3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 オープンカップ決勝に挑む2人のトレーナーの決意は硬く、強い。
 基本に忠実に、着実に攻めるシューティーを前に、グズマは勝負をかけた。
 世界は見る。破壊という言葉が人の形をした男の意地と輝きを。


死闘!PWT オープンカップ決勝 シューティーvsグズマ②

 

 

 

「どぉ〜ん…。」

 

「ドオー、戦闘不能!グソクムシャの勝ち!よって勝者、3-Bのグズマくん!」

 

「あちゃー、アカンわコレ。めっちゃ強いな自分。」

 

 時は遡る。半年前。

 流暢なコガネ弁でバタリと倒れたドオーを介抱する緑髪アンダーポニーテールの麗人が勝者を讃える。

 スカル団の仲間たちに見送られ、アローラを飛び出したグズマの姿は、パルデア地方にあった。

 正直、アローラから出ることさえ出来て、少しでもアローラから遠い場所だったらばどこでもよかったのが本音であった。

 真面目に日雇いバイトをしつつパンフレットを漁り、自分なりに見つけたのが、パルデア地方のオレンジアカデミーであった。

 内情はどうあれ、アローラリーグベスト4の成績は、グズマに奨学金制度の下での留学を実現させてくれた。

 

 

 

「新入生の皆さん!オレンジアカデミーへようこそ!」

 

 念願だった、アローラの外の世界。

 子分たちを置いてきた後ろ暗さはありながらもその身一つで飛び出した、自分の悪名を誰も知らない未知のエリア。

 師に見放され、人々に恐れられたグズマという男は、その実直さが本質にあった。

 確かな実力を元手に勉学に励むグズマの周りには、自然と学級を超えた友人関係が出来上がっていた。

 1学年下の、チリと名乗った麗人もその中の1人である。

 

「これだけやれるならお前も内定だろ。」

 

「せやろか?えへへ、せやったらええなぁ。」

 

「YOブラザー!見事なvictory!これにてメンバー確定!」

 

「サンキュー。つってもここがスタートラインなんだけどな。」

 

 オレンジアカデミーの特徴的なカリキュラムとして組み込まれている課外授業『宝探し』で出会い意気投合した、ラップ交じりに称賛してくる褐色の美女、ライムとグズマはグッ、と拳を突き合わせる。

 その勝ち気で豪胆な様に、グズマはアローラに残した頼りに出来る妹分の姿を重ねていた。彼女のほうが年上なのだが、それはそれだ。

 

「(やってやるさ。もう銀メダルはたくさんだ。)」

 

 半年後に予定されるPWTへの参加メンバーを募る校内バトル大会。これにグズマは勝ち抜いた。

 ジュニアカップに出場するメンバー選考も済んだのをよそに、グズマは胸に秘めた誓いを心中で反芻する。

 一番になって見せる。今度こそ、と。

 

 

 

「破壊の輝き!煌めかせようぜグソクムシャ!!」

 

 時を戻そう。

 グズマは右手に持ち弄んでいた紫色の球形デバイス、テラスタルオーブをフィールドに勢いよく突き出す。

 散布された人工ガラテラ粒子に反応し眩い輝きを放つそれを、グズマがグソクムシャの頭上へ投げ込めば、眩く光るクリスタルが全身を包み込む。

 

「な、なんだ!?」

 

 シューティーがぎょっと目を丸くする。

 

 

 

グズマ!グズマ!シューティー!シューティー!

 

「あちゃー、もう始まっとる!しかもグズマはんめっちゃ本気やん!」

 

「そうみたいですねチリ。どうやら試合の山場には間に合ったようで。」

 

 グズマと同じ橙色のボトムスが眩しい学生服の集団がぞろぞろと、フェンス越しに張り付くようにやって来る。

 

「よっしゃ!いったれグズマはん!」

 

「(そうかい、あの子たちが…。)」

 

 集団のまとめ役と思しきスラリとした麗人がグズマの名を口にすれば、側でスカル団の応援を見守るプルメリは、彼女たちがアローラを飛び出したグズマが出会った知己であることを察した。

 その視線に、麗人の側にいた黒髪ロングの少女が気付けば、にこやかに笑みを浮かべながら会釈して来たので、プルメリも同じく会釈を返した。

 見たところ、デビューしたばかりのルーキーにも関わらず感じるオーラに、そうさせられたのだ。

 

 

 

「テラスタルだぁぁぁ!!」

 

