3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
空中戦からサトシのリザードンが競り勝ち、必殺のちきゅうなげを叩き込むのであった。
「なぁソニア…兄貴のリザードン、大丈夫だよな?やられたりしないよな?」
「それはアンタが1番よく分かってるんじゃあない?」
身内なんだし、とソニアは付け加える。
ハッとしたホップは両頬をパンパンと叩き、フィールドを改めて見据えた。自分たちが兄貴の勝利を信じずしてどうするか、そう思い直した。
「まだやれるよなリザードン?」
「ぐるぅ…るるるぅ!」
サトシのリザードンが全身より熱気のオーラを放つ。
りゅうのはどうの直撃を受けてあちこちの皮膚が焼け焦げ、見るからに満身創痍ながらその双眸に宿る闘志には些かの翳りもない。
「ぐるる…!」
クレーターの中心部よりゆらめく影、モヤが晴れる中ダンデのリザードンは起き上がる。
その全身からも弾けるような熱気がオーラとして放たれていた。
『互いにリザードン健在!満身創痍同士睨み合いだーッ!』
「どちらも特性"もうか"が発動している、しかし…これは…。」
一見としては両者痛み分け、空中戦から再度地に足つけた戦いにて雌雄を決する…誰もがそう見ていた中ナンテは、片側のリザードンがそのうちに力尽きるビジョンを確信する。
それは…
「ぐ、ふぅッ…!」
「ッ…!」
ダンデのリザードンであった。険しい表情で天を仰ぎ、1歩、2歩と後退りし、そのまま自重に負けて尻餅をつき仰向けに崩れ落ちる。
地球のエネルギーを内包した渾身のひと投げが、無敵の象徴を沈めた。
そこにダンペーがギルガルドを走らせれば、決定的なジャッジを下した。
「チャンピオンダンデのリザードン、戦闘不能!チャンピオンサトシのリザードンの勝ち!!」
サトシ、残りポケモン5体
ダンデ、残りポケモン1体
オ…?ウオオオオオオオッ!!
「あーーーッと!!持ち堪えたかに見えたチャンピオンダンデのリザードン、立ち上がるまでで精一杯だったか!?チャンピオンのエースとして意地を見せたものの轟沈だーーーッ!!」
「…ミツバよ。お主はやはりワシには過ぎた利発なる妻であるな。」
「えっ?ダーリン?」
キリリと引き締まりながらも口元には笑みを浮かべる夫の顔は、姿こそ普段着ながら表情は在りし日のままだ。
そんなマスタードから突然ベタ褒めをされたミツバは、照れるより先に困惑が来ていた。
「今こそ確信した。ダンデのラスト1体は、間違いなくリザードンを凌ぐ大物であると!」
そうでなくてはリザードンにダイマックスなり切り札を切らない理由はない。
先程他愛のないように口走っていたミツバの予想、その時は辻褄は合う、という程度であったが今となっては間違いないとマスタードは思えた。
「雲が…。」
放送席の窓からナンテは見た。何処からともなく湧いて出た黒雲が集まり、ダンデの頭上へ集結していく様を。
それは、正しくリザードンすら前座に過ぎないのだと示していた。
「戻れ、リザードン。」
相棒をボールに戻し、相対するサトシのリザードンを改めて見る。明らかにボロボロだ。
「(ゲッコウガも、ジュカインも、相応にダメージは与えた。ピカチュウはまだまだ元気いっぱいだし残り1体は見えてないが…削れるだけ削りはした。じゅうぶんだな。)」
最後のボールをゆっくりと手に取るダンデの仕草が、サトシからはいやにスローモーションに見えた。同時に感じる波導…!
「ぴかぴ!?」
「あいつ、なのか…!?」
主人の目が見開かれるのを見上げれば、久しく味わうことのなかった大質量のプレッシャーで全身が逆立つ感覚を得る。
そして、そのプレッシャーそのものにもピカチュウには覚えがあった。
「なぁサトシ。PNTTのレセプションで、"こいつ"と思いっきり戦ってみたいって言ってたよな。」
ダンデにサトシはゆっくりと、それでいて大きく頷く。
「「「「「あと1体!あと1体!あと1体!あと1体!あと1体!」」」」」
「何話してるんだ?あの2人?」
「さぁ?…あっ。」
スタジアム全体から上がる『あと1体』コールの中、会話自体は聞き取れても内容としてはイマイチ要領を掴めていないベンチのカスミとタケシであったが、カスミの方は心当たりをふと見出していた。
彼女もレセプションに居合わせた故である。
「お望み通りやってやるぜ!!出てこおおおおおい!!!」
ダンデがそれまでのポケモンたちとは違い、フィールドではなく真上にボールを全力投球。サトシからすればそれはむべなるかな、という対応であった。
同時にワクワクが止まらない…!
