3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 サトシとピカチュウの強い絆が生み出した1000まんボルトは、サトシがこれまで仲間に加えて来たポケモンたちとの絆も重なり合わせたことで超ゼンリョクを超えた先の輝きを現出させた。
 ダンデを、ムゲンダイマックスを打ち倒し、ついにサトシは正真正銘の『バトル世界一』を手にしたのだった…。

このお話のサブタイトルは1番最後まで読んでいただけると分かります。


最終章!マスターズトーナメント 最終話

「かー!」

 

「かー!!」

 

「かー!!!」

 

「「「かーか、かっか〜!!!」」」

 

 マサラタウンに朝日が昇ってきたことを告げるドードリオの役目はいつどんな時であろうとも何ら変わることはない。

 ポケモン歴2001年、1月5日。PWCSを戦い終えたサトシが帰郷し、そのまま2週間の間にミレニアムイヤーは過ぎ去っていった。

 

「おうサト坊!これから研究所かい?」

 

「おはようおじさん。うん、ちょっとね。」

 

「ぴかぴか〜。」

 

 1日の始まりを迎え、これまた変わることのない人の営みがあちこちで広がる中に見慣れた顔としてサトシは溶け込んでいた。

 近所のおじさんと軽く一言二言交わしてからその足は朝から研究所へと向かう…。

 

 

 

「こんにちは。あけましておめでとうございます。」

 

「あら〜シゲルくん!あけましておめでとう!」

 

 朝、サトシの家に尋ねてくるのはハナコからしても顔馴染みの甘いマスク。町の名士たるオーキド一族の子息ながら不肖の息子と今でも友達付き合いをしてくれているシゲルをありがたい存在として出迎えた。

 

「サトシくん、いませんか?」

 

「サトシなら研究所じゃあないかしら。」

 

「そうでしたか。なら、お邪魔しました。」

 

「いつでも遊びにいらっしゃい。」

 

 ペコリ、頭を下げて早々に立ち去るシゲルをハナコは気にも留めず手を振って見送る。

 どこに行っていたかは知らないが、帰郷して自宅より先にサトシの元に顔を出しに来るシゲルの意図から、ハナコは我が子の次なる旅立ちをなんとなく予見した。

 母の勘、である。

 

 

 

「ふぃー…今日もいい天気だなピカチュウ。」

 

「ぴぃかぁー…。」

 

 彼方にある研究所へ頭を向けた形で仰向けにサトシは寝転がり、その隣にピカチュウも倣う。

 彼らの周りにて同じように寛ぐはサトシのポケモンたちばかりではない。帰郷してから自宅とオーキド研究所の間を行って帰る日々…その中でサトシは特段何をするということもなかった。

 ただ研究所の敷地内をブラブラ歩き回り、自分のや、預けられているポケモンたちとのんびり遊ぶだけの生活を送っている。

 コレをしているのがロクに働き手にもならぬいわゆるプータローの類ならば後ろ指の1つも差されて仕方のない話だが、サトシはアローラリーグのチャンピオンにしてPWCSにおけるワールドチャンピオンだ。

 彼なりのスケジュール、生活リズムがあるのだろうと町の人々は特に触れることもなくフランクに接していた。

 

「いたいた。」

 

「シゲル!」

 

 相も変わらずの憎たらしいほどに端正な顔立ちにサトシは上体を起こせば、シゲルも隣にドカリと座り込む。

 

「今帰ってきたのか?」

 

「またすぐに出るけどね。」

 

「忙しいんだな。」

 

「正真正銘のワールドチャンピオン様に比べたら大したことないさ。」

 

 皮肉をサトシはスルーする。

 それだけでも人同士のやり取りをするために多少は進歩したようだ、とシゲルはニヒルな笑みを作って見せた。

 

「…きみはダンデさんに勝った。それも、今回は対等の条件で、そのうえムゲンダイナまで持ち出してなりふり構わず勝ちに来ていたダンデさんに、だ。」

 

「ギリギリだったんだぜ?ピカチュウが踏ん張ってくれなかったら負けてた。ピカチュウだけじゃあない。みんなで掴んだ勝利なんだ。」

 

「でも確信はあったんだろう?"俺のピカチュウなら"…って。」

 

 沈黙を肯定の意とシゲルは見た。

 土壇場において、『自分のポケモンならば』と全幅の信頼を寄せられないやつにポケモントレーナーの資格も甲斐もないというのが、サトシもシゲルも共通して持つ矜持であった。

