3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
サトシのジュカインが疾駆し、マサトのサーナイトがあの手この手と攻め手を見せる。
サトシは喜んだ。マサトが強いトレーナーになったことを。
マサトは喜んだ。サトシが凄いチャンピオンになったことを。
サーナイトがメガシンカし、さらにはすでに攻撃体勢を整えている。体内のエネルギーが、フェアリータイプのそれへと変換されていた。
メガサーナイトとなった際に特性が自身の状態異常を相手にも押し付けるシンクロから、ノーマルタイプの技をフェアリータイプへと変換し、さらにその威力を高めるフェアリースキンへと切り替わっているからだ。
そこから放たれるフェアリー技は、サーナイトが出せる技の中で最高の威力を叩き出すだろう。
「いけーサーナイト!ハイパーボイスだ!」
「こぉぉぉぉ…!」
メガサーナイトは腹式呼吸で息を吸い込む。
渾身のシャウトと共に、強烈なフェアリーエネルギーを乗せた絶唱攻撃を放つ算段だ。
「ジュカイン!そのまま飛び込め!!」
「じゅかぁぁぁッ!」
「(間に合う!)」
サトシの声に、ジュカインはスピードのギアをさらに上げる。
ここから下手に回避運動を取っても埒が開かないのは分かりきっていた。みらいよちがどこに仕掛けてあるか分かったものではない。ならばもう、真っ直ぐ行くしかない。
「(ジュカインなら、イケるッ!!)」
そう、心内で言葉を紡ぐほどにサトシもギリギリの綱渡りをさせられていた。
極限の緊張感、心地よいスリル。そして興奮。
これこそポケモンバトルの醍醐味なのだ。同様のそれを、マサトも感じ、手に汗を握っている。
そこに、サトシに勝てるかもと言う淡い期待も加わっていた。
ゴッッッ…!!
「さなぁぁぁ、がッ…!?」
「サーナイト!?」
「よしッ!」
そんな淡い期待が消し飛び、背筋が凍り付く。
サトシから見れば、ここで初めて、マサトの波導が乱れるのを感じ取れた。
ハイパーボイスは、大声を張り上げて放つ音波攻撃である。当然、攻撃の為のエネルギーは大抵はポケモンの喉を通る。
そこにジュカインが飛び込み、突っ込んだ頭が、ピンポイントに突き刺さったのだ。
「どうだ!ジュカインのじごくづき!!」
間一髪間に合った。会心の一撃にサトシは思わず声が出た。
じごくづきには、相手の音を放つタイプの攻撃を封じる効果がある。それにより、メガサーナイトの必殺のハイパーボイスはギリギリのところで不発に終わったのだ。
「まっ、まだだよ!サーナイト、ムーンフォース!!」
「さ、な、がッ…!!」
喉に一撃を喰らい、嗚咽しながらもマサトからの指示を受け、メガサーナイトが反撃を試みる。
両手にフェアリータイプのエネルギー弾を生成し、ジュカインに直接叩き付けんとする算段だろう。
しかしそこは接近戦の領域、サトシの、ジュカインの距離であった。すでに連撃の態勢に入っている。
「三刀流の、リーフブレードッ!!」
「じゅ…ッかぁッ!!」
スゥ…とジュカインは両腕を交差させ、腕の葉と、口に咥えた枝に力を込め、くさエネルギーを込めた緑色の三刀を構える。
ズバァッ!!
