3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
その圧倒的なパワーを前にリザードン、ゴウカザルが立て続けにダウンさせられてしまった。
「リザードンに続きゴウカザルもダウン!!チャンピオンサトシの誇る2大ほのおポケモンエースを持ってしてもなおムゲンダイマックスは健在です!!」
「残るはピカチュウ、ジュカイン、それとゲッコウガですか。先の2体でコア狙いは散々して来ましたから、チャンピオンサトシ側はそろそろ攻め手を考え直すタイミングかもしれませんね。」
根城である放送席から離れ、選手用ベンチに身を寄せながらもなお勢いの弱まらないジッキョーの調子にナンテも解説を合わせる。
「プロね…。」
与えられた職務とはいえ、理外のパワーを振り回しスタジアムを壊しながら戦うムゲンダイナの戦いぶりにも引かぬ姿にカスミとタケシ、タクトはプロフェッショナルの矜持を感じていた。
どんな世界にも命知らずはいるものだ…そんなある種同類じみた自嘲的な哀れみも含めながら。
「戻れゴウカザル!よく頑張ったな。」
ゴウカザルを労いながら回収するサトシは次のボールを手に取る。
「ぴかぴ。」
「あぁ、分かってるぜ。少しずつでもムゲンダイナにダメージは確かに入ってる…ダンデさん!」
「おう!なんだ?降参でもするか?」
「冗談きついよ!勝負はまだまだこれからだぜ!」
ムゲンダイナの一挙手一挙動のためにスタジアム全体が盛大に痛めつけられてゆく中、バトルを進めるサトシとダンデは軽妙なトークを交えながらも目の前の真剣勝負に意識を振り切っていた。
「いけジュカイン!キミに決めたッ!!」
「じゅッか…!」
「チャンピオンサトシがここで再度投入するはジュカイン!インテレオン戦でのダメージも残る中どんな立ち回りをしてゆくのか!?」
「見たところムゲンダイナの放つ技エネルギーの性質からして、タイプはドラゴンとどく…もし合ってればジュカインにとっては最悪の相性と言って差し支えないでしょう。」
「しかし、あのジュカインはサトシくんのジュカインだ。きっと思いもよらない戦い方をするはず。」
タクトの呟きにナンテも頷く。タクト自身としては大きな実感あっての言だった。
『ジュカイン!リーフブレードだぁッ!!』
『じゅあああああ…じゅあああいッ!!』
3年前のシンオウリーグ準決勝。必殺技であるダークホールを受け、沈みゆく意識の中から主人の声に呼応して目覚め、ゆめくいのために意識を飛ばし、無防備であったダークライを斬り捨てて見せた。
『サトシくんといえばピカチュウ、リザードンにゴウカザル……それにゲッコウガのイメージが強いけど僕としてはやはりジュカインがイチ推しかな』
それまでずっと無双の快進撃を続けていたダークライを撃破したのはまさしくフィールドに降り立つジュカインなのだから。
「悪いが一気に吹き飛ばさせてもらうぜ!ムゲンダイナ!ダイバーン!!」
「なにッ!?」
「ぴかぁ!?」
頭部にほのおエネルギーが集約されていけばそれだけでスタジアム中の気温がみるみる上昇してゆく。
本場のほのおポケモンに負けず劣らずのパフォーマンスもムゲンダイナというポケモンの凄まじいスペックにより実現されていた。
バオッ!オオオオオッ!!
