3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
残り1体となった相棒に全てを託し、超ゼンリョクのもとに残るパワーをぶつけるより他に考えることなどなかった。
ダンデは幼少期よりおおらかな性格に加え、その人懐っこい笑みから周りに好かれる性質と、ポケモンバトルに関しては天性の素質とともに勝利のための最適な道筋を選び、躊躇いを捨てて邁進出来る冷徹さを併せ持っていた。
故にピカチュウがダイドラグーンを持ち堪え、Zワザを強行してきたとて周囲ほどの驚愕は抱かなかった。このくらいのガッツならば3年前から見せていた相手なのだ。
「迎撃だムゲンダイナ!電撃ごと撃ち落としてやれ!!」
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛…!!」
ムゲンダイナの全身から幾百、幾千という数のビームが7色の電撃と、その中心にいるピカチュウを撃ち抜かんと放たれる。
ダンデを襲う未知の脅威はここからだった。
「な、なにィッ!?」
「タケシ!アレって!?」
「あぁ…間違いない。」
夜空に輝く7色を見上げたままのカスミとタケシの胸に湧き上がるはとてもノスタルジックな感情だった。
「あーーーッと!?ピカチュウの1000まんボルト、7色の電撃が無数に細分化され、さまざまな形を作り上げてゆくーーーッ!?」
「お二方は、アレがなにかご存じなんですよね?」
ナンテの問いかけにカスミもタケシもハッキリと頷く。
ピカチュウの1000まんボルトが形を変え、現出させる数多の影は…!
「えぇ。アレは…。」
「サトシがこれまでにゲットしてきたポケモンたちですよ。」
バチチチチチチチィィィッ!!!
バタフリー…ピジョット…フシギダネ…ゼニガメ…キングラー…ラッタ…コノヨザル…30体のケンタロス…バリヤードのバリちゃん…カビゴン…ラプラス…
最も未熟だった時代からサトシを支えてきたカントー時代のポケモンたちを模した電撃が、ピカチュウへ迫るビームの雨を打ち払ってゆく。
バチチチチチチチィィィッ!!!
ヘラクロス…ベイリーフ…ヒスイバクフーン…ワニノコ…ヨルノズク…ドンファン…スピアー…アズマオウ…ヨーギラス…
カントーからオレンジ諸島の冒険を経て、ほんの少し成長したサトシの元に集ったジョウト時代のポケモンを模した電撃が、
バチチチチチチチィィィッ!!!
オオスバメ…ヘイガニ…コータス…オニゴーリ…エイパム…
サトシが実力者としての立場を少しずつ固め始めた頃のホウエン時代に仲間入りしたポケモンたちとともにムゲンダイナの顔面に飛びかかった。
「グア゛ウ゛ア゛ア゛ア゛…!!」
突き刺さる電撃1つ1つは微弱なれども、束となることでムゲンダイナの顎を仰け反らせる。
バチチチチチチチィィィッ!!!
ムクホーク…ドダイトス…ブイゼル…グライオン…ガブリアス…
「…味な真似をする。」
最強のライバルとぶつかり合い、より強さを磨き上げたシンオウ時代のポケモンたちがムゲンダイナの首筋へ襲いかかるのを、当人はトキワジムの自室で観ていて無意識に口角を上げていた。
バチチチチチチチィィィッ!!!
ケンホロウ…ミジュマル…エンブオー…ツタージャ…ズルズキン…ハハコモリ…ガマガル…ガントル…ワルビアル…
カントーからシンオウまでの『ニッポン共栄圏』を離れた先での初めての冒険をともに駆け抜けたイッシュ時代のポケモンたちもまた発進し、
バチチチチチチチィィィッ!!!
ファイアロー…ルチャブル…ヌメルゴン…オンバーン…
同じく渦巻部分へ撹乱をしかけるカロス時代のポケモンたちによりムゲンダイナの全身より放たれる対空砲火のビームの狙いが狂わされてゆく。
バチチチチチチチィィィッ!!!
