3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 ダンデとアイリスの再戦は、互いにとって不完全燃焼の形に終わってしまった。それでも時間は止まることも、遡ることもない。
 1000年に1度、ミレニアム・ワールドチャンピオンの座はサトシとダンデで争うことに決まった以上揺らぎはしないのだから。


最終章!マスターズトーナメント 決勝前の幕間 サトシとセレナ、遊園地デート!?

「ズルッグ!きあいだま!!」

 

「るッぐぅッ!!」

 

「グレッグル、どくづきで薙ぎ払うんだ!」

 

「むーん…!」

 

 翌日、朝食を済ませたサトシはホテル備え付けのバトルコートでトレーニングに勤しんでいた。

 ポケモンのレベルアップというよりは実戦感覚を風化させないためという意味合いが強い。

 

ズドォン!!

 

 サトシのだっぴポケモンズルッグが両手から構えて放つかくとうタイプのエネルギーボールをタケシのグレッグルが右手刀による横一閃。

 綺麗に裂かれたきあいだまの爆発を縫うように影が飛びかかる。

 

「ぬぅッ!グレッグル、かわらわり!!」

 

「とびひざげりだぁッ!!」

 

「るぅぅぅッぐ!!」

 

ガッキィィィン!!

 

 ズルッグの左膝とグレッグルの左手がぶつかり合い、かくとうエネルギーがスパークする。ほどなく反発作用によりズルッグは身を翻して着地。

 バトル開始の時と同じ、グレッグルと睨み合いの形になった。

 

「やるなぁタケシ!全然腕落ちてないじゃん!」

 

「そりゃどうも。と言ってもこっちはコレでいっぱいいっぱいなんだがな。」

 

 3年前と変わらぬグレッグルの技の冴えにサトシはタケシへの称賛を惜しまない。

 対するタケシとしてはこうしてやり合ってるサトシがまだまだギアを上げていないことはよく分かっていた。

 それでも何やら用があるから、とカスミが出かけた以上トレーニング相手は自分しかいないのだ。

 

「るぅッぐッぐ〜!!」

 

 そんな時だった。睨み合いに興が入り、互いに顔面を擦り付ける形でガンを飛ばしまくっていたズルッグとグレッグル。

 そのズルッグの全身が眩い光に包まれた。

 

「ぴかぁ!?」

 

「こ、これはまさか!」

 

「進化だ…!」

 

 程なくして全身からの光が収まれば、ズルッグは体が大きくなり、真っ赤なモヒカン頭が映えるヤンキー風の姿を得ていた。

 

「ずるッきぃ!」

 

「ズルッグが、ズルズキンに進化した!」

 

「やったなズルズキン!!」

 

 思わずサトシはトレーナーサークルから飛び出しズルズキンを抱き上げる。

 イッシュ時代、育て屋のキクヨから譲り受けたタマゴから愛情深く育て上げてきた子の進化だ。万感の思いが笑顔に滲んでいた。

 当のズルズキンはと言うと、少し恥ずかしいような表情を見せながらもサトシのハグを拒むことはなかった。

 こちらも誕生からずっとの付き合いだ。言葉通りサトシこそが彼にとってかけがえのない親なのだ。

 

「あら。もうバトルおしまい?ならちょうどよかった。」

 

 呑気な声と共にバトルコートにやってきたカスミの後ろにはサトシにとっては見知った2人…。

 

「ハルカ!セレナ!」

 

「おはようサトシ!準決勝凄かったわよ!流石サトシカモ!」

 

「決勝進出おめでとう!…いや、そうじゃないよね。なんたってサトシが目指すのは、優勝だけだもの。」

 

「あぁ!!」

 

「きみは確か、ミクリさんの姪のルチアさんとコンビを組んでる…?」

 

「は、はい!"KiraKira⭐︎DreamDream(キラキラ⭐︎ドリドリ)"のセレナです!」

 

 初対面のタケシにセレナが頭を下げる。カスミが話すにはこうだった。

 ホテルに着いて部屋で一息ついたところでハルカからポケラインで連絡が来た。そこからセレナを伴ってサトシのところに顔を出すというで出迎えに向かっていたのだ。

 

「あれ?ルチアは?」

 

「部屋で寝てる。昨日営業で物凄くハッスルしてたから。」

 

