3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 チャンピオンとしての責務を軽視するつもりはサトシにはなかった。
 ただ、3年の月日が、なんとなく都会の空気に拒否反応を示すように肌を作り替えていたような気がした。
 そんなサトシも中継で見守る中、PWTオープンカップの決勝が始まろうとしていた。


死闘!PWT オープンカップ決勝 シューティーvsグズマ①

 時は遡る。

 3年前、イッシュリーグ予備選にてサトシに敗れたシューティーは正式にアデクに弟子入りし、いちからポケモンバトルを学び直した。

 

「よいぞシューティーよ!」

 

「ありがとうございます!」

 

 元来より真面目で勤勉であったシューティーはアデクの指導を受け、その持ち味である基本に忠実な戦い方をさらに高いレベルまで押し上げてみせた。

 その成果はすぐに出た。

 

 

 

「ゼブライカ、戦闘不能!ジャローダの勝ち!よって勝者、カノコタウンのシューティー!!」

 

ウォォォォォォォ!ヨクヤッタゼコノヤロー!

 

 

 

「決着ーッ!!ジュニアカップ上がりのシューティー選手、並み居る先輩トレーナーたちからのプレッシャーを跳ね除け、見事オープンカップ優勝を決めました!!」

 

 

 

「よしッ!よくやったジャローダ!アデクさんのご指導の賜物だな。」

 

 PWTには10歳から13歳までの年齢制限があるジュニアカップと、年齢制限のないオープンカップという二つの部門がある。

 シューティーは年齢制限上ジュニアカップが出場枠になるのだが、大会における例外措置として、『ジュニアカップで優勝歴がある選手はオープンカップに出場する』と言う決まりがあった。

 その為、彼の戦う舞台は自動的にオープンカップに移ることになった。

 ルーキーたちに向けられた登竜門的立ち位置にあるジュニアカップとは違い、年齢制限がなく、必然的にキャリアの差を見せつけてくる多くの先輩トレーナーたちに囲まれての挑戦になったが、シューティーはそれをものともせずに優勝して見せた。

 PWTは翌年も優勝し、オープンカップ連覇を達成、その勢いのまま、本命のイッシュリーグ予選ヒガキ大会に乗り込んだのだが…。

 

 

 

『ローブシン、戦闘不能!ツンベアーの勝ち!よって勝者、ラングレー選手!!』

 

『オープンカップ覇者のシューティー選手決勝進出ならず!遠くシンオウからの修行帰りであるラングレー選手の、凍てつく凍結闘法の前にその進撃が止められてしまいましたー!!』

 

 

 

『バイバニラ、戦闘不能!サザンドラの勝ち!よって勝者、コテツ選手!!』

 

『オープンカップV2のシューティー選手敗れるーッ!!全国を回り、武者修行を重ねて来たコテツ選手との死闘の果てにベスト4に終わりました!!』

 

 PWTを毎年勝ち抜いたのはいい。だが、肝心のリーグ戦でイマイチその実力は振るいきれていなかった。

 その来歴からSNSなどで、『PWTだけ番長』と揶揄されていることもシューティーは知っている。

 そのPWTにおいても、優勝を決めた後のエキシビジョンマッチにて、ことごとくチャンピオンアイリスに惨敗しているのだが…。

 

 

 

 時を戻そう。

 そんな、一昨年から去年までの苦い記憶が去来すれば、シューティーのモンスターボールを握る手が自然と力んでゆく。

 

「アデクさんの弟子としてこれ以上恥は晒せない。これまで学んだアデクさんの教えを完璧に体現できれば、必ず勝てるんだ!それを証明しなければ!!」

 

 憧れて教えを乞うた師であるアデクの教えに、間違いなどはありえない。これまでイッシュリーグで苦杯を舐めさせられてきたのはあくまで自分の力不足に他ならない。

 それは最早強迫観念のそれであった…。

 

「奴さん、随分力んでんな。ま、他人様のことは言えねェか。」

 

