3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 テラスタル、それは大きな輝きの力。グズマはついに手にした。大きな栄冠を。
 彼は、慕ってくれる仲間たちと共に、輝く世界の中心に、確かにいた。


死闘!PWT オープンカップ閉幕、そしてジュニアカップへ

「「「わっしょい!わっしょい!わっしょい!わっしょい!」」」

 

 

 

 控え室のモニターには、優勝トロフィーを持ったグズマが、プルメリをはじめとした応援に駆けつけていたスカル団のゴロツキたちや、チリやオモダカといったオレンジアカデミーの学友たちにより、フィールド中央で胴上げされているのが映し出されている。

 それに目もくれず、幽鬼のような足取りで表彰式を済ませた後、控え室に帰り着いたシューティーが、うわ言のように呟きながらタブレットやノートとにらめっこをしていた。

 

「どこだ…どこが間違ってたんだ…?僕はどこでミスをした…?」

 

 苛立たしさのままに先の試合の敗因を、事前に調べ上げたデータの中から必死に探し回る。

 ポケモンに責任を押し付けないところが彼の好人物たる所以でもあるが、それはポケモンたちへの信頼、というよりは師への信仰からそうしている、という面が強い。

 言ってしまえば『アデクにそう言われたからそうしている』という状態だ。

 無論、シューティーに、ポケモンたちへの信頼や愛情が全くないということではないのだが…。

 

「どこも間違っちゃいないわ。今日のアンタも、シャンデラも、今大会どころか、ここ最近じゃあ一番絶好調なコンディションだったわよ。」

 

 開口一番試合後のシューティーを労う声の主は、アイリスだ。

 サトシの思いつきのせいで余計な巡業を余儀なくされ、オープンカップの最中には不在であったが、決勝後のエキシビジョンマッチにはカイリューを飛ばして間に合せ現場入りしたのだ。

 大会の流れも、スマホロトムで逐一試合動画を見て確認している。

 

「単純に、アンタより対戦相手の方が上手だった、ってだけの話よ。」

 

 それは立場は違えど同期のトレーナー同士、嘘偽りのない批評であった。

 試合運びや、ポケモンのレベルに不足などはなかった。ただただ、対戦相手のグズマがシューティーの実力を上回ったに過ぎない。

 逆を言えば、力関係をひっくり返すための機転、応用力のなさが欠点であるとは言えた。

 その応用力、と言うのも、たった13年ぽっちの人生しか歩んで来ていない経験の浅いアイリスからして、狙いすまして諭せるような代物ではない。

 それを挙げて敗因とするのは、あまりにも無責任であるのだ。

 ある意味では『なにかをミスして負けた』というより残酷な事実ではあるのだが…。

 

「負けた相手にわざわざ冷やかしに来るなんて、しかもそんな普段着で。チャンピオン様は暇なんだね。」

 

「暇、というか…暇になった、というのが正しいわね。」

 

 タブレットと睨めっこしたまま、忌々しげに口を開く。

 そんなシューティーに対する、アイリスの意外な肯定にシューティーは怪訝な表情を浮かべる。

 その肯定の意味を隠すことなくアイリスは明かした。

 

「あのグズマって人、エキシビジョンを辞退してきたのよ。だから今年のオープンカップはこれでおしまい。」

 

「はぁ!?」

 

 素っ頓狂な声が出てしまう。青天の霹靂であった。

 一体、何のつもりで?その問いにもアイリスはすぐ解を示す。

 

「あの人のグソクムシャ、初戦からずっと先発してたでしょ?鍛える意味もあったそうなんだけど、連戦で徐々にコンディションを落としていって、準決勝辺りから割と最悪だったみたい。相棒の体調を元に戻すのに注力したいんですって。スパルタだとは思ってたけど、ちゃんとラインは弁えてたって事よね。」

 

「そんな!手持ちのポケモンはグソクムシャだけじゃあないはずだろう!?」

 

 ジュニアカップ、オープンカップの区分に関わらず、PWT優勝者への特典として、イッシュリーグチャンピオンとのエキシビジョンマッチが組まれるというのが共通して存在している。

 チャンピオン相手に試合が出来るというのは、ポケモントレーナーにとって貴重な機会であるのは言うまでもない。

 それをあっさりと放棄する…というのは、シューティーからすれば到底理解し難いものであった。

 もっと言えば、自分と相対してあれだけのファイトを見せたグソクムシャの姿が絶不調、と言われては対戦相手としても立つ瀬がないが、アイリスからしたらそこは実際に聞かされた事実な以上、嘘偽りで曲げる意味もない。

 

「それだけこの大会、あの人はグソクムシャに拘りを見せて選出してたってことよ。」

 

 シューティーが投げかけてゆく問いを、アイリスはあっさりと再度打ち返す。

 あのテラスタルも、相手がシューティーと言う強敵だからこそ解禁した切り札なのだろう…それを伝えてみても、おそらく当のシューティー本人に響きはすまい。そうアイリスは直感した。

 アイリスにとってシューティーという男は、基本に忠実で、確かに備わっている豊かな才能に裏打ちされた知識と技術を兼ね備える強力なポケモントレーナーだ。それは間違いない。

 サトシと行動を共にし、彼とぶつかり合っている姿を傍から見続けてきた彼女からしたら、それこそそのサトシにも匹敵する才能の持ち主であると断言できる。

 で、あるからこそアデクの弟子、と言う立場からイッシュ地方の外に目を向けようとしないその姿が歯痒く思えるのだ。

 

