3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

28 / 302
 男と男の約束に、立場の違いなど関係ない。
 サトシとマサト。チャンピオンとルーキー。
 今、約束が果たされる…。


それぞれの戦い あの日の約束 サトシvsマサト①

 サトシのジュカインが真っ直ぐサーナイトめがけて突っ込んでくる。

 マサトが何十回、何百回と頭の中で思い浮かべたシチュエーション。そのスピードも、想定通りだ。

 

「(それはそれとして、速い!)」

 

「僕のメガジュカインよりも…!」

 

 想定通りなのは間違いない。ただ、トレーナーとして反応出来なければ何の意味もない。

 そういう意味では、直前に同じジュカインを扱うショータとバトルが出来たのは幸運と言えた。

 サトシがやってくることは姉から聞かされ事前に知っていたがショータの存在、こればかりは本当に偶然だった。

 おかげでジュカインのスピードそのものに目が追い付くのだ。

 当のショータも、3年ぶりに肌で感じるサトシとのレベルの差を見せつけられ、驚愕するしかなかった。

 無理もない。マサトのジュカインはあくまでマサトの指示によりこちらの動きのパターンを読んで対処していたに過ぎないのだ。

 純粋なレベル差、ステータスではショータのメガジュカインの方が上で当然といえた。

 しかし、サトシのジュカインは、シンプルに自分のメガジュカインより素早く動くのだ。

 見たところ、メガストーンも装備していないのでメガシンカするというのもおそらくはない。

 

「(3年前のカロスリーグ、あの時のサトシとは桁違いです。)」

 

 サトシからしたら、決して3年前のカロスリーグで手を抜いていたということはない。

 元より相手を見て力の出し方を調節出来るような器用さは持ち合わせていないし、むしろショータなどは決勝でぶつかったアランに次ぐレベルで強敵として認識していた。

 ただ、当時のサトシはピカチュウを中心に、旅をしている現地でゲットしたポケモンによる少数精鋭方針を無意識に固めており、研究所に預けている他のポケモンたちを組み合わせてのメンバー編成、というのはPWCSを優勝するまでそもそも想定にすらなかったに過ぎない。

 それを縛りプレイ、と捉えられたらそれまでではあるが。

 

「サーナイト、サイコキネシスだ!」

 

「さぁな!」

 

グオバッ!!

 

 閑話休題。

 サーナイトの双眸が輝き、両手を真横に突き伸ばす。

 超能力攻撃がジュカインの左右の地面を掘り起こし、巨大な地盤を持ち上げていた。

 

「じゅかッ!」

 

「さぁな!」

 

ゴオオオオオッ!

 

 サーナイトが真横に伸ばした両腕をそれぞれ反対側に交差させる。

 クロスした両腕に対応するように、左右の地盤がジュカインに迫る。そのまま挟み込んで押し潰す算段だ。

 

「ジュカイン、リーフブレード!」

 

「じゅっっっか!!じゅじゅじゅあ!」

 

スパパパパパパパパ!

 

 左右から迫る地盤に対して、ジュカインは両腕を目まぐるしく振るう。

 瞬く間に地盤は両腕の刃化された葉により粉微塵に切り裂かれ、サラサラな土へと分解されてゆく。

 それもまた、マサトには想定の範疇であった。

 

「さぁぁぁな!!」

 

「ムーンフォースか!!」

 

 サトシとてサーナイトを扱うエキスパートを知らないということはない。

 3年前のマスターズトーナメントでジョウト地方リーグチャンピオンのワタルを下してみせたカロス地方リーグチャンピオン、大女優カルネの代名詞といえるエースポケモンなのだ。

 サトシ自身もカロス地方を巡っていた際に面識があり、直接の手合わせをしてもらったのを踏まえてそのポテンシャルは大体把握していた。

 

「そこからならかわせないでしょサトシ!」

 

 ジュカインに地盤を押し付けたのはブラフ、わざわざ先攻を譲ったのもこのブラフを通すための呼び水で(先攻を取ろうと思っても多分無理だと自覚はしている)、本命は至近距離からムーンフォースを叩き付けること。

 サーナイトの交差させていた両腕は胸の前で構えられ、強力なフェアリータイプのパワーが凝縮されたエネルギー弾を生成していた。

 既に発射態勢だ。

 

「いけーサーナイト!ムーンフォース!!」

 

「さぁぁなぁぁ!!」

 

 ジュカインの不可避の硬直に、本命のエネルギー弾をサーナイトが撃ち放つ。

 こうも緻密にバトルが出来るのか!