「さ、なぁッ…!!」
そのまま思い切り咥えた枝のリーフブレードで動きを止め、両腕のリーフブレードを振り抜いて斜め十時に切り抜けた。
三刀の斬撃を叩き込まれたメガサーナイトは真上に吹き飛んでから落下、そのままメガシンカも解除され目を回していた。
決着である。
「サーナイトッ!」
「さぁな…。(ごめんねマサト…、やられちゃった。)」
「謝るのは僕の方さ。サトシとのバトルって言うので舞い上がっちゃって、じごくづきのことを考慮出来てなかったんだ。」
倒れたサーナイトにマサトが駆け寄れば跪き、スラリと細い体を抱き起こす。
テレパシーで力及ばなかったことを謝るサーナイトに、首を横に振りながら自責。そしてボールに彼女を戻した。
「お疲れ様、サーナイト。」
ボールに戻したサーナイトに改めて労いの言葉をかけては立ち上がり、サトシの下へ歩み寄る。ポケモントレーナーとしての礼儀は、尽くさねばならない。
「やっぱりサトシは強いや。でも、次は僕が勝つからね。」
「マサトもすげー頑張ってるの伝わったよ。次バトルする時が楽しみだぜ。次も俺が勝つけどさ!」
サトシが右手を差し出せばマサトは即座に応じる。ガッチリと互いの健闘を讃え合う握手。
ことこの2人の中では、こんな当たり前の作法がこなせる関係になれたことそのものが感動であり、不覚にもハルカは涙ぐんでしまっていた。
「ぴかっ。」
「じゅか。」
ピカチュウとジュカインもサムズアップを送り合う。
サトシの為に頑張り、勝つのは当然の話。それはそれとして、マサトの成長した姿には、どちらも見違えたものだと認めていた。
男の顔になった。そう思ったのだ。
ミナモシティに限らず、おおよそ大都市と言えるような全国のエリアにおいて、一般人がいわゆる有名人の姿を見て殊更に騒ぎ立てるようなことはしない。
それは彼らのプライベートを慮るのと、そう言う行為自体が『ダサいから』という社会通念が浸透しているのがあった。
ワールドチャンピオンのサトシとトップコーディネーターのハルカが連れ立って街中を歩いていても、サトシが広場でポケモンバトルをしていても、さほど大騒ぎにはならないのはそれが理由である。
バトルの後にポケモンセンターへ行かねばならないマサトの付き添いと言うのも、野次馬が距離を詰めるのを封じる一手に繋がっていた。
ショータは地元への挨拶回りをしたいから、と1人サトシたちとは別れていった。彼には彼の旅があるのだ。
今使っているメモ帳にちゃっかりサトシとハルカのサインをもらっている辺り、ミーハーなところも見られるのがショータという少年の可愛げであろう。
「お待たせしました!お預かりしたポケモンはみんな元気になりましたよ。」
「ありがとうございますジョーイさん!」
戦闘不能になったサーナイトとジュカインの治療をしてもらい、預けたボールを受け取っては一礼し、マサトはロビーを後にする。
ミナモシティほどの大都市ともなると、ポケモンセンターには喫茶店が併設されており、預けたポケモンたちの回復を待つまでだったり、朝昼晩の食事を済ませる為だったりと、立ち寄るトレーナーたちそれぞれの目的に合わせた憩いの場を提供している。
ポケモンセンターのロビーから併設の喫茶店へ向かえば、サトシとハルカはそれぞれ声をかけて来るファンへの応対もひと段落したようであった。
そこに合流し、テーブル席のハルカの隣に座る。
「サーナイトとジュカイン、もう大丈夫なんだな。」
「うん。あんまり時間かかんなかったよ。」
激しいバトルの反面、見た目ほどの重大なダメージがなかったところに、マサトはサトシとショータの技量の高さを感じ取っていた。
それを理解できている成長の早さに、サトシもハルカも目を細めている。
「サトシはPWCSの試合で来たんだっけ?」
「あぁ。それが終わったらイッシュ地方で、今度はPWTのエキシビジョンをやるんだ。」
「PWT!?」
「あー、そう言えばマサトもそんなの出るって言ってなかったっけ?」
「そうさ。PWTジュニアカップ。」
ハルカにマサトが力強く頷く。
PWT…ポケモンワールドトーナメント。イッシュ地方にて開催されるポケモンバトルの大会だ。
