3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 ウオノラゴンの頑張りによりメガラグラージもついに倒された。シンジが残すはガチグマ1体のみ。
 サトシはピカチュウのダメージを考慮し、ヒスイバクフーンでの決着を企図しフィールドへ投入した。


最終章!マスターズトーナメント セミファイナル サトシvsシンジ⑧

『えー、たった今届いた資料によりますと、チャンピオンサトシが投入した6体目のポケモンはかざんポケモンバクフーンのリージョンフォーム、ヒスイの姿と呼ばれるもので、その呼称の通りジムリーダーシンジのガチグマ同様、旧ヒスイ地方の文化に端を発した"ヒスイ種"に連なるポケモンとのことであります!タイプはほのお、ゴーストタイプ!!』

 

「マグマラシが進化した、ってこと?」

 

「ヒカリが言うにはそうらしいな。」

 

 又聞きだが、とタケシは付け加える。

 ポケライン上の繋がりで、ヒカリからキタカミの里でのやり取りのことを断片的ながら聞かされていたのだ。

 

「ガチグマってノーマルとじめんでしょ?ほのおタイプだと抜群取られちゃうわね。」

 

「だがガチグマの方もパワーを最大限に活かせるノーマル技をヒスイ種のバクフーンには通せない。しんがんの特性を持つアカツキの方だったら話は別だろうが…。」

 

 アカツキに関してはゲットに至るところの話からシロナとの試合まででサトシとは知らぬ仲でもなく、手の内を把握され尽くしていると見たシンジがそのことを嫌い、敢えて6体の選出から外したのだろう。タイプ相性、特性諸々を踏まえて、対面としてはシンジが有利…カスミもタケシもそう外面上は判断するよりなかった。

 そして、バクフーンがやられるにしてもそのやられ方次第ではシンジにムードを掴まれ、サトシが敗戦することもじゅうぶんあり得ると生唾を飲み込んだ。2人からしてもラス1に置かれているピカチュウの負ったダメージは決して小さくはないと見えていたからだ。

 シンジはこの試合において、サトシのピカチュウを完全に封じ込めていた。

 

 

 

「バクフーン!ひゃっきやこうだ!!」

 

「ばははぁ〜ん…!」

 

 バクフーンの周囲に複数の鬼火が発生し、それら1つ1つの形相が見るものの潜在意識から否応なく霊的な恐怖をかき立ててゆく。

 

「いけーッ!!」

 

 バクフーンが右手で指し示せば鬼火の顔面が一斉にガチグマへと向き、我先にと襲い掛かっていった。

 

「狼狽えるなガチグマ!そのままジッとしていろ!」

 

「わぁぎ…!?」

 

 回避も防御も必要ない、その指示の意味はすぐガチグマも理解できた。

 360度包囲しての鬼火の群れは、決して自らのボディを焼くことはなかったのだから。

 

 

 

「あーーーッと!?ヒスイバクフーンの放つ大量の鬼火ですが、ガチグマには効いていないようだ!!ナンテさん、コレは一体!?」

 

「自分も不勉強の身ですが、おそらくあのひゃっきやこうという技はゴーストタイプの技なのでしょう。だから、ノーマルタイプであるガチグマには全く効果がないのでは?」

 

「なるほど〜!」

 

 とはいえ序盤に出て来た際の反応からするに、サトシはあらかじめガチグマの存在を把握していたであろうことはナンテは予期してある。

 その上でわざわざ効果のない技を放つ意味と言えば…

 

「揺動だね。チャンピオンの。」

 

 端的なポプラの指摘に、ナンテは同調を示した。

 

 

 

「生者の匂いを嗅ぎ分けろ!」

 

 ガチグマは高い嗅覚を持ち、その精度はダウジングマシン代わりに出来るほどの精密性を誇る。

 シンジはその特徴に着目し、嗅覚を含めた感知能力を戦闘向けに磨き上げていた。

 

「わぎぃ…!」

 

 クンクンと鼻を動かし、気配の源泉を探る。

 鬼火どもがうざったい中、それらをかき分けるように一際大きな紫炎が飛び込んでくるのは、真っ直ぐ正面!

 

「かえんぐるま!!」

 

「かみなりパンチ!!」

 

バッチィィィィィッ!!

 

 体を丸め、紫炎でその身を包み込んでの突撃を図るバクフーンに対し、ガチグマは右拳のかみなりパンチで応戦する。その軌道と構えにサトシはうっすらと1つの影が重なる。

 微かに面影を残すパンチモーションの主は…。

 

「エレキブルから教わったのか!!」

 

「話す義理はない!!」

 

「バクフーンッ!!」

 

「んばあッ!!」

 

 受け止められたバクフーンはパンチの圧力を利用して後方に跳ね返り、丸めた体を元に戻す。

 その口にはすでにブレス攻撃の熱が溜められていた。

 

「れんごく攻撃ッ!!」

 

シュボアドオオオオオン!!