 

「ふー…。」

 

 1年かけてPWCSの復活開催に照準を合わせ修行を重ね、その成果として求めたに足りるどころかそれ以上のものを得た充足感が、サトシの中で同量の虚無感へと反転しているのがシゲルからは見えた。

 

「それで…きみが目指してるポケモンマスターにはいくらか近づけたのかい?」

 

 問いかけは、幼馴染の尻を蹴り上げるも同然のものだ。

 

「ちょっとだけかな。まだまだ先は長いよ。」

 

「そうかい。」

 

 さりとてそれは心配の材料になるかと言われればそうでもない。

 シゲルは、人には歩き出すための『充電期間』が必要であることを知っているからだ。

 

「正真正銘、世界で1番強いポケモントレーナーになってまだまだ先とは、随分と見果てぬところにあるみたいだね。きみのポケモンマスターは?」

 

「まぁね。」

 

 『全てのポケモンと友達になる』というのがサトシの目指すポケモンマスターであり、まだまだ道は長く続いている。

 その道を生涯を通じて歩き続けることこそが自分の人生であるとサトシは確信していた。

 

「シゲルは今度どこに行くんだ?」

 

「今年の年明けに新しく全国入りが決まった新しい地方のポケモン研究所にね。つい最近全国図鑑に登録されたポケモンたちの調査のためにしばらくは腰を据えて動くつもりさ。」

 

「新しい地方?」

 

 シゲルがポケットからスマホロトムを取り出せば慣れた手つきで操作をしていき、お目当ての画像群をサトシに見せる。

 

「わぁ〜!いいなぁ〜!」

 

「ぴぃか〜!」

 

 そこにはカントーからパルデアまで、サトシとピカチュウが足を運んだ場所のどこにも住んでおらず、無論のことまだ出会ったことのないポケモンたちの姿があった。

 

「シゲルも頑張ってるんだな!」

 

「全てのポケモンの謎を解き明かす…それが、僕の目指すポケモンマスターだからね。」

 

 目をキラキラと輝かせる彼らのリアクションは、シゲルからして3年前と何ら変わることのないものだった。

 

「それじゃあ、どっちが先にポケモンマスターになれるかの勝負だな!」

 

「いいだろう。バトルじゃあ引導を渡されたがこればかりは負けられないな。」

 

 互いの夢を共有し、ライバルとして爽やかな宣戦布告を交わしてからシゲルは、ふと浮かんだ思いつきを口にする。

 

「ねぇサトシ。確かきみ以前、サクラギ研究所所属のリサーチフェローだった時期があったんだよね?」

 

「あぁ。ゴウと一緒にな。それがどうした?」

 

「いやね?今回の出向は、ポケモン研究業界の異文化交流も兼ねてニッポン共栄圏から公認の立場として代表で2人選出されてのことでね?その内1枠がナナカマド研究所からの推薦で僕に決まったのはいいんだけど、もう1枠がサクラギ研究所所属のゴウに白羽の矢が立ったんだ。」

 

「あぁ…なるほどね。」

 

 サトシとしてもなんとなく事態を掴んだ。シゲルへの苦手意識を強く持つゴウのあからさまに嫌そうな顔が浮かぶ。

 そして、その読みはそのまま的中していた。

 

「そのゴウなんだけど、どういう訳か出向を辞退してきたらしいんだ。」

 

「なんでなんだろうなー?」

 

「ぴかぴかー?」

 

 わざとらしく首を傾げて見せるサトシとピカチュウの様子を察しながらもシゲルはそこに関しては無視をした。

 早い話がゴウはシゲルと一緒に動くのを拒否したのだ。

 

「そこでなんだけどさ…サトシ、僕と一緒に行かないか?」

 

 出向の条件自体はなんら問題はない。サクラギ研究所に身を寄せていた時期のあるサトシなら、一時的な復職として扱ってもらうのも容易い話だからだ。

 

「新しい地方かぁ…。」

 

 遠い目で白い雲の流れる青空を見上げる。

 その瞳の輝きに、シゲルはサトシの新たなる始動を確信していた。

 

 

 

「サトシ。ちゃんとご飯の前と後に歯磨きはするのよ?ピカちゃんたちとも仲良くすること。」

 

「分かってるよママ〜。」

 

