3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
ポケモン歴2005年4月9日。
カントー地方セキエイスタジアムは熱狂の渦に包まれていた。詰め掛けた観客の目当ては言うまでもなくこれから行われる死闘に他ならない。
「全国のポケモントレーナー、ポケモンバトルファンの皆さんこんばんは!今年初開催となる"ポケモンチャンピオンカーニバル(PCC)"はその名の通り全国のリーグチャンピオンが集い、最強を決める夢の舞台!本日はそのAブロックの試合をここ、セキエイスタジアムよりお伝えします!実況は私、ジッキョー!解説にはポケモン評論家のナンテさん、素敵なゲストにはポケモン研究業界のホープであるオーキド・シゲルさんに来ていただいております!お2人とも、よろしくお願いします!」
「「よろしくお願いします。」」
「さて、今回の試合は両チャンピオンともにマサラタウン出身ということでありますが、お2人も確か同じマサラタウン出身でしたよね?」
「はい。どちらかと言えば今回試合をする両名に関しては世代的にシゲルくんの方が詳しいかと。」
「まぁ、いわゆる幼馴染…腐れ縁というやつですね。」
ナンテに振られたシゲルは気恥ずかしげに返す。思えばそういう繋がりでもない限りたかが一介の研究者風情が新設されたチャンピオン専用の公式戦の舞台にお呼ばれされることもないというのは、シゲルなりの謙遜だった。
「僕と違って彼らがここにいるのは自らの力で道を切り拓いたからですよ。立派です。あの3人は。」
そうシゲルが語る中、スタジアムの照明が暗転する。
刹那の内にセンターサークルには、身長170cmほどでメンズスーツに身を包み、メガネをかけた黒髪の青年とフシギバナが立っていた。
『あなたも"お友達"になりなさい?』
『や、やめろ…!やめてくれぇ…!う、うわァァァーッ!!』
暗闇は、青年に過去の嫌な記憶を想起させる。
8年前、可もなく不可もなしな家庭で育ってマサラタウンから旅立ち、順調にジム巡りを進める中で災厄は不意に襲いかかった。ヤマブキジムに挑戦し、彼はそこで人形に変えられてしまったのだ。
比喩ではない。文字通りの人形としてサイコパワーを叩きつけて来た美女の部屋に飾られ、無為の時を過ごす羽目となったのだ。
『ポケモントレーナーになったら4人でポケモンリーグで戦うんだ。約束だぜ?』
それでも青年が希望を捨てずに済んだのは、幼き日に遊んだ友の言葉。よくつるむ仲間内の中でそそっかしく、それでいて誰よりもポケモンが大好きで、真っ直ぐな人となりが自分含めた仲間3人を笑顔にしていた。
そんな仲間同士が晴れ舞台に戦うというのだ。開幕セレモニーでのパフォーマンスも喜んでさせてもらうに決まっている。
『オープニングセレモニーは97年度ミクリカップ優勝からロバート氏の付き人として帯同。2000年のホウエン地方グランドフェスティバルを優勝してトップコーディネーターの仲間入りを果たし、現在も精力的に活動し続けているマサラタウンのケン氏によるコンテストパフォーマンスであります!!』
「フシギバナ!やどりぎのタネを天へ撒け!」
「ばぁなぁ〜!!」
ポポポポ〜ン!
「せいちょう!!」
数多の種子がフィールドの空へと舞い、フシギバナからのくさエネルギーを受け瞬く間に花開いてゆく。
その花びらは1つ1つどれを取っても決して同じ色は存在しない。そこには、『魅せる世界』に心惹かれたケンが4人で交わした誓いに背を向けてまで選んだ道への覚悟が籠る。
「吹き荒れよ!はなふぶき!!」
「ばんなぁぁぁ!!」
ビュオワアアアアアッ!!