「多分だけどおじいちゃんも、あたしとおんなじ感想だと思うわよ。それだけ今日のアンタは仕上がってた。」

 

「知った風な口はやめてもらえるかな?きみはアデクさんの弟子ではないんだから!」

 

 声を荒げるシューティーの言葉通り、アイリスはアデクに師事している訳ではない。

 新旧チャンピオンと言う繋がりから、普段より相談や協力をお互い惜しまないという間柄、言ってしまえばビジネスパートナーであり、アイリスからしたら後見人のような存在だ。

 その縁から孫のバンジロウとも馴染み深く接してもいる。

 それでも、正式な師弟関係を結んでいるシューティーほど深い仲でないと言われたら、返す言葉もない。

 

「それもそうね。悪かったわ。」

 

 体の中の熱が冷めてゆくのを感じる。

 彼を訪ねる時にスタジアムの廊下を歩いてゆく中で、こういう流れに会話がなってゆくことは、薄々察していた。

 善きアデクの弟子としてあろうとし続け、とっくにその教えを完璧にマスターしているであろうはずなのに、磨き上げたその力を、より高める事を知らず知らずのうちに放棄している事に気付かないシューティー。

 そんな彼を導く為の言葉が、チャンピオンとはいえまだまだ年若く、他者を導く言葉や論を知り尽くせていないアイリスの中には浮かばなかった。そんな自分がやるせない。

 

「お邪魔したわね…あたし、帰るわ。」

 

 そのまま控え室を後にする。シューティーからの返事も、見送りもなかった。

 答えが見つかることはないであろう見直しに没頭し直したのだろう。

 かける言葉は見つからないが、どうすれば今の状態から変われるかの選択肢そのものは、アイリスには分かりきっていた。

 簡単な話である。イッシュの外に飛び出せば良いのだ。行き先は、どこだっていい。

 広い世界を知る事は、人間に飛躍の機会を与えてくれる。自分はもちろん、今や一流のドラゴンバスターとして活躍しているラングレーも、遠くカントーで格闘道場を公認ジムまで押し上げる立役者となったケニヤンも、ポケモンレスキュー隊の全国展開を果たしたバージルも、皆イッシュの外で見識を広めた事で大きく成長したのだ。

 3年前のイッシュリーグでサトシを破ったコテツも同様である。

 シューティーだけなのだ。未だ、イッシュ地方に拘り続け、燻っているのは。

 

「ホンット、子供なんだから。」

 

「ばう?」

 

 ホドモエシティを後にして、飛翔するカイリューの背で誰にともなくアイリスは呟き、そのまま仮眠する。

 着陸先のデコロラ諸島オオキナ島で、チャンピオンとしてテレビの仕事が待ち受けている。

 いつまでもシューティーの為に意識を向けてはいられなかった。

 オオキナ島でのロケが終われば、そのままカゴメタウンへ直行し、チャンピオンとしてジュニアカップに出席する予定である。シンプルにアイリスは忙しいのだ。

 

 

 

「あれがテラスタル!凄かったよなーピカチュウ!」

 

「ぴかぁ〜!」

 

「こう、光がバーッ!ってなって、キラキラーッ!っていうのがズババババーン!ってさ!」

 

 試合中継が終わってからも、興奮冷めやらぬサトシとピカチュウは、サンヨウジムのカフェで盛り上がっていた。

 シューティーが敗れたのは残念ではあったが、それ以上にグズマの使っていたテラスタル…そのド派手な作用とパワーが、分かりやすくサトシの心を奪ったのだ。

 語彙力の拙さは、3年の月日をもってしてまだまだ発展途上であるが。

 

「俺たちもやってみたいなーテラスタル!」

 

「ぴっかちゅう!」

 

 無邪気なサトシとピカチュウを見ながら笑みを浮かべるポッドとコーンは、その無垢な憧れを抱ける心を無くさないピュアな精神こそが、この場にいない同じ三つ子の、最もおとなしい性格をしていたデントに良い影響を与えたのだろうと感じた。

 もしも3年前のあの日、三つ子のどちらも言い出さなければ、自分がサトシに同行していたかもしれない、と2人とも思うに至ったのだ。

 

「う〜ッ!なんだかバトルしたくてうずうずしてきちゃったな!バトルクラブに行こうかな。」

 

「それなら打ってつけの相手がいるぜ?ワールドチャンピオン。」

 

「あなたの目の前に、2人。」

 

 ポッドとコーンが席を立ち、恭しくお辞儀をして見せる。

 右手を背中に回し、左手を胸元にやっての流麗な仕草は、ミーハーな女性客のハートを鷲掴みにして来た。

 顔を上げ、自分を見上げる瞳の中に宿る闘争心を、サトシは感じ取った。2人もまた、試合を見て触発されたのだ。

 

「ポッドさん!コーンさん!ぜひお願いします!」

 

「ぴっかぁ!」

 

 ポッドとコーンから、サンヨウジムを一時的な拠点として差し出されては、サトシはこれを快諾。

 自主トレや、テレビの仕事のための寝泊まりをここで行なっていった。

 そうして1週間後、カゴメタウンにてPWTジュニアカップが幕を開ける…。

 

 

 




PWTオープンカップ決勝戦 シューティーvsグズマ

3C1D方式(使用ポケモン3体からの1体戦闘不能で決着)

シャンデラ⚫︎ グソクムシャ○(テラスタル使用)

勝者 グズマ
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