3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 約束のバトルは、サトシの勝利に終わった。
 バトルの後、ポケモンセンターで寛ぐ中合流してきたのは、コンテストライブで活躍するセレナとルチアであった…。



それぞれの戦い コンテスト事情 セレナの苦悩①

「サトシ!最後に一ついい?」

 

 時は遡り、3年前。

 カロス地方ミアレシティの空港。思い余ったエレベーターをセレナは逆走する。彼の前に、再び立つ、そして…。

 

「…ッ…!ありがとう!」

 

 別れ際のどさくさ紛れ。

 強引に"初めて"を彼に押し付け、『ラティアス空港H71便』に乗り込んだ。我ながら酷く稚拙で甘酸っぱいことをしたものと、のちにセレナは自嘲するも、表情に笑みが溢れるのが抑えられていなかった。

 セレナの本領であるトライポカロン…カロス地方の女性トレーナーが、ポケモンとのパートナーシップを競う世界。そこに情熱を燃やす女性トレーナーたちはポケモンパフォーマーと総称される。

 トレーナーとしてデビューを果たし、トライポカロンに進路を定めたセレナの活力の源泉は、さらに遠い日に刻まれた恋心にあった。

 

『きみ、なにしてるの?俺、サトシ!』

 

 幼少期、オーキド博士主催のサマーキャンプに参加した際、1人はぐれて足もくじき、心細い森の中で出会った快活な男児が、幼いセレナの女心を射抜いた。

 そこから時が経ち、テレビの中で暴れ回るガブリアスを相手にプリズムタワーをよじ登り、大立ち回りを演じるのカロス地方にやってきて早々のサトシの姿を見るやいなや、それが『あの子だ』と確信し、自堕落な日々とおさらばしてしまえるほど、セレナの恋心は大きかった。

 1つのシーズンをポケモンパフォーマーとして走り切ったセレナは、更なる飛躍を誓いホウエン地方へと旅立った。

サトシに相応しい、素敵な女性になるために。

 

 

 

「俺今チャンピオンシップスってのに挑戦してて、バトル最強を目指してるんだ!」

 

「私は、コンテストライブに挑戦中!サトシが最強なら、私も最強のパフォーマーを目指すよ!」

 

 そこから少し経って、思いがけない、ほんの僅かなひととき。

 それは、ホウエンでもがき続けて、コンテストライブの世界でようやっとそれなりの立場を築けた自分に、神様がくれたご褒美だったのかもしれないと、セレナはその日のことを思い返す。

 ミナモシティでのパフォーマンスにより、ルチアと同点優勝を飾った後、ひょんなことから知り合ったイーブイを連れた少女コハルを見送りに来ての、サトシとの再会。

 まさかだった。お互いの目の前の夢を語らい、エールを送り合い、船が2人を引き離す。

 

「ふぃ〜。」

 

「…行こ!」

 

 夕焼けが暗く染まってゆく。

 地平線に船が吸い込まれ小さくなる。大好きな彼とのひとときを胸に刻み込み、セレナはニンフィアとともに踵を返して駆け出した。

 

 

 

 時を戻そう。

 セレナとルチアが連れ立って合流しては、ルチアはハルカ側の席に、セレナはサトシに促され、顔を赤らめながらサトシの隣にそれぞれ座る。

 ルチアはこの短い間の一連のセレナの挙動で全てを察しては、その隣のサトシを自然な雰囲気から品定めするように視線をやる。

 明るくて爽やかな男の子、と言うのは分かる。

 そんな中に、どこかしら叔父と同じ類の一抹の『狂気』が見え隠れしている。そう、ルチアは感じた。

 一方、両側を花に挟まれ、身動きの取れない座り位置となったマサトはしまった、と言う表情を浮かべたがもはや後の祭りである。

 女3人よれば姦しい。こうなってしまってはそう簡単には抜け出せそうもない…。

 

「撮影お疲れ様。ユニットの方は依然快調みたいね。」

 

「ありがとハルカ。私の方はいつも絶好調だもの!」

 

 仕事終わりを労うハルカにルチアは、サトシへやった視線を再度ハルカに向けながら、ハルカやセレナと比べ、サイズこそ譲るが健康的な胸を張ってみせる。

 細かな仕草から溢れる甘い香りが、マサトの鼻をくすぐった。ロゼリアの葉のエキスを使った香水だろうか…?今度家に帰る時に買って母にプレゼントしようと思い立った。それは半ば、現実逃避であった。

