3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
サトシと決勝を戦うのは、果たしてどちらか?
「さぁー開幕戦以来の対戦となりましたがお二方、この試合、どういったところがカギを握ると思ってますでしょうか?」
「そうですね。勢いのあるチャンピオンアイリスの攻め手をチャンピオンダンデがどういなして自分のペースを作るのか、いなしてくるのをチャンピオンアイリスはどう崩していくか…この辺りが焦点かと。」
「ふーむ…ま、序盤の差し合いもまだ、って段階じゃあそう言うしかないわな。」
「えぇ。」
やり取りの中でウインクして見せるピオニーにナンテは、彼もまた異様な気配を察知しているのだと理解する。チャンピオンにまで登り詰めたエキスパートが感じ取れないはずはないと特に心配はしていなかったが。
お気楽な雰囲気を出しながらもポケモントレーナーとしての感覚を忘れていないのが『はがねの大将』たる所以なのだと思った。
「ドラパルト!ドラゴンアロー発射だ!!」
「ぎゅわぁ!!」
平べったい頭部の両翼にある突起をサザンドラへと向けるドラパルト。
ドラパルト自身が精密な狙いをつけることをせずとも発射してしまえば、ダンデの指示に合わせた思念を飛ばすことで弾丸役のドラメシヤを通してのオールレンジ攻撃を実現する。
その利便性の高さや持ち前のスピードからダンデの試合において多くの場合でドラパルトが先発の役割を担っていた。
「めしゃ〜!」
「しゃめ〜!」
ドシュウ!と両側の突起よりドラメシヤは発進する。
ドラパルトが正面に立ったまま、サザンドラを左右から挟み込むことで3方向を瞬く間に包囲した。
「……。」
アイリスは瞑目する。
自意識がリープしている感覚とともに開いた視野に広がるは、今まさに三位一体の攻撃を加えんとするドラパルトの様子だ。
「いくわよ、サザンドラ…!」
「さぁ〜(いつでもいけるよ!)」
全身よりオーラを放つアイリス、その変化にダンデが気付いた時には遅かった。
「めしゃッ!?」
「しゃめッ!?」
両サイドから飛びかかったドラメシヤはサザンドラの左右の頭に噛みつかれる形で捕まり、
「「あくのはどう!!(あくのはどう!!)」」
2体を制御する役割のドラパルトには真ん中の首から漆黒の波導がブレスとして叩き込まれていた。
「な、にッ…!?」
『ファーストアタックはサザンドラ!あくのはどうはドラパルトに効果抜群だーッ!!』
それだけにとどまらない。あくのはどうの直撃はドラパルト最大の持ち味であるスピードを殺していた。
怯んでしまって動けないのだ。
「今よ、ドラゴンダイブ!」
「(任せとけッ!!)」
ズガンッ!
「ぎゅッ、わッ…!?」
サザンドラのボディが群青のドラゴンエネルギーを纏っての突撃は無防備なドラパルトを撥ね飛ばす。
「めしゃ〜!」
「しゃめ〜!」
その勢いで左右の頭が咥え込んでいたドラメシヤたちは解放され、慌てて飛び去るも、ドラパルトは頭の上を飛び回る子たちにリアクションを返すことはなかった。
破壊力抜群の弱点技を立て続けにぶち込まれ、完全に目を回していたからだ。
「ドラパルト、戦闘不能!サザンドラの勝ち!!」
ダンデ、残りポケモン5体。
アイリス、残りポケモン6体。
ウオオオオオオオッ!!ワアアアアアッ!!
