3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
2人につられて、サトシとユリーカもバトルすることにした。
それは、ポケモントレーナーとしての性であった…。
「頼んだよシザリガー!!」
「しぁざぁり!!」
「おいらはこいつだ!!ガブリアス!!」
「がぶぁぁぁ!!」
バチィッ!バチィッ!バチチチチチチ!
マサトはシザリガー、バンジロウはガブリアスを繰り出せばシザリガーのクラブハンマー、ガブリアスのドラゴンクローを発動させ突進し合う。
両者の右腕同士が打ち付けられれれば鍔迫り合いが起き、それぞれの技エネルギーが激しくスパークする。
野次馬が盛り上がる中、マサトとバンジロウはすでに勝負の世界へ意識をトリップさせていた。
「久々のイッシュ地方でのバトル!燃えてきたぜ!」
ボールホルダーから先発のボールを右手に取る。
「ワルビアル、キミに決めたッ!!」
「わるぁびぃッ!!」
「サトシ!ユリーカ勝っちゃうからね!いっけー!!」
マサトとバンジロウが応酬を開始する中、バトルの前の煽りもマサトとそっくりなことにサトシは笑みを浮かべながらボールを投げ入れた。
姿を見せたのはいかくポケモンワルビアル。トレードマークのサングラスの位置を調整してから腕を組み仁王立ちする。
ユリーカが投げ込んだボールから出てきたのは…。
「げッッッッ!!」
「ゲッコウガか!!」
ほんの一瞬まさか、と目を見開く。
すぐに自分の仲間である個体とは違うことをサトシは察知した。放つ波導からして明らかに違う。
「えへへ、びっくりしたでしょ〜!」
「ユリーカはケロマツをもらったのか。」
「あたしにはお兄ちゃんがキープしてくれてたデデンネがいるからいい、って言ったんだけどね?プラターヌ博士が新人に初心者用ポケモンを渡すのはルールだから〜って!」
「ハリマロンやフォッコでもよかったんじゃあないか?」
兄のシトロンは同じカロス地方の初心者用ポケモンのハリマロンを、一緒に旅をしたセレナはフォッコを、それぞれ育てている。
サトシにユリーカはそれを聞いてカラカラと笑って見せた。
「あっははは!サトシったら、ユリーカがサトシと同じケロマツを仲間にしたから照れてるんだ!」
「そ、そんなことあるもんか!」
サトシは図星を突かれる。
実際のところ、ケロマツをプラターヌ博士からもらったユリーカの脳裏には、サトシのゲッコウガへの憧れが確かにあり、3年前に目の当たりにした彼らの死闘の数々が焼き付いていた。
カロスリーグを見てユリーカは密かに願ったのだ。
自分もサトシのようにゲッコウガを戦わせてみたい、と。
「ゲッコウガ、ダストシュート!!」
「くがッ!!」
ビシュガァッ
すかさず先制するのはゲッコウガ。
右足で砂浜を蹴り付け、その反動を利用しては、足元に落ちていたゴミが入れられた口の結ばれているビニール袋を思い切り蹴り込み、シュートしたのだ。
マナーの良くない観光客が持ち帰らず投棄でもしていったのだろうか。
「びゃッ!?」
蹴り出されたゴミ袋は低空軌道からポップしていく。
そのまま浮き上がっては、ワルビアルの鼻先を掠めながら頭上を通過、サトシのはるか後方に置かれていたビーチ常設のゴミ箱へ放り込まれた。
環境に配慮した見事な足技に野次馬も唸る。
「ナイスコントロール!…ワルビアル!」
「ゲッコウガ!」
「「つばめがえし!!」」
「わるぁぁぁ!!」
「くぁぁぁッ!!」
ガァキィィィン!
