3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 宿命のライバル対決をサトシは制した。だが、最強のライバルシンジとの戦いの日々はまだまだこれからも続く。
 バトルの世界の頂に立ち続ける限り、人々はその激突のたびに魅了されることだろう。


最終章!マスターズトーナメント セミファイナル ダンデvsアイリス①

 15時から始まり、約1時間半の死闘に幕を下ろしたシュートスタジアムのバトルフィールド上をロトムの入った清掃ロボットが駆け回っていた。

 17時に予定の決まったセミファイナル第2試合のためである。

 

 

 

「そうか。サトシが勝ったか。」

 

「うん!すっごいバトルだったぞ!」

 

 スタジアムの東側控え室ではダンデが興奮しきりなホップから第1試合の報告を聞いていた。

 ついさっきまで試合に投入するメンバーを思案していて、オーダー提出期限ギリギリになってようやく6体の選定を終えたところであった。

 

「相手はアイリスちゃんだけど大丈夫?」

 

 小さなハートの飾りを散らしたオレンジ色のふわふわなサイドテールと、頭の上にかけたサングラスがトレードマークの美女が声をかける。

 丈が若干短くへそ出しスタイルの緑色をしたリブニットに水色のジーンズ、ショートブーツを合わせ、ブーツにもハートの飾りがついている。

 白衣に袖を通すは一端の研究者の証であるソニア博士は、ホップとともにダンデのサポーターとして帯同していた。

 

「あぁ大丈夫さ!開幕戦じゃほんの少し遅れをとったが、アレでトレーナーとしての癖は掴んである。ポケモンの把握も済ませてるし問題はないぜ。」

 

 3年ぶりに開催へ漕ぎ着けたPWCSにおいて復帰戦で引き分けに持ち込まれ、サトシとのファイナルに引き続き勝ちを逃したことについてソニアにつつかれてはダンデは破顔する。

 マクロコスモス代表としてデスクワークに追われる日々の中で体を動かすトレーニングのための時間が取れない分、ライバルたちの試合記録を隈なくチェックする癖を新たにつけたダンデは従来の飛び抜けたセンスにデータを補強することでアイリス相手以外は全勝していた。

 

「流石兄貴だ!勉強熱心なんだな!」

 

「おうともさ!」

 

 眩しい笑顔と共にホップが無邪気に話せば、ダンデは弟の頭をクシャクシャと撫で回す。

 

「チャンピオンダンデ、入場お願いします!」

 

「おう!」

 

 スタッフからコールが入ればダンデはパイプ椅子から立ち上がり、マントを羽織る。栄光の背番号1を覆い隠すマントに貼り付けられた無数の企業ロゴは無論のこと、その全てが彼個人とスポンサー契約を結んだ証。

 3年前よりもさらにその数は増え、背面部分では足りなくなってきた。それはダンデの躍進を喧伝する一種の『勲章』と言えよう。

 

「ホップ!ソニア!特等席でチャンピオンタイムを見せてやるぜ!!」

 

 従える2人にそう語るダンデの歩幅は大きい。180cmちょうどの偉丈夫はまさしく自信に満ち溢れていた。

 

 

 

 時を戻して同じく西側控え室は周囲の喧騒とは無縁な、異様なまでの静寂に包まれていた。

 

「こー…ほー…こー…ほー…。」

 

 簡素なビニールシートの上でアイリスがマインドフルネス瞑想に耽る、その呼吸音だけが部屋に響く。

 サポーターのベルはひたすら無言を貫き瞑想の邪魔にならないよう努めていた。

 

「ふぅー…よし…。」

 

 よし、の一言が瞑想終了の合図だった。

 意識を呼吸から戻してゆっくりと目を開く。胡座をかいている姿勢からフワリと両脚のバネだけで宙に浮き、音もなく着地した。

 アルティメット・ドレスに無用な汚れは見られない。

 

「サトシくん勝ったんだって。」

 

「そっか。」

 

 瞑想を終えたアイリスにベルは簡潔に第1試合の結果を伝える。

 会場入りの時点でアイリスはフルバトルの6体は決めてあり、控え室に入ってすぐ諸々の手続きをベルに任せてずっと瞑想していたのだ。

 

「チャンピオンアイリス、入場お願いします!」

 

「アイリスちゃん。」

 

