3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 ユリーカのゲッコウガのトリッキーな動きは、確かにサトシとワルビアルを翻弄してみせた。
 しかし、相手の虚を突く事に関しては、やはりサトシの方が1枚も2枚も上であった。
 敗れながらもユリーカの表情は、晴れやかであった。


死闘!PWT 飛び立つ頂たち、歩き出すホープたち

「やった!よく頑張ったねシザリガー!」

 

「しざり。」

 

 マサトはシザリガーに駆け寄り、真紅の全身を撫で回す。

 ひと仕事を終えたシザリガーの方は、主人からのスキンシップにデレデレするではないが、満更でもない様子。

 

「お疲れさんガブリアス。…おい、おい!おいッ!」

 

 倒れたガブリアスを労いながらボールに戻しては、バンジロウはズンズンとマサトに歩み寄って行く。

 

「ん、戻ってシザリガー。」

 

 バンジロウを認めてはシザリガーをボールに戻し、相対する。

 同時に右手を差し出し、ガッチリと握手をする。そこからバンジロウは左手で肩を組みながら満面の笑みを向けた。

 

「おめーもつえーな!あのユリーカってのにも負けてないぞ!ワールドチャンピオンは、もっとつえーんだろ?」

 

「あぁ、そうさ。世界は広いんだ!」

 

 悪戯っぽく口角を吊り上げながら真っ白い歯を見せこちらを覗き込むバンジロウに、マサトも肩を組み返せば大きく頷いて見せた。

 そうして互いに、クスリ。そこから…。

 

「「ははははははは!!」」

 

 腹の底より込み上げる笑いを抑えることなく解き放つ。そこにサトシとユリーカが合流をする。

 

「仲良くなれたみたいだなマサト。」

 

「うん!やっぱりチャンピオン経験者のお孫さんって違うなって。」

 

 正直なところとして、ガブリアスに競り勝てたのは、直前にサトシのランクマッチで、より強力な個体を目の当たりに出来たというのが要因であった。

 マサトとしてはバンジロウを貶めるつもりは全くないが、やはりサトシのガブリアスを先に見せられては、その似通った挙動から目が慣れていた分、対処しやすかったというのが事実ではある。

 

「よく言われるけどよ。おいらは別にじーちゃんの弟子って訳じゃあないぜ?」

 

「アデクさんにポケモンのこと教わってないの?」

 

 バンジロウからのカミングアウトにユリーカが首を傾げながら食いつけば、それにバンジロウは首肯して見せる。特に隠してるわけでもないようだ。

 

「バトルのことはさっぱりでさ。小さい頃はおいらもせがんでたんだけど、お前は弟子じゃあないからそーゆーことは教えられん、ってなもんでさ。」

 

「ふーん。」

 

「じーちゃんのノウハウってんなら、弟子やってるレンブのあんちゃんや、シュータローってのの方がよっぽど知り尽くしてるさ。」

 

「シュータロー?」

 

「シューティーだろ。カノコタウン出身の。」

 

 マサトが聞き返した名を、サトシが訂正する。祖父のアデクもまた、同じ呼び間違いを幾度となくしていたのを思い出していた。

 カノコタウンのシューティー。3年前、サトシが出会ったイッシュ地方での最も手強いライバル。

 その勝ち気かつ尊大な性格と、それに見合った高いポケモンバトルのセンスによりサトシはイッシュ時代、大いに彼に苦しめられ続けた。最後にぶつかったのは、ポケモンリーグ予選のヒガキ大会。

 当時はまだCD(チョイス・ダウン)方式が採用されておらず、正真正銘、繰り出したポケモン1体のみで決着を付ける使用ポケモン1体でのルールという、トレーナー間の手持ちの総合戦力がほぼ影響しない予備選段階での、当時最も勝ち目のあるタイミングで彼と当たれたのは、イッシュ時代におけるサトシ最大の幸運であった。

 イッシュ来訪時のアクシデントから復調し、一番無茶もきくエースのピカチュウをシューティーのジャローダ相手に存分にぶつけ、半ば無理矢理勝ちを拾った。それしかなかった。

 逆を言えば、総合戦力を求められるサイクル戦においては正直シューティーを相手取っての勝ち目は薄かった…とサトシに懐古させるほど、当時のサトシとシューティーのポケモン6体分の総合戦力は絶望的なまでに開いていたのだ。

 それほどに、シューティーは強いのだ。

 

「そうそうそのシューティー!あの人はすげーんだぜ?オープンカップを連覇してんだもんな。」

 

「シューティー選手って、ジュニアカップでも優勝してなかったっけ?」

 

「決勝で負けたのが俺だな。」

 

「あっ…。」

 

 マサトが思い出したように聞けばそこにサトシが補足を入れ、少し気まずい空気になる。

 サトシはというと、イッシュリーグで別れて以来顔を見ていないライバルの成長を感じ、合間見えた時は、是非バトルしてみたいとしみじみしながら空を見上げていた。

 それと同時に、若干の不可解さも感じていた。

 

「(なんでシューティーはイッシュの外に出て来ないんだ?)」

 

 3年前のイッシュ時代、サトシはその身でもって、嫌というほどにシューティーの実力の高さを思い知らされている。

 そのシューティーが未だイッシュに拘り続けている理由というのが、イマイチ考え付かないのだ。

 彼ほどの実力者ならどこに行っても通用するし、滞在した地方で学んだことを吸収して、さらに強くなれるであろうことは目に見えていたからだ。

 

「ぴかちう?」

 

「どうしたピカチュウ?」

 

