3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 決勝戦を控えたサトシはトレーニングの合間に営業でガラルに来ていたセレナと遊園地に行くことにした。
 昔話に花を咲かせる中、ピカチュウとマフォクシーを檻に閉じ込めるニャース気球に、2人はうんざりであった。


最終章!マスターズトーナメント わたしたち=奇跡のチカラ

「ピカチュウ!マフォクシー!」

 

「まさか…!」

 

 ベンチから慌てて立ち上がり、檻の中に囚われたパートナーをサトシもセレナも苦々しく見る。

 ニャース気球のバスケットから顔を出すのはやはりという連中だった。

 

「なんだかんだと聞かれたら!」

 

「答えてあげるが世の情け!」

 

「世界の破壊を防ぐため!」

 

「世界の平和を守るため!」

 

「愛と真実の悪を貫く!」

 

「ラブリーチャーミーな敵役!」

 

「ムサシ!」

 

「コジロウ!」

 

「銀河を駆ける、ロケット団の2人には!」

 

「ホワイトホール、白い明日が待ってるぜ!」

 

「ニャーんてな!」

 

「そーーーなっすっ!!」

 

「「ロケット団!!」」

 

 やはり口上はコレが1番しっくりくる、そうしみじみとしているお騒がせチームにサトシとセレナは怒号を飛ばす。

 ロケット団の彼らからすればそれは『敵役』として心地良い喝采でしかなかった。

 

「ピカチュウもマフォクシーも返せ!」

 

「誰が返すもんですか〜!ジャリガール5号とイチャイチャしてて油断こいてた方が悪いのよ〜!」

 

「い、イチャイチャ…!?」

 

 ムサシの啖呵に側からそう見えていた、というので顔を真っ赤にし、両頬に手を当てるセレナは、悶えそうになるのをパシパシと両頬を叩いて意識を現実に引き戻した。

 

「ん?おい待てムサシ。元祖ジャリガールにバンダナが2号だろ?スカート短いのが3号でイッシュのジャリガールの前にいたやつが4号で、あいつは6号じゃあないか?」

 

「そういえば一時期いたニャーもう1人。」

 

「うっさいわねいちいち!ジャリガールはジャリガールなんだから別にいいでしょ!!」

 

「「ヒンッ…。」」

 

 ムサシの剣幕にコジロウもニャースも黙るよりない。彼らが言う『ジャリガール4号』とはコトネのことだ。

 

「まぁそんなことは置いといて。ここで逃げるのは簡単だけどアンタたちとの付き合いも長いからね。どうせしつこく追いかけて来るのが目に見えてるってもんだわ。」

 

「当たり前だろ!」

 

 サトシやセレナからすればロケット団との付き合いなどあったところでいいことなどは特にない。腐れ縁とはいえ全くもっていい迷惑である。

 

「ちゅうううううッ!!」

 

「ふぉッ!まふぉッ!!」

 

 そんな中、囚われのピカチュウとマフォクシーは檻を破ろうと電撃や火炎を放ち、腕の側の収納口から取り出した杖で何度も打ってみたりするも結果は芳しくない。

 いわゆるピカチュウ対策をはじめ、内部からの破壊対策は万全のようだ。

 

「だからここいらで徹底的に叩き潰してから悠々と引き上げてやろうじゃあないの!!いくわよコジロウ!!」

 

「おーう!やらいでか!!」

 

 バスケットから身を躍らせ、ムサシとコジロウが地上に降り立てばそれぞれボールを構えて投げ込んで来る。

 今回は下手な搦め手よりも真っ向勝負に重きを置いていた。

 

「いくわよソーナンス!」

 

「そ〜〜〜なんすッッッ!!」

 

「いけーノクタスー!!」

 

「のっくぅ〜!!」

 

ギュウウウ!!

 

「いだだだだだ〜!!」

 

 ムサシがソーナンス、コジロウがノクタスをそれぞれ繰り出す…が、ボールから飛び出すノクタスはその悪癖が未だ抜けておらずコジロウに飛び付き、図らずも全身のトゲで主人を痛めつけていた。

 

「くそぉ!ズルズキン!キミに決めたッ!!」

 

「ずッきぃに!!」

 

「お願い、ヤンチャム!」

 

「ちゃっちゃーう!」

 

 ピカチュウたちを取り戻すべくサトシとセレナも対抗の構えを取ることにした。

 サトシは朝方のトレーニングで進化したばかりのズルズキンを、セレナは赤縁のサングラスを額にかけたやんちゃポケモンヤンチャムをそれぞれ繰り出す。

 

「おっ、なんだなんだ?」

 

「ヒーローショーかなにかか?」

 