 ルチアとセレナの2人からなるパフォーマーユニット『KiraKira⭐︎DreamDream』はコンテストライブ普及の為にホウエン地方を飛び出しその活動範囲を全国へと広げていた。

 ルチアにとってライブのパイオニアとなるために全国展開は必要不可欠であり、決断を渋るプロデューサーを飛び越し、事務所の社長へ直談判というギャンブルに勝ち抜いたが故のものであるのはまた別の話だ。

 

「ハルカも年明けまではオフで、ワイルドエリアに新しい子ゲットしに来てるんだったわよね。」

 

「え、あぁ、うん!そうカモー…。」

 

 事前に話してあった経緯を言われハルカはどこか照れ臭そうに肯定する。

 『熱でもあるのか?』そう思いながらハルカを見るサトシの横顔にカスミは続けた。

 

「そうだサトシ!アンタこの町何回も来てるから詳しいでしょ?セレナのこと案内してあげなさいよ。この娘も今日オフで暇なんだって。」

 

「えぇー?俺?」

 

 とんでもない!と顔を真っ赤にするセレナにサトシが気付くことはない。

 サトシとしてはセレナの暇潰しに付き合うこと自体には何の抵抗もない。ただ、シュートシティに関しては確かに何回も足を運んではいるがそれらはあくまでバトルのために過ぎず、観光スポットなどはろくに把握していないのだ。

 

「だだだ、大丈夫だよサトシ!私、別にちょっとサトシの顔見に来ただけだし、そろそろ帰って次の営業の準備しなきゃだし…!」

 

「ほら!いいから行く!!」

 

ゲシ!

 

 回り込んだカスミがサトシの背中を派手に蹴飛ばす。

 

「痛ッた!!」

 

 蹴飛ばされた勢いでサトシはセレナの隣に立たされれば互いに顔を見合わせる。

 真っ赤な顔を堪らず逸らすセレナに首を傾げながらも、サトシとしてはカスミの勢いに観念せざるを得なかった。ここでカスミ相手にゴネたところで得などは一切ないと3年間の付き合いから分かり切っていたからだ。

 ピカチュウですらカスミの味方をするに決まってるのだ。

 

「ったく…いくぞピカチュウ。ほら、セレナも。」

 

「ぴっかちゅ。」

 

「え、あ、あぁっ…!」

 

 サトシがセレナの手を握りバトルコートを出てゆく。

 次いで慣れぬ操作でスマホロトムを駆使してタクシーを呼び付けているようだった。

 

「なぁカスミ。流石に今のは無茶苦茶だったんじゃ…。」

 

「コレでよかったんでしょ?ハルカ?」

 

「ありがと、カスミ。」

 

 サトシが都会に対してやんわりとアレルギーに近いものを持ち始めているという、PNTTの時にククイ博士から聞かされているが故の自身の懸念を無視してハルカに確認するカスミにタケシは事情を察した。

 コレは、恋の話なのだ。

 

「じゃああたしたちも行くわよ。」

 

「どこにだ?まさか、サトシたちを尾ける気じゃ…。」

 

「そこまであいつに春が来るのかどうか見届ける義理はあたしたちにはないでしょ。ワイルドエリアよ、ワイルドエリア。ハルカ、アンタ確かカジッチュゲットしたいんだったわよね?シュウって子がくれたのよりすンごいやつ。」

 

「えぇ!?うん、そうだけど…いいの?」

 

「サトシがいなくなったからあたしたちも暇だし。いいでしょタケシ?」

 

「そうだな。せっかくだし付き合うぞハルカ。」

 

「わぁ〜!助かるカモ〜!!ありがとうカスミ!タケシ!」

 

 思わぬ助け舟にハルカは飛び上がり、豊かな胸の膨らみも暴れる。

 サトシとセレナを見送った3人も空飛ぶタクシーを呼び付けワイルドエリアに向かうのだった。

 

 

 

ギュルルルルルゥゥゥ!!