「わわわ!スッゲーなオイ!!」
無数の色とりどりの花びらが演出するのは美のみに非ず。厳しく襲い来る自然を前に吹き飛ばされながらも決して散らぬ強さを情景に描き出す。
「(俺はヤマブキジムでのことからバトルの道をゆくことに心が折れてしまった。それは本当のことだ。故にそれを乗り越えたナベや、ヤマブキジムからバッジを貰えたサト坊を凄いと思っている。…だからこそ!俺は俺の新たな道を見出し、そこに賭けたのだ。)」
相棒とアイコンタクトを交わし、ゆっくりと頷く。
「そして根は降り、大樹は立つ!ハードプラント!!」
「ばなばぁぁぁぁぁなぁぁぁぁぁッ!!」
巨大な根が天高く伸び、舞い散る花びらが付着していけばそれは巨大な樹木となる。
パフォーマンスの妙としてフィールドに一切負担をかけず、表土を掘り返したりしていないというところに気付いたのはごく僅かな実力者だけだった。
ヒューヒュー!!オオオオオッ!!
種が花を咲かせ、やがては大樹へと至る植物のドラマを現出させ、拍手喝采に包まれる。
ケンは、万感の思いと共に深々と頭を下げる。
「ばんな。」
相棒のフシギバナも主人に倣った。
『トップコーディネーターケン氏による素晴らしいパフォーマンスでありました!ここからいよいよ選手入場であります!!』
ウオオオオオオオイ!!
『まず先に入場しますは、西口から!今大会の目玉企画として導入された独立リーグ代表枠をオレンジリーグヘッドリーダーユウジ氏と競い合い、見事制してPCC本戦に駒を進めましたハザック地方独立リーグチャンピオンワタナベだぁぁぁぁぁッ!!!』
母子家庭を羨ましいと思いこそすれ、それを理由にいじめをするなどあり得ないというのが剛毅なワタナベ少年とサトシの関係の始まりであった。
両親は蒸発。マサラタウンの親戚に預けられた形のワタナベにとって家の中は針のむしろでしかなく、友達付き合いこそが憩いだった。
ケンにワタナベ、そしてサトシとシゲルが、マサラ育ちの腐れ縁だ。
『あなたも"お友達"になりなさい?』
『うぬぅ…ぬ、ぬあああああ…!!』
ワタナベもまた、ケン同様に暴走するナツメのサイコパワーの餌食となった1人だった。
自らの存在を人形に変えられ、自由がきく感覚の蘇った時にはケンと隣同士の病室に寝かされていた。
退院する時にはどう足掻いても残り2つのバッジを集めてセキエイリーグに間に合うなどは不可能な時期であった。
「本当に行くのかい?」
「俺はカントーの地に"甘え"があったのだ。故にあんな無様を晒した。」
程なく噴出したヤマブキジムへの訴訟問題などは、ケンにもワタナベにも興味のない話だった。
生来より持ち合わせていたサイコパワーの暴走により凶行に走ったナツメへの同情などではない。単に次の冒険を始めるために時間が惜しかっただけだ。
ワタナベの決断とは、早々にニッポン共栄圏にある地方を離れ、自ら寄る辺を断ち切る道を進むことであった。その舞台はイッシュ、アローラ、カロス、に加え当時まだ独立リーグ扱いであったパルデアのアカデミーでも勉学に励み…
『"マサラタウンのワタナベ選手、ハザック地方独立リーグのチャンピオンに就任"』
サトシがダンデに勝利し、ワールドチャンピオンとなり優勝トロフィーを持ちながらポケモンたちと写真に収まる一面の片隅に、この見出しともに僅か数行記載されるのみながら、ワタナベも確かな成果を挙げていた。
ワッタナベ!ワッタナベ!ワッタナベ!
黒みがかった茶髪を額から左右に流した短髪スタイルにサングラスをかけ、穴の空いたマントをたなびかせながら鍛え抜かれた190cm台の肉体が威風堂々と歩みを進める。
レザージャケットの袖口から覗く隆々しい両腕のあちこちには生傷が絶えない。
ドワオオオオオオオッ!!!
「来たか、覇者よ…!!」
センターサークルにて東口より渦巻く王者の覇気が人の形に収束してゆく流れを見るワタナベはサングラスを外す。
切れ長の目はジッと正対すべき覇者の到来を待った。
『アローラリーグ開設より王座に君臨!PWCSは97年度大会より現在6連覇中!地方対抗戦PNTTにおいては昨年、念願のククイ博士を監督に据えてのチーム<マナーロ>連覇達成に貢献しMVP!!ポケモンバトルの世界で今、最もアツイ男!!ワールドチャンピオンサトシ!!PCCの舞台に参上であります!!』
サトシ!サトシ!サトシ!サトシ!サトシ!