 

「この2人、ホウエンでトップクラスのアイドルユニットなの!もう2年くらいやってるんだっけ?」

 

「今年で3年目。ホント、セレナを誘って正解だったよ。」

 

 

 

 経緯としてはこうだった。

 時を遡り3年前、ルチアはソロでのコンテストライブ競技者としての活動と、アイドル営業に行き詰まりを感じていた。

 彼女の抱く野心としては、コンテストから派生したコンテストライブを、派生元と同じくらいの盛況なコンテンツにしたいというものがあった。

 それは、リーグチャンピオンでありながら、コンテスト世界の頂点『コンテストマスター』の異名を取る叔父のミクリへの憧れから来ていた。

 コンテストライブという競技におけるパイオニアとなるための布教、そのために何か大きな起爆剤が欲しかった。そんな時に出会ったのがセレナであった。

 それは、まさにカルチャーショックだった。

 コンテストライブという競技において、ポケモンのポテンシャルをフルに引き出すのは大前提である。

 ルチアも当然、叔父譲りのトレーナーセンスを磨き上げ、相棒であるチルタリスのチルルを育て上げ、メガシンカをパフォーマンスに取り入れたことで他に比べて圧倒的な強みを引き出し、競技者としても一流の地位にいた。

 そんな中、セレナは、複数のポケモンを同時に扱いパフォーマンスを展開して見せたのだ。

 完全に盲点であった。確かにルール上、コンテストライブに使用するポケモンの数に縛りはない。

 だからといって、複数体のポケモンを繰り出してみせるとは、完全に想定外だったのだ。

 

「ねえねえねえ!私たちでアイドルユニット組まない!?」

 

 ミナモライブが終わり、更衣室に入って着替える時間も惜しいと、ルチアはセレナに話を持ちかけた。

 その猛烈なスカウトに面食らったセレナの迷いは、サトシとの束の間のひとときであっという間に吹き飛んだ。

 船を見送り、駆け出したセレナがすぐにルチアにコンタクトを求めれば、次の日には宿泊したホテルのロビーにルチアが来ていた。

 ルチアとしては一刻も早く話をまとめたかったし、セレナとしてもそのフットワークの軽さは好印象だった。

 合流し、ポケモンセンターの喫茶店、その片隅のテーブル席につけば早速本題に入る。

 

「私、ゆくゆくは本場のコンテストに戻りたいと考えて、そのためにライブを今頑張ってる。それでも構わないなら是非やらせて欲しい。」

 

 セレナからの条件付きの受諾。

 ルチアは何度も頷いて見せた。まっすぐ見つめてくる瞳の中の熱き情熱を認めれば、やはり自分の目に狂いはなかったと心内で自画自賛した。

 

「オッケー!コンテストに移るんなら叔父様に掛け合ったげる!色々教わるといいよ!」

 

「ミクリ様に!?いいの!?」

 

「これから相方になるんだもん、これくらい当然の見返りだよー!!私もセレナのパフォーマンス、片っ端から盗ませてもらっちゃうし。」

 

 ここぞとばかりに身内の恩恵を最大限に活用してみせるルチアのしたたかさにセレナも苦笑し、やがて2人揃って大笑いしてしまう。

 それがホウエン地方発のアイドルユニット「KiraKira⭐︎DreamDream(キラキラ⭐︎ドリドリ)」の産声であった。

 

 

 

「それでセレナの悩みって…やっぱり"カロ船"絡み?」

 

「かろふね?」

 

 ハルカの口からふと出る聞き慣れぬ単語にサトシは首を傾げる。

 あぁ、そうかとハルカは得心する。ほぼバトル専門のサトシなら疎くて仕方ないと。

 それでなくても世間のニュースには疎い男なのだが。

 

「今から1年半くらい前の話かな。トライポカロンを専門とするカロスのポケモンパフォーマーたちが、次々と全国進出を始めたの。全国、と言っても当然コンテストの盛んな地方がメインなんだけど。」

 

「ホウエン地方はポケモンコンテスト発祥の地だからね。狙い目になるのも当然だよ。」

 