「ダウンですッ!チャンピオンダンデのドラパルト、試合開始から僅か48秒で戦闘不能!!ナンテさん、これは一体!?」
「サザンドラとドラパルトはどちらも育成が大変な分、育ってしまえば強力になるドラゴンポケモンです。しかし、同じ強力ドラゴンとはいえサザンドラはパワータイプ、ドラパルトはスピードタイプとまるで種族的な得意分野は違うはず…それがああもサザンドラ側が上を取って動けるというのはちと不可思議ですな…。」
「少なくとも単なるレベルの差って話でもなさそうだな。何か特別なカラクリがあるんじゃあないか?」
「かもしれません。いずれにしてもまだまだ試合は始まったばかり。これからでしょう。」
ピオニーにナンテは首肯しながら言葉を紡ぐ。
アイリスの放つオーラがサザンドラの挙動に影響を与えているのは明らかであったが、一般人には視認の叶わないそれの説明は骨が折れるのだ。
その説明こそが解説の仕事ではあるのだが、させてもらえる試合展開になるかどうかは実際に試合をする選手次第なのだ。
「あらま〜、ダンデさんがいきなりダウンもらうなんて。あのアイリスって子、イッシュチャンピオンなだけあってなかなかやるじゃあないの。」
「ぴぃかちゅ〜。」
瞬く間のドラパルトKOにカスミは胸に抱くピカチュウの顎下を撫で転がしながら呟く。3年前からここがお気に入りと知っているポイントだ。
ピカチュウもまたシンジ戦でダメージは受けているのだが、回復よりもカスミに甘えたい気分だというのでポケモンの気持ちを優先させて今はこうなっている。
「うーん…。」
「どうしたサトシ?」
「あのアイリス、なんだか似てるんだ。」
「似てる?」
タケシは改めてモニターの向こうのアイリスをジッと見つめる。
PNTTの頃にチームミーティングで見た試合記録と比べて落ち着きが出てきたのが分かる。
その静寂からくる万能感は、まるでサザンドラと心を一体化させているような…
「もしかして……リラか?」
「まだなんとなくそんな気がする、ってくらいなんだけどさ。」
サトシはゆっくり首肯する。
サトシが思い浮かべていた相手にすぐに辿りつけたのも長年一緒に旅をしてきたタケシだからこそである。
「やるなアイリス。ドラパルトがこんな早くにやられるなんて。」
率直な称賛にアイリスは笑みを見せるのみで応える。
倒れたドラパルトを戻すダンデとしてはすぐにダウンを取り返すのみである。
「頼むぞエースバーン!!」
「ばぁぁぁんッ!!」
『ストライカーポケモンエースバーン!リザードンに負けず劣らず、チャンピオンダンデの主力を担うガラル地方初心者用ポケモン最終進化系、その三巨頭のうちの一角が登場だぁ〜!!』
「リザードンやガラルの初心者ポケモンといった、トレーナーならば誰しもがどこかしらで見たことのある子たちを極限まで育て上げて運用しているのもチャンピオンダンデが絶大な人気を誇る理由なんでしょうね。自分のすぐ側にいる相棒と同じ種が頂点の舞台で活躍する姿はそれだけでルーキーには励みになりますから。」
「その辺りは俺やあの爺様からしちゃ耳が痛くなる話だぜ。」
ナンテの解説にカラカラと笑い飛ばすピオニー。といっても本人の現役時代の認識とは『元ジムリーダー』であって『元チャンピオン』ではない。故に口で言うほどチャンピオンであったことに思い入れなどはないのが本音である。
『死んだ父の理想を受け継ぎ、ガラルに1000年先まで続く繁栄を』などと嘯いてガラルリーグの委員長となり、しゃしゃり出てきた兄ローズと面を突き合わせていた時期の話などは頼まれてもしたくないからだ。
「(あの野郎は…てめえだけの理想を『親父から受け継いだもの』だとでっちあげ、自分のやりようを正当化させていたに過ぎねぇんだ。親父が願ってたことといえば、せいぜい俺たち兄弟が人並みの幸せを掴んでくれることくらいだったろうに。)」
ローズ、ピオニーの父はガラルの鉱山で働く炭鉱夫だった。朝から晩まで汗水流して働き、職場から自宅へは体を休めるために戻ってくるような生活をしていた。その中で自分たち兄弟に対しての愛情はとても深かったとピオニーは思い返す。
そんな父は兄弟がまだ幼い頃に死んだ。職場の崩落事故に遭い、仲間を守るために逃げ遅れたとのことだった。
父の葬式の折、ピオニーは母と共に声をあげて泣いた。兄は、一滴たりとも涙を流していなかった。
それが、兄弟の亀裂の始まりになった。
『父さんはガラルの未来のためにその身を犠牲にしたのだ。僕たちは父さんの理想を受け継ぎ、ガラルの未来のために生きるべきだ。』
父の死からしばらくして、ローズはこんなことを言い出した。
確かに父は良き父であり、良き夫であった。だがどこまでいっても炭鉱夫、そんな壮大なことを胸の内に秘めていたはずがない。
ピオニーからすればその宣言は、兄とは他人の愛情を受け取ることが出来ず、理解もできない人間だという最終判断となった。
ありもしない『父の理想』を引き継いだと胸を張るその姿が物の怪の類としか映らなかった。
それが、兄弟の亀裂を決定的にした。
未来を見据えた理想の為にと父の死をいいように利用し、今を生きる人やポケモンたちを省みず突き進んだ兄などはピオニーからすれば侮蔑の対象でしかなかった。
「(どこでなにをしてるか知らねぇし興味もねぇが、またなにかやらかそうってんならその時は俺が…。)」
「エースバーン、かえんボール!!」
「ばぁぁにゃ!!」
フィールドの土の中に混じる小石を左の足先で拾い上げ、軽くリフティングしてから蹴り込めば灼熱の炎が小石を包み込む。
「ざぁ〜!!」
唸りを上げる必殺シュートを前にサザンドラの右の頭がかぶりつけばその顎の力のままに炎ごと小石を砕き散らす。
「さざッ!?」
『あーーーッとエースバーン!サザンドラに肉薄!接近戦の距離だーーーッ!!』
ダンデからすればかえんボールは撒き餌。エースバーンを近付かせるための布石でしかなかった。
「とびひざげりッ!!」
「サザンドラ!!」
ガッキィィィン…!!