 

「ぴぃーか!ぴかっちゅう〜!!」

 

「まっ、まっ、ふぉぉ!」

 

「ハハッ!楽しそうだなあいつら。」

 

「フフッ!そうだね。」

 

 なし崩し的にセレナを連れ出したはいいが行き場所に困り果てたサトシは、呼び付けたタクシーの運転手によさげなスポットを聞き、選ばれたのが去年新しく建設された遊園地であった。

 全てのアトラクションにある程度はポケモンが乗れるよう調整が施されており、トレーナーがポケモンと一緒に楽しめる、をモットーに運営しているらしい。

 ベンチに腰掛けるサトシとセレナの視線の先には、コーヒーカップを夢中になって回しているピカチュウとマフォクシーがいた。

 

「ありがとねサトシ?急に押しかけただけじゃなくてここの払いまでしてもらっちゃって…。」

 

「いいんだよコレくらい。こういうことあんまり人に話すなってママに言われてるけど俺、お金ならたくさんあるみたいだしさ。」

 

 この遊園地の経営にもマクロコスモスが一枚噛んでおり、スポンサー契約を結んでいるサトシには通年パスが支給されていた。

 入園の際に発生した出費はセレナの分のみであり、それもサトシが気前よく支払っている。

 

「ん?どうした?」

 

「あっ、ええと…!」

 

 セレナの眼差しにサトシが問いかける。恋する少女から見ての憧れの人、その浅黒い肌に茶色い虹彩はあの日のままだ。

 3年の月日が全体像そのものをスケールアップさせている様に、セレナは自分の視線がこれまで以上にサトシを追っているのが分かって気恥ずかしくなった。

 

「あの、カスミさんとタケシさん…だっけ。ハルカもだけど、あの人たちと一緒のサトシって、私やシトロンにユリーカと一緒だった時のサトシとは色々違うんだなぁ、なんて。」

 

「そうかなぁ?俺は俺だぜ?」

 

「それはそう、なんだけど…やっぱり、ちょっと違うよ。カロスにいた頃のサトシは、カッコよかった、けど…あの人たちの間に挟まってたサトシには、その…私たちと旅してたサトシにはなかった、なんていうのかな?"柔らかさ"…?みたいのがあるっていうか。」

 

「フーン。」

 

 セレナが最もよく知るカロス時代のサトシとは、常に自分たちの前を走る大胆かつ勇敢な少年であった。

 ただ、その振る舞いの端々には精神的な『硬さ』が散見されたように思える。それらが積もり積もった結果としてサマースクール中に足を挫いたり、体調不良を起こして高熱にうなされるような憂き目にサトシは遭っていたのではないか…もとよりそう考えていたセレナの私見は、カスミとタケシの2人とサトシとの空気感が助長する形になっていた。

 当のサトシとしてはよく分かんない、と曖昧に返すのみである。

 

「にしてもカスミのやつ、思いっきり蹴りやがって。まだ背中がジンジンしてるぜ。」

 

「アハハ…でも、サトシに酷いことしたのは私も同じだし。」

 

「なんのこと?」

 

「エイセツシティ。」

 

「あぁ。」

 

 そこにはピンと来たのかサトシの両目が昔を懐かしむように細まった。

 

 

 

『私の知ってるサトシは、いつも元気でみんなを引っ張って、一生懸命で、ポジティブで…最後まで絶対にあきらめない!だから私は!私はッ!』

 

 投げ付けられる雪玉がサトシの体を仰け反らせ、足が丸太にもつれて倒れ込む。

 顔面で砕け散る雪玉の冷気に、反論を挟む余地すらなかった。

 

『今のサトシなんて、ちっともサトシじゃない!』

 

 そう吐き捨ててセレナは走り去ってゆく。

 雪の積もった森の中で仰向けのままのサトシはしばらく起き上がれなかった。キズナ現象から端を発したゲッコウガとのすれ違い…そこからのジム戦での躓き…。

 行き詰まり、たった1人で飛び出して、たった1人で抱え込んでどうにもならない堂々巡りに喘ぐばかりの自分は確かに『らしくない』と思わされていた。

 

 

 

「セレナがああ言ってくれなかったら俺、あそこでずっと立ち止まってたままかもしれないんだぜ?酷いだなんて思ってないよ。」

 

「ううん、違うよ。あの時の私の中には"私の中の最高のサトシ"があって、いつもそうあって欲しいって思ってた。でもそれは私の勝手な押し付けでしかなかったの。サトシだって苦しい時は悩むし、辛い時には起き上がれない時だってある。そうでしょ?そこを私は理解してあげられなかったから…。」