「ワールドチャンピオンもママさんには依然として形無し、か。」

 

「ぴかぴか。」

 

 翌日の正午、サトシとシゲルは町の皆総出の見送りを受けていた。

 ハナコとのやり取りに母子の確かな絆を感じながら微笑むケンジにサトシは憮然とした表情を向ける。

 しかしこればかりは一生このままなのだろうとも思う。子を想う母の愛に勝てるものなどはこの世に存在しないからだ。

 

「ではオーキド博士、行って参ります。」

 

「うむ。体には気を付けてな。」

 

 仕事として赴く都合上、シゲルはオフィシャルな応対で以て祖父とのやり取りに終始した。

 家族としての交流は、昨日帰宅してから済ませている。

 

「じゃあみんな!行ってきます!!」

 

「だねだーね〜!」

 

 旅立ちを見送るのは町の人ばかりではない。研究所に預けられたサトシとシゲルのポケモンたちも同様だ。

 

「べ〜い〜!!」

 

「かんび〜!?」

 

「わわ、ベイリーフ!?私も連れてけっていうのか!?」

 

 必死に宥めにかかっていた仲間たちの制止を振り切り、囲いを飛び出して引っ付くベイリーフにサトシは苦笑をした。

 

「しょうがないなぁ、もう〜。」

 

 サトシのポケモンたちの中でも一、二を争うカビゴンの剛力すら振り払ってこられては袖にするのも忍びなかった。

 彼女の熱意に負け、ボールに入れる。そこからサトシは、先を進むシゲルに走って追い付いた。

 

「相変わらずそのベイリーフには物凄く愛されてるみたいだね。」

 

「いつも押しが強くて困っちゃうぜ。」

 

「ぴかぁ。」

 

 サトシが好きすぎて抑えの効かないベイリーフの様にピカチュウも苦笑いしながら頷く。

 チコリータの頃より彼女の我儘には手を焼かされっぱなしなのだ。それ自体に関しては先輩として悪い気はしていないが。

 

「んー…。」

 

「どうかしたかい?」

 

「いや、まさかこうやってシゲルと一緒にマサラタウンから出発する日が来るなんて思わなくてさ。」

 

「確かに。3年前の僕らに話しても信じてはくれなさそうだ。」

 

「シゲルはガールフレンドたちもいたもんな。」

 

 スタスタと歩を進める2人の足には、ピカピカの新しいシューズ。サトシは母からの、シゲルは姉からの餞別であった。

 これからまたどこまでも遠くを目指す2人の道行きを支え、経験とともに汚れ、傷付いてボロボロになってゆくであろう。

 それらは全て、誇るべき男の勲章なのだ。

 

「この辺りだったかな?昔、きみたちがホウオウを見たって道は。」

 

「あぁ。大変だったんだぜ?ピカチュウがオニスズメの群れにやられちゃってさ。」

 

「カスミから聞くに、全部きみの自業自得だって話だけど?」

 

「カスミの奴ー…!」

 

「ぴかかかか…!」

 

 人の恥部を遠慮なく身内へ拡散して回っているこの場にいない『おてんば人魚』にサトシは呻くよりなかった。

 ピカチュウもケラケラと笑っている。

 

「でもホントに見たんだぜ?雨上がりで晴れてく空にバサバサーッて。」

 

「誰も信じてないなんて言ってないさ。」

 

 幼馴染の未熟であった頃のやらかしは笑い話として受け取るものの、ホウオウの話に関してシゲルが疑うことはない。

 オーキド博士から伝え聞く話の数々から、サトシにはポケモンを惹き付ける天性の何かがあると思っていた。

 そして、それは伝説のポケモンに対しても変わらず作用するのだろう…。

 

「あっ。」

 

「ぴっ。」

 

「サトシ、きみってやつは…。」

 

 噂をすれば、とでも言うべきか。7色に輝く『虹色の羽』で構成された翼で以て、大空を飛翔する赤き巨影がその雄大なる様を下界へと晒し、やがて彼方へと消えていく。

 

「ショオオオーーーッ!!!」

 

 ホウオウの羽ばたきを、その神秘に満ちた姿を、サトシとピカチュウ、シゲルはただただ瞳に焼き付けた。

 

「なぁシゲル。」

 

「なんだい?」

 

「新しい地方に着いて、新しいポケモンをゲットしたらさ、そいつらでまたバトルしようぜ。」

 

