3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 試合が始まり、周囲の一進一退な攻防になるとばかり予想していたものとは裏腹に序盤は完全にアイリスのワンサイドゲームとなっていた。
 ドラゴンポケモンと心で通じ合う様に、サトシはかつて戦ったフロンティアブレーンのことを思い出すのだった。


最終章!マスターズトーナメント セミファイナル ダンデvsアイリス③

 ポケモン歴1985年を境にチャンピオンリーグ制へと全国的に運営システムが移行してゆく前から、ポケモントレーナーたちの目指すべき場所としてポケモンリーグの存在は根強いものであった。

 そんな状態に一石を投じたのが当時ホウエン地方にて実業家として多くの富を得ていた青年エニシダだった。

 エニシダは生来ポケモンバトル好きで、暇さえあれば全国各地を飛び回り試合観戦を楽しんでいた。

 そんな中で常々、長丁場のトーナメントによる運の要素がどうにもノイズとして映り、受け入れ難いところであった。

 『ポケモントレーナーが目指すに値するリーグ以外の進路として価値があり、なおかつエキサイティングなバトルを極めるための道』…誰も知らない未開の地を開拓していく事業としてエニシダが立ち上げたのが『バトルフロンティア』の始まりであり、そのスタートラインはそんなエニシダの抱くポケモンリーグへの不満がきっかけの一部として存在していた。

 事業を展開してゆく中でオーナーとして知り合い、呼び寄せた強者たちこそがチャンピオンや四天王とは別個の実力者で、ジムリーダーでもないフロンティアの頭脳…『フロンティアブレーン』である。

 そんなフロンティアブレーンの一員として3年前、ホウエン帰りのサトシの前に立ち塞がったのがリラという少女だった。

 カントー、ジョウト、ホウエンの3つの地方でリーグ戦を経験してきて確かな実力を身に付け、ダツラ、コゴミ、ヒース、アザミと歴代最強とされている盤石の布陣を次々に打ち倒していたサトシの進撃を止めたのも彼女であった。

 ヤマブキジムのナツメのような超能力とは明確に違うポケモンたちとの以心伝心により的確にバトルを進めていくリラだけのスタイルを前に大苦戦を強いられたのだ。

 

 

 

「それだけでもなさそうだぞ。アイリスは多分、キズナ現象も今のスタイルに取り込んでいる。」

 

「アイリスは"サザンドラになってた"のか。」

 

 タケシがこうやってすぐに付け加えられるのも、今でこそポケモンドクターを目指しているものの、サトシと出会うまではリーグでも通用すると言われるほどの腕利きジムリーダーとして鳴らしていた実力があってのことだ。

 非凡であるが故にアイリスが内包する『力』の差異にも敏感だった。

 

 

「戻ってきてサザンドラ。よくやってくれたわ。」

 

 

 

『あっと、ここでチャンピオンアイリスもサザンドラを引っ込めた!次はどんなポケモンを繰り出すのか!?』

 

「以心伝心とかキズナ現象って、そんな長いこと使ってられないものでしょう?」

 

 認識としてはカスミの言は正しい。ポケモンと意識をシンクロさせるのにはトレーナーの神経に多大な負荷がかかる。

 その辺りはサトシゲッコウガを駆使するサトシとしても身に染みている話だ。

 

「でも、きっと他のドラゴンポケモンとも同じことができるはずだぜ。だってアイリスは、ドラゴンポケモンと心を通わせる力を持ってるから。」

 

 それがリラとかいう少女の持つものやサトシの扱うキズナ現象とはまた別の力であると解釈すれば、カスミもタケシもその意図するところに絶句した。

 アイリスは理論上、ドラゴンタイプでさえあればダンデすら上回るレスポンスを常に叩き出せるというのだから…。

 

 

 

 ダンデとアイリスが再度ボールを同時に投げ込んでゆく。

 

「今度はこいつだ!頼むぜバリコオル!!」

 

「お願いセグレイブ!力を貸して!!」

 

「ばりばりぃんッ。」

 

「ぐるぇぇぇいッ!!」

 

 ステッキ片手に軽やかにフィールドへ降り立つバリコオルに対し、セグレイブは雄叫びとともに重量感たっぷりに大地に立つ。

 そこへアイリスは意識を飛ばし、セグレイブと1つになる感覚を得た。

 

「(ようやく完成した"この力"であたしは絶対に勝つ!そしてみんなとワールドチャンピオンになるんだから!!)」

 

「(力を貸すよアイリス!僕たちはきみのためならなんだって!!)」

 

 力強いセグレイブの声に、アイリスは微笑みを返した。

 

 

 

