3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 ロケット団からそれぞれ相棒を助け出し、サトシとセレナは互いの夢を応援し合いながら別れた。セレナは、己が想いを胸に秘めたまま。
 一方のダンデは、来る決戦のために1つの決意と覚悟を固めていた。


最終章!マスターズトーナメント 運命の日! ファイナルバトル

 運命の日が訪れる。12月21日の午後18時30分。

 試合開始は19時だが、シュートスタジアム中は既に異様な熱気に包まれていた。

 

 

 

「兄様!」

 

「あぁ…いよいよだな。」

 

 オレンジアカデミーの学生寮ではもはやお決まりの光景、共用エリアの大液晶テレビを前にグラジオとリーリエの兄妹とサワロ、オモダカにひばり、チリはもちろんグズマも集まっている。

 生徒たちと同じようにアカデミー出入り口前の研究部ではクラベル所長とフリーダム、マイティGに加え、研究スタッフがテレビモニターの前に群がり、画面が見えない者はスマホロトムでの生配信を見ていた。

 

 

 

 アローラ地方メレメレ島のアイナ食堂も時間となればちょっとしたパブリックビューイングと化していた。

 シゲルとセイヨを除くチーム<マナーロ>の面々やアローラ時代の仲間たちに加え、3人の妹を引き連れたギラとそこに引っ付く形のイライズも我らが優勝チームリーダーの今年最後となる大舞台を心待ちにしながら集まっていた。

 

 

 

 パルデアやアローラの面々だけではない。それぞれの地方にて、皆この時だけは自らの為の道行きの為の歩みを止め、世紀の一戦を、今年最高の熱狂を心待ちにしていた。

 彼らが知らずして共有しているのは、たった1人の少年と知己であることと、その少年へ抱くエールだ。

 

『『『『『頑張れ、サトシ!!』』』』』

 

 

 

「全国のポケモントレーナー、ポケモンバトルファンの皆様こんばんは!今宵、ポケモン歴2度目のミレニアムイヤーを飾るワールドチャンピオンが決定します!!ポケモンワールドチャンピオンシップス、マスターズトーナメントファイナルマッチ!!こちら、シュートスタジアム放送席にて実況は私ジッキョー!解説にはセミファイナルから引き続きポケモン評論家のナンテさん、大一番に相応しい素敵なゲストとして、この方々にお越しいただいております!!」

 

「やっほー!ワシちゃんはマスタード!今日はミツバちんと一緒だよーん!よろピクねーん!」

 

「はーい!ダーリン大好きミツバでーす!ヨロイ島からやってきたラブラブカップル、なんちゃって!」

 

「「あはははは!!」」

 

 のっけから快調にハイテンションでトークを飛ばす夫婦の笑い声が放送席を満たしてゆく。

 ナンテからすれば道場に身を寄せていた頃から慣れ親しんだ光景であった。

 

「師範。女将さん。PNTTの時は大変お世話になりました。」

 

「おーナンテちんもよかったねん!アレから仕事バッチリ増えてギャラいっぱいもらってんでしょ?」

 

「まぁー、それなりには?」

 

「もー!ダーリンたら下世話すぎ!」

 

「「あはははははは!!」」

 

 親指と人差し指をシャカシャカと擦り合わせながら何ら遠慮することもなくお金の話を持ち出すマスタードの肩をバンバンとミツバが叩く。

 ナンテはジッキョーにアイコンタクトを飛ばし、『今日はだいたいずっとこの調子だと思うよ』と伝えれば進行を促した。

 

「さて、この決勝戦の対戦カードは立場こそ入れ替われど3年前と全く同一のものとなりましたが、今回は一体どういった試合になるとお考えでしょうか?」

 

「そうですね。今回戦う2人はどちらもツボにハマれば止まらないタイプのトレーナーです。どちらが先に場の空気を支配し、流れに乗るかがカギでしょう。」

 

「つまりは序盤から目が離せないのねん!」

 

「あと、ツボのハマり具合によってはあっという間のワンサイドゲームにもなり得るね。」

 

「うんうん!」

 

 マスタードの批評にミツバが乗っかってゆくのにナンテは驚くこともない。旦那に影響を受けてミツバ自身もバトルに対する観察眼が堪能であるのを知っているからだ。

 

「なるほど!さぁいよいよ選手入場!そこから試合開始であります!!」

 

 

 

「兄貴、なんだかいつになく怖い雰囲気だったぞ…。」

 

「それだけ真剣ってことよ。」

 

 ベンチにてホップに返すソニアとしては、決してこれまでダンデが相手を見下し、舐めてかかったことなど一度たりともないと断言出来る。

 幼少のみぎりより続く腐れ縁は、この真冬の夜空に走る寒風の前にも凍て付くことを知らないダンデの真剣勝負…その解像度を誰よりも高めているからだ。

 

 

 

オオオ…?オオオオオオッ!!