「ムゲンダイナァァァァァッ!!!」
「アァァーキャァァァァーーーーーア!!!」
その異形を言い表すならば、『竜の骨が浮いている』としか例えようがなかった。
紺色と朱色が入り交ざった色彩のボディ、その胸の肋骨の中にあるコアは、見るものに潜在的な恐怖を植え付けるにじゅうぶんすぎる怪しい輝きを放っていた。
キョダイポケモンムゲンダイナ…伝説のポケモンとしてその生態には解明されていない部分は多いものの、今はとりあえずそう呼ばれている巨竜の咆哮がシュートシティはおろか、ガラル地方全体にまで轟いた。
「そ、ソニア!コレ、一体どういうことなんだ!?俺、聞いてないぞ!?」
「アンタが聞かされてないことをあたしがダンデくんから聞いてるわけないじゃない。」
ダンデから直接、という意味ならば言として間違ってはいない。ただホップからすれば、ムゲンダイナという超弩級の隠し球にしてはソニアの反応があらかじめ知っていた風であったのが引っかかった。
そこに気付く勘の良さに、ソニアはゆっくりと口を開いた。
「一昨日…お祖母様から連絡があったのよ。思い詰めた顔をしたダンデくんが、ムゲンダイナのチェックをして欲しいって家に来たって。」
3年前のブラックナイト騒ぎの後、ある程度の期間ゲットされ、収納されていたボールを封印管理していたのはマグノリア博士であった。
そんな彼女の一存から現代に慣れさせるべく教育係を任されたのがダンデである以上、ムゲンダイナに関わる話において彼が祖母の下を訪ねるのは当然の理屈と言えた。
『いいですかソニア…いいえ、ソニア博士。チャンピオンダンデは決勝でムゲンダイナを試合に出すかもしれません。それは即ち、引くに引けぬ男の世界…結果がどのようになろうとも決して目を逸らしてはいけませんよ。その全てをその目に焼き付け、見届けなさい。ポケモン博士とポケモントレーナーは、切っても切り離せない間柄なのですから。』
ソニアが聞かされたのはほぼ事後報告のようなものである。
「ダンデさん…ホントにムゲンダイナを試合に出したんだ…!」
サトシを相手に、とは内心で付け加える。
クリスマスを控え、久々の里帰りとして帰省したゴウは、サクラギ研究所にてここまでの試合をサクラギ博士とコハルの父娘、レンジ、キクナの助手メンバーらに囲まれながら観戦していた。
3年前、サトシとバディを組んでいた頃に遭遇したブラックナイト騒動にて彼もまた奔走。暴走していたムゲンダイナの捕獲による鎮圧に成功した。
そんなゴウの判断から、ムゲンダイナは正式にダンデのポケモンとして迎えられる運びとなった。
『ゴウ。俺だ。ダンデだ。早速だが本題に入らせてもらうぜ。きみから託されたムゲンダイナだが…明後日の決勝でサトシにぶつける。コレは、サトシに負けたくないっていう完全な俺のエゴだ。こうやって連絡入れたのは、一言伝えておくのがあの日、俺にこいつを託してくれたきみへの礼儀だと思ったからだ。じゃあ…。』
留守電に残されていたメッセージがゴウの中で反芻される。
その声音から、相当な葛藤の末でありながらも律儀な対応を忘れないダンデに男として好感が増したというものであった。
ムゲンダイナの威容は、試合を見るものたちの脳裏にサトシが世界一のリザードン対決を制したことも、ダンデがあと1体まで追い込まれたことも根こそぎ消し飛ばしかねないほどのインパクトを与えていた。
しかし、ダンデからすればこれはまだ序の口に過ぎない。
「はぁぁぁぁぁ…!!」
中腰に構えるダンデの全身からムゲンダイナの体色と同様の色彩のオーラが噴出され異形のボディへと注がれてゆく。
身に纏うマジコスの胸元の装飾とムゲンダイナの頭部、目と思しき6つの光の輝きがリンクしているのがサトシ視点見えた。
