3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 『竜交信(ドラゴニック・コンタクト)』…ドラゴン使いの到達すべき奥義を得たアイリスだが、その肉体はすでに限界ギリギリであった。
 対するダンデは、勝利への執念からアイリスの奥義の弱点を突く非情の一手を打つよりなかった。


最終章!マスターズトーナメント セミファイナル ダンデvsアイリス⑤

「もう1発だ!!リザードン!!」

 

「ぐ、る゛う゛う゛う゛…!!」

 

 

 

「ダイドラグーンではない…!?」

 

 ダンデの指示にリザードンは再度炎翼から火の鳥を生成してゆく。

 キョダイゴクエンの連打、その意図するところは放送席のナンテにはイマイチ掴めない。ほのおタイプの技がドラゴンタイプに効果今ひとつなどというのはこのバトルの頂点を決める舞台においてはあまりにもナンセンスな指摘だ。

 フィールド全体にダメージ蓄積のための獄炎空間を作り出し、アイリス側に継続的な圧力をかけてゆく目的だというならば1発目には理論的な説明をつけることが出来る。

 が、2発目以降となると、どうしてもダメージ効率の面においてダンデのリザードンならば習得しているであろうりゅうのはどうをベースとしたダイドラグーンで効果抜群を狙う方がどう考えてもいいのだ。

 

「ダン坊に限って無策、ノープランってこともねェとは思うが…。」

 

 今から18年前、チャンピオンマッチの舞台にやって来た少年時代のダンデの姿がピオニーの脳裏にフラッシュバックする。

 髭を蓄える前のあどけなさを残した少年のあの時と変わらぬ金色の瞳が放つ輝きの裏に、勝つためならばと非情な一手に走る獄炎とは正反対な底知れぬ『冷たさ』が垣間見えたのは、ポケモントレーナーとしては正しい成長だと思えた。

 

 

 

「キョダイゴクエン!!!」

 

 ダンデのシャウトと共に2羽目の火の鳥が飛び立つ。

 襲い掛かる火の鳥を前にヌメルゴンのアクションは変わらない。ガッチリガードを固めてやり過ごすのみだ。

 

チュドドオオオオオオオン!!!

 

『2発目のキョダイゴクエンがヒットーッ!!』

 

「うッ、ぐううッ…!」

 

「(無理するなご主人!リンクを切ってくれればいい!!)」

 

「言ったでしょ?キツイ1撃を受けて1番辛いのは直接くらってるあなたたちだって…!」

 

 チャンピオンとして臨むことになるバトルにおいての目まぐるしい環境変化に対応すべく、通気性に関しても最高級の品質を備えたのがアルティメット・ドレスだ。

 しかし、キョダイマックスによりリザードンのほのおエネルギーが活性化し、摂氏2000度に到達するとされる熱の暴力の前では到底暑さを逃し切れるはずもなかった。

 それでなくとも全身が焼け爛れるかのような感覚はヌメルゴンを通して体の内側から絶えずアイリスの精神へ打撃を与え続けている。

 ここにおいて装束などは全身から噴き出る汗を吸い取り、褐色の肢体を押し隠すというおおよそ衣服としての最低限の役割しか果たせてはいなかった。

 

「火の手が弱まった…ヌメルゴン!りゅうのはどう!!」

 

「(ご主人…了解ッ!)」

 

 

 

 側から見れば流れとしてはリプレイに近い光景…キョダイゴクエンの火の鳥がヌメルゴンに命中し、火柱となってエネルギー爆発を起こす。

 

ゴアアアアアアアッ!!

 

「ぐッ゛る゛ッ゛!?」

 

 ヌメルゴンの反撃は、今度はそのモヤを消し飛ばしながら放たれる波動ブレスであるのがその差異だった。

 

「リザードンッ!!」

 

 フワリ、りゅうのはどうをお腹に当てられたリザードンはあえてノックバックの形で巨体を空中へ浮き上がらせる。

 相手の技の勢いに程よく乗って見せることでそのダメージを殺すダンデ流のテクニックだ。

 

 

 

「2発目のキョダイゴクエンもしっかり絶え抜いたヌメルゴンは反撃のりゅうのはどう!!キョダイリザードンはこれを上手く受け流しています!!」

 

「逆に言えば"受け流さなければ不味い"とも考えることはできますな。」

 

「あぁ。大したもんだぜあのお嬢ちゃん。完全にダン坊を必死こかせてやがる。」

 

 本気にさせた、と言うだけならば自分でもそうだったし、他にいくらでもいる話だと付け加える。ピオニーはふと思い出していた。

 圧倒され、押し付けられた不利盤面をひっくり返そうとする中にもバトルへの『楽しさ』を見出すのを忘れていないのがダンデという男であることを。

 それがどうだ?こうまで焦燥に満ち、どこか後ろめたさすら内包した顔を見るのは流石に初めてのことであった。

 

 

 

「2発じゃあまだ駄目か…ならば…!」

 

 金色の瞳が暗く輝く。ここまで来れば呵責の念などは、自分を信じて戦ってくれているリザードンに対して申し訳が立たない。

 

「"3発目"しかないよなぁぁぁッ!!!」

 

 一縷の望みをかけての一手に最後まで拘るよりなかった。

 『勝負の鬼』として、薄氷の上にある勝利を狙うよりないのだ。

 

「ぐぅ゛ぅ゛ぅ゛る゛る゛る゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛…!!」

 

シュッボォッ…!!