 スタッフのコールが入りアイリスはベルに頷く。そうしてゆっくりと控え室を後にした。

 

「ウフフフ…ザ・ドラゴンチャンピオン…今、見せてやるわ。」

 

 必勝を胸に期した不敵な笑みとともに。

 

 

 

『スタジアムの電光掲示板には、先程行われたセミファイナル第1試合のハイライトが再生されております。先立ってファイナル進出を決めたワールドチャンピオンサトシに対するはどちらのチャンピオンか!?セミファイナル第2試合、間もなく始まります!!』

 

「スコア以上にギリギリだったわね。流石シンジって感じ。」

 

「うん。ホンット強かった。」

 

 フィールドから撤収したサトシたちは共用の控え室にあるモニターから試合を観ることにしていた。

 戦況を細かく見極めるには生の観戦が一番ではあったが、いかんせんサトシのネームバリューとしてそれは難しい話であった。

 リーグ予選に参加したぐらいの地方ならばともかくとして、出身のカントーや戴冠を果たしたアローラやガラルではおいそれとスタジアム内で顔を見せるのは殺到を生むからだ。

 試合前や完全にプライベートという状態ならばファン側も空気を読む民度を保てようが、こと試合による興奮の坩堝と化しているスタジアム内でその自制を保てるほど人の理性とは強固ではないのだから…。

 

「サトシとしてはやっぱりダンデさんに勝って欲しいのか?」

 

「それが一番なんだけどさ。アイリスとの本気のバトルも捨て難いよなって。」

 

「ぴかちう。」

 

 PWCSにこうして再度参加した理由としてはやはりタケシの言う通りの結果こそがベストであるとはサトシも分かっている。

 ただ、3年前のPWCSランクマッチ…そのハイパーランク昇格を賭けた一戦以来アイリスとの直接対決は実現していないままであった。

 

 

 

『カイリュー、サトシのことが大好きなのね。だから頑張っちゃう!』

 

『ばうぅ!』

 

『貴女はとっても優しい。あたしのオノノクスもキバゴの時はちょっと臆病で優しくて…けどね。色んな技を覚えてくうちにバトルが楽しくなってきたの!この子が楽しいとあたしも楽しい!ね、カイリューが楽しいバトルをやろうよ。それって、サトシも楽しい!』

 

『ばぅー…ばぃ!』

 

「カイリュー…アイリスとなんか話したのか?」

 

「いひひ、なーいしょッ!」

 

「…イケるってことだな!」

 

 

 

 過去のやり取り、その試合の中でアイリスはサトシのカイリューと対話を行い、張り切り過ぎが故の余計な力を解してくれた。

 アイリスとしては気にも留めていないだろうがサトシからすればあの時のランクマッチもまた完全に五分と五分の条件とは言えなかったのではなかろうか?そんな思いが去来していた。

 

「アンタのことだからどうせ負けた方には大会終わったらバトルしてもらいに押し掛ける気なんでしょう?」

 

「へへ、分かっちゃった?」

 

「そりゃあもう。何だって腐れ縁なんですもの。」

 

 思っていたことをカスミに見透かされてはサトシは鼻を擦ってみせる。

 そうしているうちにスタジアム全体が揺れるような感覚を得る。観客のボルテージがまたぞろ上がり出すならば、いよいよ試合が始まるということだ。

 

 

 

「第1試合の興奮冷めやらぬ中、ここシュートスタジアムではファイナルマッチの対戦カードを決定付ける第2試合が間も無く開始されます!実況は第1試合と同じく私ジッキョー!解説には引き続きポケモン評論家のナンテさん、素敵なゲストは第1試合のポプラさんに代わってこの方に来て頂きました!」

 

「イェーイ!シャクちゃん見てる〜?イケてるパパがテレビに出てるぞ〜い!!」

 

「あ、あはは…先代ガラルリーグチャンピオンのピオニーさんです。本日はよろしくお願いします。」

 

「おう、よろしくぅ〜!!バッチシ決めてシャクちゃんに"パパ素敵〜!"って惚れ直してもらっちゃうもんね〜!!」

 

 オープニングトークから我が道をまっしぐらの探検服姿の髭面の親父。彼の話す愛娘『シャクちゃん』はと言うと…

 

 

 

「ふぃおおおおおおおッ!!」

 

「ぶぇくしッ!!」

 

