3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
彼らが目指すのは、新たな戦いが待つイッシュ地方だ。
「ふねがなくても〜。」
「くぅ〜ん!」
「およげなくても〜。」
「きゅ〜ん!」
サトシとマサトのご機嫌な歌にラプラスたちがハミングを重ねる。
そんな楽しげな様子を、別のラプラスの背からサーナイトがマサトのスマホロトムを構えては、サトシとマサト、ピカチュウはカメラを向き満面の笑みでピースをする。
「「イェーイ!」」
ピロリン。
「(上手く撮れてるはずよ。)」
「ありがとうサーナイト。これでよし、と。」
サーナイトがシャッターを押してはテレポートでマサトの側に舞い戻り、スマホロトムを手渡す。
撮れた写真をマサトはグループに貼り付けた。
「これでもうお姉ちゃんからしつこく通知は来ないはずだよ。」
「一体なんて言って荷物持って来たんだ?マサト?」
「それがさぁ。」
ラプラスにのって出発してから、サトシとマサトのスマホロトムにはハルカからの通知がひっきりなしであった。
ひとこと告げてから荷物を持ってくればよかったのだがマサトはそうしなかった。
正確には出来なかった、と言う方が正しい。
「こんなに私たちのファンがいるのに何にもしないのって嘘でしょ?いくよチルル!」
「ちるぅ〜。」
時を少し遡り、マサトがサーナイトなテレポートにてミナモシティのビーチまで戻って来た時。そこはちょっとしたライブ会場に様変わりしていた。
「キラキラ〜!くるくる〜!」
ウォォォォォォォ!!ルチアたーん!キラキラくるくる〜!
合流して早々昼寝に入り、エネルギーを充填したルチアが目を覚ませば、コンテスト方面で名の知れた美少女3人の水着姿を目当てに集う野次馬連中を前にテンションがブチ上がり、チルタリスのチルルとパフォーマンスを始めてしまったのだ。
完全なるゲリラライブに、ビーチは一気にヒートアップしてゆく。
「まったく、ルチアってば。」
「こうなったらもう私たちもやらなきゃ損カモ!」
「…そうね!」
ルチアの溢れるパッション、その熱にハルカとセレナもあてられてしまう。
コンテストとライブ、厳密には競技として異なっていてもポケモンと共に歩む表現者として、自分たちのパフォーマンスを届けてたくさんの人たちを沸かせることが出来る舞台が目の前にあるならば、飛び込んでゆくのが彼女たちの本能であった。
3人揃って息を合わせ、本番さながらの即興パフォーマンスを披露し、集まった人たちを沸かせる中、マサトは姉たちをよそに荷物を回収し、サトシの元へ戻ったのだ。
あまりの盛り上がりにとてもひと声かけてゆける状況ではなかった、とサトシにマサトは語る。
「ならしょうがないな。」
「でしょ?」
「きゅうん。」
「どうしたラプラス?」
マサトにあっさり納得して見せたサトシがラプラスの顔色を窺えば、視線の先に何かを見つけたようだ。
出発したばかりなので当然イッシュ地方の陸地など見えるはずもない。目を凝らしてみる。
前方からは貨物船がやってきていた。
「船だ。」
「もしかしてお化け船?」
「いや、普通に人は乗ってる。」
「きゅくぅーん!」
波導を読み気配をサトシは感じ取る。
ラプラスは鳴き声と首の動きで群れに指示を飛ばし、貨物船を通り抜け先へ進むよう促した。
ラプラスは知能の高いポケモンである。眼前の船が気になるサトシたちの想いを汲み取ったのだろう。
サトシたちを乗せたラプラスは、貨物船に単身近付いてゆく。その周りには、落下したであろう積荷が散乱していた。
「こんばんはー。」
「おっ。ラプラスにのって海の旅とは風流だねィ!」
「なにかあったんですか?」
サトシが船長らしき屈強な男と話をする中、ラプラスは周囲への警戒を緩めない。
群れで活動するラプラスは、その回遊ルートも緻密に選んで活動している。
それ故に人が操るような貨物船の航行ルートも把握した上でバッティングがないようにしているのだ。
3年近く群れのリーダーをやっているラプラスからしたら、自身の決めた回遊ルートに船が流れ込んでくること自体が異常事態と言えるのだ。
