3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
「着いたーミナモシティ!」
「ここからまたトクサネシティ行きの船に乗り換えるんだ。行こうユリーカちゃん!」
「うん!」
「でーねねー!」
ポケモン歴2000年11月。
カロス地方からの長いフライトで座席に縛り付けられていたも同然であったマサトとユリーカは、空港から船着場まで一気に走り出した。
タクシーを捕まえれば早い話だがずーっと座り続けていた分シンプルに体を動かしたかったのだ。
「(うふふ、お2人とも元気一杯ですわね。)」
「(チンタラしてたら置いてかれちゃうわよ、ほら早く。)」
人前であるのを憚り、テレパシーで会話するサーナイトが急かすのは上半身と額のピンクダイヤモンド、ティアラのように配された頭部の結晶が特徴の一見少女と見紛うボディに、下半身になっている岩塊もまたダイヤそのものというほうせきポケモンディアンシーだ。
幻のポケモンがマサトとユリーカに同道するきっかけとしては、2人は合同合宿としてマサトが海を越え、ユリーカとともにカロス中を巡りながらトレーナー修行に変わらず励んでいた数日前まで遡る。
10月に行われた地方予選においてマサトはホウエンリーグ、ユリーカはカロスリーグにそれぞれ参加し、ともに優勝。来年3月のチャンピオンリーグに向けてのトレーニングの最中だった。
「く、くそぉ…!」
「メレシーたちは逃がせたけど…!」
セキタイタウンとシャラシティの間、11番道路にある映し身の洞窟内にてメレシーを追い立てていたぶくぶくと肥えた中年男が繰り出すハッサムに2人は苦戦させられていた。
元より鋼鉄の成分を含む真っ赤な外殻に覆われたメカニカルなボディが特徴なハッサムであるが、その全身を銀色の鋼鉄そのものに包み込まれているのでまともにダメージを通せないのだ。トレーナーの力量に関しては別段大したことはない。
「あーあー、まったくぅ〜。この偉大なるスクライアの民にして有力なるフェルベート様28歳に逆らうなんていけないことなんやっど?」
このように聞いてもいない自惚に満ちた自己紹介と自分の凄さのアピールに終始するのみでろくにハッサムに指示など与えていないからだ。
「どうしてメレシーたちを虐めたりするんだ!」
「はぁ〜。これだから正義感ばかりで実力の伴わない無能は発想力が貧相で困るんどぉ。答えは簡単やっど。メレシーが逃げる先にはダイヤモンド鉱国があるだど〜?そこにある"聖なるダイヤ"は、我らスクライアの民こそが管理するに相応しいっ!」
「ダイヤモンド鉱国…!?」
マサトに答える中年の下卑た笑みや、ニキビまみれで崩れた顔でキリッとしてるつもりのキメ顔などはユリーカの目には入らない。元より汚物めいた男の語りよりも先に深くフラッシュバックするは、3年前に出会った『友達』の姿。
力が未熟ながらもお姫様として直向きに使命に向き合い、成長を重ね国の危機を救った彼女のことを思い出していた。
「あの娘のところには行かせない!あなたみたいな悪い人!!」
「ちるぅぅぅぅあ!!」
「ポケモンを虐める奴は僕だって許せないよ!!」
「さぁなぁ(マサトの怒りは私の怒り)!!」
ユリーカはチルタリスを、マサトはサーナイトをそれぞれメガシンカさせる中、フェルベートは視界の全てをひたすらに見下す下卑た笑みを崩さない。いや、元からこういう歪んだ面構えなのだろう。
「ぷぶぷ…仕方ないどぉ…。子どもへの教育として今から"現実とは非情である"と…ど?」
キリッ、とした顔になっていると思い込みながら銀の強化装甲に身を包んだフルメタル・ハッサムを突っ込ませようとするその時だった。
マサトとユリーカの背後からピンク色の飛来物を認めれば、それらが瞬く間にフェルベートとハッサムを包み込み、さながら嵐のように呑み込んでゆくではないか。
「やどどどどどぉ!?」
「アレは…ダイヤモンド?」
「ダイヤストーム…!!」
マサトとユリーカは、悪辣な中年男の脂ぎった全身を激しく打ち付け、ハッサムが着せられていた装甲を壊し剥がしてゆくのが無数のピンクダイヤだと視認する。
「とんこつぅッ!?」
ピンク色に輝く猛烈なダイヤストームが収まれば、フェルベートは尖った岩が突き立つ地面に汚い臀部をぶつけ、両手で押さえながら転げ回り悶絶をする。
「そ、そんなぁ。ポケモンの弱点タイプをカバーし、あらゆるダメージを0にする"究極製(アルティメイド)"アーマーが剥がされるなんて〜…。」
そこに入り口からジュンサーさんが駆け込んで来た。
「モンタージュ写真とピッタリ一致!あなたね!?女の子に付き纏って交際を迫るストーカーは!!それに加えてポケモンへの違法装具取り付けの現行犯として逮捕します!!」
「ち、違うど!ボクとナゴミたんは一族より伝わる秘伝の水晶占いで結ばれることが決まってて、その婚約のために聖なるダイヤが欲しかっただけで…!!」
「言い訳無用!話は署で聞きます!」
「は、ハッサムぅ〜…!」
瞬く間に手錠をかけられるフェルベートは顔中ギトギトな汗だくになりながらハッサムを見る。
重苦しい鎧から解き放たれたハッサムは、その縋るような目を合わせないようにしながらホルダー部分を弄り自身のボールを取り出せば…
「はッ!さむッ!」
メキィッ!