「大丈夫?フリーザーの冷気にやられた?」

 

「だいじょぶだいじょぶ…多分どっかでオヤジがアタシのこと喋くってるだけ。」

 

「あぁ、そげなこと…。」

 

 マックスダイ巣穴にマリィと篭り、野生のダイマックスポケモンたちと激闘を繰り広げていた。

 無論、ピオニーの出ている中継など頭の片隅にすらない。マリィも苦笑いを向ける。過保護な家族を持つ同士のシンパシーであった。

 

 

 

「(なんだろう、西側からただならぬ気配が…。)」

 

 ピオニーのハイテンションに呑まれるより先に彼方の異様な空気に気付いたナンテは視線と意識をそちらへ向けていた。

 

 

 

ウオオオオオオオッ!!オオオオオオオッ!!

 

『失った栄冠を取り戻すべく着実に歩みを進めてきたガラルが誇るグレートチャンプ!!トーナメント1回戦では覚醒したアラン選手に正面から受けて立ち、リザードン同士のミラーマッチにてエースを相討ちで倒されこそしましたが勝利を掴み今セミファイナルの舞台に臨みます!!ガラルリーグチャンピオン!!"無敵の男"ダンデェェェェェッッッ!!』

 

ダンデ!ダンデ!ダンデ!ダンデ!ダンデ!

 

 東口より入場し、センターサークルにてリザードンポーズ。

 コレでピタリと声が止むのも盤石なガラルチャンピオン故に応援パフォーマンスが確立されているからだ。

 

「俺とポケモンたちのショータイムを見せよう!」

 

ウワアアアアアアアイッ!!

 

 ダンデの一言を合図にファンたちはまたぞろ一斉にシャウトした。

 

アイリス!アイリス!アイリス!アイリス!アイリス!

 

 負けじとアイリスコールが起こる中、白とピンクを基調としたアルティメット・ドレスに金のティアラを、もはやトレードマークと着こなしたアイリスが西口より姿を見せる。

 

 

 

『新時代の旗手はチャンピオンサトシのみに非ず!イッシュの地より名乗りを上げしは可憐なる竜の申し子!!PNTTにおいてはチャンピオンシロナとチャンピオンワタル、トーナメント第1回戦ではチャンピオンカルネを撃破し今1番勢いがあると言っても過言ではありません!!イッシュリーグチャンピオン!!"昇竜姫"アイリスゥゥゥゥゥッッッ!!』

 

「ん…なんだろう。アイリス、なにか変だ。」

 

「変ってなにが?」

 

「うーん、言葉にするとなると難しいっていうかー…。」

 

「ぴかぴかぁ?」

 

 センターサークルへ向かうアイリスの様子に首を傾げるサトシ。カスミに問われてもその感じる違和感を言語化するボキャブラリーは持ち合わせていないのが哀しいところであった。

 

 

 

「開幕戦のようにはいかないぜ。」

 

「あたしだってそうですとも。」

 

 握手を交わしトレーナーサークルへと散るダンデとアイリス。

 審判ダンペーも休憩を挟みリフレッシュ状態で試合進行に入った。

 

「これよりPWCSマスターズトーナメントセミファイナル第2試合!チャンピオンダンデvsジムリーダーアイリスの試合を行います!」

 

 準備良し、とダンペーにアイコンタクトを飛ばしてから両者先発のボールを右手に握る。

 

「いけッ!ドラパルト!!」

 

「ぎゅわぁ〜!」

 

「めしゃあ〜!」

 

「しゃめえ〜!」

 

「いくわよ!サザンドラ!!」

 

「さぁ〜!」

 

「ざぁ〜!」

 

「ざぁ〜!」

 

 ダンデの先発はドラパルト、アイリスの先発はサザンドラがフィールドに登場すれば、ドラゴンポケモン同士の対面。

 互いに気合いじゅうぶんの雄叫びを上げる中、ダンペーは高々とコールをあげた。

 

「試合開始ィィィィィッ!!」

 

 

 




 『3年前のハイパーランク昇格戦』
 当時リサーチフェローとしての仕事とPWCSで二足の草鞋を履いていたサトシは、チャンピオン就任してすぐのアイリスとランクマッチで激突した。
 アイリスの後見人であるシャガが見届ける中、若きチャンピオンたちは素晴らしいバトルを行なったのだ。
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