「見せてやるぜサトシ!!コレが失ったものを取り戻す為の、俺たちの全力全開だ!!!」
「ま、まさか!?」
「レェェェェェッツ!!!ムゲンダイマックスタァァァァァイム!!!!」
この試合中はおろか、フィールドに姿を見せたダンデが封印し続け、ここに来て初めて見せるリザードンポーズ。そのままダンデの放つオーラの奔流が打ち上がり、ムゲンダイナへさらなるエネルギーの供給が行われた。
スタジアム上空を覆う黒雲すら己が手足とばかりに主張する巨体は20mと元より巨大であったのがさらに膨張していき、100mの大台に乗る長大な身体がコアを中心に渦を巻いた状態で固定され、その先端に5つの枝分かれした頭部が地上を見下ろし元来の異形さをより推し進めたフォルムへと変わる。
それはまさしく、世界を滅ぼす伝承上の怪物と呼ぶに相応しいものだ。
「ア゛ア゛ア゛ギヤ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ーーーーア゛!!!!」
掌、または大の字を思わせる頭からまた咆哮が轟いた。
「なんということでしょうか!!チャンピオンダンデの残り1体はなんと!ガラル地方の伝承に伝わりしポケモン、ムゲンダイナ!!しかもダイマックスでパワー全開であります!!」
ミシ…ミシシ…!!
「ナンテよ。」
「はい、師範。」
ムゲンダイマックスの放つ極大なるオーラがもはや物理的な影響すら及ぼし、観客保護のバリアフィールドなどはその顕現のみで維持限界が近い事実を、放送席の師弟は最低限のやり取りで共有した。
じきにここも危なくなる…!
「ちょ、ちょっと!!いくらなんでも無茶苦茶過ぎるでしょ!?」
カスミがヒスを起こしたくなるのもタケシからすれば分かる話だ。
いくらポケモンバトルの肝がポケモンとトレーナーの親和性、絆と言おうがそれにも限度はある。
サトシらを見下ろす巨大な掌、その全長が100mに達するというのは最早同じ競技をするというレベルの話か?そう思わざるを得なかった。
当のサトシは依然やる気満々というので出るタケシのため息は、そんなムゲンダイマックスへの絶望感とはまた別のベクトルから来るものであった。
「(サトシ…変わらないな、お前は。)」
あちこちを巡る旅の中で少しずつ人間的に成長を重ねていきながらも、本質的には無鉄砲な好戦家であるところは今も変わらない…それで調子に乗った結果として馬鹿を見る姿も幾度となく見てきたが、今のあいつには確かな実力が備わっている。
どれだけ強大な相手と対峙したとしても『もしかしたら』という希望を抱かせる王者として覚醒したサトシのバトルを最後まで見届けたい、そうタケシは心から願った。
ダンペーはプロの審判の中でも頭1つ抜けた大ベテランである。故にこうした全国規模の大舞台でのジャッジも任されている。
「ぬん…!」
ギルガルドの上から審判団の待機ルームにアイコンタクトを飛ばせばスタッフがすぐに動き出す。
「急げ!」
ダンペーの意を汲んだ者たちは、緊急事態に備えての避難ルートを確保、誘導の為に走った。
「それでは、試合再開ッッッ!!」
そんな彼の矜持としては、どれだけ荒れ狂う試合だとしても己が責務を全うすることにあった。
最後の勝利者を宣告するまで、たとえこの身に何が待ち受けていようとも決してこの持ち場は離れない。
世界一を決める最高のいくさ、最高の漢たちが織りなす華舞台を預かる立場として、そんな不退転の決意を固めていた。
『人工島パシオ』
ポケモンとトレーナーの組み合わせを『バディーズ』と呼称し、独自のバトル文化が醸成されている辺境の島。
バディーズの結び付きを強める本気のコスチューム『マジコス』の製造元として知られているがその詳細は明らかになっていない。