「いやな?急に辺りが白い霧に覆われたと思ったら暗礁に引っかかっちまったらしくてさ。積荷も落ちちまってやべーな、ってなったら、ちょうど兄ちゃんたちが乗ってるみたいなでかいラプラスが現れてよ。船を安全なとこまで案内してくれたんだよ。」
「でかいラプラス?」
サトシもマサトも首を傾げる。
性格の都合上、群生という選択肢を取らない個体自体は珍しくないにしても、ホウエン地方の海域にラプラスが単独で生息できるようなエリアは存在しない。
マサトはすかさずポケモン図鑑の生息マップを確認し、サトシと顔を見合わせ頷いた。
とりあえず貨物船の方はラプラスの群れが見えた方角へ突き進めばミナモシティが見えてくるはずと船長のおじさんに伝え、ラプラスを出発させた。
「ありがとうよ!ベストウィッシュ、いい旅を!」
「船長さんもお元気で!」
「くぅ〜!」
サトシが貨物船に手を振りながら別れ、ほどなくラプラスは群れの先頭に舞い戻り、月下の行軍が再開される。
程なくして口を開いたのはマサトだ。
「サトシ。これは仮説なんだけどさ。」
「なんだ?」
サトシも耳を傾ける。
どのみちラプラスにのって揺られてゆくしかないこの海の旅、いくらでも時間はあるのだ。
当然、話を聞く時間だって沢山ある。
「あの船長さんが言ってたラプラスは、貨物船の積荷を奪う為にひと芝居打ったんじゃあないかな。」
「どういうことだ?」
サトシとて船長の話の不可解さと、その話に件のラプラス自身が関与していることそのものは、なんとなく直感としてあった。
ただ、それを理論立てて言語化するのは、マサトの領分であった。
「まずしろいきりで貨物船の視界を奪い、なんにも見えなくするんだよ。」
「ラプラスはしろいきりが使えるもんな。」
「その後、他の仲間が船体を沈まない程度に突き上げて積み荷を落とすんだよ。暗礁に乗り上げた、って思わせる程度にパニックにさせながらさ。」
「グルになってるやつがいるんだな。」
「ぴっかちゅ。」
状況証拠から仮説を組み立ててゆくマサトに、サトシが何度も頷いているのを見てはピカチュウもなるほど、とそれに倣って見せている。
「いい感じのところでラプラスが姿を見せて船を安全な、というよりは自分たちが捕捉されないところまで誘導する。こういう手口なら船員さんたちが訳も分からないままに積荷を奪えるはずだよ。」
「なるほどなー。」
マサトの推理は大方正しいのだろう。
ポケモン図鑑からの情報を鑑みるに、今サトシたちがいる海域にラプラスが単独で生活できるようなエリアは存在しない。
理由としては、単純に餌の絶対量が足りないのだ。
ラプラスの標準的な高さは2.5mとポケモン図鑑には記載されている。
貨物船の船長はサトシたちが乗るラプラスと同じように、霧の中で見たラプラスの影は平均的な大きさからはかけ離れていたと証言をしていた。
霧の中で視界がぼやけてのことだ、鵜呑みにはしきれないがどのみち標準サイズだったとしても相応の食糧が求められるのがラプラスというポケモンであり、だからこそ野生ではこうして群れを形成し、効率的に餌を求めて行動するのがポピュラーなのだ。
「あーあ、そんな凄いラプラスがいるんならゲットしたら即戦力になっただろうなぁ。」
「俺もバトルしてみたかったぜ。」
件の海賊ラプラスと会えないことをマサトは悔しがり、サトシも同調する。
そう、マサトの推理が正しければ、今の2人の元に彼らが姿を現すことなどはあり得ないのだ。
連中はその手口から、大量に食糧を運ぶ貨物船を狙うであろう。その関係上、同じくまとまった食糧を求めて動き回るラプラスの群れにわざわざ近寄る理由もないのだ。
仮に会ってみたいと動くにしても、その手口に合わせて誘き出すための手段も、時間的猶予もなかった。
サトシたちにはPWTに参加する目的もあるのだ。こればかりはどうしようもなかった。
「きっと、そのラプラスたちと会うのは、俺たち以外の誰かなんじゃあないかな。」
「ぴかぁ。」
サトシは寝転び、夜空を見る。その腹の上でピカチュウは丸くなり眠りにつく。
「巡り合わせ、ってやつ、だね。」
「あぁ。」
「さなぁ。」