 そんなシューティーに対峙するグズマの精神は、平常運転、とは言い切れないものではあった。

 正直、『決勝』という舞台に高揚と、嫌な緊張がないまぜになっている。

 だがそれは、アローラ地方で燻っていた頃に比べれば、俯瞰してしまえるほどに些細な問題に過ぎなかった。

 

 

 

 こちらも時は遡る。

 グズマが片道限りの旅費をどうにかこうにか捻出し、アローラを飛び出したのは、サトシがアローラリーグを制覇してすぐ後のことであった。

 外の世界をこの身で味わい、ビッグになって見せる。そうして自分の実力を証明するのだ…。

 ようやく芽生えた、芽生え直した青雲の志を胸に、誰にも告げずに出発するつもりだったのが、スカル団の仲間たちには自分のことはお見通しだったようで、あっさり行動を読まれ、見送りに来られていた。

 

「グズマさん!俺ら、どこにいても応援してるッスカら!!」

 

「お、お前ら…。」

 

「こいつらは馬鹿だけど、アンタも大概馬鹿だよね。だからこそ、あたいらのボスはアンタしかいないんだ。精一杯やって来なよ。」

 

 可愛がっていた子分たちから、苦楽を共にしたプルメリから、エールを送られ、飛び立つ機内でグズマの目頭が熱くなる。

 元より帰るつもりもない背水の陣のような旅。

 それ以上にこんな自分に期待してくれている者たちの為に、もう二度と躓くことは、出来ない。

 

「なにやってんだ、グズマぁ…。」

 

 サングラスをかけ目元を覆い、リクライニングを倒すグズマは呟く。その双眸から頬へ、熱いものが溢れていた。

 

「"宝探し"…か。よーし!!」

 

 アローラを飛び出してからの、それまでにはなかった出会いや困難。

 それらが、これまでの人生において、ただ忌み嫌われていただけの異名を、グズマの強さをストレートに表現する為のリングネームとして昇華させていた。

 

 

 

「いくぜ!グソクムシャ!!」

 

 時を戻そう。

 そんな自分の戦う姿を、また可愛い子分たちの前で見せながら世界の舞台に立てる。

 それでもなお、グズマにとっては、この場は通過点でしかないのだ。

 

「いけっ!!シャンデラ!!」

 

「むっし!!」

 

「でらららら〜ん…。」

 

 

 

「V3まであと勝利1つのシューティー選手はシャンデラ!グズマ選手は予選から一貫してのグソクムシャを先発に送り出しました!グズマ選手は今大会、全試合をグソクムシャのであいがしらから立ち回りを組み立てて来ましたが決勝でも同じ初動でくるかどうか!」

 

 

 

「グソクムシャ!であいがしらぁ!!」

 

「むしゃあああああ!!」

 

「来たな!予測通りだ!」

 

 グズマの号令に応え、グソクムシャがドスドスと走り迫る姿、さながら重戦車の如きそれに、シューティーはほくそ笑む。

 この手のゴロツキが、戦いの舞台や相手に合わせて戦法を変える器用さなど持ち合わせているはずがない。

 そんな推察が的中したのだろう。

 

「自分から当たりに来てくれるなんてね!シャンデラ!だいもんじだ!!」

 

「でらぁぁぁぼぼぼぼ!!」

 

 

 

「シューティー!その人に真正面から大技をぶつけようとしても通じないぞ!」

 

 テレビの画面越しのサトシの声がシューティーに届くはずもない。

 3年前のアローラリーグにてグズマのグソクムシャは、対峙したサトシの学友スイレンのアシレーヌが放った渾身のZワザ『わだつみのシンフォニア』すら、純粋なパワーでもって真正面から両断して見せたのだ。

 シューティーのシャンデラのだいもんじも強力なのは間違いない。

 だが、このグズマに対しては強力な技をぶつけ、ダメージを通すことがまず至難であることを知っていた。

 

 

 

「突っ込めグソクムシャ!お前なら出来る!!」

 

「むっしああああぃ!!」

 

ボァァァァァ!!

