3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 それぞれ戦い終えてひと山越えては、羽を伸ばすためにビーチに集まったサトシたち。
 夢中で泳いでたどり着いた先で、サトシはかつての仲間のラプラスと再会するのだった。


それぞれの戦い 女心男知らず、町外れにて②

「サトシ、そのラプラスってもしかして?」

 

「おっ。知ってるのかマサト?」

 

「もちろんだよ!オレンジリーグのウィナーズカップで出してた子だよね?」

 

 オレンジ諸島。

 カントー地方から南方にある島々で運営されている非公認の独立リーグの試合記録であっても、サトシのものなら、とマサトはチェックしていた。

 独立リーグの試合記録というのは動画投稿サイト『ポケチューブ』におけるポケモンリーグ公認アカウントからアップされることは基本的にない。

 たまたまアップされていた、当時のいち個人ユーザーの観客席から撮影されたホームビデオレベルの、さほど画質もよろしくない試合の一部始終であっても、マサトにとってはサトシの試合というだけで大きな価値があった。

 

「くぅん?きゅ。」

 

 自分を見て目を輝かせる見知らぬ小さな眼鏡の少年が、大恩あるサトシの知り合いであるとその高い知能で察しては、ラプラスもマサトに好意的な表情を見せ問題ない、と警戒を解くよう群れに目配せした。

 

「そうさ。にしてもお前、大きくなったなぁ〜!」

 

「くぅ〜ん!」

 

 サトシとラプラスの出会いは3年前、群れからはぐれ、オレンジ諸島ボンタン島の海岸に流れ着いたところで不良たちに虐められていたラプラスをサトシとカスミ、それに2人と知り合う前のケンジが助けに入ったことが始まりであった。

 ラプラスとの出会いは、ケンジとの出会いにも直結しているのだ。

 サトシはラプラスを群れを探すまでという条件をつけて保護目的でゲットし、以後オレンジ諸島を巡る旅において、海路での移動手段として一貫してラプラスを頼り、条件通りはぐれた群れの元へ逃すことでサトシとラプラスの、トレーナーとゲットされたポケモンという形の関係は終了した。

 そこから旅の道中、2度ほど再会を果たし、大きく成長していたことは知っていたが、今こうして3度目の再会を果たしたラプラスは、サトシの記憶の中の姿に比べ、さらなる巨体を手に入れていた。

 個体としての平均的な大きさは2.5mであるのに対し、このラプラスはの大きさは3mを越していた。群れのリーダーとして恥じない存在感を示すのには、体の大きさも重要なファクターなのであろう。

 よく見れば体のあちこちに無数の傷がうっすらと見える。群れを守るための戦いでできたものなのだろう。そのうち治癒し、完全に見えなくなる類のものだが、それは紛れもなく群れのリーダーとしての勲章であった。

 ラプラスが立派に暮らしているのが分かって、サトシは嬉しくなった。

 

「それにしても元気そうでよかったよ。心配はしてなかったけどな。ラプラスは強いし、根性あるもんな。」

 

「ぴかぴか!」

 

「くぅん。」

 

 サトシはラプラスの首元に抱き締めるように密着し、優しく撫で続ける。

 ピカチュウはラプラスの頭に乗って飛び跳ねはしゃいでいた。

 ラプラスはピカチュウとも再会の挨拶を交わし、気持ちよさそうに目を瞑り撫でられる感触と、サトシの体温を味わっている。

 

「俺も変わってないぜ。ポケモンマスターを目指してあちこち旅してるんだ。お前と一緒に戦ったユウジさんみたいな、すっごく強いトレーナーとバンバンバトルしてるんだぜ。」

 

「くぅん!」

 

 饒舌に語るサトシに、ラプラスは何度も頷いて見せる。

 体は幾分か大きくなっても、その真っ直ぐさと無邪気さが一切変わっていないのは、人の世界では鈍感さから悪徳に映り、生き辛さに繋がるような面もあるが、ポケモンであるラプラスにはひたすらに美徳であった。

