3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
道中不可思議なこともあったが、星の瞬きが、彼らの道行きを照らす。
旅人たちのしばしの休息。その先にあるのは…死闘。
サトシ突然の思い付きによるラプラスの背で波に揺られて何日かの海の旅は、つつがなく続いていった。
PWT参加の為にイッシュ地方へ赴くという目的は一致しているサトシとマサト。
元々大会本番前にイッシュ地方を巡る予定だった為、大会当日から期間をある程度の余裕を持たせての渡航を予定していたのもあり、このラプラスたちの群れ移動に乗っかった緩やかな日々は、ちょうど良い骨休めになっていた。
「あちゃー駄目かー。マサト、そっちはどうだ?」
「こっちも駄目。ボウズだよ。」
「ぴぃかぁ。」
釣りもしてみたがどちらも釣果なし、食糧はじゅうぶんであったので釣果の大きさ比べをしよう、というささやかな催しの範疇に過ぎない。要は暇潰しである。
あわよくばよさげなポケモンが釣れたならゲットしてやろうというくらいの意識はあったのだが、カスミ印のルアーが海中の獲物を引っ掛けることは終ぞなかった。
もっとも、海の世界では普通に捕食者の側にいるラプラスの近くをノコノコ泳ぎ回る無警戒な馬鹿はいるはずがないので釣れるはずがないのだが(この事に気付いたのはイッシュ地方に到着してしばらくした後のマサトだけである。)。
「これも、もうだいぶ古いもんなぁ。あちこち禿げてるし。」
「僕も欲しいなぁそのルアー。」
「今度カスミに会ったらマサトの分もらってきてやるよ。」
「やったぁ!」
使っているルアーに軽く悪態をついてから、サトシは釣竿を垂らしたまま寝転がる。
釣りそのものよりは、ただただ男2人でなにか暇潰しを楽しむ、ということ自体が今の2人には貴重なイベントであった。
サトシはチャンピオンという立場から、マサトはルーキーという立場から、それぞれ特有の忙しさに追われた日々を過ごしている。
それ自体はお互い、目指す夢のためであるから後悔などあろうはずはない。ただ、それはそれとして心身ともに疲労は蓄積されるのだ。
そんな中、昔、共に旅をした日々を思い出し、兄弟のようにつるんでいた頃に戻ったようなやり取りは、ちょうど良いリフレッシュに繋がったのだった。
そうして過ごしているうち、ラプラスの群れはイッシュ地方の領海へ差し掛かり、彼方に休火山リバースマウンテンが見えてきた。
「おっ。見ろマサト!着いたぞ!陸地だ!」
「あそこはサザナミタウンだね!」
「ぴっかぁ〜!」
「くぅ〜ん!」
ラプラスが群れに沖の方で待機するよう命じてから浜辺へと向かう。サトシとマサトを降ろす為だ。
「「到着〜!」」
「くぅ…。」
浜辺に辿り着いてはサトシとマサトはラプラスの背から降り、ぐいーっと伸びをする。
ラプラスがサトシをじっと見る。名残惜しいのだろう。辿り着きサトシを見る表情には物悲しさが漂っていた。
分かっていたことではあったろうが寂しいものは寂しいのだ。それを認めたサトシはそっとラプラスの顔を撫でる。
「じゃあなラプラス。また会おうぜ、元気でな。」
「くぅぅーん…。」
「ありがとうラプラス。群れのみんなにもよろしくね。」
ラプラスがサトシの顔をひと舐めし、マサトに頷く。
サトシやマサトにやることがあるように、ラプラスにも群れのリーダーとしての役割がある。
それに、永遠の別れと決まったわけでもない。
サトシの言葉通り、またどこかで会えるかもしれない。それが希望になった。
ラプラスは踵を返し、群れの中に合流していく。
ミナモシティの町外れから出発した時と同じように綺麗な陣形を組み、大きな体が先頭に立つ。
ラプラスたちはまた回遊ルートに乗り本来の目的地へ向かって泳ぎ出し、やがて見えなくなった。
「さてと、サザナミタウンからカゴメタウンまでのルートはっと…。」
「案内してやろうかマサト。」
「いいよ。サトシの案内より地図アプリの方が安全だし。ほら見てよ。」
「ホントだ。分かりやすい。かがくのちからってすげー!」
「ぴかぴか。」
マサトがスマホロトムを操作し、画面を見せる。
クリアな画質で紙の地図より詳細で、進行ルートが詳しく提示されてあるのを見ては、サトシはマサトからの毒舌も忘れて感心していた。
ピカチュウもサトシの肩から画面を見ては、確かにサトシの当てずっぽうよりはずっとマシだ、と頷いている。
ドォン!ドォン!
