3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
降り立った海岸でバトルしていたのは、2人にとって既知の仲であるユリーカであった。
「くッそッ!!」
炎の髪の少年、バンジロウは眉間に皺を寄せる。
ガチゴラスからデデンネへの交代、そのタイミングはおおよそ考えうる限りユリーカからしたら最高、彼からしたら最悪なものであった。
ピンチがチャンスに、チャンスがピンチにそれぞれひっくり返ったのだ。
「ばうううッ!!」
カイリューからしたら出て来たデデンネを見たところでチャージされたりゅうせいぐんをまさか呑み込むわけにもいかない。
そのまま口から拡散弾のように直接デデンネめがけ、無数のドラゴンエネルギーの奔流が放たれた。
それらに対し、デデンネはひたすらまっすぐ駆け抜ける。
りゅうせいぐんが砂浜の砂を巻き上げ、何発かが確かに命中しているのだが、デデンネは全く意に介していない。
「ドラゴンタイプの技はフェアリータイプには効果がないからね。」
「マサト、お前ユリーカと知り合いだったのか?」
「デビューする前、パパが紹介してくれたコーチのもとで一緒に修行したんだ。そこで友達になったんだよ。」
それは、シンプルなタイプ相性の話であった。
いかに強力な技をどれだけ当てようと、原則的に効果なしの相性であったらばダメージは見込めない。
稀に相性を無視するような事例も起こり得ることはあるが、そのようなイレギュラーをアテにしているようではポケモンの身がいくらあっても足りはしないのだ。
それはそれとしてのサトシの問いにマサトは簡潔に答える。知らない間に見知った2人は同門になっていたと言うのだ。
そんなやり取りの間に、デデンネはカイリューに肉薄していた。
「ほっぺすりすり!!」
「でねねねね!」
バチバチバチィ!
空中に陣取るカイリューの懐へ迷いなく跳躍し飛び込んだデデンネは、放電させた頬をカイリューの特徴であるふくよかな腹部へ擦り付けてから落下し、身軽に着地して見せる。
まひ状態を押し付けられたカイリューもタダで済ますつもりは更々ないようだ。
瞳に宿す闘志に翳りは見られない。
「カイリュー、じしん攻撃!!」
「うッ…!!」
カイリューもまたデデンネを追うように降下する。その勢いのままボディアタックの要領で地面に自身のエネルギーを叩きつけ、相性のいい技でデデンネの弱点を突いて倒そうというのだ。
バンジロウの指示に、ユリーカもマズい!と苦虫を噛み潰したような顔をしている。
正直なところ想定外であったのだろう。
バチチチチチィ!!
「ばうがッ…!?」
「カイリュー!?」
万事窮すなデデンネ。
大の字で両手足を拡げながら降下するカイリューが全身に強力なエネルギーを纏い迫る。
しかし、その勢いが地面スレスレで急速に弱まり、纏っていたエネルギーが霧散してしまった。
その巨体からスパークが出ている…。
「カイリューはまひ状態で身体がしびれて動かなくなっちゃったんだ!」
「いっただきぃぃぃ!!」
マサトが指摘する中、ユリーカの瞳が爛々と輝いた。
それは、まさしく勝負師の目だ。
「じゃれつく攻撃だぁーッ!!」
「でぇ〜ね、ねぇ〜!!」
身体が痺れて動けないカイリューにデデンネが飛びかかり、ぽこぽこと両手を振るい何度も殴りつける。
一見可愛らしくも見えるがれっきとしたフェアリータイプの攻撃。
そのラッシュは、ドラゴンタイプのカイリューには弱点となり、致命傷であった。
「でねでねでねでねでねでねでねでねでねでねぇぇぇーーーっ!!」
ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴ!
