3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
古代ガラルの覇者は、続けて押し寄せるメガラグラージをも迎え撃つ構えを取った。
「ジムリーダーシンジ!ウオノラゴンの必殺のパターンを読んで見事な迎撃!そこから流れるようなあまごい発動でメガラグラージの特性"すいすい"をフルに活かせる雨状態をフィールドに呼び込んだーッ!!」
「しかし分かりませんよ。雨ならばウオノラゴンにとっても有利に働く天候です。とくにエラがみが強化される。」
「防御面に関してはジュエルが司るテラスタイプ1色が強調されるけど、攻撃面に関してはテラスタイプ以外の元あるタイプエネルギーも1.5倍分引き出せる…だったかね?」
「はい。」
下手なおべっかを挟むことなくナンテはポプラの言に頷く。そういう物言いを嫌う人となりであることを知っているからだ。
近年の研究によりポケモンは元々持ち合わせるタイプの技を使う場合、その出力が平均1.5倍増しになるという発見がされた。とはいえ、実際の倍率こそピンとはこなかったが、ポケモンが持つものと技のタイプを一致させることで威力が高まること自体はエキスパートらの中ではむしろ常識としてとっくの昔に浸透していた話ではある。
ナンテやポプラからすればあくまで数値上の明示が為されたという程度でしかないのだ。
ちなみに言うと、元のタイプとテラスタイプが一致していた場合の倍率は2倍であり、このことについては全国入りが決まった段階でパルデアリーグトップチャンピオンミシェリがテラスタルとパルデア地方そのもののアピールとして大々的に公表している。
「いけラグラージ、突撃だ!!」
「らぁぁぁじ!!」
ブッシュア!!
ラグラージはメガシンカすることで全身がマッシヴになるだけでなく、その強化されたボディを素早く動かすための機能も追加されていた。
前腕部や背中にあるオレンジ色の器官に溜め込んだ空気を噴射することで1.9m、102.0kgの筋肉の塊を加速させるのだ。
その加速は、雨から受ける天候エネルギーも吸収してよりスピードを増していた。
「ウオノラゴン!みずでっぽうだ!!」
「うおぶしゅうううッ!!」
天候エネルギーを受けて強化されたウオノラゴンの水流弾は、ラグラージの太い右腕によりあっさりと弾き飛ばされ霧散してしまう…。
「みずでっぽうって言ったってあの威力よ!?」
カスミが驚愕する。
みずポケモンマスターを目指す彼女からすればサトシのウオノラゴンのみずでっぽうは凡百のポケモンが放つハイドロポンプのそれとすら比較にならない威力であった。
「不味いぞ!ラグラージが…!」
タケシが言い切るより先であった。接近戦の距離に飛び込んだメガラグラージの左拳が疾ったのは…。
「れいとうパンチ!!」
「らぁぁぁじッ!!」
ガチチチッ…!