 

 

 

「あっとまたまた火の鳥!!チャンピオンダンデ!キョダイゴクエン3連発です!!」

 

「開幕戦ではチャンピオンアイリスのヌメルゴンの粘液を駆使した戦法を見てますからね。その辺りの警戒でしょうか?」

 

「見てくれだけはニクイ演出しやがるぜ。俺が来るのは教えてないはずなんだが。」

 

 18年前のチャンピオンマッチ、その勝敗を決めたのもまた自身のエースであるどうぞうポケモンダイオウドウへのキョダイゴクエン3連発だったとピオニーは語る。

 しかしその表情から、今フィールドにて苦闘している真っ最中のダンデが安っぽいパフォーマンスに走っているようにはどうにも考えられなかった。

 

 

 

「もしかしてダンデさんは、直接アイリスを狙ってるのかも…!」

 

 モニターを観ながらのサトシの呟きにカスミはギョッとするも、理屈としてはすぐにその意味に辿り着き、有用性にも思い至った。

 先程サトシとタケシから聞いたリラなるフロンティアブレーンの異能や、サトシゲッコウガの発現たるキズナ現象によりポケモンとトレーナーが意識をシンクロさせるというならば、そこからフィードバックしてゆく苦痛を過多にしてゆくことでトレーナー側をダウンさせようというのだ。

 

「それって"直接攻撃(ダイレクトアタック)"にならないの?」

 

 ポケモンバトルという競技において、トレーナーサークルへの故意が絡んだ攻撃行為は『直接攻撃』としてチャンピオンリーグ制がカントーで初めて施行された1985年に同時に広められた公式ルールにて固く禁止されている。

 あくまで公式試合のみに適用され、野試合では原則守られるべきという範囲内の話でしかなく、それ以前に育成を施す前段階としてポケモントレーナーには強靭な肉体と正確な危機回避能力が備わっているのが大前提ではあるのだが。

 

「ジャッジとして取られることは多分ないだろう。ダンデさんのリザードンはあくまでヌメルゴンに対して攻撃を繰り返してるに過ぎないわけだからな。」

 

「あー、そっか…。」

 

 タケシの説明にカスミは頷くよりなかった。

 ポケモンとのシンクロ技術はあくまでトレーナー自身の技術研鑽によるものであり、再現性の低い『奥義』に対してルールを定める側が動くというのは考えづらいのだ。

 

 

 

「おい、アイリスたん…なんかおかしくねーか?」

 

「大丈夫なのかアレ!?」

 

 竜交信によるダメージフィードバック、その外面的な異常はついに客席からもはっきり視認できるほどに深刻化していた。

 発汗は止まらず、ついには吸収量の限界を超えたアルティメット・ドレスの末端部分からもポタポタと汗が流れ落ち、アイリスを中心としてトレーナーサークルの表土が濡れ広がっていた。全身からは湯気が立ち、表情は半目で舌が突き出ている…

 

「(もう無理だご主人!これ以上は危険だ!交信を切ってくれ!!)」

 

 ヌメルゴンからの嘆願はアイリスには届かない。

 キョダイゴクエンのダメージに加え、焦熱地獄の熱がトリップ状態へと追い込んでいた。

 リザードンが生成する3体目の火の鳥を前に、その口元にはうっすら笑みが浮かぶ…

 

「ッ…!!いけぇリザードン!!!キョダイゴクエン!!!!」

 

 少女の虚ろな瞳と、僅か吊り上がる口元にダンデは畏怖を覚えた。その笑みの意図するところがまるで分からないからだ。

 キョダイマックスという切り札をヌメルゴン1体で捌き切り、より優位を盤石にしたことに対してか?ドラゴンポケモンとシンクロしている自身への全能感からか?

 『分からないこと』から来る恐怖を振り払うようにダンデは技の指示を叫んでいた。

 

「ぐる゛う゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛ッ!!!!」

 

 ダンデのそれに対してリザードンの感じる恐怖とは、もっとシンプルに形容されるものだった。

 自分よりずっと大きな竜の舌の上に立たされ、今にも食べられそうだという原始的な感覚…程度は違えどバトルの中で体を強張らせる恐怖に呑まれず全力で技を放つ辺りは主人にそっくりであった。

 

チュドドドオオオオオオオオオオン!!!!