刹那、不可避の一撃を同時に放つべく互いに、瞬時に距離を詰めればワルビアルは爪を、ゲッコウガはみずエネルギーを凝縮させた棒手裏剣を、それぞれぶつけ合う。
ゴミを蹴り込んだのはサトシ陣営の視線を逸らし、ゲッコウガを接近させるための撒き餌であったが、お見通しであった。
ユリーカからしたら、むしろそれくらいは読んでくれなければ張り合いがないのだが。
ガキン!ガキン!ガキン!シュババババァ!!
「ゲ、ゲーッ!な、なんてスピードで斬り合ってやがるんだあのワルビアルとゲッコウガ!瞬きしたら同じ場所にいやがらねぇ!」
それは、まさしく高速の殺陣。
ステップを踏み跳躍を繰り返しながら、爪と棒手裏剣が幾度もぶつかり合う音だけがする。
両ポケモンの動きを追えているのは互いのトレーナーだけである。
「ゲッコウガは、全速力なのにッ!!」
額の脂汗を拭うユリーカの口角はスリルで吊り上がっている。
ワルビアルは、サトシは、全力のユリーカを受け止める腹づもりなのだろう。それが清々しくて、嬉しかった。
自分も、サトシと同じ場所に立っている。戦っている!
「こうなったらとっておき!」
「とっておきが使えるのか?」
「ちーがーう!ユリーカ忍法見せちゃうもんね!ゲッコウガ!」
「げッッッ!」
爪と棒手裏剣を鍔迫り合わせる中、不意の蹴りを両腕でガードしてはその威力にワルビアルはずざざ、と後退りさせられる。
蹴り出した反動で飛び退き、バク宙で距離をとるゲッコウガは両手を組み、印を結ぶ。
「水遁の術ー!」
「げこぁ!!」
ゲッコウガが印を結び、右手を砂浜にペタリと置く。なぜか同じ印をユリーカも結ぶ。
するとゲッコウガの周囲、そして真下から水の柱が噴き上がった。
「びぁッ!」
「うわ!どうやってんだそれ?」
「なーいしょ!それーッ!」
「くがッ!」
ゲッコウガの左腕がワルビアルへ伸び、指を指す。
すると、噴き上がった水の柱がそれぞれ命が宿ったかのように次々と襲い掛かった。
「自分に当たりそうなやつだけを見抜くんだ!ドラゴンクロー!」
「びぁ!びぁ!びぁ!」
呆気に取られながらもワルビアルはバックステップ。飛び退きながら水柱をやり過ごしてゆく。
避けきれない水柱に対しては爪で両断し難を逃れ続ける。両手にドラゴンエネルギーを纏ったドラゴンクローだ。
じめんタイプを持つワルビアルにとってみずタイプの攻撃は効果抜群。それはもう喰らいたくはない。
「隙ありー!!」
「くぁぁぁがッ!」
「ゲーッ!完全に上をとっての奇襲だ!!」
足場にしていた水柱の上からゲッコウガが両手に自分と同じほどのサイズの棒手裏剣を生成する。
水柱を放つのもまた囮。本命はここからの一撃にあった。
勢いよく飛び降り、ゲッコウガがワルビアルに斬りかかる。
襲い来る水柱への対処に追われていては、高所からの奇襲には反応できない、野次馬たちはそう思った。
3年前まではポピュラーであった、「かわせ!」という、回避に専念させるポケモンへの指示。
それが急速に陳腐化していった要因がこの盤面に集約されていた。
受け手が回避に専念する間に、攻め手は次の手をフリーで打ち込むことが出来る。
で、あるが故に近年では回避ではなく、技による相殺、またはそのまま打ち返すなり逆用してカウンターに用いるよう手立てを講じるのが、現環境のトレンドになっているのだ。
「ストーンエッジ!!」
「えッ!?」
ズガガガッ…!