そして放たれるは強烈な熱線。バトルを見るものたちからはジュカインがなす術なく呑み込まれてゆくよりない様が目に焼き付けられていた。
「あーーーッとムゲンダイナ、ほのお技も覚えていた模様!!ジュカインに効果は抜群だーーーッ!!」
「流石はチャンピオンダンデ、試合巧者ですね。ジュカインの弱点を突くならダイアシッドでも問題ないだろうに"次"を見据えながら戦えている。」
放たれたダイバーンが射線上にあったフェンスを、客席を溶解させてゆく中、ナンテが言う『次』の意味を考える猶予は観戦者たちにはなかった。
「あっ!アレ見て!」
カスミが甲高い声と共に指差す先、そこにはダイバーンを受け焼き尽くされたはずのジュカインが跳躍していたのだから。
「そういうことか!」
舞い散る木の葉に、ダイバーンによる手応えがイマイチなかった理由としては至極単純明快なものだとダンデは思えた。
ジュカインはリーフストームにより体内から放つ無数のエネルギー葉を用いることで、擬似的なみがわりとして利用し難を逃れていたのだ。
「じゅぃかぁ!」
「ダーリン、ダイバーンをやり過ごすのにリーフストームを応用した、ってのはジュカインにとっても痛いんじゃないかい?」
「大幅なパワーダウンは避けられぬ故な。だが、本来ならば戦闘不能にされる一撃をやり過ごせた、というのが大きい。」
「そうか!ダイマックスの限界時間か!」
マスタード夫妻の会話でホップはハッとさせられる。システム上、ダイマックスは技3回分のタイムリミットが付き纏うのだ。
「ちょっとやそっとのパワーダウンなんて俺たちには関係ないぜ!!なぁジュカイン?」
「じぃかぁ!!」
サトシに頷くジュカインは眼下にコアを捉え、その頭上に現出する擬似太陽からエネルギーを吸収していた。
「しまったッ!!」
長期戦として全体を見据えての一手をまんまと利用されたとダンデは気付く。
ダイバーンによる膨大なほのおエネルギーの奔流は天へと昇り、一時的にフィールドを晴れの状態へ書き換える…その晴れ状態に事実上タダ乗りの形で放つは…
「ジュカイン!!ソーラービーム!!!」
「じぃぃぃやぁぁぁぁぁッ!!!」
ドッブアアアアアアッ!!
太陽エネルギーを効率よく吸収する力に長けたくさタイプのジュカインだからこそ放てる白色光線。
その軌道は正確にムゲンダイナのコアを捉えていた。
ドッガオオンッ!!
「ジュカインのソーラービーム炸裂ーーーッ!!ムゲンダイナのコアで爆発が起こったぞーーーッ!!」
「効果今ひとつでもコアへの直撃はたまったものじゃないみたいだな。」
「だけど、これしきで終わるくらいなら伝承に語られるほどのポケモン足り得ない…!」
それは伝説のポケモンとともに生きると引き換えに世俗との関わりを断つのがしきたりたる『寄り人の民』出身としてのタクトの直感だった。
「俺たちだってまだまだここからさ!ムゲンダイナ!!」
コアを集中的に狙われ、全体がよろめいたところでダンデの声に呼応したムゲンダイナが体勢を立て直す。
視界に入るジュカインの自由落下を見逃しはしない!
「その名の通り"∞"のパワーを見せてやれ!!ダイドラグーン!!」
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛…!!」
頭の中央部の光の先より放たれるはドラゴンエネルギーを吹き荒らす巨大な竜巻、
「じゅ、ぐあああああッ!!」
「ジュカインーッ!!」
その圧倒的な圧力に呑まれ、ジュカインの体はすっかりガランとなった客席まで吹っ飛ばされていった。
バリアフィールドが機能していたならばあり得ない光景である。
「ジュカイン、戦闘不能!ムゲンダイナの勝ち!!」
ギルガルドを向かわせたダンペーは、ジャッジを下してから完全に目を回したジュカインを抱えてフィールドへと戻る。
トレーナーに倒れたポケモンを回収してもらうようサポートするのも審判の仕事の範疇だからだ。
サトシ、残りポケモン2体。
ダンデ、残りポケモン1体。
「チャンピオンダンデの脅威の追い上げ!ムゲンダイナのパワーを前にここでジュカインもダウンし、チャンピオンサトシは残りあと2体!!」
「むう…これは厄介なことになってきましたな。」
残りポケモンの話ではない。ムゲンダイナが、『未だダイマックス状態のまま』であるというところがナンテからして脅威だった。
「ムゲンダイナのダイマックスは解除されないのか!?」
ホップは驚愕を隠せない。元来保有するスペックに加え、ダイマックスすら規格外であるムゲンダイナの強さに圧倒されていた。
周囲を舞う土砂に加え、空には膨大なエネルギーにより歪んだ時空がガラル地方のあちこちを映し出す異様な空模様を描く姿に対してのそれは、もはや畏怖といってもいい。
「おそらくはワシらの扱うダイマックス、キョダイマックスとは根本的に別物なのかも知れぬな。」
呟くマスタードとしては、伝承に語られる『ブラックナイト』の規模ともなれば、ムゲンダイナの影響はたかだかスタジアムとその周辺のみで済むはずがないと踏んでいた。
現状はダンデが制御出来るギリギリのところまでで抑え込んでいると見た。それが本来のパワーからどのくらい落ちているにしろ、サトシのポケモンたちを次々破るほどに強力で厄介な1体であることに変わりはないのだ。
「戻れジュカイン!…ありがとうございます。」
「ぴかぴかちゅ。」
ジュカインをボールへ戻し、客席まで吹っ飛ばされたのを回収して来てくれたダンペーにサトシとピカチュウは頭を下げる。
「次のポケモンを。」
ダンペーはサッと右手を挙げ応えてから審判サークルへと戻る。
『周囲のことは気にせず思いきり戦いたまえ』とのアイコンタクトに応え、サトシは次なる1体をフィールドへ送り込む。
「ゲッコウガ、キミに決めたッ!!」
「こがッ!!」
降り立つ背を見ながらサトシは帽子のツバを後ろに回す。
その瞳に燃え盛る闘志がまたぞろ熱量を増してゆくのがダンデには見えた。そして、その意図するところも…。
「ゲッコウガ!フルパワーでいくZ(ぜ)ッ!!」
「こがぁ!!」
バシュウウウーーー…!!