 ラプラスがサトシの下でポケモンバトルに臨んだ最初で最後の戦い、相手はオレンジ諸島の独立リーグの頂点に立つヘッドリーダーユウジ。

 10の技を駆使するという、他の同種と比べても規格外のスキルを持ったドラゴンポケモンカイリューをパートナーとする強力なトレーナーだ。

 後に様々なカイリュー使いと出会い、サトシ自身もカイリューをゲットするのだが、10個の技を実戦レベルで扱ってくるその無法じみたスキルを有していたのは、後にも先にも彼のカイリューだけである。

 サトシは彼を相手取り、ラプラスを加えた当時の精鋭6体をぶつけ、死闘の果てに勝利を掴んでいる。

 無論、ラプラスの功績も大きい。ラプラスがいなければ、そもそものところオレンジリーグのジムを回るためにも難儀したことだろう。カントー時代から変わらずロケット団からの邪魔立ても当たり前のようにあったのだ。

 そんなサトシの功績は、今でもオレンジ諸島カンキツ島にあるウィナーズパレスにて、文字通りサトシの手形と、バトルに参加したピカチュウ、フシギダネ、リザードン、ゼニガメ、ケンタロス、そしてラプラスの足跡が、記念に撮影された写真と共に飾られ、安置されている。

 非公認の独立リーグとはいえ、後のワールドチャンピオン初の大きな功績として、ファンからは聖地扱いもされているのはサトシ本人には預かり知らない話である。

 

「それで今度はさ。イッシュ地方に行くことになってるんだ。その後は…ラプラス?」

 

「くうん?くぅ〜ん!」

 

 サトシの行き先を聞くなりラプラスはぱぁぁ、と目を輝かせる。

 そして背を向け、ヒレで背を指して見せ、仕切りにアピールをし始めた。

 

「ぴかぴか?」

 

「ラプラス、もしかして乗せてってくれるのか?」

 

「くぅぅ〜!」

 

 当たりなようだ。どうやら彼らが群れとして定めている次の行き先も、イッシュ地方の方角にあるらしい。

 行き先が同じなら乗せていってあげるよ。ラプラスはそう提案したのだ。そこでサトシも何かを思い付き、マサトを向いた。

 

「マサト!お前PWTに出るんだろ?飛行機の予約はもうしたのか?」

 

「え?ううん。当日便で行けばいいかなって、まだ何も手をつけてないよ。」

 

「そりゃあいいや!どうだ?ラプラスにのって一緒に行かないか?」

 

「いいの!?僕邪魔にならない?」

 

「大丈夫さ!こいつは小さい頃から俺とカスミに、ケンジの3人を乗せてオレンジ諸島の島から島へ泳いで渡る体力があったんだ!すっごくタフなんだぜラプラスは。」

 

「くぅぅ〜ん!くぅ〜!」

 

「いいよな?ラプラス?」

 

 問いかけるサトシにラプラスはもちろん!と笑顔で返す。ラプラスとしてもこうまで褒め殺されては嬉しさでいっぱいだ。

 ラプラス側が迷惑でないと言うのなら懸念することもない。マサトは表情を輝かせた。

 

「それならわかったよ!あ、そうだサーナイト!」

 

 マサトがホルダーから取り出したボールを開けば、相棒のサーナイトが姿を現し、ふわりと優雅に着地する。

 

「(なにかしら?)」

 

「お姉ちゃんたちのいる浜辺まで行って連れてって欲しいんだ。出発するなら荷物持ってこなきゃ。」

 

「(わかったわ、マサト。)」

 

「なら俺も行くよ。」

 

「サトシはここにいててよ。サーナイトは僕たち人間の思念をキャッチする力があるから、テレポートを使うための目印代わりにちょうどいいんだ。」

 

「マサト。」

 

