3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
覚悟を決めたアランは、メガリザードンXによる戦局の打開を狙う。
リベンジか、連勝か。試合の行方は、メガシンカ対決に委ねられた。
時を遡ること開幕戦より1年ほど前。
PWCSの開催が決まったことを知ったサトシは、アローラ地方ポニ島へ赴いた。そこの大峡谷にて新たな戦いの日々に向け旅を一旦中断し、合宿をするためである。
月に数回、ククイ博士やバーネット博士が差し入れに食料を持参し、手料理を振る舞ってもらいながらの来る日も来る日も猛特訓。
それまでゲットした仲間たち全員を根本的に、徹底的に鍛える日々であった。
無論、厳しい鍛錬の中にトレーナーとしての労りも忘れてはいない。
サトシの、人間が食べるための料理の腕は相変わらず酷いものであったが、ことポケモン用の食事に関しては随分と上達した。
『俺の教えが良かったからかな?』
頭の中で糸目で褐色の青年が満足げに頷きながら言っている、そんな気がサトシにはした。
事実ではあるし、特に気にすることでもないので脳内でスルーした。
つつがなく終了した合宿の後、開幕戦が行われるガラル地方へ向かうクルーズ船にてサトシはピカチュウに語りかける。
「なぁピカチュウ。俺、次のPWCSでダンデさんと今度はおんなじ条件でバトルしたいんだ。その上で、勝ちたい。」
「ぴか。」
「最初の試合がどこで、誰になるかはわかんないけどさ、一番最初にはお前に頼むのは決めてるんだ。」
「ぴーか。」
サトシが語る途中でピカチュウが制止する。
"皆まで言うな、分かってる"。
そんなことを言ってる気がした。
「うん…うん。そうだよな。分かっちゃうか!開幕戦、頼んだぜ、ピカチュウ!」
「ぴっぴかちゅう!」
時を戻そう。
サトシの足元のピカチュウは、じっとメガピジョットを見つめている。
「ぴぃ〜か…。」
"お膳立てはしてやったんだ、しくじってくれるなよ?"
そんなようなことをピジョットに言ったのかどうかは、この場にポケモンの言葉を理解できる者がいるか定かでないので、分からない。
「リザードン、かえんほうしゃ!」
「ピジョット、ぼうふう!」
「ぐるぉぉぉぉぉぼぉぉぉぉぉ!!」
「ぴぃじょおおおおお!!」
メガシンカにより増強されたパワーが存分に乗った火炎と風の奔流がぶつかり合う。
メガピジョットも流石に火炎の全てを弾き返すには至らず、熱に当てられ、メガリザードンXもたまらず空中で後方に押される。
睨み合う、ギラつく瞳が、8つ。不適な笑みが、4つ。
「もう一度ぼうふう!」
「突っ込むぞリザードン!ドラゴンクロー!」
「ぴじょおおお!」
「ぐるぉぉぉ!」
メガピジョットが激しく羽ばたいて発生させる凄まじい風の中を、メガリザードンXは真っ直ぐ突っ込む。
最短距離で肉薄、ドラゴンタイプのエネルギーを込めた爪を振るい切りつけた。
「ぴじょっ…!」
「そのままかみなりパンチ!」
「来てくれると思ったぜ!ピジョット、はがねのつばさ!」
ドラゴンクローを受け仰け反った所に、続けざまのラッシュをかけにいくメガリザードンX。この接近こそサトシの狙いであった。
メガピジョットは指示に即応し、かみなりパンチの拳に硬質化させた翼を盾代わりに構える。
流石にそれだけで効果抜群のダメージを全て殺し切るのは無理だが、生身でそのまま受けるよりはずっとマシだ。
はがねのつばさガードの直後にメガピジョットは飛び上がり、メガリザードンXの上を取る。
拳を振り抜いた直後のそのラグは、返しの一撃を放つ猶予として充分すぎた。
「この距離なら…ぼうふう!」
「ぴぃじょおおおおお!!」
「まずい!(いや…使えるかもしれん!)リザードン!フレアドライブ!!」
至近距離からのぼうふうに、たまらずメガリザードンXは真下の地面へ叩きつけられそうになる。
そのまま指示を受ければアランを見て意図を理解したのか、吹き飛ばされたまま全身に灼熱の炎を纏いながら落下、激しい土煙が上がった。
「ぼうふう攻撃炸裂!コレは決まったかー!?」
「いいえ、まだ分かりませんよ。」
「そうだね。少なくともアランはまだまだ諦めちゃいない。」
「それは一体…土煙が晴れてそこには…あーっと!?これはどういうことだーっ!?」
「メガリザードンがいない…?いや、地面の中か!」
土煙が晴れた中にあった光景、そこにメガリザードンXの姿はなかった。代わりにあるのは地面に開いた大きな穴。
地中に潜ったのは明らかだった。
「(フレアドライブで地中に穴を開けて身を隠したな。だけどそれだけやればメガリザードンの体力も決して多く残ってるわけじゃない。もう一度至近距離からのぼうふうだ!)ピジョット、地面が盛り上がったらそこに近付いて決めるぞ!」
「ぴじょ!」
スタジアム全体を警戒するサトシとメガピジョット。技としていくつか覚えるとしても、本質的にはじめんタイプではないリザードンという種が、そこまで長期間地中に潜伏していられる訳もない。
それはリザードンを知り尽くしたアランなら百も承知のはずだが…。
「ん!あそこだピジョット!」
「ぴじょ!おッ!?」
予想した通り、わずかな地面の盛り上がりを認めたサトシが、そこを指差しメガピジョットが急行。
シュボオオオオオ!!
