイプにこの盤面はなかなかキツイんじゃあないかい?」
空色の瞳がサトシへとふと視線をやる。
いよいよ息苦しさを感じざるを得ない盤面に対し、当のチャンピオンの坊やはと言えば、無邪気に口角を吊り上げていた。
「ガチグマ、ラグラージ、そしてドダイトス…か。」
ものの見事に残った3体全てじめんタイプであり、余程ピカチュウに仕事をされたくないのだということは否応なく分からされていた。
ならばどうするか?サトシとしては答えは簡単だった。
ピカチュウがマークされているならば、他の仲間の力を借りればいいのだ。
「ワルビアル!キミに決めたッ!!」
「わるびぃッ!!」
赤フチのサングラスをかけたワルビアルがドダイトスと対峙する。主人同様に口角を吊り上げ、不敵な笑みを見せていた。
「タイプ相性というセオリーを覆す、か。」
サトシくんらしいと思いながらレイジは呟く。
ピカチュウに対してはメガラグラージがサトシの得意な領分に合わせて戦っていたが、今度はサトシがシンジの領分に踏み込んできた形である。ここもまた興味深い対面と言えた。
この試合自体が興味の塊であるというのはそれはそうなのだが。
「「ストーンエッジ!!」」
「びぁぁぁい!!」
「どぅだぁぁぁい!!」
ヒュバババババァ!!
ワルビアルもドダイトスも全身より青白い光の輪を放てばその光の輪が砕けていき、無数の岩弾となれば、それらを双方共に発射してゆく。
チュドン!チュドン!チュドドドド!
互いのストーンエッジが相殺していき、いわエネルギー同士の細かな爆発が断続的にモヤを生み視界を塞いでゆく。
「どだい?」
『あーーーッと!ストーンエッジのぶつけ合いから一転、ワルビアルが忽然と姿を消したーッ!どこに行ったんだーッ!?』
「あなをほるによる奇襲狙いですね。チャンピオンのワルビアルはストーンエッジ合戦の隙に地中へ潜っています。」
「この攻め手はゴウカザルで1回やった…だからこそ"敢えてもう一度"、かねぇ。」
「それに加えてゴウカザルの時はでんきタイプのエレキブルが受け手でしたからね。万が一直撃をくらってしまえばあのゴウカザルのパワーからするに本場のじめんタイプからやられるのとそう変わらないダメージで、弱点のエレキブルからすればたまったものじゃあなかったからすぐ潰しにかかった…しかし今回はちとケースが違います。」
「ドダイトスなら仮に一杯食わされても効果は今ひとつで済むわけだしね。」
「はい。」
モヤの中の時点で大穴を掘りフィールド上から姿を消す様が見えていたのも放送席に座る役得としてナンテとポプラはトークを展開していた。
「芸のないやつめ…ドダイトス、ギガドレイン展開!!」
背甲の右側3つの白い岩にくさエネルギーが注入されればまるで植物のようにドダイトスの周囲を蠢き回る。
「どこから仕掛けてきてもドーンと来い!って構えね…。」
「じめん、あくタイプのワルビアルがあのギガドレインに捕まったらひとたまりもないからな…それにこの状況はいわば我慢比べ。長期戦ともなればそれこそシンジの得意な領域だ。」
カスミもタケシもシンジの隙のなさに舌を巻く。
あなをほるからの奇襲をものともしていないシンジに対するサトシの攻め手、それはすぐに表れた。
「いっけーッ!!」
ガガァン!!
「左側面か!!」
ドダイトスはその種族的構造として背中の左側には1本の樹が生えている。故にギガドレインの到達速度を遅らせるための出現箇所としてはいの一番にシンジの中に浮かんでいた。
「どっだぁ!…い?」
ビュワリ!3本の『山のつる』を差し向ければ瞬く間に地中より飛び出す影をドダイトスはキャッチする。
だが、そこに手応えを感じられなかった。いくら体力を吸い上げようとしても吸収出来ないのだ。
「ッ…!」
シンジは目を見開く。
ドダイトスがギガドレインで捉えたのはワルビアルによく似せた岩弾の塊、集約されたストーンエッジによるブラフだったのだ。
「今だワルビアル!つばめがえしッ!!」
ボッコアアッ!
「わびぃぃぃッ!!」
バッキィ!!
地中から飛び出したはドダイトスの顔の真下…強烈な左ラリアットを顎に突き刺したのだ。
『サングラスをかけたワルビアル』
サトシとの出会いはイッシュ時代まで遡り、メグロコの頃からサングラスは着けていた。旅路の中で幾度か交流を重ね、その末に縁が深まりゲットされた。
ちなみにだが同じサングラスをトレードマークとする同士、ゼニガメとは仲がいいらしい。