 マサトの巧妙な手腕に、サトシは白い歯を見せずにいられなかった。

 

「ジュカイン!リーフブレードでムーンフォースを切り裂け!」

 

「無理だ!両腕は使えない!…まさか!?」

 

 まさかの指示。マサトは狼狽、からすぐ唯一取れうる一手を想起していた。

 その明晰さを察知したジュカインの不適な笑みには、感慨深さも混ざっていた。

 

「じゅぃぃぃぃッかぁ!!」

 

 ジュカインの咥えている木の枝が緑色に発光し、刃状に形成されてゆく。

 それを首の力で思い切り袈裟に振り下ろせば、放たれたムーンフォースはナイフを入れられたバターのように両断され、サトシの左右を掠めてゆく。

 

ちゅどん!ちゅどん!

 

 両断されたエネルギー弾はそのまま野次馬の手前で落着し、大きな爆発が二つ起きた。

 それは、直撃した際の威力の凄まじさを物語るにはじゅうぶんすぎるものであった。

 

「さなぁ。(嘘でしょう?)」

 

「まさか三刀流とか、ホントにやってくるなんて…。」

 

 流石にこの一撃ですんなり決まるとは考えてはいなかった。

 サトシのポケモンたちのしぶとさは、3年前からこの目に焼き付けてきたのだ。

 にしても、練りに練ったこのプランを問題なく凌ぎ切るサトシには、舌を巻かずにはいられない。

 サーナイトも目を見開いている。やはり、サトシは凄いのだ。

 

「俺だって色々勉強してきてるんだからな。」

 

「じか。」

 

 リーフブレード三刀流。

 PWCS開幕戦を終え、マサラタウンへの帰途に着いた船旅で再会したナオシ、彼がコロトックと扱ったZワザの応用をサトシも取り入れたのだ。

 

「でも、これだって読んでなかったわけじゃあないもんね。」

 

「さな。(えぇ。)」

 

 ポケモンバトルとなれば、トレーナーは誰しも相応に最適な動き方を考える。事前にしろアドリブでにしろ、そのこと自体は変わらない。

 読みやアテを外されては誰しもメンタルに衝撃を受け、闘志が少なからずブレてしまう。それはサトシだって変わらない。

 

「(いやに落ち着いてるな…。)」

 

 3年前、カントー地方にあるロータにて、波導使いアーロンとその従者ルカリオを巡る騒動を経験し、自身もルカリオを育て上げたことから波導に対する心得も身につけていたサトシからすれば、人の闘志のブレは、そのままその者の波導として感知できるのだ。

 だのにマサトからもサーナイトからも、まるでそれが感じられない。

 その動じることのなさは、逆に更なる一手がもう打たれてあることを予見させるのにじゅうぶんであった。

 

「(マサトのやつッ!)」

 

 油断も隙もない。サトシは瞬時に察知した。

 

「ジュカイン、跳べッ!同じ場所に留まるな!」

 

「かぁじゃ!」

 

ドゴンッ!!

 

 刹那であった。

 ジュカインが右にステップを踏み、大きく跳べば、ジュカインが元いた箇所に強烈な圧力がかけられクレーターが出来上がっていた。

 あと少し、その場に留まっていたならばその攻撃により押し潰されていたことだろう。

 

「みらいよちを事前に仕込んでいたとはッ!」

 

 ショータが感嘆と共に戦慄した。

 野次馬たちもどよめいている。このマサトというルーキー、やはり今年デビューしたばかりとは思えない、卓越した戦略眼を持っている…。

 

「ジュカイン!お前の全速力を見せてやれ!」

 

「じゅッ!」

 

 ならば、とサトシは帽子の鍔を後ろに回し、本気モードに入る。

 それに呼応し、再度ジュカインはサーナイトめがけ駆け出した。

 

ガゴォ!ズゴォ!バゴォ!ドゴォ!