 ハルカから引き継ぐようにルチアが説明を始め、マサトが乗っかればルチアもそれな!とばかりにマサトの頭を撫でる。

 くしゃくしゃと頭を撫でられ、気恥ずかしくも悪い気はしないマサトであった。

 

「このカロス出身者が一気に他地方のコンテスト業界に殴り込みをかけてきたのを、誰がいつ命名したのか知らないけどカロ船来寇だーって言い始めて、それを見たホウエンのコンテスト協会も乗り気になっちゃってね?あ、どうもでーす。」

 

 話しながらウェイター係のゴーリキーから頼まれたドリンクが運ばれてきたのをセレナにも渡し、自分のを一口喉に流し込む。

 

「コンテストライブそのものが盛り上がるのは嬉しいよ?でもさ、対立を煽るようなのはなんか違うんじゃあないかなって。叔父様に話してもみたんだけど、叔父様はあまりピンときてないみたいで。あの人なんだかんだバトル脳だからなぁ。いいえ、そこはまぁいいの。問題は…。」

 

 サトシはミクリの事を思い出す。

 コハルが参加する予定のミナモライブの道中で、ミクリがポケモンバトルを仕掛けてきた事によりサトシと同行していたゴウは、結局コハルのライブを見れなかった。

 サトシとしては、実力者のミクリと戦えたことに悪い気はしていないものの、彼独特の雰囲気には若干タジタジにさせられてもいた。

 ルチアが視線を誘導させる。

 視線の先のセレナが力無く笑うしかないのを見て、ハルカとマサトはなんとなく事態を察した。

 

「あぁ、そっか。セレナはカロ船前からカロス出身でホウエンに来てる訳だから…。」

 

「板挟みになってるんだね。」

 

「ぴぴか…。」

 

 ピカチュウも両耳を垂らす。

 コンテスト業界にてにわかに発生したポケモンパフォーマーたちのコンテスト業界への全国進出、それを迎え撃つ現地の競技者たちという構図、別にセレナがカロス出身の遠征者第1号という訳ではないにしても、その対立構造が徐々にセレナのメンタルを削っていったのだ。

 セレナは力無い笑みのまま膝の上にきたピカチュウの頭を撫でながら口を開く。

 

「ルチアとユニット組んでアイドルやってみて、世の中には綺麗事ばかりじゃあなく、それでも上手く回していくための大事な仕組みがあって、そういうのも必要なんだって言うのはよく分かったつもりなんだけど、ね…。」

 

 セレナとてトントン拍子でスターダムを駆け上がって来たわけではない。

 トライポカロン時代、多くのやらかしはあったし、コンテストからライブに主戦場を移したのも根底にあるのは、本場のコンテストにおいて今の自分では太刀打ちできないという戦略的な意図と、追い込まれてからの藁にもすがるような決断があったのは事実である。

 それでも、その藁にすがること自体にも必死だったのは間違いなくそうだと言える。

 

『カロスの裏切り者』

 

 で、あるが故にカロスからきたパフォーマーや、ホウエンで居合わせるコーディネーター双方からこの一言で後ろ指を指される事にも多少は耐えてきた。

 それに限界が来ていたのが、相方のルチアからも見えるくらいハッキリしていたのだろう。セレナは、疲れ切っていたのだ。

 

「それで、セレナはどうしたいんだ?」

 

「えっ…?」

 

 事情が出揃えば鎮痛な空気が覆う。そんな中、サラリとサトシはセレナに問いかけた。

 『こいつ、マジか?』そんな意図のこもった目を向けながらルチアはギョッとし、ハルカとマサトはやっぱり…とジト目を向けた。

 この中でサトシと付き合いが長い方である姉弟としては、なんとなくだがこういう返しをするのも読めてはいた。

 この男、セレナが何故辛いのかに関して、まるで理解出来ていないのだ。

 

 

 




 『セレナ』
 13歳。カロス地方出身のポケモンパフォーマーで、現在はホウエン地方に遠征している。
 カロス時代のサトシの旅仲間で、それ以前、幼少期にサトシと知り合い、好意を抱いている恋する乙女だ。
 エースポケモンはフォッコの頃から大切に育て上げ、パフォーマンスの要でもあるマフォクシーだ。
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