斬りかかったゲッコウガの両脇腹にすかさず突き刺さる岩柱。
サトシから飛んだ瞬時の指示に刹那、飛んだ一声を受け、ワルビアルは両手をクロスさせ、地中の岩柱を制御し、返り討ちの形でぶっつけたのだ。
「げぁッ…!」
「(回避に四苦八苦してたのは、こっちを誘き出すブラフ!?)」
ゲッコウガが本命の攻めに転じる瞬間に楔を打ち込むカウンター殺法。
野生の嗅覚と天性の勘、それに加えての波導を見抜くことによって実現可能な最速のレスポンス。
コレがサトシのトレーナーとしての真骨頂であった。究極の"後の先“といえよう。
「決めるぞワルビアル!つばめがえしッ!」
「びぁぁぁ!!」
「ハイドロポンプッ!」
たまらず着地し、突き刺さった岩柱を引き抜くゲッコウガは、迫るワルビアルを睨んだまま体を一瞬膨らませる。
体内で瞬時に噴き出す為の水弾を生成したのだ。
全身からみずタイプのオーラが放たれている。ゲッコウガを始めみずタイプの初心者用ポケモンが共通して持つ特性、"げきりゅう"の作用だ。
ユリーカもゲッコウガも、勝負を捨ててはいない。
「いっけー!!」
「げかぁぁぁ!!」
口から、パワー増量された大量の強化された水流弾を発射する。それでもワルビアルは止まらない。
ズバババババババ!!
「げか!?」
「嘘!?」
「ゲーッ!あのワルビアル、ハイドロポンプを、掻き散らしてやがるーッ!?」
「もらったぁ!」
「びぁぁッ!」
ワルビアルがゲッコウガを射程に捉える。
悪あがきにゲッコウガが水の棒手裏剣を両手に持ち前に突き立てにかかれば、ワルビアルはその体を屈ませ回避する。そして…。
ズッバァ!
「げぁぁぁッ!」
屈ませた状態を起こす反動を利用して両腕の爪を大きく切り上げた。
「ゲッコウガ!」
切り上げられ、空中へ放り出され、背中から砂浜に落着するゲッコウガは目を回していた。
決着である。
ユリーカが倒れたゲッコウガに急ぎ駆け寄るのを見ては、サトシはユリーカもマサト同様ポケモントレーナーとしていいスタートを切れたのだなと嬉しかった。
「わび、わび。」
「お疲れワルビアル。ゆっくり休んでくれ。」
ワルビアルは、最後の攻防の際に体を屈ませた弾みでずり落ちたサングラスを探していた。
それを拾い上げ、付着した砂を拭いてやってからサトシはワルビアルに返す。
「(久々のバトルにしては、結構ハードだったな。)」
そう詫びの言葉を念じつつ、ボールに戻す。
実戦から離れていたポケモンの感覚を取り戻すにしては、苛烈な相手だったと、サトシはユリーカを認めた。
ワルビアルの戻ったボールを腰のホルダーに納めてからユリーカに歩み寄れば、サトシは右手を差し出した。
「いいバトルだったぜ。ユリーカ。」
「ありがと。でもやっぱり、負けると悔しいな。」
ゲッコウガを労い、ボールに戻したユリーカはサトシとのバトルが実現した嬉しさと、負けた悔しさがない混ぜになった表情で握手に応える。
野次馬たちも爽やかな幕切れに拍手喝采だ。
「今だよシザリガー、クラブハンマー!!」
「しまったぁ!!」
「あっちも決着ついたみたいだな。」
「ぴぃか。」
サトシがもう片方の戦場を見やれば、ピカチュウも頷く。
シザリガーの腕の巨大な鋏を打ち付けられたガブリアスは沈黙し、目を回していた。
マサトの勝ちである。
『バンジロウ』
10歳。今年デビューしたルーキーで、元チャンピオンアデクの孫。
祖父譲りの高いトレーナーセンスを持った野生味溢れるファイターだ。
エースポケモンはもちろんウルガモス。祖父のウルガモスが作ったタマゴを大事に育てたんだって。