 

「なんだと!?」

 

 であいがしらにだいもんじをぶつける、それは上手くいった。

 シャンデラの強力なほのおエネルギーならば、一撃で倒せはしないまでも、グソクムシャの勢いを殺し、試合の主導権を握ることは容易だと踏んでいた。

 だが実際は、グソクムシャはだいもんじを確かに受けながらも、猛進を止めず、そのまま突っ込んできたのだ。

 

「むしぃぃぃ!」

 

ズガァンッ!!

 

「でろろろろ…!」

 

 肉薄したグソクムシャの、であいがしらによるタックルがシャンデラを吹き飛ばす。

 すぐに空中で姿勢を立て直すシャンデラが受けたダメージは、フィジカル的には大したものではない。

 いかに繰り出してから一度きりな反面、先制をとれるスピードと、絶大な威力がウリの技であるであいがしらとて、むしタイプの技は、ほのおとゴースト、ともに効果が今ひとつのタイプを持つシャンデラを仕留めるにはほど遠いのだ。

 ただ、自慢のだいもんじを受けてなお、構わずぶつかってくるグソクムシャの猪突が、シャンデラには自身の非力さを疑う程度には精神的なダメージに繋がっていた。

 

「(代えるか…?いや…!)」

 

 シャンデラの困惑気味な表情に、シューティーは交代を意識しては、すぐにそれを振り払う。

 グソクムシャはむしとみずの2つのタイプを持つポケモン。

 みずタイプ技はほのおタイプのシャンデラに効果抜群だが、それを使わずわざわざであいがしらによる先制攻撃をグズマが選んだ理由として、シャンデラのメンタルを揺さぶり、こちらのサイクルを崩すことにあると踏んだからだ。

 

「むッしぃ…!」

 

 シューティー刹那の思考の中、グソクムシャの体のあちこちが炎上する。

 シャンデラのだいもんじを叩き込まれたことによるやけど状態のダメージに苦しんでいるのだ。

 

「いいぞシャンデラ!これでグソクムシャは機能停止といっていい!」

 

 シューティーは快哉しながらシャンデラを褒める。

 高い物理攻撃力を誇るグソクムシャにとって、それが減殺されるやけど状態は致命的だ。

 無論、こうなることもシューティーは狙っていたが、盤面としては最高のタイミングと言ってよかった。

 

「でら、でらッ!」

 

 シューティーからしたら、実質グズマに与えられた3体分の手持ちの1体を封じ込めたと言ってもいい話である。

 それは、技の威力に自信を失いそうになっていたシャンデラのメンタルへのダメージをケアするにじゅうぶんなフォローともなった。

 

「…ハッ!流石はV2チャンピオン。思ってたよりずっと強ェじゃあねェか。」

 

「このくらい基本だろう?」

 

 グズマが素直に賞賛したのは、シャンデラのメンタルダメージを即座に解消したところにある。

 シューティーは不敵に返しながら、それをだいもんじの威力と、やけど状態による盤面の優位確保のことだと思い、言葉を返した。

 内心は、グソクムシャを後退させる気配がないグズマに、不審な気配を感じていた。

 

「へへッ…こりゃあ、やるしかねェな。グソクムシャ?」

 

「むしぁ!」

 

 ポケモンのメンタルを揺さぶって見ても仕方がない。それが分かったグズマの表情からは余裕の色は消えていない。

 グソクムシャとアイコンタクトを交わすその右手には、紫色の、モンスターボールに酷似したデバイスが握られていた。

 

 

 




 『シューティー』
 13歳。カノコタウン出身で、ジュニアカップを含めればPWT3連覇の偉業を達成した強豪トレーナー。
 常に基本に忠実なバトルスタイルを、師事したアデクの下でより徹底的に磨きをかけた。
 エースポケモンはデビュー時からの付き合いであるジャローダで、強力なコンボがウリだ。
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