 そして姿を見せたグソクムシャの体表はクリスタルのように発光し、その頭部には噴水を思わせるテラスタルジュエルが、王冠のように輝いていた。

 

 

 

「アレがテラスタルか!すっげー!」

 

「ぴかぴかぁ!?」

 

 中継から試合を観戦しているサトシも、ピカチュウも、モニターに食い入るように視線を向け続ける。

 テラスタルの存在そのものは定期的な生存報告の折に、オーキド博士やククイ博士から話だけは聞かされていた。

 テレビ越しとはいえ、実際に使用されているのを見たのはこれが初めてであった。

 あんな宝石を頭に乗せて重くないのかな?そんなことを考えながらピカチュウは首を傾げていた。

 

 

 

「グズマ選手テラスタルを使用したー!!一気にパワーアップして勝負を決めにいくのかー!?」

 

 

 

「むぁぁぁぁぁッし!!」

 

「くッ!いくらパワーアップして見せてもそれまでのダメージが消えるわけじゃあない!」

 

 グソクムシャから感じていたプレッシャーが否応なく増したのを跳ね除けるように、シューティーは叫ぶ。

 

「シャンデラ、もう一度だいもんじ!!」

 

「でらぁぁぁぼぼぼぼぼぉ!!」

 

「いけぇ!グソクムシャあ!!」

 

「むっしぁぁぁぁぁ!!」

 

 シャンデラが灼熱の炎を大の字に形成するその真正面から、グソクムシャは再度突撃を敢行する。

 先程と全く同じ構図だ。だいもんじに呑み込まれて行くグソクムシャの姿。

 これにはシューティーも声をあげて笑ってしまう。

 

「ははは!馬鹿の一つ覚えだね!コレでダウンだよ!!」

 

 シューティーは勝ちを確信、その意識は既にこの後のエキシビジョンマッチでのアイリスとの試合に向いていた。

 

 

 

「ウルガモス、戦闘不能!オノノクスの勝ち!よって勝者、竜の里のアイリス!!」

 

 

 

「長年の王座、ついに陥落ーッ!!破竹の勢いの挑戦者アイリスの、研ぎ澄まされた竜の牙が!盤石たる王者の喉元を食い破りましたーッ!!新チャンピオン誕生ーッ!!」

 

 3年前、どこを彷徨いていたのかも定かではない彼女がふらっとイッシュに戻って来ては、地方予選を通過し、チャンピオンリーグを突破。

 そのまま四天王を全員倒し、ついには絶対の師であるアデクすら撃破し、リーグチャンピオンの座に就いてしまった。

 それは、シューティーがアデクの直弟子となって間もない頃の話である。

 シューティーにとって面白くないことであるのは言うまでもない。ポケモンリーグへの拘りも、アデクを破ったアイリスへの仇討ちという側面が強まっていた。

 

 

 

「(これまでリーグで勝ちきれなかったのは、僕がまだ未熟だから、アデクさんからの教えを再現しきれなかったに過ぎない!)」

 

「むしぁぁぁ…!」

 

「今の僕なら!アデクさんから教わった全てを余すことなく表現出来る!そうして、今度こそアイリスに勝つ!!」

 

ドッゴォォォォォン!!

 

 シャンデラの放っただいもんじがグソクムシャを呑み込み、大きな爆発を起こす。

 改めてシューティーは、勝ちを確信した。

 

「僕の勝ちだッ!!」

 

 

 

「これはどうだ!?決まったかー!?シューティー選手の3連覇ー!?」

 

 

 

 ジッキョーも、スタジアムの客も、テレビで見ているサトシ達をはじめとした視聴者も固唾を飲んで見守る中、爆発の後に煙が風に運び去られ視界が晴れてゆく。

 そこに輝く武者の姿は…。

 

「むっしぁ…!」

 

「な…なにィッ!?」

 

 健在であった。

 その巨体を揺らめかせながらも、だいもんじで止められた足を、再度シャンデラへ向け駆け出してゆく。

 

 

 

「テラスタルは発動することにより、その司るタイプの力を身に纏い、ポケモンのタイプそのものを変える、だったか?」

 

「アララギ博士がポケモン講座で話してたね。今のグソクムシャはみずのテラスタルを発動させたことにより、みずタイプのみになっている。だからだいもんじは効果今一つ、ということか。」

 

 ポッドとコーンのテラスタル談義は、サトシの耳には入っていない。とうの昔に意識を液晶の向こうへ振り切っていた。

 

 

 

「シャ、シャンデラ!グソクムシャを近づけさせるな!シャドーボールを連射だ!」

 

