3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 アイリスは、それはそれは盛大に怒っていた。
 サトシの気まぐれで、本来予定にない巡業で飛び回る羽目になったのだ。
 その剣幕を目の当たりにしては、流石にサトシも謝るしなかった…。


死闘!PWT 始まるオープンカップ 決勝の火蓋

 ルーキーたちから引き離され、アイリスに連れられて、短い空路を渡ったサトシを待っていたのは、慣れないトーク番組やCMの収録であった。

 てぐすね引いて待つスタッフたちの前にサトシを差し出し、スタジオまで送り届けては、アイリスはさっさと飛び去ってしまう。

 

「あたしも暇じゃあないのよ。別のとこで営業あるし、トレーニングだってしたいんだから。」

 

 去り際の台詞もまたあっさりとしたものだった。同じチャンピオンとして多忙なのだ。

 イッシュ地方一の商業都市であり、設備もロケスポットも充実しているライモンシティにてカメラの前に立たされるのは、サトシにとってポケモンバトルの試合より明らかに勝手が違った。要はガチガチに緊張した。

 

 

 

『だけど、不思議だよね。大好きなことって、なんだかめちゃくちゃがんばれる!』

 

『「好きのパワー」全開にして、スパートかけようぜ!』

 

『ぴぃぃぃっかッ!ちゅううううう!!』

 

 3年前のPWCSマスターズトーナメント決勝戦。

 その最終局面のハイライトにサトシがモノローグ式でのアテレコ作業。事前に見せられたあの日の映像を見て、俺は3年前からどれほど強くなれたのか?ふと思い浮かんだが、それはすぐ立ち消えた。

 始まった収録に必死で何度もリテイクを繰り返す羽目になり、スタジオを出る頃には、もう何のCMだったのかも覚えていなかった。

 

「疲れた〜…。」

 

「ぴかぁ〜。」

 

 ロケ終わりに押し付けられた製品の試供品の山を前に、サトシもピカチュウも判別する気力は残っていなかった。

 

 

 

「頼むぜケンホロウ。」

 

「ほろろ。」

 

 諸々の撮影を済ませたサトシは、逃げるようにライモンシティから飛び立った。

 3年前はそこまででもなかったが、都会の雰囲気が何となく肌に合わない感覚があった。ミナモシティの時にもそれはあったが、到着してすぐハルカたち見知った間柄との関わりがあったため多少軽減されていたのだとサトシは考えつく。

 そんなサトシの行き先は、サンヨウシティのポケモンジムに併設されたカフェにあった。

 イッシュ時代、最初に挑んだジムであり、旅に同行してくれた仲間である青年デントの実家でもあるが、当のデントはいなかった。

 彼の三つ子の兄弟であるポッドとコーンの応対を受け、個室に通されている。

 

「とりあえずはこれをどうぞワールドチャンピオン。今ポッドが腕によりをかけて調理してますので。」

 

「ありがとうございます!コーンさん。」

 

 青い髪のウェイター、コーンがサービスで出された紅茶には、疲れに効く作用でもあるのだろうか?

 ぐいっと飲み干すサトシの喉に潤いと共に、言語化しにくい解放感をもたらした。デントのようなソムリエならば気の利いたテイスティングからのトークも出来たのだろうが、サトシにはそのような語彙力はない。

 サトシが座る足元でピカチュウは、既にきのみの果汁がたっぷり入ったポケモンフーズを頂いている。

 

「おまちどうさま!にしてもデントのやつもタイミングが悪いよな。つい先週まではウチにいたんだけどさ。」

 

「いただきます!Sクラスのソムリエ試験でしたっけ。」

 

 サトシは両手を合わせながら、そんなような文言がポケラインのトークで流れていたのを思い出す。

 

「そうそう。すげぇ気合い入ってたよあいつ。それとあの、なんて言ったっけ?デントが話してた威勢のいいCクラスソムリエールの…。」

 

「カベルネさん。去年Bクラスの試験に受かったらしいので、今年はAクラスの試験に向けて頑張っているとはデントから聞いてますね。」

 

「カベルネかぁ。懐かしいや。」

 