「あーーーッと、これはどうしたことだーッ!?メガラグラージの左パンチがウオノラゴンのお腹に突き刺さり、お腹はもちろん右顔面と顎も加え3箇所が凍り付いているーッ!!」
「いえ、一見1発に見えますがアレは一瞬のうちにその3箇所に流れるようにれいとうパンチを連続で打ち込んだのです。お腹の前に顔面、顎と急所めがけて寸分狂いなく拳を叩き込むいぶし銀の技…まさしくローリング・サンダー!稲妻だ!!」
ナンテの解説の後に電光掲示板にスローモーション映像が流れ、確かにラグラージの拳は顔面、顎、お腹の順番に打撃を加えていたので客席からはおお〜、と感嘆の声が上がる。
「うぉのぉ〜ッ…!」
「大丈夫かウオノラゴン!なんて速いパンチなんだ…!」
ラグラージが息を整えるべく一旦距離を置き、ウオノラゴンの巨体がよろめく中サトシの脳裏に1つ閃きが過ぎる。
一か八かの方策だが、やらなければこのままラグラージにボコボコにされるのがオチである。
無駄なことなど1つもない、やってみるのみだ。
「ウオノラゴン!テラスタルパワー!!」
「うぉのぁ〜ッ!!」
にわかに輝きを増すテラスタルジュエルにシンジは戦慄を覚えた。即座に潰さねば不味い、と。
「もう一度踏み込めラグラージ!!」
「らぁじぃ!!」
ラグラージは両腕の器官からジェット噴射を行い、再度ウオノラゴンへと距離を詰めてゆく。
しかし、間合いへ飛び込む頃にはその異形は忽然と姿を消していた。
「上だッ!!」
「ぐらッ!?」
主人の声にラグラージは空を見上げる。そこにはまんまと上を取るウオノラゴンの姿があった。
「ウオノラゴン大ジャンプ!!しかしローリング・サンダーのダメージが大きい中、何故あれほどの身体能力を披露できたのでしょうか?」
「テラスタルにより増量されたタイプエネルギーをフィジカルへと振り向けたのでしょう。元がドラゴンタイプであるが故にテラスタイプと一致しているウオノラゴンだからこそ出来た芸当です。」
「タイプエネルギーを技ではなくポケモン自身の身体能力として扱う、ねぇ。面白いじゃあないか。」
それはポプラ最大のライバルで、今はヨロイ島に引き篭もっている先々代ガラルチャンピオンが最も得意としたテクニックであった。
思えばバトルを楽しむ姿勢もどことなくあの『稲妻眉気』にそっくりだとポプラはサトシにマスタードの姿を重ね合わせていた。
シンジには、かつての自分の姿を…。
「ウオノラゴン!テラスタルパワー全開でドラゴンダイブだーーーッ!!」
「うおのぉ〜〜〜ッ!!」
全身に纏うドラゴンエネルギーが普段ならば竜の頭だけなのが今回は胴体から生える大きな翼や手足、長い尻尾までを形成する。
正しく竜が獲物を捉えての急降下だが、ラグラージとしても迎撃の用意は当然あった。
「ハイドロカノン!!」
「らあああじゃあああああっ!!」
ブォシュウッ!!
特大の水球を迫るウオノラゴンめがけ発射すれば、青きエネルギー竜は全身からこれを受け止める形となる。
「ううおッ…!!」
「負けるなウオノラゴン!!いっけぇぇぇぇぇッ!!」
「のぉ…!!」
主人からの声援が身に沁みる。ウオノラゴンの凍結していた右顔面、顎、お腹のこおりは、湧き上がる情熱の前に蒸発していった。
「うぉのらぁ〜〜〜ッ!!!」
バッシュウッ!!
「ッ…!?」
「らぁッ!?」
『ウオノラゴン、ハイドロカノンを突き抜けたぁぁぁッ!!』
ズッッッ!!!ドカアアアアアンッ!!
巨大な水球を文字通り貫通したウオノラゴンは急降下の勢いそのままにラグラージへ正面衝突。強烈なエネルギー爆発によるモヤがシュートスタジアムの外から見えるほどに激しく浮き上がった。
「くぅッ…!」
「ぴぃッ…!」
サトシもシンジも強烈な圧力を前に吹き飛ばされぬよう全身に力を入れながら顔をガードする。視界不良に繋がるようなことになればポケモンに適切な指示を出せなくなるからだ。
「んんッ!?」
フィールド内へギルガルドを飛ばすダンペー審判は、モヤの中からゴーゴーゴーグルにてポケモンチェックを行う。
ちょうど客席から視界が晴れるとそこには…
「らッぐふッ…!」
メガシンカが解除されたラグラージと、
パッキィィィン…!
テラスタルジュエルが消失したウオノラゴンが同時にうつ伏せに倒れ込んでゆく。
宣告するジャッジは決まった。
「ウオノラゴン、ラグラージ、共に戦闘不能!両者、ダブルノックアウト!!」
サトシ、残りポケモン2体。
シンジ、残りポケモン1体。
ウオオオオオオオッ!!オオオオオッ!!