イッシュのポケモンリーグ委員会が主催となっており毎年開催されているのだが、勝ち残る有力選手がイマイチ全国区に名を轟かせられていないのに加え、『無敵のダンデ』のような象徴的な存在の不在が、PWCSに比べ知名度的に押されていると言う印象があるのが現状だ。
しかし、全国規模の大舞台であることに変わりはなく、3年前にはジョウトチャンピオンのワタルが優勝したと言うこともあり、サトシも参加意欲をバリバリに出していた。
だが、そのワタルが優勝したのを最後に、主催であるイッシュリーグ委員会より大幅なルール改定が行われ、現役のリーグチャンピオン、四天王の参加が禁止されたことをポケラインでアイリスから知らされ、いち選手としての参加の道は断たれてしまったのだ。
この改定には、他地方の有力トレーナーが優勝を掻っ攫い続けるPWTの現状を面白く思わないイッシュリーグ委員会の嫉妬じみた思惑が絡んでいる、と言う噂もまことしやかに囁かれているが真相は闇の中である。
たとえそれが事実であったとして、当事者たちも決して口を割りはしないだろう。
そんなポケライン上のアイリスともう1人、イッシュを巡った際の仲間であるデントのチャット内容は、サトシの頭には入っていない。
この手の話にサトシが興味を示さないことを知っているアイリスとデントも特に気にしていない。
このやり取りの直後に、そのイッシュリーグ委員会より、サトシにジュニアカップエキシビジョンマッチへのオファーが舞い込み、それを受けた形になっているのだ。
「あっ、来た来た。こっちこっちー!」
ハルカが待ち人を見つけ、立ち上がり手招きする。
彼女の真っ赤な衣服がいい目印になりすぐにやってきた2人の少女。片方のウェーブのかかったブロンドの髪をエアリーボブにまとめ上げた所に、グレーのカノチェを被る少女は、黒のノースリーブニットに赤のチェックプリーツスカートを差し込み、足元は黒でまとめ上げている。
もう片方の緑色の髪の折れ曲がったポニーテールが特徴的で、髪飾りにキーストーンを付けた少女は、丈の短い白のTシャツに黒のパンツを合わせた臍出しルックでスポーティーに全体を仕上げている。
「やっほーハルカ、久しぶり!」
「ルチアも久しぶりカモー!」
合流すればハルカと緑髪の少女、ルチアは気さくに言葉を交わしている。
「サトシ…!?」
「セレナだったのか。ハルカが会わせたい娘って。」
もう片方のブロンドの少女、セレナはサトシを見るなり口元を押さえていた。
3年ぶりの、片思いの彼との思いがけぬ再会。変わらぬ爽やかな笑顔が、そこにはあった。
「え?知り合い?」
「あぁ。カロス地方を一緒に旅した仲間なんだよ。な?セレナ。」
「あ、う、うん…。」
目を丸くしキョトンとするハルカに、サトシはセレナを自慢するが当のセレナはそれどころではなかった。
ポケラインでハルカから、頼りになる知り合いを紹介するから悩みを相談してみたらどうだ、と間に立ってもらい、相方のルチアと仕事帰りに足を運んでみればコレ、なのだ。
「(サトシとハルカ…距離が近いような…いやいや!サトシは大体誰に対してもあんな感じよ、多分、おそらく、きっと…。)」
脳内で複数人のセレナが激論をぶつけ合っている。
まさか大恩あり、目標でもあるハルカが"こっち"でもライバルに躍り出てくるというのか、という、サトシに恋する乙女としては、到底承知しかねる議題を抑え込むのに必死であった。
「セレナ、こっち空いてるぜ。」
そんな脳内議論がヒートアップしているセレナの状況をまるで察知することなく、サトシは自分の隣に彼女を招いていた。
早く座らないと通路の邪魔だろう。そのくらいのことしか考えていないのだが、そんな気遣いができるというだけでもサトシという人間を知る相手からすれば成長、と言えてしまう。
それが、サトシという男であるのだ。
「ぴかちう…。」
そんなサトシを、ピカチュウは呆れながら見上げていた。自分のことも、盛大に棚に上げていた。
サトシvsマサト
ジュカイン○ サーナイト●(メガシンカ使用)
勝者 サトシ