エースバーンの右足から放たれる膝蹴りにサザンドラは左の頭をガードで合わせる。
「ッ…!!」
刹那、アイリスの左手に強烈な痛みが走った。
エースバーンのとびひざげり、その破壊力はタイプ相性の補完としてのそれとはまるで違う得意技のそれだった。
それでも苦悶の表情を抑え込みながら口を開けば、サザンドラもまた口を開く。
「(りゅうのはどうだな!)」
サザンドラの口腔から覗く青白いエネルギーの性質を読むダンデの目は鋭い。
「エースバーン!アイアンヘッド!!」
「ばにぃぃぃん!!」
エースバーンの頭からはがねタイプの硬質化作用が全身に浸透してゆく。なんならとびひざげりをかました時から既に彼はほのおタイプではなくなっていた。
発動する技のタイプに合わせて自らのタイプが変化する特性『リベロ』によりかくとうタイプとなっており、今まさにアイアンヘッドの技タイプであるはがねへと自らのタイプを変化させたのだ。
「(釣れた!)だいもんじッ!!」
「なにッ!?」
サザンドラ本体である真ん中の頭が大きく開いた口から覗いていたエネルギーが瞬時に赤熱化。
燃え盛る炎となればブレス攻撃として至近距離から叩き込まれる。
「ば、ばにゃあ!?」
エースバーンからすれば本来ならば自身のタイプであるほのお技が痛いというのは皮肉な話であった。
ゴアアッ!!
ブレスの圧力に呑まれエースバーンの体は吹っ飛び、炎がやがて技名通り『大』の字となればそのままダンデの後方、ベンチの右側フェンスまでだいもんじは到達。
技の威力とフェンスとでサンドイッチの中身にされた形のエースバーンは完全にノビてしまっていた。
「エースバーン、戦闘不能!サザンドラの勝ち!!」
ダンデ、残りポケモン4体。
アイリス、残りポケモン6体。
ウッヒョオオオオオ!!
「サザンドラ2体抜き!!チャンピオンダンデ、最序盤から劣勢が続いております!コレはまさかの展開と言えましょう!!」
「ふむ…これは、ポケモンのレベルやトレーナーの指示とはまた違ったところからのアプローチが効いてるのではないでしょうか。」
「そいつぁまさか"絆の力"だなんて言わねェよな?」
ピオニーとしてはトレーナーとポケモンの絆と言うのは育成の中で芽生えるもの、つまりは皆大なり小なり持っていて当たり前という概念だ。
そこに関してはナンテも意見を同じくしている。ポケモンとの絆などというものは最初からある前提で、その上で勝利のために何をすべきか考えて動くのがトレーナーの役割なのだ。
「絆の力…もしかしたらそこから派生するなにかで、チャンピオンアイリスのみが辿り着いた再現性度外視の奥義、と言いますか。」
「奥義、ねぇ。」
ふむ、とピオニーは腕を組んだままフィールドをジッと見る。
理屈としては分かるが実際そのような異能力者をお目にかかったことがないのでイマイチ実感として掴みづらいというのが本音であった。
「間違いない!リラだ!あの戦い方はリラのスタイルなんだ!」
確信へと至るサトシは無意識に叫んでいた。
『リラ』
16歳。カントー地方バトルフロンティアのフロンティアブレーン。
各バトルフロンティアの象徴である『タワータイクーン』の称号を持つ天才少女であり、挑戦者としてやってきたサトシを大いに苦しめた。
ポケモンと心で気持ちを伝え合う異能を持っている。