 

 3羽目の火の鳥がヌメルゴンを火柱の中へと叩き込む。

 延焼する獄炎は、フィールドにいるダンデやダンペー審判にも季節を忘れさせた。

 

『キョダイゴクエン3連発が決まったーーーッ!!ヌメルゴンはどうか!?耐えたのかーーーッ!?』

 

 キョダイマックスの限界時間が来てはリザードンは元の大きさ、元のフォルムへと戻ってゆく。

 毒状態による継続ダメージから表情は芳しくない。

 

「ぬめぇ!!」

 

「ぐるぅ!?」

 

 モヤの向こう側から姿を見せるヌメルゴンは、健在だった。

 

『た、耐えたーーーッ!!ヌメルゴン耐え切りました!!チャンピオンダンデのキョダイマックスタイムを、その身1つで乗り切ったーーーッ!!』

 

「(あ、ありえない…!!)」

 

 元よりタイプ相性としては効果は今ひとつ。そこは仕方ないと割り切ってるのがダンデだ。

 だが、その身はもちろん、精神を焼き尽くされたはずのアイリスが依然として立ったままであるのは驚愕としか言いようがなかった。

 全身から湯気が沸き立ちながらも健在な姿は、意図的にアイリスを狙った作戦が徒労に終わったことへの絶望がダンデの全身に滝のような汗を流させ、背筋を冷やす。

 

「ヌメルゴン…戻ってきて…、オノノクスッ!」

 

 リザードンと睨み合いの形のヌメルゴンをアイリスはボールへと戻す。交代先のポケモンを繰り出す右腕の動きに釣られ、全身がよろめく。

 

「おんのぁぁぁぁぁッ!!」

 

 ヌメルゴンに代わりリザードンと対峙するはアイリスのエースたるオノノクス。

 この対面もまた、開幕戦の再現であった。

 

「ぐ、ぐるぉう…!」

 

 リザードンは、無意識のうちに右足を僅か後方に下げていた。

 得意の退き撃ち先方のために距離を取るのではない。対峙するオノノクスが、実態よりもはるかに巨大に見えていた。

 無論、ダイマックスなどはしていない。

 

「(く、くそぉ…!)」

 

 ダンデは既に万策尽きていた。リンク越しにアイリスをダウンさせられないというならば、もはや真っ向勝負での勝ち目などは絶無であるからだ。

 

「(や、やられる…!!)」

 

 ダンデは唇の震えが止まらない。昇り盛りの竜姫の才覚が、今まさに無敵の男の自尊心を粉々に打ち砕いていた。

 

 

 

「キョダイマックスが終了したところのリザードンにチャンピオンアイリス、すかさずオノノクスを投入!チャンピオンダンデはエース対決に応じるか、それともリザードンを下げるか!?」

 

「どちらにしてもチャンピオンアイリスからすれば関係なく、最善の択を取るだけの話、みたいですね。というか、大丈夫なのか?アレ…?」

 

 テラスタルオーブを取り出すアイリスの状態がおかしいというのにナンテも気付く。

 ここにきてようやくサトシゲッコウガのようなシンクロ技術による影響があったのか、そう思い立っていた。

 

 

 

 吐息の音が脳内でガンガンと響く。ボヤけた視界はテラスタルオーブの放つ眩い輝きに関わらずチカチカと細かな暗転を繰り返している。

 それでもアイリスの意識はバトルに向いてクリアだった。

 手負いのリザードンを倒せれば言うことなし…退くならば数的有利をさらに広げればよし。

 

「オノノクス…あたし達で、掴も。輝ける、ドラゴンマスターへの道筋を…!」

 

 テラスタル、そう発さんとするも喉が空回る。

 刹那、視界がおかしな角度で情景を映し出していた。フェンスからなにからが不自然に傾いて見えた。

 

「(あれ…なんでみんな…横向きになってるの…?体、動かな、い…。)」

 

 混濁し、暗転してゆく意識の中でアイリスは左頬に触れる土の感触を得ることも、自分が倒れたことにすら気づくことはなかった。

 

「(アイリス!?)」

 

 テラスタルの結晶が全身を包み込むことがなく、アイリスの意識がシンクロしてくることもない。

 振り返った背後では、テラスタルオーブを手先から力無く溢れ落ち、うつ伏せに倒れている主人の姿…。

 オノノクスは慌てて駆け寄り、叫ぶしか出来なかった。

 

「(アイリス!返事をしてよ!!アイリスーーーッ!!)」

 

 

 




 『竜交信(ドラゴニック・コンタクト)』
 ドラゴン使いの究極奥義。アイリスが自らのドラゴンポケモンとの対話能力とリラの伝心能力、そしてサトシゲッコウガを参考にしたのを1つにまとめあげたフルシンクロ術。
 ドラゴンポケモンでさえあればレスポンスを飛躍的に高めることが可能で常に先手を取り続けることが可能だが、反面ポケモンが受けるダメージはアイリス自身にも浸透する。
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