 

「セレナ…。」

 

 暫しの沈黙の中を真冬の冷風が吹き抜ける。そこから口を開くのはサトシだった。

 

「でも俺はやっぱり感謝してるよ。ありがとうな、セレナ。」

 

 サトシのひと言に天にも昇る気持ちになる。だが、ここで舞い上がってはいけない。

 緩みそうになる表情筋に力を入れてセレナは頷いてから言葉を紡ぎ出す。

 

「私…来年から本場のコンテストにも復帰しようと思ってるんだ。ルチアとのコンビも続けながらだけどね。」

 

「いよいよリベンジだな。」

 

「うん。ハルカも来年ミクリカップとグランドフェスティバルに照準合わせて再始動するみたいだから、上手くいったらぶつかるかも。」

 

「ハルカも強いからな。でもセレナならやれるさ!」

 

「ありがと!…ここからはまだ誰にも話してないんだけどね?…コンテストで上手くいったら、カロスに戻るんだ。そしてエルさんとホントの決着をつけるの。」

 

「トライポカロンにも再挑戦だな。確かユリーカもそのうち参加するんだっけ?」

 

 笑みと共にセレナは頷く。

 女の子が誰にも明かしていない胸の内を明かす…そんな相手が女の子にとってどういう存在かと理解する性質をサトシが持ち合わせていないことは3年前から知っていた。

 気付いて欲しい気持ちがないではないが、今はサトシへ後の展望を語ること自体に酔いしれることにした。

 他言無用、と付け加える必要もない。どうせ明日になれば忘れているだろうから…。

 

「トライポカロンの後は、サイホーンレースに挑戦するの。」

 

「そっか。セレナのママさんも喜ぶだろうな。」

 

 話しながらも改めて内心セレナは自嘲する。ライブも、コンテストも、トライポカロンも、そして、サイホーンレースも結局のところは面前の彼に相応しい女として並び立つためのいわば『行き掛けの駄賃』に過ぎないのだから。

 それでもポケモンマスターという見果てぬ夢の前ではワールドチャンピオンすら通過点に過ぎないと語るサトシに見合うならばこれくらいは、と踏み切るのがセレナであった。

 

「ママとどうなるかは分かんないけど、いつかはサイホーンレーサーとしてカロスで1番のG1レース"ミアレ賞"に出て1着を取るの。」

 

「セレナはサイホーンに好かれてるしな!きっと大丈夫さ!」

 

「ん…サトシ。」

 

 爽やかな彼の笑顔を前にして、セレナは自分の口が紡ぎ出そうとする言葉に『待った』をかけていた。が、サトシへの想いで分たれている気持ちの暴走を止めるに難儀する。

 詰まるところ自分自身の気持ち、行き着く場所は同じだからだ。

 

「もし…今言ったこと全部…全部成し遂げられたら、その…私と…、私、を…。」

 

 セレナは、自分の口が勝手に動いているのに驚愕した。『待った』がまるで機能していない。

 今言ってなんになる?サトシからしたら迷惑以外の何物でもない。

 それこそ試合を控えているこんなタイミングで女の子な告白を受け入れるような軽薄な男などはサトシではないと、誰よりも自分が1番よく知っているはずではないか。

 それでも口の動きを止められない。男女の仲としてサトシを愛している……胸中に秘め続けた恋心が暴走していた。

 

ガッシャアン!!

 

「ぴかぁ!?」

 

「ふぉおッ!?」

 

 それは、ある意味セレナにとっては幸運であった。

 

『私と付き合って欲しい。私をサトシの彼女にして欲しい。』

 

 危うく言い切りそうになったところからの轟音にサトシと振り向けば、そこにはコーヒーカップごとピカチュウとマフォクシーを檻の中に閉じ込めて持ち上げる気球があった。

 そのデザインは嫌でも忘れることのない、ニャースの顔が浮かんでいた…。

 




 『サキ』
 29歳。サイホーンレーサー。
 セレナの母親で、サイホーンレース界の大ベテラン。
 元々セレナをレースのレッスンやサイホーンのお世話に駆り出していた時期もあるが、それはあくまでセレナが自分の目標を見つける前までのこと。
 今では誰よりも娘の行く道を応援する素晴らしいママさんだ。
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