モクロー…ルガルガン…ガオガエン…ソルガレオのほしぐも…アーゴヨン…メルメタル…
戴冠の地、アローラにて得難い経験をともに刻んだポケモンたちと、
バチチチチチチチィィィッ!!!
カイリュー…ゲンガー…ネギガナイト…ウオノラゴン…
バチチチチチチチィィィッ!!!
エクスレッグ…イーユイ…ウェルカモ…
世界の頂点を掴んだポケモンたちに、今年新たに仲間となったポケモンたちがコアへの道を切り拓いた。
「く、くそッ…!?」
ダンデは歯噛みするよりなかった。ムゲンダイマックスが如何にその名の通り∞(無限大)の力を振るおうとも、それが適切な攻めとしてダメージに繋がらなければ勝利は画餅にしかならぬと誰よりも理解していたからだ。
100mの超弩級ボディから放つ強固な対空防御が、絶え間なく飛び交う7色の電撃の矢による怒涛の襲撃により完全に殺されたのだ。
バチチチチチチチィィィッ!!!
「ぴかぁ…!!」
リザードン…ジュカイン…ゴウカザル…ゲッコウガ…ルカリオ…
真のバトル世界一のために仲間たちを代表して集い、この決戦を戦い抜いた5体が頷く。
そして、ピカチュウのボディを押し出すように運び始めた。
「コレが!!!俺たちみんなの超ゼンリョクをさらに超えた超・超ゼンリョク!!!!」
「ぴかぴかぴかぴかぴかぴかぁぁぁぁぁ…!!!!」
「1000まんボルト・ユナイトッッッ!!!!!」
「ぴぃぃぃかぁぁぁぁぁッッッ!!!!!」
先に放たれた1000まんボルトがムゲンダイナの全身を打つ中、トドメのためにピカチュウが7色の輝きを纏い一直線に飛ぶ。
「コレが…最後の一撃だぁぁぁぁぁッッッ!!!!!」
「ぴかぁぁぁぁぁッッッ!!!!!」
サトシとピカチュウだけではない。サトシのもとに集ったポケモンたちみんなの魂が咆哮していた。
バッッッチィィィィィッッッ!!!!!
「ギヤ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛…!!!」
ピカチュウが自らを弾丸とし、7色に眩しく輝く電撃の矢となればコアを襲い、そのまま突き抜けた。
「「(決まったッ!!)」」
マスタードとナンテは同じタイミングで内心呟く。
「ぴぃッ!」
その身でコアを射抜いたピカチュウはフィールド中央部で着地するも体がよろめく。
ギリギリ堪えて見せただけでムゲンダイナのダイドラグーンが直撃したダメージが甚大なのは変わらない。ピカチュウという種族的な耐久力から考えても、正直立っていられるのが奇跡としか言いようがないのだ。
「ギ…!ギ…!ギ…!」
そのムゲンダイナは全身からエネルギーが流出していき、やがて異形を極めたムゲンダイマックスから竜骨にコアを抱えた従来の姿へと戻る。
ズゥゥゥン…!!