 ニャース気球を中心とした騒ぎに事情をよく知らない野次馬がわらわらと集まって来る。

 どちらにとっても長居は好ましくない…。

 

「ノクタスはくさタイプ…なら!ヤンチャム!走って!」

 

「ちゃあああ〜ぅむ!!」

 

 白と黒のツートンカラーに口の端で咥えた丸い葉をトレードマークとした小さなボディが両脚を振り抜き疾駆する。

 ホウエン暮らしの長いセレナにとってノクタスは見慣れた類のポケモンであった。

 

「れいとうパンチ!」

 

「ちゃんむぅ!!」

 

 全身トゲだらけのボディを殴るのにこおりエネルギーはさながらグローブ代わりの役割を果たす。

 くさタイプであるノクタスにはこおり技が弱点なので一石二鳥の作戦だ。

 

「おおっと、ソーナンス!お願いね!」

 

「そ〜なんすッ!!」

 

「ッ!!」

 

 ノクタスを狙って殴りかかるヤンチャムの前にソーナンスが飛び出す。

 その全身の眩い光がセレナに自身の指示の浅はかさを悟らせた。

 

バッチィン!!

 

「ちゃむぅ〜!」

 

「ヤンチャム!!」

 

 庇って受けたれいとうパンチのダメージをソーナンスはカウンターで倍返しにしてきたのだ。

 ムサシのソーナンスの脅威は3年前に幾度となく見てきていたのに、とセレナは歯噛みする。

 

「ズルズキン!ヤンチャムを受け止めるんだ!!」

 

「ずッきん!!」

 

 カウンターで吹き飛ばされるヤンチャムをズルズキンがすかさずフォローする。地面に激突する前にしっかりとキャッチした。

 

「サトシ!…ごめん。私、ピカチュウたちを助けたくて無我夢中で突っ走っちゃって…。」

 

「ヤンチャム、すごく強くなってるじゃん。」

 

「えっ?」

 

 謝るセレナにサトシは穏やかな表情で視線をやればセレナも倣う。

 

「ずッきん。」

 

「ちゃむ!」

 

 ズルズキンに降ろしてもらいまだまだやる気じゅうぶんなヤンチャムの姿がそこにあった。

 

「ハルカってなんだかんだ結構長いこと休んでるみたいだし、オフ明けでだいぶ体鈍ってると思うからきっとチャンスだぜ?」

 

「そ、そうかな?」

 

 急な話にセレナはキョトンとしながらもすぐに会話の意味を理解する。

 サトシはサトシなりに緊張を和らげようとしてくれているのだ。

 

「いけノクタス、ミサイルばりだ!!」

 

「のぉっくぅ〜!!」

 

 そこにすかさずノクタスが全身のトゲを発射する。

 ズルズキンはヤンチャムの前に立ち、下半身のダボついた皮を両手で持ったまま、

 

ドドドドド!!

 

 ガードすることすらせず全身で受け止めた。

 

「ちゃんむ!?」

 

「サトシ!ズルズキンがッ…!」

 

 慌てるセレナにサトシは今度は不敵な笑みを見せながらゆっくりと首を横に振る。

 

「どうだ見たか!まともに入ったぜ!」

 

「やったニャ?」

 

 技が命中してコジロウは飛び上がり、バスケット内で試合を眺めるニャースが呟けばすぐに感じ取る眼光で全身を震えさせる。

 

「ロケット団!これくらいじゃ俺も俺のポケモンたちもビクともしないのは知ってるはずだろ?」

 

 ミサイルばりの着弾による爆発のモヤが晴れ、そこには全く健在そのものなズルズキンの姿。

 ロケット団如きからの攻撃などいちいちガードする必要すらない…そんな絶対的な自信が全身から漲っていた。

 

「ちゃあむ…!」

 

 セレナは見た。ロケット団と堂々対峙するズルズキン、その後ろから見る凛々しい横顔に目を輝かせるヤンチャムを。

 それは、まさしく在りし日の自分の姿だ。

 オーキド博士主催のサマーキャンプで慣れぬカントーの森の中、怪我して1人で泣いていたところにふらりと現れたサトシに心奪われた、自分そのものだ。

 

「(あの日からずっと、サトシは私の前を走り続けてる。その背中を見てるばかりじゃ駄目だって、分かってるはずでしょ、セレナ!)」

 

 自分を叱咤し、ヤンチャムへアイコンタクトを送る。白黒模様の顔がこちらを向けば、共にコクリと頷き合った。

 

「(私はセレナ…ポケモンマスターになるサトシの隣に立つに相応しい女になるって決めたんだから!!)」

 

 ヤンチャムがズルズキンの左手側へと歩みを進める。その姿が眩い光に包まれては野次馬からどよめきが上がった。

 