サーナイトに膝枕をしてもらうマサトの返事は途切れ途切れである。日中散々泳ぎ遊んでいた疲れが出たのだ。
巡り合わせ…睡魔に意識を手放しそうな中、マサトの脳裏に浮かんだ光景。
それはラルトスと出会う前のこと。七夜の願い星…千年に一度の彗星が見えることはなく、今もどこかで眠り続けているであろうあの子がこの星空の下で、自分と同じ世界に確かにいる。
ほんのわずかなひととき、確かに縁を結んだ、小さきもの同士。
涙が溢れる前に、マサトな微睡みに身を委ねた。
「「「えっほ!えっほ!えっほ!えっほ!」」」
ラプラスの群れを尾行するようにコイキング型のロケット団の潜水艇がついてくる。
進むには人力方式な為ムサシ、コジロウ、ニャースは夜通しペダルを漕ぐことになるだろう。
「ウフフフフ、ジャリボーイの試合会場でまんまと稼がせてもらっちゃったわねぇ。」
「この調子で次の試合でもボロ儲けと行こうぜ!」
「ピカチュウゲットに先立つものはやっぱりお金だニャー。」
「そ〜〜〜なんすッ!!」
この愉快な敵役たちが何をしていたかと言えば、先のサトシのランクマッチが行われたサイユウスタジアムにて、弁当やドリンクの売り子をしており、活動資金を稼いでいたのだ。
この3年間で彼らが学んだこととは、『襲う時は襲う、稼ぐ時は稼ぐ、休む時は休む』という教訓であった。
活動にメリハリを付けることでそれぞれの能率を高め、やがてはピカチュウゲットという念願に繋げるというのだ。
「アンタも漕ぎなさいよ!」
「そーなんすッ!?」
「あっ、ずるいぞムサシ!」
ボールから勝手に出て来たソーナンスを無理やりサドルに座らせ、休憩するムサシをなじるコジロウ。
いつも通りのやり取りを無視してニャースは、潜水艇から海面まで伸びたカメラ越しの星空を眺めながらペダルを漕いでいた。
「星が綺麗だニャ〜。」
「サトシが来てない?」
「そうなんだよお。アイリスちゃん、何か知らない?」
なんで私がサトシの動向を把握してなきゃいけないのよ、という一言を喉元でアイリスは押さえ込む。
スマホロトムによるテレビ通話の向こうの眼鏡をかけた金髪長身の少女、ベルにヒステリーをぶつけてもしょうがないのだ。
3年前にイッシュチャンピオンになってから、身の回りの小難しい雑務を任せるマネージャーとして、アイリスはベルを雇っていた。
サトシと同等の野生的な勘を研ぎ澄ませている反面、数字の羅列にイマイチ弱いアイリスには、お調子者ながら演算能力の高いベルはまさにうってつけのビジネスパートナーとなっていた。
そのベルが、イッシュリーグ委員会から、本来ならとっくに到着しているはずのサトシが来ていない、と連絡を受けたのだ。
「まったく、どこほっつき歩いてんのよ。」
リーグ委員会とチャンピオンは、切っても切れない関係である。
ポケモンバトルという競技を介して地方発展に貢献するため、日頃から巡業は欠かせない。
サトシからイッシュ委員会へもその話は通ってはいるはずである。
で、あるのにこの始末だ。
下手をすればサトシが受け持つ予定の巡業が、そっくりそのままこちらに回ってくるかもしれない。それは、アイリスからしたらたまったものではない。
「ベル、竜の里ネットワークに連絡は?」
「もうしてあるよぉ。」
ほんわかとした口調に反して根回しの早いベルに頷き、こちらでもコンタクトを試みる、と通話を切り上げたアイリスは、サトシと繋がってるポケラインのグループから呼びかけてみるが、案の定反応はなかった。
既読にすらならない。
「ホンッッット!いつまで経っても子供ねッ!」
チャンピオンとして世の中との交わりに迎合しきれていないサトシにアイリスは吐き捨てる。
そんなアイリスたちの踊る大捜査線に引っ掛かることのないまま、サトシは優雅な海の旅を満喫していたのだった。
『ベル』
13歳。チャンピオンアイリスのマネージャーとアララギ博士の助手の二足の草鞋を履く少女。
3年前にはリーグ予選にも出場しており、トレーナーとしての実力もきちんと備わっている。
そそっかしさが抜けきっていないのがたまにキズだ。
今回のお話でこのパートは区切り。次のお話で新しいパートに入ります。