 

 ブレス攻撃による灼熱の紫炎がガチグマの全身を包み込み、爆炎となり天へと登る。

 

『至近距離からの一発が決まったーッ!勝負アリかーーーッ!?』

 

 観客の誰しもがそう思った。モヤの中から妖しく覗く赤光を見るまでは…。

 

「わぁぁぁうぎあああああッ!!」

 

 双眸を真紅に染め上げたガチグマの咆哮が再度シュートシティ全体へと響き渡る。

 なんならガラル地方全域にすら轟いたのでは?そんなことすら浮かぶほどの圧力だ。

 

「ぴぃ…!」

 

 ガチグマの眼光にピカチュウは嫌なことを思い出す。あいつがリングマだった頃に自分がやられた記憶だ。

 あの時もまた、主人によく似て切れたナイフのような目をしていた、と。

 

 

 

「リングマ時代からの特性"こんじょう"によるパワーアップ、ですかね?それにしても、あの距離からのれんごくの直撃に耐えるとは…!」

 

「強すぎるが故に進化の道が閉ざされた、なんて皮肉な話だったりしてね。」

 

 泥炭の鎧はもちろん、全身あちこち焼け焦げながらも歯軋りし、萎えぬ闘志を激らせるガチグマの姿からポプラは呟く。

 そこから強力な種がその力の強さ故に自然の流れから淘汰され、封印されたのではないか…そんなヒスイ種の一角へのノスタルジックな感傷などは研究者にさせればいいと振り払った。

 『戦う者』にはそれ相応のアプローチがあるのだから。

 

 

 

「やれガチグマ!ぶちかまし!!」

 

「わうあがあああああッ!!」

 

 地鳴りを上げながら四つ足でガチグマは駆ける。

 やけどのダメージなどは問題としていなかった。ただただ目の前の相手を粉砕することしか頭にはない。

 

「バクフーン!つばめがえし!!」

 

「ばぁぁぁッく!!」

 

 そんな状態のガチグマめがけて振り下ろす風の手刀は、なんら勢いを止める働きも生まなかった。

 

「わぎッ!!」

 

ガカァッ

 

『バクフーン、ふっとばされたーッ!!』

 

ドシャアッ

 

 ガチグマに撥ね飛ばされたバクフーンの体は空中で回転し、頭から地面に落下し倒れ込む。

 受け身を取る姿勢すら取れなかったということは即ち激突時点で戦闘不能状態になっているということ…それがシンジの手応えであった。

 

 

 

「ガチグマのぶちかまし攻撃が炸裂したバクフーン!凄まじい破壊力の前にこれはダウンでしょう!」

 

「さぁ、どうでしょうかねぇ?」

 

 ポプラもフッ、と口角を僅かに上げる。

 言語化はしにくいのだが、バクフーンは立ち上がってくる…そんな根拠のない予感をナンテと共有していた。

 

 

 

 ダメージを受けてから落下姿勢を判断するにまずバクフーンは戦闘不能であろう、そんな確信を胸に秘めながらダンペーはポケモンチェックに入る。

 

「バクフーン。コレがシンジだ。強いだろ?」

 

「ぴかぴか。」

 

 そんなバクフーンにサトシたちが声をかけるのをチラリと聞きながらも、審判としての仕事はせねばならない。

 

「でもさ。強くなったのはシンジたちだけじゃあない。俺たちだってそうさ。」

 

 弛緩した体と、あとは表情を確認してコールをするのみ。

 

「俺たちも出せるもの、全部絞り出して行こうぜ!!」

 

「ッ!!」

 

 ダンペーが顔を覗き込むと同時にバクフーンは開眼。首周りの噴出器官から紫炎が蘇った。

 

 

 

オオオオオッ!?

