3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 本編とはあまり関係がない外伝作その4となります。


外伝 The last battle〜OK〜

 ポケモン歴2022年8月13日、ポケモン研究の権威であるオーキド・ユキナリの死去が報じられた。享年80歳。

 その1週間後に氏の最大のライバルとして知られるキクコ女史の訃報が続いた。享年81歳であった。

 

 

 

 主人を喪ったオーキド博士のポケモン研究所に集められたのは博士の親族であるナナミとシゲルの姉弟、家族ぐるみで付き合いがあったハナコ、サトシの母子に加えてもう1人、マサラタウンの隣町トキワシティからジムリーダーのシンジもやって来ていた。

 

「シンジはキクコさんのことか?」

 

「まぁな。」

 

 サトシにシンジは首肯する。

 

「お集まりいただきありがとうございます。皆さんだいたい察しはついてるとは思いますが、オーキド博士とキクコさんの死因は、病死ではありません。」

 

 一同を集めた張本人であるナンテが口を開く。そのまま、両名の最期の真相を語り始めた。

 

 

 

「全国のタウンマップのどこにも載ってない、いわば『最果ての孤島』といったところかい。よくもまぁ上手いこと見つけたものだね。」

 

「プロジェクト・ミュウのトライアルミッションをやる過程でホダカくんところの若い子たちが発見したと言うのでな。」

 

 時は遡る。

 訃報から1ヶ月前のこと、ナンテのギャラドス『グルーヴ』より降りるオーキド博士とキクコは、何もない殺風景な島の浜辺から歩き、少しして原野にて対峙する。

 両者の間に立つナンテは、『最期の決闘』を見届けるために博士から指名を受けていた。理由としては単純な話、オーキド博士が昔主催していたデビュー前のトレーナー養成合宿『オーキドチャレンジ』の卒業生であり、私塾を開いて精力的な活動をしていたことですぐに連絡がついたからである。

 

『拝啓キクコ殿、貴殿のかねてからの要望に対し、これを受け入れる所存。ついてはマサラタウンの研究所まで来られたし。オーキド・ユキナリ。』

 

 齢を重ね、死を間近に意識するようになったオーキド博士が自身のやり残しとして着手したのが、昔年のライバルとの決着であった。

 

『なにがポケモンの研究だ!なにがポケモンの謎を解き明かすだ!!そんなことのために勝ち逃げしようってのかい!!』

 

 ポケモン歴1972年、その年のリーグ優勝にて有終の美を飾ってトレーナーを引退し、研究者の道1本に絞るユキナリの後ろ姿にキクコは罵声を飛ばし、ユキナリはそれに応えることなくバトルの世界から去っていった。

 それから50年間、ポケモントレーナーとして両者が向き合うことは1度たりともなかった。

 

「ワシが見るにあれから先、1番強いのはキクちゃんしかおらんかったがのう。」

 

「キクちゃん言うんじゃあないよ!…アンタが蹴ったチャンピオンの椅子なんて、死んでもごめんだからね。」

 

 語らう2人はボールを手に持つ。互いに老け込み、皺だらけの肌は隠しようがない。

 それでもトレーナーとしての闘志だけはメラメラと燃え盛っていた。

 

「オーキド先生、キクコさん。お二方の戦いぶり、しかと検分致します!どうか心ゆくまで、存分に!」

 

 1つの時代を築いた2大巨頭の『最期の決闘』、その検分役として指名を受けたナンテは、光栄であるというのと物哀しいという気持ちがない交ぜになっていた。

 そもそもこの2人が人知れずバトルをしていいとすら思えなかったが、人生最期、と言われてしまえば当人たちの意思を尊重するよりなかった。

 

「いくよゲンガー!!」

 

「げんげぇん!!」

 

「ゆけ!リザードン!」

 

「ぐぉるううう!!」

 

 互いに相棒を繰り出す。ゲンガーはシャドーポケモンという分類から黒ずくめなボディで窺い知れないが、リザードンの方は明らかに主人同様老け込んでいるのが丸分かりだ。

 

「まだ生きてたのかいそいつ!ゲンガー、シャドークローだよ!」

 

「げんッ!!」

 

「こやつもこの日を待っておったのやもしれぬのう、リザードンよ、ドラゴンクロー!!」

 

「ぐぉうるぅ!!」

 

ガキィィィン!!