「どあ〜〜〜!?」
右手の鋏で握り潰した。この時点でトレーナー契約は抹消となる。
「せ、世間がボクを優遇しないから悪いんやっどぉ〜!!」
ハッサムは野生のポケモン扱いとなり、フェルベートはそのままジュンサーさんに連行されていった。
「なーんだ。自分たちが管理するー、とか嘘だったんだ。」
「ふぅ〜…助かった。」
安堵したので全身脱力し、マサトはその場にへたり込んだ。万が一自分たちが敵わない相手であった場合を見越して、ジュンサーさんが到着するまでの時間稼ぎという二段構えが上手くいってホッと胸を撫で下ろす。
でっぷり肥えた醜い中年親父などは問題外だというのはすぐに分かったが、実のところはユリーカとの連携でも全く傷一つつけることのできない強化装甲を前にまるで打つ手が見つかっていなかった。
そんなところにハッサムを傷つけることなく、装甲の連結部のみを正確に射抜くようピンクダイヤを制御する僥倖の主が何やらユリーカの知るところであるようなので聞いてみることにした。
「うわわ!?」
隣のユリーカを見上げんと首を動かせば、周囲をわらわらと押し寄せるメレシーに囲まれていることに気付きマサトは慌てて立ち上がり、眼鏡のズレを直す。
「うわぁ!メレシーたちがいっぱいだぁ!」
「さなぁ(敵意はないみたいだけど…?)」
2人を囲むメレシーの一団が道を開ける。そこを通り抜けるは周囲の個体と変わらぬ見た目ながら、どこか若さ溢れる凛々しさを感じさせた。
「我らが祖国にとって大恩ありしユリーカ殿とそのご友人!同胞を救っていただいたお礼をしたいと姫がお待ちです。どうか、あなた方の時間を頂戴出来ませぬか。」
ナイトと名乗るメレシーにユリーカの表情がパァッと輝いた。
「ユリーカ!お久しぶりです!」
「やっぱり!久しぶりディアンシー!」
メレシーたちに招かれた地下世界に広がる幻想的な鉱石の輝きの中で、執事衆に囲まれていたのを飛び出したディアンシーとユリーカが抱き合い再会の喜びを分かち合う。
「3年前の日々は今でも昨日のことのように思い出せます。ユリーカにシトロン。セレナ、そして、サトシにはなんとお礼を言っても決して足りません。」
「ううん。ユリーカたちはお手伝いしただけ。ディアンシー自身が頑張ったんだよ。」
道中、マサトはユリーカからこの地下に広がる『ダイヤモンド鉱国』と関わりを持った一件のことを聞かせてもらっていた。
エネルギーの源として国の存続に欠かせない『聖なるダイヤ』のためにゼルネアスへ辿り着くために奮闘していたディアンシーたちへカロス地方を旅していたサトシと仲間たちが手を差し伸べた話に、ポケモンのために騒動に巻き込まれてゆくサトシのあり様はどこでも変わらないのだと思わされた。ホウエン時代でも同じような話には枚挙に暇がないのだ。
「あなたは、ユリーカのお友達ですね。」
「はい!僕はマサト。ユリーカちゃんとは友達でライバルなんです。よろしくお願いします、えっと…女王様?」
一国の主ということでマサトは頭をペコリと下げる。
ユリーカとしてはつい昔のテンションで抱き合ったことに一瞬不味さを覚えたが、
「いえ。あなたも我らが同胞のために戦ってくれた恩人です。この国を預かる者として、頭を下げるべきはまず私。」
ユリーカから離れ、パァァッと光に包まれたディアンシーが2人の前に、粗削りの原石であった下半身から不純物が剥がれ落ち、美しいピンクの結晶で構成されたドレス状のスタイルに後頭部からは半透明な羽衣を伸ばした『正装』たる姿を見せる。
そこには3年前よりあった子供っぽさは鳴りをひそめ、君主然とした風格と、女王然とした慈愛に満ち満ちていた。
