3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 セレナの迷いは、言葉を投げかけたサトシに一切自覚がないまま勝手に晴れた。
 そんなセレナに安心したサトシは、試合に向けた特訓の為ガールズを放り出して飛び出していくのだった…。


それぞれの戦い ランクマッチ サトシvsゲンジ①

 サイユウシティにあるホウエン地方ポケモンリーグ委員会が管理する巨大スタジアムは、地方予選の会場としても使われる頂点を目指すポケモントレーナーたちにとっての旅の終着点という認識も強い。

 水路を取り入れた町並みにグルメ店の招致にも力を入れており、メイン事業として使われるスタジアム興行の有無に関わらず、普段より周辺の商店街も盛んに賑わっていた。

 そして今日は、PWCSの試合があるため満員御礼なのである。

 

「ぴかぴー!」

 

 サイユウスタジアムの選手控え室にて、ピカチュウがスマホロトムからの反応をサトシに伝える。

 サトシの知己は、基本的にスマホロトムに通話をかけることはない。かけてみたところでサトシがほぼほぼ応答しないのは分かっているからだ。旅の道すがら、あちこち駆け回るのに夢中なサトシであるのだから無理もない。

 母のハナコや恩師のオーキド博士も、何か用がある時はスマホロトムについているGPSを頼り、おおまかな所在地を洗い出してから周辺のポケモンセンターに掛け合った方が早いとすら考えている有様なのだ。

 と、なると自然とコンタクトの中心はSNSサービスの『ポケライン』にだいたい帰結する。

 もっとも、スマホロトムを活用する習慣もまるで身についていないサトシであるので、SNSにしても捕まる確率が低いのは同じではあるのだが。

 今回のホウエン来訪前、ハルカがポケラインでサトシと絡めたのも、船を待つ間の待機時間の中、盛大に暇していた状態のサトシにたまたま引っかかっただけ、というのが真相であった。

 

「どうしたんだピカチュウ?」

 

 控え室備え付けのシャワーを浴び終え、頭を雑にバスタオルで拭きながらサトシは出てくる。

 3年前に比べ、身長が伸びた以上に鍛え抜かれたその鋼の肉体をまるで彩るかのようにあちこちの傷が主張している。

 サトシは、ポケモンが大好きだ。

 傷ついたり危ない状況のポケモンを見れば、体が勝手に飛び出して庇いにいってしまうし、知らず知らずのうちに彼らにとっての地雷を踏み抜き、手痛い制裁を受けたりもする。

 それでなくても自分のポケモンたちの仕上がりをチェックするために、自らサンドバッグになることも日常茶飯事だ。

 ついさっきまでも、そうして試合に出す予定のポケモンたちの技をその身に受け、コンディションの最終チェックをしていたのだ。

 

「ぴかぴ、ぴかちう。」

 

「んー?」

 

 サトシはピカチュウからスマホロトムを受け取り、未だ覚束ぬ指先でポケラインからの新着を確認する。

 スマホロトム自体は契約しているスポンサーから毎年新型をあてがわれるのだが、当のサトシはもとより機械に疎く、加えて多機能化するスマホ業界に全く順応が追いついておらず、片手親指だけでのタップやスワイプを最近ようやく習得したくらい、という有様であった。

 

「セレナ、やったな。」

 

 カロスの仲間たちで作られたグループに貼り付けられていたのは、無事にミナモライブを制したことのセレナからの報告写真。

 サトシからすれば3日前は再会してすぐの頃何やら沈んでたのが、よく分からないうちにいつの間にやら発奮し、復活していたセレナ。そんなセレナの頑張りや強さが、仲間として与えてくれる活力をくれる。

 サトシは"おめでとう!"と珍しくすぐの反応を返したが、入力ミスで"おでめとう!"となっているのに本人は気付いていない。

 

「チャンピオンサトシ、入場時間です。お願いします。」

 

「はい!行くぜピカチュウ!」

 

「ぴっぴかちゅう!」

 

 真新しい服にサトシが着替えたところでスタッフが選手入場の報告に来た。

 サトシの衣装は3年前、アローラ地方から帰還し、サクラギ研究所所属のリサーチフェローに就任した頃のそれのままデザインは変わっていない。

 当時、サトシはPWCSで、試合開始直前にダンデから提示されたルール変更の恩恵を受けたと言う実情はどうあれ、彼を破って優勝したことにより数多くのスポンサーが付いた。

 実際のところ、ホウエン地方を巡っていた頃にはもう既にスポンサーシップ収入だけで普通に自活できるだけの収入源は確保できており、アローラリーグを制覇した時にその数は倍となっていた。

 もっとも、サトシ本人はその方面に全く無頓着な為、母親のハナコが後見人兼代理人として窓口になっていたのだが。

 そんな中でアローラリーグ制覇、PWCS優勝と立て続けに最高の成果を出し続けたことにより、正確には元から食っていくには困らない程度にはついていたスポンサーの数がさらに爆増した、というのが正しい。

 今着てるのはその中でポケモンリーグ公認の元、サトシのこれまでの衣装のレプリカを販売、流通させたアパレルショップに頼んで送ってもらっている支給品だ。普段はともかくとして、公式戦の舞台ではこの支給品を着用して参加するのが契約として明記されている。

 スタッフからの呼びかけに応じ、サトシはピカチュウを肩に乗せ控え室を出る。

 

「よーしッ!!」

 

 通路を歩きながら両手で頬をパシパシと叩き、サトシは今一度己に気合いを入れた。

 

 

 