 赤い髪のウェイター、ポッドが運んで来た、おおよそ女性人気の高い喫茶店らしからぬ派手にドカ盛りなどんぶりを頬張りながら、イッシュ時代に幾度となく見たデントと、彼を一方的にライバル視していた少女カベルネの衝突をサトシは懐古する。

 ポケモンソムリエ。イッシュ地方より誕生したトレーナーとポケモンの相性を診断し、より友好的な関係を築く為のアプローチを提供するアドバイザーの総称である。

 門外漢のサトシには専門的なことはいまいち分かりかねたが、共に旅をしたデントのポケモンソムリエとしての情熱や信念には共感し、深くリスペクトしていた。

 何より、それまで食事を担当してくれていた仲間のタケシに優るとも劣らない料理の腕により、自身やポケモンたちの食生活を豊かに彩ってくれたことがありがたかったというのはここだけの話である。

 

「コーン。そろそろオープンカップ決勝だよな。」

 

「そうだね。では。」

 

 後片付けを済ませて来たポッドが椅子の背もたれに抱きつくように腰掛けながら話しかければコーンは頷き、店の玄関にある看板プレートを『営業中』から『本日は閉店しました』と引っくり返す。

 

「すみません、俺すぐ帰ります。」

 

「あぁ、いいのいいの。むしろ一緒に観戦してくれよ。」

 

「ワールドチャンピオンの知見を交えての試合観戦というのはとても貴重だからね。いわゆる役得、と言うものです。」

 

 あっさりと店を閉めるのを見て申し訳なく切り出すサトシに、ポッドは笑顔で返しながらテレビのチャンネルを回し、コーンも手近の席につき悪戯っぽい笑みで続いた。

 急ぐにしてもすぐに食べ切れる量でもない。そのあたりも計算のうちだったのだろう。

 ならばとサトシはお言葉に甘えることにした。ポッドとコーンからしても、サトシの来店は僥倖であった。

 2人に加えて、もう1人の3つ子の片割れであるデントと3人で始めた喫茶店。いわゆるイケメン3つ子の働く店、として瞬く間に太客が多くついたのはいい。

 しかし、ジムリーダーとしてポケモンバトルの世界にも真剣に取り組んでいる彼らにとっては無視できない誤算にもなった。

 若い女性を中心とした顧客層には、さほどポケモンバトルというものが競技として刺さらない。

 で、あるが為に営業中はろくにバトル番組を流しっぱなしにも出来なかったのだ。

 

 

 

『全国のポケモントレーナーの皆様、ポケモンバトルファンの皆様!お待たせいたしました!ポケモンワールドトーナメントオープンカップ決勝戦の模様をここ、ホドモエスタジアムより私、ジッキョーが実況としてお送りいたします!!』

 

 

 

ウォォォォォォォ!ヤッタレシューティー!!

 

「やはりというかなんというか、会場はシューティーくんムード一色だね。」

 

「まぁそりゃあ去年の時点で史上初のV2、コレに勝てばV3達成だもんな。」

 

 サンヨウジムのジムリーダーとして、彼らとシューティーの付き合いは4年ほどになる。

 ポケモンリーグの規定で、『一度参加資格のクリアのために使用された公認ジムバッジは、その効力を失う』というものがある。

 そのため都合4回、シューティーからの挑戦を受けてジム戦を行っている。

 ルーキーイヤーで地方予選まで駒を進めたシューティーの、2回目以降の挑戦ともなると、ポッドもコーンも相応に実力を解放して臨んだが、全て敗れてバッジを手渡している。

 

「ジュニアカップを含めたら去年でV3、コレに勝ったらV4か。…あっ。」

 

 ポッドが思わず失言した、と気まずそうにサトシを見る。そのジュニアカップの決勝の相手がサトシだったことを思い出したのだ。当のサトシはどんぶりをかきこみながら中継を見ていたので気にも留めていない。

 

「すっごく強くなったんだな、シューティー。」

 

「あ、あぁ!話を聞くにアデクさんの所でずっと修行してるみたいだからな。」

 

 ポッドはサトシの様子にほっ、と胸を撫で下ろした。

 

 

 

『最高の師より伝授された天賦の才!今宵奇跡のV3達成成るか!PWTにこの人あり!カノコタウン出身、シューティー選手、入場ォォォッ!!』

 

 

 

ワー!ワー!ワー!ウォォォォォォォ!!