「我が同胞、メレシーたちを悪しき者の魔の手から救い出していただいたこと、この鉱王ディアンシー、心より感謝いたします。」
「そ、そんな水臭いじゃんディアンシー!ユリーカたち友達、でしょ?それに、感じの悪かったおじさんはともかく、あのハッサムの着てた鎧にはユリーカたちどうしようもなかったんだもの。」
「あなたたちの奮戦のおかげで逃げ延びてきた同胞たちより仔細を聞き、こちらからも手を打つことが出来たのです。」
それがあのダイヤストームか、とマサトは合点がいった。同時に浮かんだ疑問に関しては、女王の側に控えるヒゲを生やしたような大柄のメレシーの言がある程度の補足となる。
「しかしスクライアの民とは…。人間の一族の中でも我々とは適度な友好関係を保っていたのが何故急に…?」
「長老、もしや其奴らが半年前のいくさに一枚噛んでるのやも…。」
「半年前?」
長老、と呼ばれたメレシーと近くのメレシーの会話にマサトが反応すれば、ディアンシーが口を開く。
「半年前、数多のポケモンハンターがこのダイヤモンド鉱国内部まで大挙して押し寄せてきたのです。彼らのポケモンたちもまた、面妖な鎧で武装されていて我が精鋭部隊でも歯が立ちませんでした。」
カロス地方の地下世界は皆すべからくダイヤモンド鉱国のネットワークに組み込まれており、鉱王たるディアンシーにとって地下世界全域がそのまま射程範囲内ではある。
だが常に全域を100%カバーすることは出来るはずもなく、彼女の防衛は有事を聞き付けた時点での即時対応が主であった。点での対処はともかく、面単位の対処はまだまだ不得手であった。
「もはや打つ手なし…そう皆思わされていた時、白きメタグロスを引き連れた凛々しきお方がハンター軍団を一掃してくださったのです。」
「白いメタグロス…?」
「彼は何一つ見返りを求めることなく去っていきました。その去り際に自らを"石の王子様"、と名乗りながら。」
「石の王子様…?」
マサトとユリーカは顔を見合わせる。アイコンタクトで情報を擦り合わせ、浮かび上がる人物像はたった1つしかなかった。
「せめて、せめて"ありがとう"と一言だけでも伝えたいと思って今日まできたのですが、彼の手がかりはなにも…。」
「僕、心当たりありますよ!」
俯くディアンシーを見据えてマサトはハッキリと口にする。
女王は、くりっとした瞳を普段以上に丸くした。
「ユリーカも!よかったらお礼、言って来てあげる!」
「ユリーカ…!しかし…!」
「女王様。ここは思い切って、"あの方"を託してみてはいかがですかな?」
長老ダイイの進言にディアンシーはハッとする。すぐに穏やかな表情に戻れば、側に控えるメレシーに視線で行動を促した。
「「(あの方…?)」」
首を傾げるマサトとユリーカの疑問はすぐに晴れる。
奥に下がったメレシーたちが連れて来たのは、女王より一回り小さなディアンシーであった。
「2体目のディアンシー!?」
「今年の初めに生まれた私の後を継ぐ姫です。姫、同胞たちの救い手たる勇者様がたにご挨拶を。」
「お初にお目にかかります。ダイヤモンド鉱国の姫としてまだまだ修行中の身なれど、どう顔見知りおきを。」
恭しく一礼する姫にマサトもユリーカもそれに倣った。
「あなた方が石の王子様とまみえることが出来るならば、ぜひ道中、広い世界をこの娘に見せてやってはくれませんか?かつての私のように…。」
顔を上げる姫を見て、マサトとユリーカは二つ返事で女王に了承をした。
『ダイヤモンド鉱国』
カロス地方の地下世界に広がるメレシーたちの暮らす国。
国を治めるのはメレシーの変種とされるディアンシーであり、生命を司るポケモンゼルネアスとも深い関わりがあるらしい。