 

 ナンテは見た。

 飛びかかったゲンガーの振り下ろすのと、振り上げる形のリザードンのクロー攻撃が、双方ともに『触れていない』のを。

 

「(互いの覇気がぶつかり合っている!)」

 

 この時ナンテは、オーキド博士もキクコもトレーナーとして全盛期に程近い状態に仕上げた上でこの場に臨んでいることが分かった。

 当人たち自身の仕上がりへの満足度までは知りようないが、少なくとも映像記録にあった在りし日のスター選手そのままのパフォーマンスは十分期待する余地があった。

 

「昔はきりさく攻撃だったが、しっかりバージョンアップされてるじゃあないかそのリザードン!」

 

「ゲンガーも昔より踏み込みが洗練されておる!」

 

「アンタと違ってあたしゃずっと戦い続けてたからね!」

 

ババッ!とゲンガーはリザードンから離れ、空へ逃れる。

 

「シャドーボール!」

 

「げばばばばば…!」

 

 その大きな口が開かれれば、ゴーストタイプのエネルギー弾がリザードンの頭上に降り注いだ。強烈な絨毯爆撃だ。

 

「エアスラッシュじゃ!」

 

「ぐぉうるぅ!」

 

ドドドドドウ!

 

 爆撃に対し、リザードンは両翼を振るわせて発射する『空気の刃』で弾幕を張り自らを守る。

 

「翔べ!リザードンよ!」

 

 博士の指示に応え、リザードンは飛翔。エネルギー爆発のモヤを突き破り高度を取った。

 

「ぐるぅ!?」

 

 リザードンが身軽な挙動を見せるのは昔取った杵柄、体に染みついた最低限の動きの回避行動だった。

 

ドパン!

 

 地上からの砲撃、炸裂するはどくエネルギーが凝縮された紫色の『ヘドロ』。ヘドロばくだんだ。

 

「どこからじゃ…?」

 

 言いながらオーキド博士は瞑目する。

 ゴーストタイプを相手に目を頼りとするのは悪手なのだ。文字通り始祖として、タイプそのものを定義付けした張本人を前にしては尚更だ。

 

『何が大学の研究は面白い、よ。まるで退屈じゃあないか』

 

 ユキナリがタマムシ大学に通いながらトレーナーとしてリーグに出入りしていた頃、キクコもほんの僅かな期間タマムシ大学に在籍していた。

 思うようにバトルに応じてくれないユキナリへの当て付けだった。

 

『凄いよキクちゃん!』

 

『キクちゃん言うんじゃあないよ!』

 

 キクコとしては暇潰しという感覚でしかなかった。だが、彼女が戯れに書き上げた論文をきっかけとしてそれまで調査が進んでいなかったゴーストタイプの定義が一気に確立した。

 キクコは文字通り、ゴーストタイプの概念を定義した始祖なのだ。当の本人からすればユキナリとの勝負以外どうでもよく、ほんの半年ほどで大学を去ってしまったのだが。

 

「誘き出せリザードン、かえんほうしゃ!!」

 

 瞠目した博士は原野の一角にある木々を指差す。

 

「ぐぉるぼおおおおお!!」

 

 リザードンは迷うことなく炎のブレス攻撃を放ち、木々を焼き払えば、

 

「げぇ〜ん!」

 

 たまらずゲンガーが飛び出して来た。

 

「流石に読んできたか!」

 

「そろそろ準備体操もよかろう!」

 

 オーキド博士が白衣を脱ぎ捨てて左腕のメガリングを構えれば、キクコは手に持つ杖の取っ手部分を開くことで内蔵されたキーストーンを露わにする。

 

「夢と!冒険と!この世界で育んだ絆でいざ勝負!!リザードン、メガシンカでレッツゴー!!」

 

「強さ!それこそがあたしたちの求める全て!!掴み取る勝利こそが絆の証明!!ゲンガー、メガシンカだよ!!」

 

 眩い輝き、虹の繭がリザードンを、ゲンガーを包み込んでゆく。

 ナンテとしては、ここまでの差し合いでも全然金は取れると思った。

 

「ぐるぉうぉぉぉぉぉ!!」

 

 リザードンは従来のフォルムに近いメガリザードンYとなり、全身から放たれる陽の気で雲が消し飛んでゆく。

 