「ちょちょちょ、なによ一体!?」

 

「コレは進化の光だニャ!」

 

 たじろぐムサシにニャースがすぐさま指摘を入れる。0.6mほどだったヤンチャムのボディは1.1mのズルズキンに対してほぼ倍の巨躯へと変貌を遂げる。

 

「ごろぁぁぁぁぁ!!」

 

「ヤンチャムが…ゴロンダに進化した…!」

 

「やったなセレナ!!」

 

 ヤンチャムの進化に他のあくタイプポケモンと関わりが必要だとはトレーナーとして知っていた。

 その役割をたまたまとはいえサトシのポケモンが果たしてくれたことにセレナは運命を感じずにはいられなかった。

 だが喜んでる場合でもない。ロケット団から相棒を助け出さねばならないのだ。

 

「よーし!いけズルズキン!!」

 

「ゴロンダも続いて!!」

 

「ずッきぃぃぃに!!」

 

「ごろぉぉあああ!!」

 

 ズルズキンとゴロンダが横一列に駆け出していく。

 ヤンチャムの進化にたじろいだままのロケット団だがソーナンスを前面に、ノクタスをその背後に立たせて迎え撃つ姿勢は変わらない。

 

「ズルズキン!ずつき攻撃!!」

 

「ソーナンス、やっちゃってちょうだい!!」

 

ガッツウン!!

 

「そッ…!?」

 

「ちょ、ソーナンス!?」

 

 ソーナンス自慢のカウンターが不発に終わる。

 ズルズキンの瞬間的な踏み込みにより発動前にモヒカン頭を叩き付けられ、怯んで動けなかったからだ。

 

「くそぉ〜!ノクタス、ドレインパンチだ!」

 

「んのぉ〜!!」

 

 ソーナンスのフォロー、というよりはただ単にたまらず飛びかかっただけのノクタスが拳を振り上げる。

 そこに割り込むは、白黒の巨躯だ。

 

「ゴロンダッ、ノクタスを掴んで!」

 

「ごぉぉぉろぁッ!!」

 

ミスミスミスミス…

 

 振り上げた腕を掴み、ゴロンダはその場でグルグルと回転しノクタスを振り回す。

 

「ズルズキンもソーナンスを掴んで振り回せ!!」

 

「ずるッきん!!」

 

ミスミスミスミス…

 

 ゴロンダに倣うようにズルズキンもソーナンスをジャイアントスイングに持ち込んでゆく。

 

「お、おい!なんだかヤバくないか…?」

 

「ちょっとニャース!なんとかしなさいよ!」

 

「ニャんとかって言われてもニャー…。」

 

「チルル、とっしん!!」

 

ガツウウウン!!

 

「ニャニャアッ!?」

 

 どうにも出来ない、とムサシに返すニャースの乗る気球が激しく揺れる。

 飛来したチルタリス…『チルル』が檻めがけて思い切りぶつかってきたのだ。

 

「ルチア!?」

 

「今だよ相棒!フィニッシュよろしくぅ!」

 

 簡素なシャツにデニムの完全オフスタイルのルチアがセレナにサムズアップ。

 それまで内部で抵抗を続けていたピカチュウとマフォクシーにより絶えず加えられていた檻への圧力に外からの打撃を加えられたことで鉄格子が大きくひしゃげ、開いたスペースから囚われの2体はチルルの綿ボディに飛び乗り脱出を果たしていた。

 

「セレナ!」

 

 もはや懸念要素はなし。サトシとセレナはアイコンタクトを交わし大きく頷いた。

 

「いっけぇズルズキン!!」

 

「やっちゃえゴロンダ!!」

 

「ずぅぅぅッるッきんッ!!」

 

「ごろあああああッ!!」

 

 ズルズキンはソーナンスを、ゴロンダはノクタスをジャイアントスイングから勢いよく放り投げ、それぞれ投げ飛ばしたポケモンの主人へとぶち当てる。

 

「「ぎょへぇ!?」」

 

「重いニャー!!」

 

 吹っ飛ばされたムサシとソーナンスは気球のバスケットに収まり、ムサシの巨尻の下敷きにニャースが巻き込まれる。それはまぁまだマシだった。

 

ブシュウウウーーーッ!!