 肩の上から空を見上げていたピカチュウに呼びかけられては、サトシは彼が指差す方を見る。

 そこには、こちらへ飛来するやたら目つきの悪いカイリューの姿があった。

 そんな人相の悪いカイリューを扱うトレーナーは、サトシの中では1人しか心当たりはない…。

 

「アイリスじゃん!おーいアイリスー!!」

 

「アイリスって…チャンピオンアイリス!?」

 

「うっそー!?なんでここに!?」

 

「あー、ホントだ。あの姉ちゃんもじーちゃんとこによく出入りしてんだ。」

 

 マサトとユリーカが驚愕する中バンジロウも飛来してくるカイリューの人相からトレーナーを特定したようだった。サラリと話している。

 

「なにがおーいよ!能天気!」

 

 そのやってきたアイリスはカイリューを着地させ、背中から降りて早々ズカズカとサトシに向かって歩いていけば、容赦なく癇癪をぶつけた。

 手こそ出してはいないものの、その剣幕にマサトとユリーカはたまらず後退りしてしまう。

 

「ようアイリス!打ち上げ以来だな。」

 

 気さくに近寄るサトシを、アイリスはジト目で睨み付ける。

 ここ数日間、アイリスは自前の交流網をフル活用してサトシの行方を追っていたが、つい先ほどベルにSNSをチェックするよう促されるまでサトシのイッシュ上陸をまるで掴めていなかった。

 

「なんだよ、なに怒ってんだよ?」

 

「アンタ、いつこっちに着いたのよ?」

 

「今さっき。」

 

「どうやって?」

 

「ラプラスにのって。」

 

 サトシの上陸時期と、その手段を聞かされアイリスの怒気が一瞬消える。

 これは、怒りを収めたのではない。本格的に捲し立てる前に、ひと呼吸置いたに過ぎないことをサトシは知っており、ここにきてようやくバツが悪そうな表情になっていた。

 不可避のヒステリーに身構えるしかない。

 

「アンタねぇ!みんな、アンタを出迎えるのにリーグのお偉いさんたちが何日も空港で待ちぼうけくらったもんだから、同じチャンピオンのあたしに巡業の話が飛んできて来て、それはもう大変だったのよ!?とんだとばっちりだわ!!」

 

「えっ?あー、そっか。そうだったな。ごめん!」

 

「もーーーーー!!」

 

 サトシの軽い調子の謝罪に、アイリスは地団駄を踏む。

 チャンピオンの興行ともなれば、偉い人との付き合いもある。イッシュリーグ委員会は、サトシがホウエン地方でのランクマッチの後すぐにPWTの為に空路で現地入りすると言う話で動いていたのだ。

 それがラプラスとの再会により生まれたサトシの気まぐれのせいで、大幅に予定を狂わされたのだ。

 本来サトシに組まれていたプロモーションが、巡り巡ってアイリスの元に回って来て大迷惑を被った。それが彼女のヒステリーの中心である。正当な怒りと言えた。

 

「分かった分かった。悪かったって!」

 

「まったくもう!ともかく、来た以上は今からでも付き合ってもらうわよ!空飛べる子は用意して来た?」

 

「あぁ。ケンホロウ、頼むぜ!」

 

「ほろろ。」

 

 サトシはボールから出したプライドポケモン、ケンホロウに頼めば、彼女は事態を把握してから頷いて身をかがめ、サトシはその背に乗る。

 アイリスはそれを認め、カイリューの背に戻る前にマサトとアイリスを見た。

 ヒステリーを見せたまま立ち去るのではチャンピオンとして流石に具合が悪い、という心理が働いたのだ。

 

「ようこそイッシュ地方へ!あなたたちは…ジュニアカップかな?」

 

「は、はい!」

 

「ジュニアカップに出ます!」

 

 ついさっきまで、サトシに対して激昂していたのが嘘のような穏やかな声色で語りかけるアイリスの、優しげながら同時に携えた確かな風格に、2人は緊張気味に答えた。

 それを聞いたアイリスはニコリと笑って見せる。

 

「頑張ってね!優勝して、あたしとすっごいバトルしましょう!」

 

「「ありがとうございます!」」

 

「バンジロウ、その子たちにイッシュ地方のいいところ、いっぱい伝えてあげてね。」

 

「分かったぜ姉ちゃん!」

 

 マサトとユリーカの2人と違い、バンジロウはアイリスに鷹揚に返してみせた。日常として普段から見知った仲であるが故に、お互い気心の知れた中である。

 改めてアイリスはルーキーたちにバイバイ、と手を振ってからカイリューの背に飛び乗り、カイリューは背に体重を感じてすぐに翼をはためかせ飛翔していく。

 その後にケンホロウは続く形になるのだろう。

 

「それじゃあマサト!ユリーカ!会場で会おうぜ!」

 

「ぴっかー!」

 

「またねーサトシ!」

 

「ユリーカたち、もっと強くなってるからー!」

 

「で〜ねね〜!」

 

 カイリューを追い、ケンホロウも飛翔する。

 マサト、ユリーカ、バンジロウ、次代を担う若きトレーナーたちは手を振りながらそれを見送った。

 

「よし、よしッ!よーし!姉ちゃんに頼まれちまったしな。お前ら2人には、いいポケモンが住んでる、おいらとっておきの穴場を教えてやるよ!ついてきな!!」

 

「「やったー!!」」

 

 ズカズカと大股開きで歩き出すバンジロウの先導を大喜びで受けるマサトとユリーカが浜辺を後にする。

 それは、まさしく新時代の萌芽…。

 空から見下ろすサトシとアイリスは、揃って目を細めていた。

 

 

 




サトシvsユリーカ

ワルビアル○  ゲッコウガ●

勝者 サトシ
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