 

 最大全速のジュカインが通り抜ける後に次々とクレーターが出来上がってゆく。

 サトシがあくまで接近戦を狙ってくるのを、マサトも読み切っていた証左であろう。

 仕掛けてあったみらいよち攻撃を掻い潜り迫るジュカインを前に、なおも波導の乱れは見られない。

 

「(まだなにかあるな!)」

 

 この一切波導が乱れていないというところから、逆に策の有無を看破されている辺りが、マサトがルーキーとして残すツメの甘さではあるのだろう。

 もっとも、腹芸の類はサトシも得意ではない。その点について、他人のことを言える義理もなかった。

 そして、その理由もすぐにハッキリとした。サーナイトが、虹色の繭に包まれていたからだ。

 

「じかッッッ!」

 

「メガシンカかッ!!」

 

「サトシ相手に出し惜しみなんかするもんか!」

 

 マサトが既にメガリングを構えキーストーンに秘められている力を発動させている。それを見るサトシは…。

 

「ジュカイン、いけッ!!」

 

「じゅかッ!!」

 

 ジュカインをさらに加速させた。メガシンカ完了直後に一撃を叩き込む算段だ。

 それはひと目でマサトにも分かったし、元より計算のうちに入っていた。

 

「僕たちの3年越しの絆!見せてあげようよサーナイト!!メガシンカ!!」

 

「さなぁぁぁぁぁ!!」

 

 虹色の繭の中から従来の女性的な印象をさらに強調させるロンググローブのような腕部にらスカート部分はクリノリンを着用したドレスに近い膨らみを帯びた、メガサーナイトへとメガシンカをする。

 しかも、ただメガシンカしただけではなかった。

 

「メガサーナイトはすでに攻撃態勢に入っています!!」

 

 いやはやと舌を巻きっぱなしにさせられるショータ。

 ここまでのマサトのバトル運びの見事さに、どこか既視感も覚えていた。

 

「(これほどに洗練されたバトル…トレーナーとしての根本的なスタイルこそ違えど間違いありません!)」

 

 浮かんだ既視感の数々が一本に結びつき、そしてそれは、やがて確信となる。

 

「同じなんだ。バトルに対する呼吸や、攻め手のリズムが、僕がカロスを出る前に戦った…ユリーカさんと。」

 

 3年前、カロス地方にてサトシと共に旅をしていたミアレジムのジムリーダー、シトロン。

 彼の妹であり、当時は7歳。マサトと同い年だ。

 それが今年10歳となれば法的にポケモントレーナーとして認められ、各々の進路に向けた一人旅も許可される。

 ショータはホウエン行きの船に乗る前にトレーナーとしてデビューしたユリーカと出会い、ポケモンバトルをしていた。

 結果は、辛勝。

 フレッシュな若い力に、マサトとのバトル同様あわや、というところまで追い込まれてから、どうにか先輩トレーナーとしての意地を見せた。

 ショータにも3年間を強力なメガシンカポケモンが当たり前のように飛び交うカロス地方の環境で戦い続けてきたという自負はあった。

 それが根底からひっくり返されたような思いをさせられる羽目になったのである。

 

「しかし、彼らは一体どこで…。」

 

 マサトとユリーカのバトルにおける根っこの部分が同一のものだということを肌で感じ取ったショータではあったが、その根っこの部分。トレーナーとしてのセンスを発揮するための知識や指示の呼吸、それらバトルに不可欠である仔細の部分を、全く違う地方出身の2人がどうやって習得したのか?その点に関してはどうしても掴めなかった。

 ユリーカとバトルした際には、兄のシトロン、或いはフィアンセとして公表されたカロス四天王のドラセナ、いずれかの、或いは双方からの技術の融合かと結論づけていた。

 しかし、そのユリーカと全く同じ領域にいるマサトの存在が、その結論を真っ向から否定したのだ。

 この2人は、それぞれ身内とはまた違う別の何かからトレーナー技術を享受している。ショータが現状出せる仮説は、ここまでであった。

 

 

 




 『マサト』
 10歳。今年デビューしたルーキートレーナーで、ハルカの弟。
 サトシのホウエン時代に一緒に旅をした仲間で、デビューしたらバトルの約束をしていた。
 エースポケモンは体を張って守り抜き、再会を果たした相棒のラルトスを育て上げたサーナイトだ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。