 

「いだだだ!!うわわわ!!」

 

「「「わぁぁぁぁぁ〜〜〜ッ!!」」」

 

 同じく吹っ飛んだコジロウに引っ付くノクタスのトゲが球皮に穴を開け、コントロールを失った気球ごとロケット団は吹っ飛んでいく。

 

「ちょっとー、正々堂々やり合っても駄目だったじゃあないのよー。」

 

「やっぱりニャーたち悪党には悪党らしいやり方があるんだニャー。」

 

「いだだだだ…まぁいいさ。次こそ俺たちらしくピカチュウゲットと洒落込もうぜ。」

 

「のくぅ〜!」

 

「それじゃあせーの……」

 

「「「やな感じ〜〜〜〜〜!!!」」」

 

「そ〜〜〜〜〜なんッすッ!!」

 

キラリン

 

 そのままお騒がせチームは空の彼方へと消えていくのだった。

 

 

 

 前日のうちにハルカを通してセレナがサトシの元に顔を出しに行くという話をルチアは本人から聞いていた。

 仕事疲れから1人ぐっすりした眠りより覚めてスマホロトムのGPSをチェックすれば、相棒が首尾よく遊園地デートに漕ぎ着けることに成功したであろうと察したルチアは、その様子見に暇潰しがてら足を運ぶことにする。

 そこで繰り広げられているロケット団との大立ち回りにたまらず加勢した、というのが彼女視点の流れだった。

 

「ホントにもういいのか?」

 

「うん。サトシもトレーニングとかあるでしょ?」

 

 遊園地の入り口まで戻り、やって来ていたルチアを出迎えとしてセレナは帰ると言うのでサトシからすれば特に止める理由もなかった。

 その辺りの男の朴念仁さに対して若干苛立ちながらも、ルチアは少し距離を置き2人の別れの会話が耳に入ることのないよう配慮している。

 

「……。」

 

 強いトレーナーだというのは分かる。だがルチアは、相方の強い恋慕に気付こうともしないサトシが嫌いだった。セレナの手前、態度として見せないだけで。

 

「そっか。コンテスト、頑張れよ。セレナならきっと上手くいくぜ!」

 

「ぴかぴか。」

 

 サトシの左肩のピカチュウもエールを送る。

 ふとセレナは、3年前、空港で抑えきれなかった衝動が湧き上がっているのを内に感じた。

 だが、今の自分は昔とは違う…歩み、変わってゆかねばならないのだ。

 セレナは毅然とその衝動をしまい込んでみせた。

 

「サトシ…私、絶対諦めないから。」

 

「あぁ。それでこそセレナだぜ。」

 

 サトシがポケモンマスターになる夢を諦めないように、セレナもサトシの隣に立つことを諦めない。

 その誓いがサトシ本人に伝わっていなくとも、今のセレナにはそれでよかった。

 

「じゃあ、またね!!」

 

「またな、セレナ!!」

 

 手を振りながらセレナはサトシから離れ、ルチアに合流する。

 言外に秘した想いはそのままでいいのか、そう語りかけてくる相棒の瞳にセレナはハッキリ頷いて返す。

 思いつく限りのことは全て成し遂げる…そうでなくてはサトシの伴侶足り得ないと、確固たる決意を恋する乙女は改めて胸に刻んだ。

 

『またね、私の好きな人。』

 

 

 

 ガラル地方の南部に位置するブラッシータウンにはソニア博士が引き継いだポケモン研究所がある。

 その孫娘に己が諸々を相続させた張本人であるマグノリア博士は、町の東側に伸びる2番道路の湖畔に構えた自宅の庭にてダンデと対面していた。

 博士を前にしてのダンデはいつになく神妙な面持ちである。

 

「"その子"のコンディションは問題ありません。本当にやるのですね?チャンピオン?」

 

 静寂の中に程近くの町からの生活音のみが響く中、マグノリア博士の穏やかながら厳かさを含む声音にダンデはゆっくりと頷く。

 

「はい。ガラルリーグではチャンピオンだけど、PWCSでは俺はただのチャレンジャー…だからこそ、持てる力を全て出し切らなきゃあならないんです。そうじゃなければ、俺はサトシには勝てない。」

 

 巨大企業の代表としてひっきりなしに舞い込む事務作業の中で少し筋肉の落ちた右手に持つボールを握る力がググ、と強まる。

 手の中のボールを見つめる青年の顔を眺める博士は、そこから声をかけることを無粋と思い口を噤んだ。

 アランにリザードンを破られ、アイリスには圧倒されることで後から来る次世代の力をまざまざと見せつけられた。

 その次世代のトップに立つ男とこれから戦うというダンデにとって、勝利のために打つべき一手は打たねばならない。

 そんな勝負の世界に生きる男の悲壮なまでの決意を汲んだからだ。

 

 

 




 『マグノリア博士』
 88歳。ポケモン研究者。
 ガラル粒子を発見した第一人者で、それを制御するための技術をローズ委員長がトップであった頃のマクロコスモスと共同で研究していた。
 現在は研究界の最前線を孫娘のソニアに譲り、自分のペースで好きに研究を続けている。
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