3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 本編とはあまり関係がない外伝作その1、後編となります。


外伝 小さきものたち、見上げるは夜明けの流星群 後編

「アレがトクサネ宇宙センター!!お兄ちゃんにお土産買っていかなきゃ。」

 

「シトロンさんって宇宙開発にも興味あるんだ。」

 

「科学が関わるなら割となんでも食い付くよ。」

 

 船に乗り、ミナモシティからトクサネシティへと辿り着いたマサトとユリーカの背後にサーナイトとディアンシーが続く。

 朝方にホウエンに到着して今は昼前となっている。見慣れぬ幻のポケモンの姿に通りすがりは一瞬ギョッとするも、すぐ自分の日常へと戻ってゆく。

 鉱王ディアンシーより託された『鉱子』を引き連れ、ダイヤモンド鉱国から飛び出した2人はそのままカロス地方を出発。一路ホウエン地方トクサネシティを目的地に走った。

 元よりマサトがカロスに住むユリーカの元を訪ねた次はユリーカがホウエンに赴く予定であったので旅の道連れが増えただけの話だ。旅とは賑やかであればあるほど嬉しいものなのだ。

 

 

 

「ぺいぺーい!」

 

「お届けよろしくねー!!」

 

 宇宙センターを見て回り、買い込んだお土産を嘴の中に詰めた形で飛び立つみずどりポケモンペリッパーをユリーカは両手を振りながら見送る。

 そらとぶタクシーをきっかけに全国にシェアを広げるガラル交通が新たなビジネスとして展開した荷物の運搬サービスを利用したのだ。

 

「人間の皆様がたは、この空の向こうへと何を求めて行こうとしているのでしょうか?」

 

「うーん。人による、かなぁ。有名になりたいのもそうだし、みんなが住める世界を広げたいのもあるだろうし。多分だけど、それら全部引っくるめて根っこにあるのは…宇宙にロマンを追い求めているから、かな?」

 

 『石の王子様』を探す旅の中、広がった見聞から生まれた鉱子の口走る何気ない疑問に対し、常に明瞭とはいかないもののマサトもユリーカも自分なりの言葉でコミュニケーションを返す日々を送っていた。

 

『何故人はポケモンを戦わせるのか?』

 

『なんでポケモンは自分の存在を人の言語から認識できるのか?』

 

『どうしてこんなにポケモンフーズは美味しいのか?』

 

 鉱王曰く生まれたばかりの鉱子の口から出てくる疑問はひっきりなしで、言葉ともなると専らマサトの領分であった。

 ユリーカには、彼らの距離がなんとなく縮まっている感覚がしていた。

 

 

 

「え?家にいるの?」

 

「うん。町の外れの海がすぐ見えるあそこの家さ。電気ついてるから今もいると思うよ。」

 

 宇宙センターを後にした夕暮れ時、ゲーム機のプリントがされたTシャツに茶色のパンツを合わせ、黄色いスカーフを首に巻いた小柄な少年の名はマーマネ。

 通りすがりの現地人としてユリーカに道を聞かれては2人の目的地を指し示す。ついでなのでそこまで案内してあげることにした。

 

ピンポーン

 

 肩にパートナーであるまるまりポケモントゲデマルを乗せたままマーマネが玄関のチャイムを押せば、

 

「はーい。」

 

 涼やかな印象を見るものに与える銀髪銀目の美青年が応対に出てくる。

 ワイシャツにラフなスウェットパンツの、いかにもなオフモード全開なスタイルで身を包んだ"石の王子様"…その名は、ツワブギ・ダイゴ。

 

 

 

 ダイゴがマーマネを相手に油断し切った部屋着姿で出て来たのは以前より相応に交流があったからに他ならない。

 宇宙飛行士を目指しているマーマネが働いているトクサネ宇宙センターが、ダイゴの父ムクゲが社長として収まっているデボン・コーポレーションより開発、提供された『∞エナジー』を利用しての宇宙開発のために存在しているから…というのはあまり関係ない。

 ダイゴがマーマネと顔馴染みになるくらいに宇宙センターへ出入りしているのは、彼自身の趣味に起因していた。ダイゴは熱心な(周りからすれば病的に重度な)石マニアであり、不定期に採掘のための遠征を体が欲して禁断症状を起こし、本来の立場であるホウエンリーグチャンピオンすらかなぐり捨てて飛び出す悪癖があった。

 そんな石マニアのダイゴが見出す宇宙センターでの興味とは、地球外に存在する鉱物…つまりは石に他ならなかった。

 

『つきのいしとは即ち月から落ちてきた鉱石である。ということは月には僕の知らない素敵な石があるのかもしれないんだ!だからこそ僕はこの宇宙センターのプロジェクトには親父からとは別に僕からも惜しみない支援をさせてもらってるのさ!あぁ…この広げた両手では抱き締めきれないほどのつきのいしを抱き枕にして眠りに就きたい…。』

 