 

 入場を果たし、姿を見せる影に観客が一瞬どよめき、すぐにどよめきが歓声へと変わる。

 センターサークルへと歩みを進めるダンデの表情からは従来より見える朗らかさは皆無で、その出で立ちも普段とはまるで違っていた。

 

 

 

「初戦ではアラン選手とのリザードン対決で相討ちに持ち込まれながらも勝ち抜き、セミファイナルではチャンピオンアイリスの圧倒劇に対して1歩も退かず結果的に勝利を掴んでのファイナル進出!!ワールドチャンピオン奪還に向けてガラルリーグチャンピオンダンデ!!慣れ親しんだユニフォームにマントコスチュームから大きく変更をかけての登場ですッ!!」

 

「ぬう、あれが世に聞く"マジコス"…ま、まさかあのマジコスが眼前に…。」

 

「知ってるのナンテちゃん?」

 

ミツバにナンテは頷きながらハンカチで額の汗を拭く。

 

「全国入りを熱望している辺境地方は現在でも世界中後を絶ちません。その1つに、とある国の王族が関わることで建造された"パシオ"なる人工島が存在し、そこではトレーナーの更なる可能性を引き出すことに長けた特注品の衣装を手がける特殊なデザイナーを抱えているといいます。」

 

「それがあのマジコス、ってやつなのねん。」

 

「はい…。」

 

 返しながら抱くナンテの違和感としては、マジコスのデザインの方向性にあった。

 マジコスとは、その性質上着用者が扱うポケモンの意匠がふんだんに取り入れられる。

 ダンデのマジコスには、おおよそ相棒であるリザードンを思わせる要素が皆無なのだ。

 

 

 

 漆黒の闘衣はその合間に肩と脇腹を露出させ、厚い胸部には青と赤の宝石に近いデザインが法則性の下あしらわれている。

 この衣装自体はマクロコスモス代表として各地と交流を結ぶ中で贈られたものの1つで、受け取った当初のダンデに着用の意思は特になかった。

 これより先も従来のスタイルでじゅうぶん通用すると判断してのことであった。その結果がアランを相手にエースを倒され、アイリスにはあわや完敗を喫するというところまで持っていかれた。

 台頭する若い世代を相手に散々に打ちのめされているとなれば大規模な変革こそが残された道といえよう。

 故にダンデは、このマジコスに縋り付いた。旧世代としての意地だった。

 

ダンデ!ダンデ!ダンデ!ダンデ!ダンデ!

 

 決戦の時を待つダンデに周囲の歓声に応える余裕はない。

 正面より姿を見せる最大の難敵を前に、全力で以て勝ちにゆく…それしか考えられなかった。

 

ドワオオオオオオオッ!!

 

「来たか…!」

 

 

 

「初戦はテツヤ選手とのオープニングマッチにて盤石の勝ちっぷりを見せ付け、セミファイナルではライバルであるジムリーダーシンジを相手にエースのピカチュウを抑え込まれながらも残るメンバーの底力を見事に引き出してファイナルまで駒を進めました!!"バトル世界一"…真にこの称号を誇ることが出来るまであと勝利1つ!!その標的も目の前にいます!!アローラリーグチャンピオンにしてワールドチャンピオンサトシ!!こちらはお馴染みの姿で入場ですッッッ!!」

 

「おほー!サトシちんキタキタ!」

 

「ダーリンったらすっかりサトシちゃんのファンでもうゾッコンなのよ。」

 

「分かります。彼のバトルは見る者の心を熱くさせますからね。」

 

 それはある意味では、実力よりもずっと大切なチャンピオンとしての資質なのではないかとナンテは思う。

 そしてサトシこそが、このミレニアムを越えた先の新たなるポケモン時代の明日を描いてゆくのだというのは紛れもない確信であった。

 

 

 

「ようワールドチャンピオン。その称号、返してもらいに来たぜ。」

 

「負けるもんか。俺だって今日この日をずっと目指して色々やって来たんだ。」

 

 ジッと新たな戦装束をお披露目するダンデをサトシは見上げて視線を交わす。

 1年近くじっくりと腰を落ち着けてのポニ島での大合宿からここまでの戦いの日々、その集大成が今日である。

 ポケモントレーナーとしての歩み全ては決して無駄にはならないというカンナの訓示は今も胸にある。

 それはそれとして、ここまで戦い続けてきたのが今日負けてはなんにもならないのもまた事実なのだ。

 