「ん…?」
「凄い振動、これきっとポケモンバトルやってるよ。それも、かなりレベル高そう!」
「あっちだ!」
サトシは波導を辿ればすぐに走り出し、マサトもそれに続く。
上陸した程近くの場所で、激しいバトルが展開されていた。
「ばうあああああ!!」
「カイリューだ!凄い!」
「いい動きしてるぜ!」
「ぴかぁ!」
ドラゴンポケモンは強力な分、育成に多大な時間と労力がかかる。それ故に最終進化系まで到達させればそれだけで強大な戦力となり、トレーナーの育成手腕の高さを証明することにも繋がるのだ。
その一般観念以上に、今目の前でバトルをしているカイリューの戦闘能力が高いレベルにあることをマサトの声色が物語っていた。
大立ち回りのカイリューに目を輝かせてからサトシはそのカイリューに指示を飛ばすトレーナーを見る。
立ち位置から、こちらに背を向ける形で顔は見えないのだが、その髪型には見覚えがあった。
燃え盛る灼熱の炎を思わせる朱色の頭髪、極めて特徴的な容姿にある人物を思い浮かべる。しかし…。
「(アデクさんにしては小さいな。)」
それは、3年前まではイッシュ地方のリーグチャンピオンを務めていた豪傑の名である。
タイトルマッチでアイリスに敗れ、その王座を譲り渡したことは聞いていた。サトシが見る後ろ姿の少年は、おそらくはアデク本人ではない。
だが、放つ波導の特色はアデクのそれに極めて酷似していた。
「ごるるるるるぅあぁ!!」
「ばるぅッ!!」
ズドシィィィィ…!!
「相手はぼうくんポケモンのガチゴラスだ!生で見るのは初めて!!」
暗い赤色の体色に下顎の白い髭、岩のような表皮に鍾乳石を思わせる大きな尻尾の先端。
マサトはポケモン図鑑を開き、ガチゴラスのデータを確認する。
「でっかいなーあのガチゴラス!」
「ぴかぁ。」
「そりゃそうだよサトシ!ほらこれ見て!」
ガチゴラスの巨体を見上げるサトシをマサトが呼び止めれば、図鑑のデータを見せる。
「ガチゴラスの大きさは2.5mってあるけどあの子はその倍、5mはあるよあの大きさは。」
「ホントだ、すっげー!」
カイリューはそこに至ったことそのものがシンプルトレーナーの資質の高さの証明ならば、今目の前でバチバチとその巨体をぶつけ合うガチゴラスはトレーナーが愛情を込め、丹念に育て上げたという愛情深さの証明なのだろう。
ドラゴンポケモンの巨体が2つ交錯する位置関係から、ガチゴラスのトレーナーに関してはその全体像すら見えない。
カイリューもまた2m台でじゅうぶんな巨体を誇るが、対峙するガチゴラスの前にはサイズの差からパワーでは圧倒されていた。
「へへッ!!カロス地方からわざわざPWTに出るためやってきたってだけはあるなぁ!カイリュー!」
「ばうッ!」
「カロス地方?」
炎のような髪の少年もまた、激しいバトルに血湧き肉躍る思いなのだろう。
口ぶりから、対峙するガチゴラスのトレーナーがカロス出身であろうことは窺えた。
ポケモンとしての攻撃力はさておき、単純な体格差で、ジリジリと自慢の頭を押し付けにくるガチゴラスに後退させられているカイリューが少年の声に頷けば、一瞬の力の抜きどころを突いて飛翔。
たまらずガチゴラスはずてん、と前のめりに転倒させられた。
「がちゅあ!?」
「ああッ!完全に隙を晒しちゃったよ!」
「カイリューも大技を使う気だな。」
「よし!よし!よしッ!カイリュー!りゅうせいぐんだーッ!!」
「ばぁぁぁうッ!!」
ドラゴンタイプの奥義ともいえるりゅうせいぐん。
カイリューの口が開けば膨大なドラゴンエネルギーがみるみるうちにチャージされてゆく。
ガチゴラスはその巨体が災いして体勢を立て直す頃には発射されてしまう。この時点でほとんど勝敗は決した。
1対1のルールであったなら。
「ガチゴラス、戻って!!」
「「えッ!?」」
どうやらポケモンの交代はあらかじめルールとしてアリであったようだ。
サトシとマサトの驚きの理由は、そこではない。
それまでその巨体がそのまま主人の姿をサトシたちから覆い隠していたガチゴラス。
もはや打つ手なしとなり、そのままではやられるのを待つばかりであったガチゴラスを引っ込めることで見えたトレーナーの姿が、見知った人物のそれであったからだ。
サトシが波導を読めば、そこで初めて確信をする。
金髪のサイドテールを左側に流し、髪の色と同じポーチを首から下げた少女は、肩の上に乗せていた相棒と顔を見合わせ、頷き合い、フィールドを指差した。
「デデンネ!いっけー!!」
「でーねね〜!!」
耳は黒とクリームの楕円型で、黒い尻尾は細長く、背中には縦線の模様が入っている。
赤い頬の電気袋からはアンテナポケモンと分類されている象徴的なヒゲが伸びている。
先程のガチゴラスとは打って変わってな小さな身体が少女の肩から跳躍し、一目散に駆け出してゆく。
それは、3年の月日により育まれ、確かに咲いた"黄色い花"…。
「ユリーカ!?」
「ユリーカちゃん!?」
見知った姿の少女の名をサトシとマサトが同時に口に出す。そうした後、サトシはマサトを見る。
サトシからしたらマサトがユリーカのことを知っている理由は分からなかったからだ。
『アデク』
59歳。元イッシュリーグチャンピオン。
長らくチャンピオンとして君臨していたが、アイリスにタイトルマッチで敗れ、王座を譲った。
エースポケモンは若かりし時より苦楽を共にしてきた戦友のウルガモス。