 アイリスが自身の力そのものと本格的に向き合うようになったのは3年前、デコロラ諸島を経由してカントーへの帰省を果たしたサトシや一緒についてきていたデントと別れ、道中知り合ったジムリーダーイブキを頼りにジョウト地方へと赴いた後のことであった。

 フスベジムを後にし、次の目的地をどこにするかと決めるところでたまたま出会ったのがバトルフロンティアのオーナーエニシダだった。

 

『せっかくここまできて、バトルまでしてくれたのに言えることといえば月並みなことで申し訳ないけれど…きみの持つ力はこれからきみ自身の歩みと共に体と心に馴染んでくると思う。ボクがそうだったようにね。』

 

 エニシダの紹介で向かったバトルタワーでのリラとの関わりはアイリスに大きなインスピレーションを与えてくれた。それとだいたい同じ頃だった。サトシがゲッコウガとともにキズナ現象なる力をモノにしたことを聞いたのは。

 そこからサトシとは入れ違いの形でアイリスはカロスに飛んだのだ。目的としては四天王とカロスの竜の里の重鎮を兼ねるドラゴンエキスパートのドラセナを訪ねるためだった。

 竜の里ネットワークを介してイブキがドラセナにアイリスのことを事前に紹介してくれていたのもスムーズな受け入れに繋がった。

 

 

「仕掛けるぞバリコオル!!」

 

「ばぁりッしゅ!」

 

ガキィーン…!

 

 バリコオルが杖でコツン、とその場を小突けば瞬く間にフィールド全体が凍結化してゆく。

 

「氷河時代(アイスエイジ)…!」

 

 開幕戦でも見せていた戦法だがセグレイブと意識を繋げているアイリスはビクともしない。

 一度見た技である以上にドラゴンポケモンとのシンクロ状態による多幸感と万能感の前ではバリコオルの脅威などは霞んで見えていた。

 

「こおりのつぶて!!」

 

「(おりああッ)!!」

 

 相手からわざわざ氷のフィールドにしてくれたのは好都合、とばかりにセグレイブは足元を殴りつけ、浮き上がる凍結した地面を弾丸として発射する。

 

「そうはいかないぜ!サイコフィールド展開!!」

 

「ばばばば、ばりっぷりん!」

 

 バリコオルのお腹に浮かび上がっている人相、その黄色い両目が発光すればバトルフィールドを覆うように紫色の空間が広がってゆく。

 すると放たれていたこおりのつぶては標的の身を打つ前にボトボトと力を失い落ちていったではないか。

 

 

 

「サイコフィールド下ではでんこうせっかやしんそくのようなスピード自慢の先制技が封じられます。チャンピオンアイリスとしてはこおりのつぶてはどちらかといえば後々の攻め手に繋げる意味合いを込めて撃ったくらいだとは思いますが、それを見てから素早く展開まで持っていき無効化出来るのはやはりチャンピオンダンデのテクニックでしょう。」

 

「フリーズドライの応用こそはセグレイブにも恩恵あったがサイコフィールドに関しちゃ完全にバリコオルにだけ有利に働く。さりとて氷のフィールドに対処できるドラゴンなんざそれこそセグレイブくらいのもんだろうしな。」

 

 この盤面からセグレイブを突破できればダンデはバリコオルを起点としてアイリス自慢のドラゴン軍団を相手に優位に立ち回れる…ここが前半の山場であるとナンテとピオニーは意見を同じくしていた。

 

 

 

「よーし!いけバリコオル!!」

 

「ついー、ついー、ついー…。」

 

 杖を後ろ手に持ちながらバリコオルは氷上を滑走する。さながらスケートを楽しむ紳士のそれだ。

 

 

 

「いいぞ!兄貴のバリコオルはガラル1のスケート名人だからな!!」

 

 氷のフィールドで本領を発揮するバリコオルにベンチでホップが興奮しながら飛び跳ね、屋根に頭をぶつけて悶絶する。

 ソニアはトレーナー時代、ダンデと2人でワイルドエリアを散策していた時に巨人の鏡池が冬場の寒さで凍りついていた際にスケート遊びに興じ、気付けばダンデが姿を消していたのでもうその時点で両の指でも数えきれない遭難数に新たに1回重ねることになった昔を思い出し苦笑いしていた。

 

 

 

「「りゅうのいぶきッ!!(りゅうのいぶきッ!!)」」

 

ブィシュウウウウウッ!!

 

 その巧みなスケートさばきに対するアイリスの回答は氷上を丸ごと狙うブレス攻撃であった。

 命中するならいうことなし、回避するならばその先を狙う二段構えだ。

 

「3Aだ!!一気に近付けバリコオル!!」

 

「いとうッ!!」

 

ババァッ!!

 

「なッ!?」

 

ギュルルルゥッ!!