「両選手、トレーナーサークルへ!」

 

 儀礼としての握手を終え、ダンペー審判の指示に従い両者センターサークルから自身のトレーナーサークルへと移ってゆく。

 今年の大晦日、年越しを飾る企画は四天王マッチであり、チャンピオンクラスが出張るようなタイトルマッチは組まれていない。

 故にこの対戦こそが、ポケモン歴2000年を締め括るチャンピオンレベル最後の公式戦となっていた。

 

 

 

「とりあえず空回りするほど気合い入れ過ぎてはいないみたいね。」

 

 サトシ側のベンチにはセミファイナル同様カスミとタケシはサポーターとして帯同していた。

 一昨日19日にあったハルカとセレナの訪問から3人は夕方には合流しており、そこから20日を丸々使って調整メニューに打ち込み今日この日に臨んでいた。

 

「3年も経てばそのくらいの感情コントロールは出来るようにもなるさ。」

 

「だといいけど。」

 

 タケシの言にイマイチ首肯しきれないのは、期間こそタケシに譲るもののカスミこそが旅の仲間として1番最初の、最も未熟だった頃のサトシを知っているからだ。

 母親のハナコと懇意にしているのもあり、仲間内では誰よりもサトシの泣き所や恥部を掴んでいるのも大きい。

 

 

 

「これよりPWCSマスターズトーナメントファイナルマッチ、決勝戦!チャンピオンサトシvsチャンピオンダンデの試合を行います!!試合ルールは6vs6のフルバトル!相手のポケモン6体を全て戦闘不能にした者が勝者となります!!それ以外のルールはマスターランク及びトーナメントにおける従来のものと同様であります!!」

 

 いいんだよな?というようにダンペーはダンデに視線をやる。

 3年前、このタイミングで突如サトシにだけ切り札システムの使用制限撤廃を言い出した張本人は黙って首肯を見せた。サトシも同様だ。

 今回は両者条件を同じくしての対決である。

 

『さぁ97年度大会より3年の空白を乗り越えてのミレニアムイヤーにおいて、歴代最高の参加者数となったPWCS!!1000年に1度の"ミレニアム・ワールドチャンピオン"の栄光に輝くはどちらか!?チャンピオンサトシによる連覇か!?それともチャンピオンダンデによる奪還か!?』

 

「それでは両者、先発を!!」

 

「ピカチュウ!キミに決めたッ!!」

 

「ぴっかぁッ!!」

 

「いけぇ!ドラパルト!!」

 

「ぎゅうわぁ〜!!」

 

「めしゃあ〜!」

 

「しゃあめ〜!」

 

 サトシが右手を伸ばしフィールドを指差せば、最高の相棒が肩から跳躍。

 スタリと降り立つ。ダンデの投げ込むボールからは6つの視線がピカチュウを見下ろした。

 

 

 

「チャンピオンサトシの先発はセミファイナルから引き続きピカチュウ!チャンピオンダンデの先発はトーナメント全体を通し一貫してのドラパルト!立ち上がりはどのように推移するのか!?」

 

「あのピカチュウは初戦でもエントリー自体はされてましたが出番なし。準決勝では前後半ともに真っ先に投入されたもののジムリーダーシンジからの徹底マークを受け続けたせいでスコアは稼げず終いに終わっています。それでもチャンピオンダンデからすれば王座を掻っ攫われた張本人です。決して油断はしていないはず。」

 

 ナンテの解説をよそにマスタードはダンデの変貌に息を呑んでいた。

 思えば入場でもパフォーマンスを一切行うことのなかった姿を見た時点で違和感としては確かにありはした。

 此度のダンデは、やはり何かが違う…。

 

 

 

「試合開始ィィィィィッ!!」

 

 ダンペー審判の号令が轟く。泣いても笑ってもこれが最後、最終決戦の幕が上がった。

 




 『全国入りの条件』
 ・その地方固有のポケモンを含めた精密度85%以上の図鑑データの提供をする。

 ・その地方の保有するポケモンリーグがチャンピオンリーグ制に合流し、スケジュール管理を合わせられるようにする。

 ・その地方特有の切り札システムのメカニズム及び専用デバイスの全国普及意図を明確化する。

 これらの他にその地方の治安や民度をポケモンリーグ本部がチェックし、一定の基準をクリアしていれば全国図鑑に固有種の登録がされ様々な援助を全国から受けることが可能になる。
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