 

「あ、あーーーッと!バクフーン立った!立ち上がったッ!!ボロボロになりながらも確かに自らの足で起き上がったーーーッ!!」

 

「バクフーンはチャンピオンサトシを悲しませまいと持ち堪えたんだ!コレがあるから彼は計算の埒外なんだ!」

 

 手に汗握りながらナンテは叫んでいた。

 愛情たっぷりに育てられたポケモンが理外のタフネスを発揮するというのも実際覚えがある。ただ、サトシの場合はその頻度はもちろん、タイミングがあまりにもドラマティックに過ぎるのだ。

 だからこそ人々は熱狂し、自分たちもかくあるべしとポケモンへ向ける愛情に対して思考を巡らせるようになる…人とポケモンとの絆、その在り方を示すのがチャンピオンサトシなのだと思い至るのだ。

 

 

「んばぁぁぁぁぁッくぁぁぁぁぁッ!!」

 

 今度はバクフーンの咆哮がシュートシティ中を揺らす。見開かれた双眸とともに紫炎が煌々と輝き、天へ伸びる。

 

 

 

「コレって、"凄いもうか"!?」

 

 桁違いの『もうか』による急激なパワーアップはサトシのゴウカザルが持つ専売特許…でもないのをカスミは思い出す。

 PNTTの決勝戦においてリザードンもまた、ゴウカザルに負けず劣らずの『もうか』を発動させていたからだ。

 

「おそらくゴウカザルはリザードン以外にもコツを教えてたんじゃあないか?バクフーンの場合、むしろリザードンよりもコツは掴みやすかったかもしれん。」

 

「そっか、"やる気の炎"!!」

 

 カスミもタケシも思い浮かべる過去の光景は全く同じであった。

 

 

 

 ひねずみポケモンヒノアラシからなる系譜の種族が持ち味として誇るほのおのエネルギーは精神面と強くリンクしており、発火器官から噴き出る炎は『やる気の炎』として可視化できるバロメーターとなる。

 3年前のジョウト時代、ヒワダタウンへ向かう道中の森でゲットされたヒノアラシはサトシによく懐き、冒険を共にしていた。

 しかし、元来からのマイペースな性格が災いしてやる気の炎を上手く出せず伸び悩んでいた。そんな中出会った凄腕トレーナーミキが繰り出すよろいどりポケモンエアームドに対抗すべく行った特訓を経てやる気の炎の制御を会得。

 以後はジョウト時代のサトシの頼れる仲間として重要な盤面を任されて戦い続け、今に至っている。

 

「持ち堪えてきた、か…。」

 

「バクフーンはガッツがあるからな!!」

 

 正直な話としてはたまったものではない、というのがシンジの本音だった。

 だが現にバクフーンが倒れていない以上倒す為に立ち回るよりない。

 

「ガチグマ、からげんきだ!!」

 

「ッ、わぎ!!」

 

モリモリモリモリモリィッ!!

 

 ガチグマの巨体、その全身の筋肉がより盛り上がり圧を増してゆく。

 瞳を染める赤光が全身へと伝播し、真っ赤なオーラを纏い出す。

 

「技の発動で発生するタイプエネルギーを攻撃ではなくポケモンの身体能力へと振り分ける…お前がさっきやっていたことだ。」

 

 シンジは不敵な笑みを浮かべる。ウオノラゴンがドラゴンエネルギーで以てパワーを高めたことの模倣だった。

 

 

 

「ガチグマは特性"こんじょう"により1.5倍のパワーアップをしています。そこにからげんきによる倍率を加えたならば…おおよそ3.5倍のパワーを発揮していることになります。」

 

「若いっていいもんだね。」

 

 ポプラの呟きをナンテもジッキョーも無視をした。下手に拾えば命はない…そんな確信めいた直感があったからだ。

 

 

 

「フッ…!

 

「ヘヘッ!」

 

 シンジの僅か吊り上げた口角に釣られてサトシも白い歯を見せる。

 思えばシンオウリーグでの試合では、カウンターシールドも模倣して見せてきたのがシンジだ。追い追われが出来る対等なライバルの存在に、互いに高揚が抑え切れなかった。

 

「わぁぎぃぃぃぃぃ…!!」

 

「ぶぁぁぁぁぁ…!!」

 

 互いに手負いのバクフーンとガチグマが睨み合う。

 ガチグマの全身には絶えずやけどのダメージが駆け巡り、バクフーンは残り僅かな体力でいつ途絶してもおかしくない意識を繋ぎ止めている。

 ポケモンだけではない。共に戦うライバル同士の波導、息遣いがエネルギーに混ざり合ってゆく。

 

「「ここで勝負だ!決着をつけてやる!!」」

 

 最早後先などは考えることもない。今、この盤面を制した方が勝つ…そんな認識をサトシとシンジは共有していた。

 




 『凄いもうか』
 元々はシンジがゲットしたヒコザルに見出した強烈なもうかの特性。
 ヒコザル自体はシンジによく懐いてはいたのだがシンジ流のスパルタ育成に適応出来ず逃がされ、直後サトシがゲットして現在のゴウカザルの切り札となり、同じ特性を持つポケモンたちにもコツが共有されているよ。
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