「げぁぁぁぁぁッ!!」

 

 ゲンガーは黒ずくめから禍々しい赤紫へ体色が変わり、頭の角や両腕、尻尾が大型化。

 全体的に鋭角的でワイルドな姿へと変化。足元は異次元空間へ突っ込んだままのメガゲンガーへとメガシンカ。額に現れる『第3の目』は、しっかりとリザードンを標的として定めた。

 

「(アンタはいつもそうだった…底抜けに明るくて、いつもアンタの周りには人がいて…。アンタからすれば、あたしはそんな中の1人に過ぎなかったんだろうね。)」

 

 キクコは、目の前のオーキド博士の姿が昔の『若くていい男だった姿』とダブッて見えて来る視界に自嘲する。

 

「(あたしの青春に望みもしちゃいない無用な足跡を残していった落とし前はつけてもらうからね!!)」

 

 引退し、トキワシティの教会で盛大な挙式の最中にあるユキナリの姿を遠くからひと目眺めて立ち去った日の情景をキクコは振り払う。

 誰にも拾われはしない『青春の終わり』など、今となってはどうでもいい。目の前の死闘こそがポケモントレーナーとして望む全てなのだから。

 

「ゲンガー!」

 

「げぁば!」

 

 ゲンガーが舌をベロベロと突き出しながらリザードンへ両手を向ければ、周囲のあらゆる物体から出来る影よりシャドーボールが乱射される。

 異次元空間より周囲の影に干渉出来るメガゲンガーとしての荒技だ。

 

「(キクちゃんよ、ワシのトレーナー人生において、キクちゃんこそが最大のライバルであったよ。)」

 

 メガリザードンYの特性『ひでり』のままにオーキド博士の心は晴れやかであった。

 主人の心のままにリザードンは翔び、シャドーボールの集中砲火を掻い潜ってゆく。

 

「(勝手な話であることは百も承知だが、こうして人生の幕を下ろす前の最期の相手はキクちゃん以外におらぬと思っておった。)」

 

「ざどぁ!」

 

 肉薄したリザードンのドラゴンクローがゲンガーの左目を捉え、ゲンガーの右手から発射されたヘドロばくだんがリザードンの左肩に直撃する。

 

「げぁッ…!!」

 

「ぐ、るぅッ…!!」

 

 たまらずゲンガーは周囲の影への干渉をストップし、リザードンも左肩から後ろの左翼まで瞬く間にヘドロが回り、どく状態となる。

 どちらもノックバックを余儀なくされた。

 

ゴゴゴゴゴ…!

 

「ん?なんだ?」

 

ゴアアアアッ!!

 

 島全体を揺るがす地響きからすぐだった。

 島のあちこちから、地面を突き破りエネルギーの奔流が柱となって打ち上げられてゆく。

 

「ま、まさか…!先生とキクコさんのバトルの余波と、メガシンカのエネルギーで刺激を受けた島の地脈が急激に活性化した…いや、し過ぎたのか!?」

 

ゴアアアアッ!!ゴアアアアッ!!

 

 エネルギーの奔流同士が干渉し、さらに地脈の活性化を促してゆく。その先に待つのは、島そのものの崩壊に他ならない。

 

「先生!キクコさん!これ以上は不味い!!これ以上は島の崩壊に巻き込まれます!!」

 

 返事の内容は薄々分かってはいたことだった。ここで警告を聞くぐらいの覚悟ならば、最初から果たし合いになどなりはしないのだから。

 

「「ならばこの一撃で決するのみ!!」」

 

 ナンテの安堵といえば、オーキド博士もキクコも『バトルが終われば帰るつもり』であるこの一点のみだった。

 

「ぐるぁぁぁぁぁ…!!」

 

「ゆくぞリザードンよ!!」

 

「げーッげッげッ!!」

 

「ゲンガー、今こそ精算の時!!」

 

 視界のブレが収まらぬ島の地響きとエネルギーの柱があちこち打ち上がる中、両陣営どちらも気合を込め、エネルギーをチャージする。

 

「燃え上がれ太陽!!我が魂!!リザードン、ブラストバーンじゃあああああッ!!!」

 

「鎮め!!そして沈みな!!ゲンガー、ポルターガイストォォォォォッ!!!」

 