「全国のポケモントレーナーの皆さん!ポケモンバトルファンの皆さん!こんばんは!PWCSランクマッチ、こちらサイユウシティのスタジアム放送席から私、ジッキョーと解説にはポケモン評論家のナンテさん、ゲストにトウカジムのジムリーダー、センリさんをお招きしてお送りします!お二方、今日はよろしくお願いします!」

 

「よろしくお願いします。」

 

「よろしく。」

 

「なお副音声にはポケモンコーディネーター兼スタイリストとして活躍するハーリーさんをお迎えして楽しくお送りしています!さてナンテさん、今回の試合はどういった展開になるとお考えですか?」

 

「そうですね。どちらも高い対応力がウリのトレーナーですから、激しいぶつかり合いの、その細部の細かい指示出しに注目したいですね。」

 

「うむ。戦う方はもちろん、見る方も高い集中力を求められる。それだけ得られるものも大きな試合になりそうだ。」

 

「なるほど!さぁ選手入場であります!両者出てきます!間も無く試合開始です!」

 

 

 

「あっ、出てきた!」

 

 観客席の最前列、フェンスから身を乗り出す形でマサトは陣取っていた。

 3日前、ハルカたち女子陣と別れてからずっとサトシの特訓に同行し、そのままスタジアムまで足を運んだのだ。

 

 

 

『青コーナー!PWCS前回大会最終ランク17位!!ホウエンリーグ四天王!!ゲンンンンジィィィィィ!!』

 

ウォォォォォォォ…!!オオオオオ!!

 

 

 

 ナレーターのレニーによる特徴的なアナウンスコールの中、制帽を被り、素裸にコートを合わせている。一見痩せぎすを思わせるも、その鋭い視線、蓄えられた口髭、そして鋼の肉体が、見るものに威厳を植え付ける。

 姿を表し、悠然と歩を進めるゲンジはジッと一点のみを見据えている。

 

「さて、むううん!」

 

 あえて覇気を放って見せながらこれから戦う世界の頂点、かつて交流を重ねた少年を待ち構えた。

 

「相変わらず、凄い波導だ。」

 

「ぴっか。」

 

 入場口の向こうから放たれる威厳に満ちた波導を、サトシはキャッチする。

 依然変わらぬであろう相手の姿を嬉しく思った。

 

 

 

『赤コーナー!カントー地方マサラタウン!PWCSチャンピオン!アローラリーグチャンピオン!』

 

 

 

ドワオオオオオオオ!!

 

「ふふ、返して来たか。」

 

 即座にゲンジは入場口の彼方から放たれ返された覇気を全身で感じながら、ニヤリと笑う。

 ポケモンのレベルは当然として、トレーナーとしても遥か高みへ昇ったのであろうことは容易に想像できた。

 

 

 

『サァァァァァトォォォォォシィィィィィ!!』

 

 

 

「来た来た!サトシー!!…お姉ちゃんも生で観にくればよかったのに。」

 

 サトシがフィールドに姿を現す。程よいファンサービスとして、両手を上げ観客席に満遍なく応えて見せていた。

 マサトは、ミナモライブの打ち上げをするセレナたちの元に顔出してスマホロトムの配信で見るからいいと、この場に来なかったハルカのことをポツリ呟く。

 今頃はライブ後の事後処理も済ませ、ホテルでまた女3人、姦しく盛り上がっていることだろう。

 歳の割にはませたところもあるマサトとしては、姉がサトシに向けている好意というものがいわゆる『Like』だけとも限らないことを察していた。

 サトシへのリスペクトの度合いでは負けていないと自負するマサトも、姉とサトシがいわゆる『そういう関係』になるとしても大歓迎であった。

 むしろそうなって欲しいと気ぶる気持ちすらある。

 

 

 

「お久しぶりです、ゲンジさん!」

 

「ワールドチャンピオン、と呼ばれるのがこそばゆいことは想像がついている。故にあの時のように呼ばせてもらおう。今日はよろしく頼むよ、サトシくん。」

 

「はい!!」

 

 両者スタジアムの中央でがっちりと握手をしては両サイドのトレーナーサークルへそれぞれ入る。

 それを認めた審判がドローンロトムを操作、バリアフィールドが展開され人工ガラテラ粒子がフィールド内に散布される。

 

「これよりPWCS公式戦、サトシ選手対ゲンジ選手の試合を行います!試合方式は3C1Dルール!試合中メガシンカ、Zワザ、ダイマックス、テラスタルの使用はそれぞれ1回、どれか1つのみ可能です!」

 

 試合ルールの提示と同時に両選手にコールがかかる。先発ポケモンが繰り出されたと同時に試合開始だ。

 

「ガバイト!キミに決めた!!」

 

「がぅば!!」

 

「俺はこいつだ!出てこいコモルー!!」

 

「くぉもー!!」

 

 かつてバトルした時は四天王と未熟者、舞台はちっぽけな野良試合。

 今はワールドチャンピオンと四天王、舞台は満員の観衆の中での大勝負。

 立場の差、その上下は変わっても目と目が合えばやることは変わらない。

 ポケモンバトルに熱く燃えたぎるのは、ポケモントレーナーの性であった。

 

「試合開始ィィィィィ!!」

 

 

 

 




 『ゲンジ』
 57歳。ホウエン地方の四天王で、高名なドラゴン使い。
 過去、サトシと幾度か顔を合わせたことがあり、バトルをしたり、仕事を頼んだりした仲である。
 エースポケモンはホウエン地方を代表するドラゴンポケモンのボーマンダ。
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