が、そこから出たのは、強力な火柱。かえんほうしゃだ。
「タイミングをずらされた!?ピジョット、ゴッドバード!!」
「もう遅い!!リザードン!フレアドライブッ!!」
地中からのかえんほうしゃでメガピジョットが見せる一瞬の硬直。そこに地中より浮上するメガリザードンXの火炎を纏った渾身の突撃を捩じ込むのは、アランであるからこそ出来た芸当だ。
チュドォォォン!!
フレアドライブがメガピジョットに直撃し、大爆発。スタジアム中が激しく振動する。
バリアフィールドからところどころ軋む音もするが、なんとか持ち堪えていた。
「勝った…!な、なにィッ!?」
考えうる最高のタイミングで、最高の一撃を叩き込めた。
右拳を握り締め、震わせるアラン。しかし、煙が晴れて見える光景は彼が夢想するそれとは違っていた。
メガピジョットを包む激しい光の前に、メガリザードンX決死の一撃が無情にも遮られていたのだ。
「やっぱりアランは凄いや。地面から出てくるタイミングをああやってずらしてくるとは考えてなかった。チャージしたパワーが少しでも足らなかったら危なかったぜ。」
「あーっと!これはーっ!メガリザードンのフレアドライブを、メガピジョットはゴッドバードのエネルギーでガードしているーッ!!」
「なるほど…ゴッドバード発動のためにチャージしたエネルギーを防御のために振り分けた。フレアドライブを受け止めるためにエネルギーの大半は霧散してしまってるようだけど、今のメガリザードンを仕留めるには充分、と言ったところですか。いやはや…凄い。」
「いっけぇぇぇ!ゴッドバード!!」
「ぴじょおおおおおおおっ!!」
「ぐ、ぐるぉぉぉ…!!」
纏ったエネルギーは本来放てる破壊力からしたらほんの僅か、それでも闘志も決意も揺るがない。
メガピジョットの全身全霊の突撃がメガリザードンXの腹へ突き刺さり、スタジアム外壁へ叩き付けた。
ズドォォォォォッ…!!
一撃を決め切ったメガピジョットは、サトシの側へ飛び去り警戒を緩めない。
外壁にめり込んだ形のメガリザードンXは、白目を剥いた状態からジャッジが入るところで意識を取り戻し、羽ばたいてスタジアムへと舞い戻る…そこまでが限界だった。
「ぐ、る、るぉぉぉ…。」
程なくメガリザードンXのメガシンカが解除され、うつ伏せに倒れる。ギルガルドに乗る審判が改めてジャッジをした。
「リザードン、戦闘不能!ピジョットの勝ち!よって勝者、チャンピオンサトシ!!」
「リベンジ達成ーーー!!チャンピオンサトシ、アラン選手にカロスリーグ時代の雪辱を果たしましたぁぁぁー!!」
ドワォォォォォォォォォォ!!
決着、そして大歓声がスタジアムを包む。
サトシは身を震わせながらガッツポーズを作った。しかし1人喜んでもいられないし、そういう立場でもない。
戦い終わり、メガシンカが解除されたピジョットを左腕に乗せ、高々と右腕を突き上げた。
それはリーグチャンピオンとしてPWCSチャンピオンとしてのパフォーマンスであった。
「ご苦労だったな、リザードン。ゆっくり休んでくれ。」
アランは倒れたリザードンをボールに戻す。
負けた、完敗だった。悔しくないはずはない。それでもスタジアム中央へ歩を進め、勝者を待つ。敗者のしきたりだ。
しかし、そんなアランの心中は、晴れやかであった。観客へ充分に応えてからサトシが遅れてスタジアム中央へ来た。
「いい勝負だった。完敗だよ。成長の差を見せつけられた。」
「こちらこそ。またやろうぜ。」
「もちろんだ。今度は俺が勝つ。」
「(この試合を経てアランはまた大きくなれた。そうなれたのはきみのおかげだ。ありがとう、サトシくん。)」
バレないように目元を拭うプラターヌ博士がそこにいた。それをナンテは、見て見ぬ振りをした。
男の涙の意味を介するが故の、"粋"を知っていたからだ。
試合前と同様に、ガッチリと握手を交わす。
グローリー・ノーサイド・ゴング。死力を尽くした後には怒りも悲しみもない。互いをリスペクトし合うのみ。
爽やかな空気が、シュートスタジアムを支配していた。
PWCS開幕戦 サトシvsアラン
3C1D方式(使用ポケモン3体からの1体戦闘不能で決着)
ピカチュウ リザードン
リザードン→カラマネロ
カラマネロ→メタグロス
ピカチュウ→ピジョット(メガシンカ使用)
メタグロス→リザードン(メガシンカ使用)
ピジョット○ リザードン●
勝者 サトシ