サトシが左手を胸の前に持っていけば、ゲッコウガの動きもシンクロする。
体が、精神(こころ)が、1つに溶け合うイメージの果てにゲッコウガを包み込むは、夜空を覆う黒雲を切り裂かんとする勢いの水流!
「いよいよ直接やり合う時、か…!!」
ダンデは白い歯を見せる。
3年前のカロスリーグで一世を風靡し、PNTTにて我らがチーム<シュート>の進撃を食い止めし勇士の降臨に、武者震いとともに好戦の笑みを浮かべた。
「こぉぉぉがッ!!」
「あーーーッと!!サトシゲッコウガです!!バトル世界一の称号を賭けた怒涛の大一番にサトシゲッコウガ!サトシゲッコウガ見参ッッッ!!」
「今更なんだけど…アレってメガシンカとは違うのかしら?」
「現象だけを捉えるならば本質的にはかなり近いとプラターヌ研究所から見解は出ています。が、同時にプラターヌ博士はあの形態については、チャンピオンサトシのゲッコウガが固有で持つ特性がきっかけとして発動する一種のフォルムチェンジに相当すると発表しているのでポケモンバトルの公式ルールとしては別物の扱いになってますね。」
「そうなんですか。」
「そもそも発現ケースが極めて稀なキズナ現象に関して外部に発表を出せるところまで研究を推し進めてみせたプラターヌ博士以下研究スタッフの努力には頭が下がりますね。」
それは心からの敬意である。ナンテにカスミも頷いていた。
ムゲンダイナを見上げる。その視界はゲッコウガのものだ。
今のサトシはゲッコウガと五感をリンクさせ、正しく『ゲッコウガになっている』状態だ。
『俺、すっげぇ、嬉しいんだ。こんなでっかい舞台で、最強の相手とのバトルでお前と一緒に戦える日が来たのがさ。』
精神世界の中でサトシとゲッコウガは並び立つ。同じ方向、同じ思いを胸に抱いて。
「どこからでもかかって来いサトシゲッコウガ!!ムゲンダイマックスタイムでお相手しよう!!」
両手を目一杯広げるダンデとサトシは笑い合う。そして右拳の甲をグイと見せた。
「やるぞゲッコウガ!!思いっきり暴れてやろうZ!!」
「こがぁぁぁッ!!」
サトシゲッコウガは跳ぶ。
勝利を、本当の世界一を主人に捧げる…そのために彼は帰って来たのだから。
『ガラルの歴史』
博士となったソニアがまず最初に行ったこと、それは本の出版だった。そのタイトルが『ガラルの歴史』である。
ザシアン、ザマゼンタの存在を絡めたブラックナイトからなるガラル発祥の歴史をそれまでにない独自視点で切り込んでいる。
ただ、研究者としてはまだまだ稚拙な本人の文章力と通説との乖離ぶりから、学会の重鎮からすればいわゆる与太話の域を出ていないという評価だ。
ガラル王家の関係者曰く『ロイヤリティから見れば取るに足らないゴシップに過ぎず、こんなのにいちいち目くじらを立てるようなのは程度の低いセレブリティくらいのもの』とのこと。