客席に愛想良く両手を振る180cmちょうどのサトシは青のジャケットへ白に赤のラインを横に通したシャツを合わせ、下は半ズボンと相も変わらずのコーディネートであった。
18歳の青年となった赤い帽子の後ろには、相棒のピカチュウが変わらずいる。
「随分と先を越されたものよな。」
「久しぶりだなワタナベ。」
センターサークルで合流すればワタナベから口が開く。
腹に沈み込むような重低音の声に古風な話し方で、面前の幼馴染が昔と変わってないことを感じられてサトシは嬉しかった。
「いいバトルをしようぜ。」
「うむ。」
サトシはワタナベに右手を差し出す。
お互い積もる話もあるがそれはバトルの中ですればいい。なぜなら自分たちはポケモントレーナーであり、チャンピオンなのだから…そんな意図に応え、ワタナベはガッチリと握手に応える。
儀礼ながら、確かな熱を互いに伝え合った。
「さぁー両者、健闘を誓う握手の後それぞれのトレーナーサークルへ向かい審判からの試合開始のジャッジを待ちます!ナンテさん、この試合どのような展開になりますかね?」
「そうですね。このPCCは今日から来月にかけ、チャンピオン10人が5人ずつに分かれての総当たり戦から上位2名が勝ち抜けての優勝決定トーナメントへという流れです。相手が全員チャンピオンという中で総当たりですから、どれほど手の内を温存していけるかが重要になってくるかと。」
「事前の情報アドバンテージに関してはどうしてもチャンピオンサトシの方が不利でしょうね。チャンピオンワタナベ側からすればデータは調べ放題でなおかつ自分のデータは独立リーグな分調べ辛い…。」
言いながらシゲルは自嘲する。
サトシが熱心に対戦相手のデータをチェックし対策を頭に入れるなどとはイメージの外であるからだ。完全に無縁というわけでもないだろうが、大体は出たとこ勝負でどうにかしていくタイプなのだ。
「これよりポケモンチャンピオンカーニバル、Aブロック!アローラリーグチャンピオンサトシvsハザック地方独立リーグチャンピオンワタナベの試合を行います!試合方式は6C3Dルール!!メガシンカ、Zワザ、ダイマックス、テラスタルは試合中どれか1種類を1度のみ使用可能!!」
聞き慣れた審判の口上の中、サトシは目を丸くする。
ワタナベが突き出してきた右手に握られたモンスターボールにはその全体にびっしりと傷が浮かんでいた。それでいて動作に支障がないということはきっちり機能面のメンテナンスを怠っていないと窺える…。
「我がハザック地方は荒くれ者たちが明日の栄光を夢見て日夜争う修羅の地!!その頂点に立つ男として"天"を目指さぬはなし!!」
波導が燃え上がる炎のようにワタナベより噴き上がるのがサトシにはハッキリと見える。
真剣勝負、勝ちにきた意気が肌から伝わって来た。
「ゆくぞサトシ!!俺が求めるはバトルの勝利のみ!!」
「俺だってそうさ!!勝負だワタナベ!!」
幼き日に幾度となく興じたごっこ遊びが互いにフラッシュバックする。試合開始とともに、2人は肩書きを捨て去った。
真剣勝負とは肩書きでするものではないと知っているからだ。
「ピカチュウ!キミに決めた!!」
「ぴっかぁ!!」
「ふんゆあああ!!」
ワタナベが力の限り投げ込む8年分の傷が入ったボールより飛び出すは、
「ぐるぅおおおッ!!」
ボール同様に全身至る所に数えきれぬ傷を付けたリザードン。彼らにとって、傷とは勲章に他ならない。
「試合開始ィィィィィ!!」
審判のコールが響き、黄色い影が疾る。
旧友対決は、観る者全ての心を震わせた。
『少年ユキナリ』
ジョウト時代、サトシはスケッチブックを抱えた少年ユキナリとともに幻のポケモンセレビィを守るため巨悪に立ち向かった。
オーキド博士はその報告を聞いた通話越しに、サトシとピカチュウの、そして彼らとの時を越えた出会いはセレビィがもたらした運命であると気付いた。