そして、地響きとともに20mのボディをフィールドへ落着させ、そのまま沈黙した。
そこにポケモンチェックのためギルガルドに乗ったダンペー審判が向かう。
ムゲンダイナ投入からずっとバトルの余波から身を守り続け、肩周りを黒、他を白のツートンに纏めた審判用ユニフォームは全身泥だらけだ。
その汚れを勲章としながら、ダンペーは最後のジャッジを告げた。
「ムゲンダイナ、戦闘不能!ピカチュウの勝ち!!よって勝者、チャンピオンサトシ!!」
「ゆ…ゆ…優勝決定ィィィィィッ!!ポケモンワールドチャンピオンシップスマスターズトーナメント!!2000年度大会を制し、ミレニアムワールドチャンピオンとなったのはチャンピオンサトシ!!チャンピオンサトシが連覇達成ィィィィィッッッ!!!」
「ブラボー!!オー!ブラボー!!」
頭の上で拍手をするナンテ。その橙色のフチの眼鏡の奥にある瞳は感涙していた。
サトシがこれまでの冒険の中で数多のポケモンたちと絆を育んできた足跡そのものをZワザとして昇華し、その上で勝利して見せた姿に激しく心を突き動かされたのだ。
彼らこそがポケモンとトレーナーの在るべき姿だという改めての確信とともに。
「ふふ…見事だったよサトシくん。優勝おめでとう。」
そんな中、タクトとザシアンがスタジアムの屋根に移るのを認識出来た者はいなかった。
皆決着を見届けた興奮で彼らを意識の外に追いやっていたからだ。
「またいつか、出会う時を楽しみにしているよ。」
そうしてタクトとザシアンはシュートシティの夜空へと完全にその身を溶かし、完全に消えてゆく。
その行先は、誰も知らない。
「はぁ…はぁ…出来た…上手くいった…1000まんボルト・ユナイト…。」
1000まんボルトのバージョンアップ。構想としては3年前のマスターズトーナメントの時点から朧げながらあった。
脳内プランでしかなかったものを土壇場で形に出来たのはそこから3年間の鍛錬と、それらを踏まえた上で今年ゼンリョクで走り抜けたからだとサトシは思えた。
「うおッ…!?」
フィールドにてへたり込んだまま動けなくなっているピカチュウを迎えに行かんと出した足がもつれる。
自身の体もまた限界を迎えていたことにようやく気付いた。
「「サトシ!!」」
前のめりに倒れそうなところを間一髪、カスミとタケシが滑り込み肩を貸す。
両サイドの見慣れた顔は、祝福と心配がない交ぜになっていた。
「まったく!いつまで経っても無茶する癖は治んないんだから。」
「まぁ無理もないさ。サトシゲッコウガのダメージフィードバックの後に"限界を超えたZワザ"を立て続けに使ったんだからな。」
「ハハ…ごめんごめん。」
ヒステリーというほどではないが遠慮のないカスミと、終盤の無茶を的確に指摘するタケシにサトシは苦笑いするよりない。
体が言うことを聞かない以上ここはおとなしく2人の肩を借りることにした。
「よくやってくれた、戻ってくれムゲンダイナ。」
膝をつき、視線を合わせながら倒れたムゲンダイナを労いボールへ戻す。
そこから立ち上がるダンデは、俯く顔を上げれない自分に気付いた。『無敵の男』などと呼ばれているが、18年間続けて来たトレーナー人生の中で負けたことはいくらでもある。
だが、こうも顔も上げれぬほどに悔しいなど、一体いつ以来だろうか…?
「お疲れ様。」
ポン、と右の肩に置かれた温もりにダンデが振り向けば、そこには柔和な表情を向けたソニアがいた。そしてダンデは思い出す。
彼女こそが、自分に『負けの悔しさ』を初めて教えてくれたことを。
「兄貴ィ〜…。」
そんな2人の間に涙声のホップが駆け寄る。
表情こそ平静を取り繕っているが声色が全くもって抑えきれていない様がなんともダンデにはおかしかった。
「ウルゥー…?」
主人のあまりの取り繕えなさにザマゼンタからも困惑の感情が漏れ出ている。
「なんだホップ、お前が泣いてどうするんだよ。」
ハハハと笑って見せながら弟の頭をクシャクシャと掻き回す。
改めてソニアを見れば、そこにはいつもの彼女の眼差しがあった。
「ダンデちん。いいバトルだったよん!」