「いいね。条件が同じならこちらにも勝ち目はありそうだ。」

 

「負けないぜ!」

 

 少年たちは走り出す。まだ見ぬ地平を目指し、各々が胸に秘めた見果てぬ夢のために。

 

 

 

「ピカチュウあるところに我らロケット団在り…逃がしゃしないわよ〜ジャリボーイ〜…!」

 

「にしてもボスも気前いいよなぁ。わざわざファーストクラスを取って送り出してくれるなんてさ。」

 

「ニャーたちが期待されてる証拠ニャー。」

 

「そーーーなんッすッ!!」

 

 ホウオウを見届けたサトシたちがそのまま辿り着いたクチバシティの空港にてのこと。乗り込んだ旅客機にはロケット団のお騒がせチームも同乗していた。

 狙いはもちろん、サトシのピカチュウゲットである。

 

『ムサシ。コジロウ。ニャース。かねてより一任している"世界最強のポケモン調達プロジェクト"の遂行はそのままに、お前たちには新しい地方への占領区域拡大を目指す現地スタッフへの支援任務にも並行して参加してもらいたい。』

 

 サトシとシゲルがマサラタウンを出たところを尾行してる際にサカキ直々に入ったメッセージがコレであった。

 

『先に現場入りしたスタッフの大半はまだまだ経験が浅く、現地の有力組織を相手に遅れを取っているらしい。元より任せてある任務との並行で厳しいことになるかも知れんが、コレもお前たちの力量を頼みにしてのことだ。我らロケット団の栄光に満ちた明日のため、健闘を祈る。』

 

「イヒヒヒヒヒ…!"頼みにしてのこと"…だって!」

 

「ニシシシシシ…!"健闘を祈る"…だって!」

 

 搭乗してからずっとニヤニヤと笑みが止まらないロケット団に機内のキャビンアテンダントたちは気味悪がっているが、当人たちはそんなこと意に介していない。

 

「ナハハハ〜!今に見てろニャ、ペルシアン!近いうちにおミャーを引き摺り下ろしてサカキ様の膝の上はニャーが頂くニャー!!」

 

「それで俺たちも出世して幹部昇進、支部長就任!!」

 

「はい、それでは皆さん!最後の最後にご一緒に〜!」

 

「なんだかとっても〜…!!」

 

「「「いい感じ〜〜〜!!!」」」

 

「そーーーーーなんッすッ!!!」

 

 

 

 カントー地方から遠く離れた新しい地方。その全てが新鮮であった。あちこちを駆け回り、初めて見るポケモンを見かけてはコンタクトを取る。

 そんな様子をニャース型の気球が空の上から尾行する中、サトシはバトルまで漕ぎ着けた野生のポケモンをいい感じに追い詰めていた。

 

「ぴっかぁ!」

 

「いいぞピカチュウ!後は任せろ!!」

 

 ピカチュウの攻撃を受けて相手ポケモンはフラフラとなり、絶好のチャンス到来だ。

 サトシは取り出したモンスターボールのボタンを押し、ピンポン玉サイズからソフトボールサイズへと拡大させる。

 

「いくぜ!新しい地方での最初のモンスターボール!!」

 

 今までも、そしてこれからもこうしてゆくのだ。自分がなると決めた大きな夢のために。

 『大人になるための目覚めが待つ子供の夢』ではなく、『確かに存在する1つの世界に生きる1人の人間』として。

 持てる力の限り右腕を振りかぶり、弱ったポケモンめがけてサトシはボールを投げながら思い切り叫んだ。

 

「ポケモン、ゲットだぜーッ!」

 

 

 

『最終章! マスターズトーナメント 最終話』

 

 

 

 『めざせポケモンマスター』

 

 

 

 NEXT TIME…A NEW BEGINNING!

 

 

 




 『ポケモンマスターとは』
 誰が言い出したのか、どういう定義があるのかは分からない。少なくともポケモンと何よりも深く結びつきを強めたものが至る境地であろうことは一部の強者のみがなんとなく察するのであろう。
 だからこそサトシは行く。
 ポケモンと一緒にどこまでも、目指した夢へ向かって一直線に。

今回で本編は完結となります。ここまで読んでいただきありがとうございました。あといくつか外伝作を掲載したいと思ってますので、そちらも読んでいただけたら嬉しいです。
 
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