 

「出てきたな、シューティー。」

 

 サトシがサンヨウジムのテレビから中継を見る中、入場口からアナウンスとともにフィールドに姿を現す少年は自信に満ち溢れていた。

 元チャンピオンであるアデクに師事し、元来より持ち合わせていた才覚を開花させた、その自信を隠すことなく、威風堂々とシューティーはフィールド中央まで歩き、対戦相手を待つ。

 

 

 

「あれ?」

 

「どうかしたかい?サトシくん。」

 

「いや、観客席に見たような連中がいたなー、って。」

 

 他の観客の迷惑にはならないようルールは守りながらも、最前列に陣取り、横断幕をピンと張っている黒ずくめで髑髏がトレードマークの一団を、サトシは見逃さなかった。

 

 

 

『遠くパルデア地方からはるばると!破壊の帝王がやってきた!行くは破壊!来るも破壊!!全て破壊!!!シューティー選手V3の夢すら壊してみせるのか!?』

 

 

 

「ケッ。好き放題言ってくれやがるぜ。」

 

 アナウンスの煽り文句に苛立たしげに姿を現すのは、ボサボサの白髪に左側のレンズが半月型になっているデザインの巨大サングラスを額にかけたその瞳はクマにより凶暴さが強調されている青年だ。

 胸元を開けたシャツに、橙色のボトムスはあちこちがほつれている。

 

「誰だって生まれは選べない。だからこそアンタは海を越えて、今まで生きて来たこと全部ひっくり返しに、いや、ブッ壊しに来たんだろ?」

 

「…あぁ、分かってンよ。」

 

 褐色肌に、ピンクと黄色のツインテールを髑髏の髪飾りから垂らす美女プルメリが観客席から青年に語りかける。

 スタジアムの喧騒から声が直接届くなどと言うことはない。

 その慈愛と信頼の入り混じったの眼差しから、全てを心得たのだ。

 

 

 

『グズマ選手の入場だぁぁぁッ!!』

 

 

 

「やっぱりだ…。」

 

 垂れ幕の文字から察していたが、出てきた人物に間違いはなかった。

 アローラリーグで戦った強敵の1人、グズマ。

 彼がアローラ地方から飛び出していたことは、サトシは知らなかった。

 久々に姿を見た印象としては、ガラの悪い猫背気味だった姿勢ではなくなっていることくらいか。

 それと、彼が渡ったであろう…パルデア地方。

 

 

 

YO!YO!YO!YO!

 

 応援団のスカル団が独特な掛け声を発する中、フィールド中央に辿り着き、グズマは身長差からシューティーを見下ろす。

 その鋭い眼光に怯むシューティーではない。不適な表情で見上げ、睨み返している。

 互いの健闘を誓い合う握手にある爽やかさは、形式だけのものだった。

 それを済ませて見せてから、互いにトレーナーサークルに入る。

 

「試合形式は3C1D方式!ドローンロトム、バリアフィールド形成後に人工ガラテラ粒子を散布!」

 

「リョウカイシマシタ。」

 

 審判が試合の進行をすれば瞬く間にフィールドは戦場に早変わりしてゆく。あとは開戦を待つばかりだ。

 

「アデクさんの弟子として、絶対にV3を成し遂げて見せる。そしてその勢いのままに今度こそイッシュリーグを勝ち上がり、チャンピオンになるんだ!」

 

「破壊という言葉が人の形をしてるのがこの俺様、グズマだぜえ!ブッ壊してやる!その澄ましたエリートさんのお顔をよ!」

 

 そして、その時は訪れた。

 

「試合開始ィィィィィ!!」

 

 

 




 『デント』
 18歳。サンヨウジムの名物3つ子ジムリーダーの一角でポケモンソムリエ。
 ジム戦に来たサトシに興味を持ち、旅に同行し、互いに研鑽を深め合った。
 エースポケモンは強烈なソーラービームがウリのヤナップだ。
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