 

 

 

「あーーーッとバリコオル!前向きの姿勢から左足で踏み切って跳び上がり、りゅうのいぶきを飛び越え、そのまま空中で3回転しながらセグレイブへ接近ーーーッ!!」

 

「いえ、3回転じゃありません!3回転半です!!トリプルアクセルの応用…いや、むしろコレが本来の形に近いか…?」

 

 

 

「よーし!今こそ蹴りを喰らわせてやるんだ!!」

 

「とーーーにゃッ!!」

 

バッチィィィッ!

 

 3回転半ジャンプの勢いを利用したバリコオル横薙ぎの右足をセグレイブは左腕でガードする。

 

「あ゛ぅ゛ッ…!」

 

 強烈な痛みがまたも左腕に走る。この段階でアイリスは、自らが完成させた『奥義』の決定的な欠陥をハッキリと認識する。

 だからといって封印とかそういう根本的な判断を試合の中で下すつもりはなかった。

 

「(3発目の蹴りが来ない!?)」

 

 セグレイブの疑念がアイリスの脳裏に言葉として響く。

 バリコオルはトリプルアクセル3発目の蹴りをフェイクに使い、右手に持つステッキを振りかぶった。

 

「ワイドフォースッ!!」

 

「まおぉッ!!」

 

バシィィィッ!!

 

 サイコパワーを纏った氷のステッキをセグレイブの左首筋から肩まで続くなだらかなボディライン目掛けて叩き付けた。

 

「ぐ、ぅッ…!!」

 

「どうだッ!!」

 

 セグレイブを通してアイリスの左首筋にもダメージが反映された分痛覚が走る。それをダンデは自分たちの攻め手が通じていると誤認した。

 痛みで視界がチカチカする中、アイリスはそこに飛び付いた。

 

「かみくだく攻撃!!」

 

「せぐあッ!!」

 

ガッブゥッ!!

 

「ば、ッりぃ〜!」

 

『あーーーッとセグレイブ!バリコオルの左腕にかぶりついたーッ!!効果は抜群だーッ!!』

 

 そのままかぶりつくバリコオルを振り回してセグレイブは投げ飛ばす。

 

「バリコオルッ!!」

 

 抜群ダメージを受けながらも空中で体勢を立て直し着地に成功するバリコオルだった。

 が、そこにすかさずセグレイブは相手に背ビレを向けた形で逆さになり、凍り付いている頭でスケートのブレード代わりに滑り込んで来ていた。

 

「「きょけんとつげきッ!!(きょけんとつげきッ!!)」」

 

 セグレイブの頭はブレード代わりのみならず、冷気のブレスを推進剤として自らの肉弾突撃にさらなる勢いを追加。

 それがバリコオルの反応を上回る一助となった。

 

バッコオオオン!!

 

「きむよなぁ〜ッ!?」

 

 セグレイブの背ビレからの突撃をモロにたたきこまれたバリコオルは撥ね飛ばされた形で宙へ舞い上がり、背中から落着。

 仰向けに倒れる頭部は目を瞑り、お腹の人相が目をぐるぐるに回していた。

 

「バリコオル、戦闘不能!セグレイブの勝ち!!チャンピオンダンデの残りポケモンが3体となったので両選手、今から10分間のクーリングタイムに入ってください!!」

 

 

 

ダンデ、残りポケモン3体。

 

アイリス、残りポケモン6体。

 

 

 

「よくやったわセグレイブ。戻って。」

 

「ぐぅれぃとぅ。」

 

 アイリスはセグレイブをボールに戻しベンチへと引き上げる。左腕の激痛は続いているが、こんなものは勝利のためならば問題ではない。

 道中ネクストサークル内に設置されたボールケースに出場登録を済ませた6体のボールを置いてはそこでふぅ、と一息ついた。

 

「アイリスちゃん。はい、コレ。」

 

「ん、ありがとベル。」

 

 ベルが手渡してくる0.75Lの一般的なジュースボトルの中身はありふれたスポーツドリンク。

 それを受け取ろうと差し出したアイリスの左手、その5本指が動くことはなくボトルを素通り。

 

「あっ…。」

 

ボトトトォッ…

 

 飲み口を開けた状態で手渡されていたために落ちたところで中身が溢れ出る。

 ベルは、アイリスの顔が異常なまでに発汗しているのが見えた。『奥義』がアイリスの体力をごっそり削り取っていたのは明らかであった。

 

 

 




 PWCS準決勝第2試合(前半戦ハイライト)
 ダンデvsアイリス
 フルバトル

 ダンデ     アイリス
 ドラパルト● サザンドラ◯
 エースバーン● サザンドラ◯
         →セグレイブ
 バリコオル● セグレイブ◯
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