 このような熱弁を宇宙センターで会うたびにダイゴにされるマーマネは、数を重ねられるにつれて苦笑いとともに相槌を打つのみの処世術を身に付けていた。

 思えば故郷のポケモンスクールで出会ったクラスメイトもポケモンバトルとなれば目の色が変わり、ついにはダイゴ同様チャンピオンにまで上り詰めていた。

 1つの道を極める人間というのは、どこか常人には理解し難い情熱なり性癖なりを抱くものなのだろうか?そんなようなことをマーマネは考えていた。

 

「ダイゴさんはリーグに戻らないんですか?」

 

「そうだねぇー…マサトくんがチャンピオンリーグを勝ち上がったら、かな?」

 

 流石にスウェットからパンツスーツに履き替えたダイゴにマサトはよーし、と意気込む。

 ダイゴは3人を家の中に招き、リビングにて紅茶とお茶菓子を振る舞う。

 

「でねがじでねがじ。」

 

 ユリーカのポシェットから出て来たデデンネが雑多な取り揃えのお茶菓子の山から食べ慣れたミアレガレットを引っ張り出して齧っている。

 紅茶から鼻腔をくすぐる香りにはなんとなく市販品とは一線を画す深みがあった。なんでもヒマワキシティで育てられたナッシーの頭の葉から抽出したエキスを使ったものらしい…。

 

「石の王子様…いえ、ダイゴ様。私はダイヤモンド鉱国の鉱子ディアンシー。半年前、あなた様に国の危機を救っていただいたお礼を言いに参りました。」

 

 話を切り出す鉱王より聞いたワードから、マサトもユリーカも早々に石の王子様とはダイゴであると確信していた。

 問題としてはその居場所を突き止めて鉱子を巡り合わせることだったのだが、それもあっさりと解決してしまったのだから肩透かし感は否めない。まぁ、見つからないのを延々探し回るハメになるよりははるかにマシではあるのだが…。

 

「我が国一同を代表して、本当にありがとうございました。鉱王も何か出来ることがあるならば何なりとご用命下さいと言っておりました。」

 

「それはそれは。はるばる遠くからご苦労様。だけど、お礼を言いたいのはむしろこっちなんだ。」

 

 鉱子が深々と頭を下げるのを制してからダイゴは家の奥へ進む。

 すぐに戻ってくるその手はアクリルの透明ケースを持っており、テーブルに置けばそこには珍妙な形状をした石ころがご丁寧に飾られていた。

 

「それは輝きの洞窟で見つけた玉石でね?この無骨さと滑らかさを併せ持った美しいフォルムを掘り当てた時、僕は余りの感動に絶頂してしまったのさ!この素晴らしい石との出会いを与えてくれたカロスの地下世界のためならば僕の命の1つや2つ喜んで差し出すともさ!!あぁ〜…いつ見ても美しいなぁ…頬擦りしたいほどに…。」

 

 明らかに高価でなく、そこら辺の土の中にあるような玉石の美点を3人に熱烈に推すダイゴの顔は次第に紅潮していき、やがて陶酔的な雰囲気を醸し出すので苦笑いを禁じ得ない。

 話としては石の採掘ついでにたまたま見かけたポケモンハンターどもをシバき倒した…そんな程度の認識でしかないのだろう。

 

 

 

「わぁ〜!綺麗〜!!」

 

「さなぁ。(素敵…。)」

 

「シシコ座流星群だ!」

 

「でぇね、でね!」

 

 鉱子の用事を済ませたマサトとユリーカ、それに道案内でついて来たマーマネはそのまま夜までダイゴの勧めで彼の自宅にて過ごしていた。

 言い出しっぺのダイゴが奢りとして配達させた夕食のピザを腹の中へ雑に放り込み、外に出て見上げる夜空には数多の流星が降り注いでいた。

 

「いいだろう。この立地がトクサネシティで、いや、ホウエンで1番シシコ座流星群を綺麗に見れるから僕はここに家を建てたんだ。」

 

「宇宙から落ちてくるものは地球からしたら隕石になる…つまり石ってことですか?」

 

「そういうことさ。流石はマーマネくん。よく分かってるね。」

 

「ま、まーねー…。」

 

 やはり『石』…この男の行動基準に一片のブレもないのだと、ここまで来るとマーマネはダイゴに凄みすら感じさせられていた。

 この頑なさが豊かな才能といいように作用し合えばそりゃあチャンピオンにだってなるだろう…そう思うほどに。

 

「たくさんの星が流れる、だから流星群…。」

 

 地下世界で生を受け、マサトとユリーカに引っ張られる形で見て来た初めての空…その表情の数々は鉱子にとってどれも素敵で新鮮に映った。

 今日、ここで見た流星群も終ぞ忘れることはない。忘れたくない思い出だ。

 

「流れ星様…どうかダイヤモンド鉱国に…地下の皆に豊かな暮らしを。」

 

 両手を重ね、流れ星に願いを込める…これも、旅の中で学んだことだった。

 

「我が行く道が、これからも素敵な石たちとの出会いに満ちているであろうことを!」

 

 ダイゴは言わずもがなの願いを、

 

「どうかあと身長を20センチ、いやせめて10センチだけでも伸ばさせてください〜!」

 