「ぐるぉあああああッ!!!」

 

「げあああああッ!!!」

 

 灼熱の炎を全身から発しながら突撃するリザードンに、ゲンガーは周囲のへし折れた大木をゴーストエネルギーでひと纏めにして振り下ろす。

 

「「おおおおおおおおおおッ!!!!」」

 

 互いの決着をかけた技が衝突する瞬間、ユキナリとキクコは同じ光景を見た。

 

『あたしはキクコ!あんたの名前、覚えといてやるから名乗りな!』

 

『僕はユキナリ!マサラタウンのユキナリ!』

 

 深い森の中、腐れ縁の始まりとなった記憶…。

 

ドゴオオオオオッ!!!!

 

「う、うわーッ!!」

 

 その決着をナンテが見ることは叶わなかった。

 原野一帯を丸ごとエネルギーの奔流が呑み込み、ナンテの身体は大空へ吹き飛ばされ、彼方先の海へと投げ出されたからだ。

 

「ぐ…!先生は、キクコさんは、ッ…!?」

 

 着水し、すぐにグルーヴをボールから出してライドするナンテは、目を見開いた。

 天へ昇るエネルギーの奔流だけが視界を刺激し続け、島は跡形もなく消滅していたからだ。

 

「先生…!キクコさん…!」

 

 2人の横顔を思い返す。真剣勝負に病みつきで、文字通り命を賭したポケモントレーナーの魂の輝きがそこにあった。

 ナンテは、OK(オーキド、キクコ)時代の終焉を目の当たりにしたのだ。

 

 

 

「コレが、自分の見て来た全てです。オーキド博士も、キクコさんも、その後島の跡地を泳ぎ回って、海中深く潜って探しましたが、ご遺体は結局見つからず…。」

 

 話し終えたナンテは沈痛な面持ちを床へと向ける。

 

「まぁ、お祖父様としては本望だったんじゃあないかな。」

 

「そうね…。」

 

 シゲルにナナミは首肯する。葬儀の際に遺体がないということで、ある程度事情に察しはついていた。

 

「シンジ、帰るのか?」

 

「キクコさんの戸籍周りをもう一度よく調べてみる。親戚の方がいるのなら一応は伝える義務もあるだろう。」

 

 どのみち長居する理由もない、とシンジは研究所を後にする。

 キクコの弟子として、彼なりに出来ることをしたいというのを背中で語っているのがサトシには分かった。

 

「ぴかぴ…。」

 

「ピカちゃんとサトシの出会いも、オーキド博士のおかげよね。」

 

「うん。」

 

「家には帰って来れなくても、お墓参りはしなさい?あなたが今そうしてられるのは博士のおかげなんだから。」

 

「分かってるよ。」

 

 旅立ち、ピカチュウとの出会いの日を思い出すサトシは、ハナコのお小言で意識を現実に引き戻される。

 ふと窓の外を見れば、研究所の庭の一角に大きなお墓が建てられていた。

 

「庭に住んでたポケモンたちがいつの間にか作っていてね。きっと山から運んで来たんだろう。」

 

 オーキド博士に最期まで付き従い、いなくなった『庭の長老』であったリザードンの墓だとシゲルが語るのを静かにサトシは聞いた。

 幼き日、研究所でポケモンたちと遊んでいた時常に暖かな視線を送っていたリザードンのことを思い出す。

 

「(オーキド博士…キクコさん…お疲れ様でした。)」

 

 心の中で静かに念じ、瞑目する。

 サトシ35歳、最大の恩師を喪った夏の日の記憶である。空を見上げれば、何とも陳腐な話だが浮かぶ雲がオーキド博士のように見えてくる。

 

『みんなもポケモン、ゲットじゃぞ〜!』

 

 空の上の博士は、サトシのよく知る屈託のない笑顔だった。

 

 

 




 『ナナミ』
 シゲルの3歳上の実姉。マサラタウンの実家(オーキド研究所とは別の場所)に住んでいる。
 サトシたちわんぱく小僧どもの成長を間近で見届けてきた良き姉だ。

 今回のお話で本シリーズは完全に終了となります。ここまで読んで下さり本当にありがとうございました。
 明日22日より新作の掲載を始めますのでそちらも読んで下さると嬉しいです。
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