「ばう、ばぁぁぁぁぁ!?」
「カイリューッ!!ちッくしょう!!」
必殺のラッシュを叩き込み、デデンネがカイリューから離れ、背を向ける。
背を向けた瞬間時間差でじゃれつく攻撃によるフェアリータイプのエネルギーが炸裂し、カイリューの体力を根こそぎ奪い去った。
倒れ込み、完全に目を回している。戦闘不能だ。
「ご苦労さん、カイリュー。」
「デデンネお疲れ!バンジロウくん!対戦ありがとうね!」
ユリーカが胸に飛び込むデデンネを抱き留め、指定席である左肩に迎えてからカイリューを繰り出していたバンジロウの元へ駆け寄る。
カイリューの健闘を労いながらボールに戻すバンジロウはユリーカに右手を差し出した。
「参った。あの交代で全部をひっくり返されちまったな。今回は完全においらの負けだ。だけどPWTでやる時はこうはいかないぜ!」
「うん!うん!ユリーカももっと強くなってるからまたやろ!ポケモンバトル!」
「でねね!」
バンジロウの右手をユリーカは両手で握り、ぶんぶんと上下に振る。
バトルに集中していたユリーカは、ここで初めて周囲に気配を向けられたようだ。
「おーいユリーカちゃーん!」
「あっ、マサトくん!それに、えっ…?サトシ…?」
「マサトもおんなじ反応だったな、それ。久しぶり、ユリーカ。ナイスバトルだったぜ。」
「ぴいかちゅう。」
「でねね〜。」
「サトシー!」
ユリーカは一目散に駆け出し、サトシの胸に飛び込む。サトシはしっかりと受け止め、頭を撫でてやった。
久しぶり同士のピカチュウとデデンネも気さくに挨拶を交わしている。
「お前もマサトも大きくなったよなぁ、ホント。」
「えへへ。そのうちサトシもお兄ちゃんも追い抜いちゃうもんね。」
その意味は身長だけではない。サトシを追い越すという、宣戦布告。
カイリューを仕留めた時と言い、ユリーカもまた一個のポケモントレーナーとなったことをサトシに実感させた。
「ユリーカはイッシュリーグに出るのか?」
「違うよ。カロスでデビューして、バッジはもう集め終わったの。リーグ挑戦前にPWTに出ようかなって。」
「そうか。ならマサトと同じだな。」
ひとしきりサトシの温もりを味わって満足したのかユリーカは離れながら自身の現状を話す。
サトシの言にマサトもPWTに出るということを知った。
「マサトくんも出るんだ!ジュニアカップ。」
「僕もホウエンリーグ前に弾みをつけたくてね。」
「へぇ、お前も出るのか。」
マサトとユリーカの会話に入り込むのは、先程までカイリューでユリーカと激闘を繰り広げた炎の髪の少年。
「この子はバンジロウくん!イッシュリーグの前のチャンピオンのアデクさんの孫なんだよ!」
「アデクさんの孫…へぇー、どうりで。」
名前を知らないサトシとマサトに、ユリーカが紹介をすれば、サトシは波導の特色が近いことに合点がいった。
家族なのだからそりゃあ似通うのだろう、と。
そのバンジロウは値踏みするような視線をサトシに向けてから、無邪気な笑みを見せた。
「じーちゃんから聞いてるぜ。マサラタウンのサトシ。すっげー奴だってさ。」
「アデクさんが?」
バンジロウからの言にサトシは首を傾げてしまう。
アデクからそこまで高く評価してもらえるほどの何かをイッシュ時代に残せたかと言われたら、サトシには正直自信がなかったからだ。
渡航の際のトラブルによりピカチュウがパワーダウンの憂き目に遭い、自慢のでんき技すら満足に使えないところから始まったイッシュリーグ挑戦。
それ自体は確かに大きな糧となりはしたものの、今思い返してなお自分の力不足を悔やむシーズンであった。
成績そのものも、その前に挑戦したシンオウリーグで当時の最高記録であるベスト4にまでなったのに対し、イッシュリーグではベスト8と下降させてしまったのも大きい。
「ま、じーちゃんからの話はいいんだ。どのみち負けちまったおいらは先を譲らなきゃなんねー。ってな訳で改めてお前!お前もPWTに出るんだろ?」
「僕?」
「応よ!おいらが何を言いたいか、分かるよな?」
バンジロウとてサトシに挑みたい気持ちは山々であろう。
しかしユリーカを見ては全てを察し、身を引いて見せたのだ。それを見たマサトは、一見無鉄砲なようでそういう細かい意図を汲めるやつなのか、こうバンジロウという少年への認識を深めながら目と目を合わせる。
ポケモントレーナーたるもの、こうなればやることは決まっていた。かけていた眼鏡のレンズをキラリ!光らせる。
「ふふふ、もちろんさ!イッシュ地方に来て初めてのバトル、相手にとって不足なしだね!」
「おっしゃ!決まりだぁ〜!」
ババッ!と互いに距離を取るマサトとバンジロウ。その手には、既にモンスターボールが握られている。
互いに好戦的な笑みをぶつけ合っていた。
「どっちも頑張れよ〜。」
「サトシ!サトシ!」
対峙するマサトとバンジロウ。
それを楽しげに見るサトシを、ユリーカが呼ぶ。呼んできたユリーカと、サトシの目が合った。
その可憐な瞳の奥に、戦いを求める獰猛な野心が垣間見えた。カロス時代、兄の足元からついて回り、隙あらばその兄を支える為の交際相手を求め、出会う女性たちに片っ端から"シルブプレ"と勧めていた小さな少女も、今はもうポケモントレーナーなのだ。
その本能のままに瞳から訴えて来るユリーカの姿は、サトシには痛快であった。となれば、こちらも応えてみせるより他にない。
「俺たちもやるか!バトルしようぜ、ユリーカ!」
「うんッ!!」
「ぴっぴかちゅう!!」
「でーねねー!!」
先程のユリーカとバンジロウのバトルからちらほらと集まり出していた野次馬がその数を徐々に増やしている。
勝っても負けてもお祭り騒ぎ。それもまた、ポケモンバトルの本質であった。
『ユリーカ』
10歳。カロス地方ミアレシティの出身で、ミアレジムのジムリーダー、シトロンの妹。
カロス地方を巡っていた頃のサトシの旅仲間で、今年トレーナーデビューした。
エースポケモンはキープ制度により兄から譲り受けた仲良しのデデンネだ。