「「「「「あと1体!あと1体!あと1体!あと1体!」」」
「お聞きくださいこの"あと1体"コール!テラスタルvsメガシンカの様相を呈したウオノラゴンvsメガラグラージの死闘の結果は両者相討ち!!コレによりチャンピオンサトシがジムリーダーシンジを追い込み、王手を賭けた形になります!!ワールドチャンピオンのファンのボルテージは最高潮!!『あと1体コール』がスタジアム中に響いております!!」
「しかし、まだ勝負は分かりませんよ。前半戦ラストになったゴウカザルvsエレキブルから、今回のウオノラゴンvsメガラグラージと相討ちが続いたことで1つ明らかになったことがあります。」
「それはなんだい?」
ポプラとしては当然分かっていることだ。しかし放送席に入った以上はトークに協力していかねば次の仕事にも繋がらない。
「はい。それは、チャンピオンサトシとジムリーダーシンジ…両者のポケモントレーナーとしての実力は全くの互角、ということです。」
実力伯仲する同士のエキスパートバトルは何がきっかけで空気が反転するか予想はつかない…チャンピオンサトシが持つ数の有利などは、ことジムリーダーシンジを相手に気休めにもならないのだとナンテは付け加えた。
「強くなったね、シンジ。本当に強くなった…。」
いわゆるブラザーコンプレックスであるとはレイジ自身自覚していた。
ただ言わせてもらうとすれば弟が物心つく頃合いに蒸発した両親に端を発したことであり、シンジの親代わりの役割を果たしてきた立場としては些細な話であろうとも思っている。
そんなシンジがワールドチャンピオンを相手に互角に立ち回っている。その事実がひたすらに感無量だった。
「(俺のガチグマからすればピカチュウ対策はリングマ時代から徹底的に叩き込んである。あとは、何か分からぬ1体を倒して引き摺り出すのみ…!)」
ラグラージをボールに戻すシンジは残り1体のボールへチラと視線をやってから真っ直ぐ向き直す。
背後にやたら生暖かい視線を感じはするが、サポーターとして兄を呼びつけたのは自分である以上、多少のことは仕方ないとボールを投げ込む。
「ガチグマ、バトルスタンバイ!!」
「わぎあああああッ!!」
泥炭の鎧に身を包む大熊がシュートシティ中の空に咆哮を走らせる。シンジ最後の1体として闘志を漲らせていた。
「(エレキネットが間に合ったから、直撃は避けられただけなんだよな。)」
「ぴかぴ?」
見上げてくる相棒の抱えているダメージは想像以上に大きかった。
メガラグラージを相手に手傷を負ったピカチュウはサトシを見上げキョトンと首を傾げる。気丈に振る舞ってはいるが雨状態のハイドロカノンが相当ボディにきているのは長い付き合いから察することが出来ていた。
となれば取るべき方針は1つしかない…!
「(こいつで決めるしかないぜ!)」
目と腰に力を入れ直す。
ビシィッ!
左手で帽子のツバを後ろに回し、思い切りボールを振りかぶる。
「バクフーン!キミに決めたーッ!!」
振りかぶった勢いのままに投げ込むボールから飛び出すは、
「ぶぁ〜〜〜…。」
サトシの気合いとは対照的になんとも気の抜けた鳴き声をあげながら両手を広げて姿を現し、辺りを見回すバクフーン。
それでもアイシャドウの入ったタレ目は、今この時が切羽詰まった状況であると理解する。
「わぎぃぃぃ…!」
「ぶぁくぅ…?」
四つ足に構え、唸りを上げる巨体をスンとした表情で見るバクフーンは、物静かながらゆっくりと自身のマインドを戦闘モードへと切り替えてゆく。
ゴゴゴゴゴゴ…
物珍しいヒスイ種同士の睨み合いにスタジアムの皆息を呑む中、サトシとシンジが対峙する頭上では雨が上がる。
残った雲が、いや、センターサークルを境界線に『天が割れていた』。
『サトシの本気』
サトシは気合を入れ、本気モードに突入する際帽子のツバを真後ろに回す。
当の本人も無意識にやっていることなのでルーティンと呼ぶには発動条件も状況もガバガバではある。