「でら!…っしゃしゃしゃしゃしゃ!!」

 

 完全に恐慌状態となったシューティーのメンタルが、シャンデラに伝播する。

 撃ち出される無数の闇球は明後日の方向へ撃ち放たれ続け、グソクムシャに命中することはない。

 元より他者の感情の機微に聡いゴーストタイプだ。シューティーの焦りが、ダイレクトにシャンデラに伝わってしまっていた。

 

 

 

「シューティー、意地を張るな!ジャローダに交代するんだ!!」

 

 モニターに向けてサトシが叫ぶ。当然、聞こえるはずもない。

 実際、彼と同じ立場に立たされて、今口走った策を自分自身取れるかと言われたら、言い切れないところもあった。

 シューティーの恐慌する気持ちも、痛いほどによく分かるのだ。

 

 

 

「これが俺様の、俺様たちのッ!輝きだぁぁぁぁぁ!!」

 

「むしぁぁぁ!!」

 

 シャンデラを捉え、グソクムシャが飛びかかる。

 その頭部のみずの力を放つテラスタルジュエルの輝きが、最高潮に達する。

 

「ブッ壊せぇ!アクアブレイク!!」

 

「むッッッ!しぁぁぁぁぁ!!」

 

 グズマの脳裏に浮かんだのは、スカル団のみんなや、オレンジアカデミーのクラスメイトたち。

 不遇の時代を彩る憎たらしい面々は、一切出てこなかった。

 

ズドガァァァン!!

 

 グソクムシャのみずテラスタイプのパワーを最大限に引き出した肉弾突撃が、飛び上がってからの急降下による勢いもダメージにプラスされ、叩き付けられ、直撃を受けたシャンデラを大きく吹き飛ばした。

 フィールドに落下し、沈黙するシャンデラは、完全に目を回して倒れていた。

 

「シャンデラ、戦闘不能!グソクムシャの勝ち!よって勝者、グズマ選手!!」

 

ウォォォォォォォ!ウォォォォォォォ!YO!YO!YO!YO!

 

 

 

「シューティー選手敗れる〜〜〜ッ!!破壊の帝王の一撃が、V3の夢を完膚なきまでに打ち砕きましたーーーッ!!」

 

 

 

「姐さん!グズマさんが!グズマさんが!」

 

「見りゃあ分かるよ。いい勝ちっぷりだね。見事だよ。」

 

 スカル団したっぱがフィールドを指差しながらはしゃぐのを嗜めるプルメリも、目から熱いものを必死で我慢していた。

 

 

 

「かーッ!さーすがグズマはん!チリちゃんの仇よー取ってくれたわ〜!」

 

「チリは準決勝でシューティー選手に敗れていましたからね。」

 

「う…。」

 

 グズマの勝利にはしゃぐところに、にこやかな表情のまま黒髪の少女が口を紡げば、チリは苦笑いするしかなかった。

 

「次はジュニアカップ、先輩に続くんやで?会長はん。」

 

「えぇ。グズマ先輩の奮闘を胸に刻み、全力で臨みます。」

 

 チリから皮肉混じりに呼ばれた黒髪の少女、オモダカは、それを涼しい顔で受け流していた。

 この超然とした雰囲気を持つ後輩に、出会った当初からチリは圧倒され続けている。

 

 

 

 2位…銀賞…準優勝…いつも、あと一歩のところで手からこぼれ落ちていた、栄冠。

 

グズマ!グズマ!グズマ!グズマ!グズマ!

 

 全身が打ち震える。俯くグズマは、顔を上げることが出来ない。

 

「むしぁ?」

 

 心配そうにグソクムシャがグズマに歩み寄る。

 初めての栄冠、達成感。大会が始まる前は、ザマアミロと憎たらしい地元の師や同輩を口汚く罵るつもりであった。

 だが、込み上げるものの前に、言葉が出ない。

 俯いたまま、右腕を天高く突き上げた。

 

ウォォォォォォォ!ウォォォォォォォ!

 

 湧き上がる歓声に、込み上げるものを目頭に溜め、グズマは顔をようやく上げた。

 グソクムシャも真似して右腕を3本上げている。

 それを見ておかしさを感じたグズマは、白い歯を見せた。

 

 

 




 『グズマ』
 30歳。アローラ地方で恐れられたチンピラ集団『スカル団』のボス。
 かつてアローラリーグで、サトシと準決勝を戦った強敵でもある。
 エースポケモンのグソクムシャは、強靭さと繊細さを併せ持った頼れる相棒だぞ。
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