 マサトの語ったことは事実ではある。

 一度バトルをしたことで、サーナイトもサトシの思念というものをサイコパワーから脳内に記憶しているため、ある程度の範囲ならば即座に近くまで瞬間移動ができる。

 それ以上に、昔馴染みの仲間と積もる話はまだまだあるんだろ?と瞳で語ってみせるマサトの心配りに、サトシは胸を熱くさせられた。

 

「ま、サトシの荷物なんてどうせどこに行くにしてもリュック一つで収まっちゃうんだし、ついでに持ってくるくらいへーきへーき!」

 

「お前なー!」

 

「あはは!お願いサーナイト。」

 

 こういう余計な一言が多いのも、サトシから見てマサトの相変わらずなところであった。

 サーナイトとともにマサトはテレポートし一旦この場を立ち去る。

 

「ただいま!」

 

「サンキュー!」

 

 少しして、マサトは自身とサトシの荷物を持ってテレポートで戻ってきた。

 そのまま荷物から服を引っ張り出し着替え始める。

 

「わぁー!サトシもう毛が生えてるんだね!」

 

「いいだろー?これで俺も大人の仲間入りだぜ。」

 

 町外れで人通りもない男同士の空間で何を隠す必要があろうか。立派なモノ、男のシンボルを青空の下晒すのを気にも留めていない。行きはズボンの下に海パンを仕込んで来て、服を脱ぎ捨て準備体操もそこそこに海に飛び込むような腕白野郎どもならなおさらだ。

 

「さぁな…!」

 

「ぴかぁ?ぴっか…。」

 

 それにたまらずサーナイトが両手で顔を隠すのを足元にいたピカチュウは見上げる。

 顔を隠しながらも、しっかり指と指の合間からマサトのモノを見ているサーナイトに、怪訝な表情からなんだこいつ…というような、なんとも言えないものにピカチュウはさせられていた。

 トレーナーとポケモンという関係はサトシとピカチュウのそれと同じ、大事なパートナーなのだろうが、マサトとサーナイトの場合は性別が違う。

 その辺りの性差の機微は、いわゆる『男同士』としてサトシとやってきたピカチュウにはイマイチよく分からなかったが、とりあえずサーナイトは、マサトの事を一般的なトレーナーとポケモンと言う間柄からの信頼関係のそれ以上に好いている、というのは伝わって来た。有り体に言えば、番として認識している節がある。

 そんな彼女の恋慕により、マサトの異性関係がどうなるかは、マサトの自身の問題であり、ピカチュウにはなんの関係もないことだったからそこに言及する道理もない。

 

「よし、いくか!」

 

 普段の衣装に戻ったサトシが、オレンジ諸島を回ったあの日々と同じようにラプラスの背に乗り込めば、マサトもそれに続く。

 2人のスマホロトムには鬼のように通知が来ているが、ラプラスにのってこれから始まる海の旅への高揚を前に気づいてすらいない。

 

「おっきくなっても変わんないな。この背中の暖かさ。」

 

 オレンジ諸島での旅の日々が脳内でフラッシュバックする。

 ラプラスの背は、サトシとマサト、それにピカチュウとサーナイトがそれぞれ寝転がっても余裕があった。

 サトシはあの日のように、前を指差し高らかに告げた。

 

「よーしラプラス!イッシュ地方まで、出発進行ー!!」

 

「おー!!」

 

「ぴっぴかちゅう!!」

 

「くぅぅぅーん!!」

 

 サトシの号令にマサトとピカチュウが乗っかり、ラプラスが群れに指示を飛ばせば休憩はおしまい。

 リーダーを中心に、無数のラプラスが規則的な隊列をもって泳ぎ始め、町外れの浜辺を後にした。

 目指すはイッシュ地方。死闘が彩るPWTの熱き華舞台。

 

 

 




 『ユウジ』
 27歳。オレンジ諸島独立リーグのヘッドリーダーを務める青年。
 風変わりなオレンジ諸島のジムを回ってバッジを集め、挑戦してきたサトシを大いに苦しめた強敵だ。
 エースポケモンのカイリューは、現在の常識を覆す10の技を繰り出し、規格外の強さを誇るぞ。
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