 マーマネは切実な願いを込める。宇宙飛行士になるための身長制限として最低ラインの149.5cmに対し、現在140cmジャストだ。

 

「プニちゃんと早く会えますように。」

 

 いずれ会えるという確信にいささかの揺るぎもない。ただ、ユリーカからすれば少しでも早く成長した今の自分をカロスの秩序のために別れたっきりの友へと見せたいのだ。

 そして、今度はお世話するだけではない。トレーナーとポケモンという関係から冒険したいと心から願う。

 

「あの子の眠り続ける1000年間が安らかで、次に目を覚ます7日間が幸せなものでありますように…。」

 

 今度『あの子』がその生のままにこの世界をその目に移す時、自分はこの世にいないだろう…だからこそマサトは願った。ファウンスの地で掘り起こされ、共に奇跡の七夜を過ごした友の安泰を。

 『小さきもの』の細やかなる願いだった。

 

 

 

「(鉱子、無事に役目を果たしたこと、大儀でした。ユリーカにマサトもよくぞこの子を導いてくださいました。)」

 

「鉱王様!」

 

「「ディアンシー!」」

 

 翌日、ダイゴやマーマネと別れた2人はポケモンセンターで雑魚寝して夜を明かし、朝食を摂ってから外に出たところで鉱子とともにテレパシーを受け取った。

 鉱王ディアンシーの声が脳裏に響く。

 

「(さて鉱子、あなたにはこれより先も広い世界を見て回り、そこで得た学びを血肉としてその身に蓄えなければなりません。)」

 

「はい。覚悟は出来ております!私は、どんな困難にも耐え抜いてみせます!」

 

 ふとユリーカの中でピンと閃きが走る。そしてそれをそのまま言の葉に乗せた。

 

「はいはーい!だったらこの子、マサトくんに預けたらいいと思いまーす!!」

 

「ゆ、ユリーカちゃん!?」

 

 マサトは完全に虚を突かれる形であった。このまま鉱子はユリーカと一緒にカロスへ帰るとばかり思っていたからだ。

 

「だってマサトくん頭いいから、この子が分からないことをたくさん教えてくれると思うの!」

 

「だ、だったらユリーカちゃんの方が安心じゃないかな?ほら、鉱王様と昔から知り合いな訳だし?」

 

 しどろもどろに返すマサトをユリーカは真っ直ぐ見つめた。

 『自信持ちなよ!』…そうストレートに推される友の視線を前に無碍にも出来ないのがマサトだった。

 

「さな…。(本人の気持ちも聞かないことには…。)」

 

「マサト様!不束者ですが、よろしくお願いしますッ!!」

 

「さなッ!?(ふつッ…!?)」

 

 穏やかでない内心を押し隠しながらの言にすかさずマサトへ恭順の意を示す鉱子に、サーナイトは驚愕の表情を露わにしてしまった。

 旅の中流し見していた程度ではあるが、添い遂げた男女が契りを交わす言葉の類だと知っていたからだ。

 

「こ、こちらこそよろしく。鉱子…いや、ディアンシー。」

 

 マサトがボールを取り出せば、ディアンシーは自ら開閉スイッチに手を触れ中に収まる。

 

「でねぇー。」

 

 程なくしてゲットが完了する流れの間に『アンタも大変だね』とサーナイトに語り掛ければ、バトルですら見たことのない形相を返される。

 たまらずデデンネはユリーカのポシェットへと退避した。

 

「(ではマサト。鉱子のこと、私からもよろしくお願いします。)」

 

「分かりました!大事に育てます。」

 

「うんうん!一件落着だね!」

 

 話を持ちかけた張本人ながら満足気に頷くユリーカである。

 

「(それとユリーカ。あなたに言伝があります。)」

 

「言伝?」

 

「("終の洞窟、その最奥にて待つ。万全の支度を整え、持てる全てで以て来たれ。我が友よ"…確かに伝えましたよ、ユリーカ。ではお二方。またお会いしましょう!)」

 

 テレパシーによる鉱王の気配が消える。言伝を聞いたユリーカは俯き、全身を打ち震えさせ、

 

「やったやったやったーーーッ!!プニちゃんだ!プニちゃんが居場所を教えてくれたーーーッ!!流れ星のお願い、早速叶っちゃったーーーッ!!」

 

「おめでとうユリーカちゃん!」

 

 目一杯飛び跳ねた。そこに祝福するマサトが拳を突き出せば、ユリーカもコツンと拳を合わせる。

 

「「次会う時は、チャンピオンリーグで!!」」

 

 爽やかに誓いを交わし、ユリーカはカロスへと帰っていった。

 翌年のチャンピオンリーグがどうなったかは、また別のお話…。

 

 

 




 『マーマネ』
 13歳。ポケモントレーナー。
 アローラのポケモンスクールからホウエンにやってきた宇宙飛行士志望の少年。
 トクサネ宇宙センターに出入りして日夜勉強を積み重ねており、後に人類初の月面到達者として歴史に名を刻むこととなる。
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