「マスタード師匠!女将さん!」
次いで声をかけてくる師匠と女将さんに、ダンデとしてはてっきり2人はサトシ側だと思い込んでいた。
「負けっぱなしのままになんてしておかないよね?」
声をかけてきた夫妻の懸念するところも痛いほどによく分かった。
完全燃焼こそが人からモチベーションを奪い、衰退へ誘うという話を、道場時代に幾度となく聞かされていたのだ。
「師匠…。」
ダンデはマスタードへ深々と頭を下げる。そこにはPNTTの時に道場を、夫妻の好意を袖に振ることになった後ろめたさの清算も含んでいた。
「また1から…いや、0からやり直します。俺を鍛え直してください!」
「いいよーん!また一緒にたくさん修行しようねん!」
なんともあっけらかんとした、というよりはもはや気の抜けたマスタードの返答にソニアとホップは軽くズッコケかけてしまう。
ミツバは、師弟の距離が元に戻ったことを喜んでいた。夫とダンデとの間で別段何かがあって離れた、というわけでもないのだが…。
「にしても見事にやられたぜ…最高だな、お前も、サトシも。」
「ぴかぁ…。」
マスタードとの変わらぬ絆を確認したダンデは、フィールド中央へ向かう道すがらにダンデはピカチュウを拾い上げ、合流したサトシの肩に乗せてやる。
ダンデたちが来る頃にはサトシも1人で立って歩く分には問題ない状態まで回復していた。
「負けたぜ、完敗だ。」
「ダンデさん…。」
シンプルに言葉を紡ぐダンデにサトシは右手を差し出す。
「ダンデさん。対戦、ありがとうございました。」
「こちらこそ対戦ありがとう。次は負けないぜ。」
ウオオオオオオオッ!!
サトシとダンデがガッチリと握手を交わすところで一際大きな歓声が轟いた。
試合が終わったタイミングで避難していた観客たちが戻ってきたのだ。
オオオオオ!!オオオオオ!!
「ポケモン歴2000年のミレニアムイヤー…その終わり際を数々の死闘で彩ったポケモンワールドチャンピオンシップス・マスターズトーナメント!!全ての戦いを勝ち抜いたディフェンディングチャンピオンの手に今!連覇の証たるトロフィーが贈呈されます!!」
試合が終わってほんの少しの休憩を挟み、フィールドに設置された台座にてサトシはダンデから黄金の優勝トロフィーを受け取る。
3年前はその重さに若干よろめいたが、今回はしっかりと受け止めて見せる。
サートーシ!サートーシ!サートーシ!サートーシ!サートーシ!
「これでもう誰も疑いやしない。サトシ!お前が…お前たちが!正真正銘の"バトル世界一"だ!!」
ダンデからの賛辞にサトシは白い歯を見せ、周囲に居並ぶ仲間たちへと視線をやる。
「ぐるぅ。」
リザードンは器用に右手でサムズアップを作り、
「じゅか。」
ジュカインは腕組みしたまま、新しく見繕ったいい感じの枝からパッ!と花を咲かせて見せる。
「むきゃきゃ!」
ゴウカザルは無邪気に頭をかき、
「こが…。」
「こるぅ。」
ゲッコウガとルカリオはサトシを中心に背中合わせで腕を組んで笑みを見せた。
「ぴかぴ。」
「あぁ!」
主人の周りを固める勇ましき勇士たちを見回す肩の上を指定席として、ピカチュウは呼び掛ける。
頷くサトシがトロフィーを高々と掲げれば、
ドワオオオオオオオッ!!!
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!!!
この日1番の歓声が、拍手が、半壊したシュートスタジアムを包み込む。
拍手を送るのはベンチのカスミやタケシばかりではない。仲間たちもまた、画面越しに思い思いの祝福を送る。
サトシは、確かな栄光の只中で本当のポケモンバトル世界一を噛み締めた。
PWCS決勝戦(後半戦ハイライト)
サトシvsダンデ
フルバトル
サトシ ダンデ
ジュカイン◯ インテレオン●
→リザードン
リザードン◯ リザードン●
リザードン● ムゲンダイナ◯
(ムゲンダイマックス使用)
ゴウカザル● ムゲンダイナ◯
ジュカイン● ムゲンダイナ◯
ゲッコウガ● ムゲンダイナ◯
ピカチュウ◯ ムゲンダイナ●
(Zワザ使用)
勝者 サトシ