3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 テラスタルの輝きが、グズマを勝利に導いた。
 眩い輝きは、サトシの心をガッチリ掴んだ。
 オープンカップが終わり、次はジュニアカップが始まろうとしていた…。


死闘!PWT 始まるジュニアカップ 集うホープたち

「おはようサトシ!今日はちゃんと来れたわね。」

 

「おはようアイリス!俺そんなに信用ない?」

 

「まぁね。」

 

「ぴかちう。」

 

 カゴメタウン特設スタジアムの周辺は、PWTジュニアカップ当日という事もあって盛大に賑わっていた。

 元よりこの大会の為に建造された側面があるスタジアムなのもあり、当然と言えば当然と言えたが。

 いわゆる1dayトーナメントであるため、この日限りの屋台が並ぶ入り口で、サトシはアイリスと合流していた。

 

「一昨日の生放送見たわよ。食レポって言うからまぁ大体想像はついてたけど、アンタ"すげー"とか"美味い"とかくらいしか言ってなかったじゃないの。」

 

「それを言うならアイリスだって、この前のズミさんとの試合後のインタビュー、すげー噛みっ噛みだったじゃあないか。」

 

「そっ、それはッ…!」

 

 アイリスが口火を切れば、サトシもすかさず投げ返す。

 

「ふ、ふーんだ、いいのよ。あたしたちはポケモントレーナー。バトルに勝つのが先決なんだから。」

 

 アイリスが煽り、サトシも負けじと応酬する。

 ポケモンバトルはさておき、チャンピオンとしてのメディア露出、その際のパフォーマンス力は、お互いどっちもどっちで、それはそれは惨憺たる有様であった(ファンからすればむしろ初々しさが逆に好感であったりもする)。

 とは言え、これくらいのエッジの効かせたやり取りは、3年前に知り合ってから幾度となく繰り返してきたものだ。

 互いを知る同士のスキンシップと言っていい。であるが故に、そこに遺恨など生まれようはずはない。

 

「ん。」

 

 熱々のコイキング焼きの屋台を、アイリスが見やればクイ、と顎をしゃくる。言外におねだりしていた。

 

「しょうがないなぁ。」

 

 サトシは渋い顔をして見せながら屋台に向かう。

 ラプラスにのってイッシュに来るまでの、本来サトシに寄せられていたオファーを代わりに引き受ける羽目になった自分に埋め合わせをしろ、と催促して来たのだ。

 

「すいません。コイキング焼き、えーっと、袋にいっぱいください。」

 

「あいよッ!」

 

 サトシ自身小腹が空いていたのもあり、紙袋にコイキング焼きがみるみる詰め込まれていく。

 

「はい、お代。」

 

「まいどあり〜!!」

 

 つつがなく支払いを済ませ、コイキング焼きの詰め込まれた紙袋を屋台の店員から受け取り、アイリスの元にサトシは戻る。

 

「(ウフフフフ、馬鹿なジャリボーイだわね。)」

 

「(俺たちの変装とは気づかずにまんまとコイキング焼きを大量に買っていくなんてなァ。)」

 

「(いただいたお代はピカチュウゲットの為の軍資金としてありがたく使わせてもらうニャー。)」

 

「そ〜〜〜なん「「「アンタは黙る!!」」」

 

 その背でロケット団の愉快なやりとりがされているのを、サトシが気付くことはない。

 

「ありがと…レンブさんは強いわよ。物凄くね。」

 

「分かってるさ。アイリスこそ、優勝してきたルーキーに足元掬われるなよ。」

 

 戻ってきたサトシが差し出してきた、袋いっぱいの中から、手掴みで3枚ほどを掴んで取りながら、奢らせたとはいえ、お礼をアイリスは素直に返しつつ1枚を頬張る。

 イッシュリーグ四天王の1人、レンブ。

 サトシがこの後開幕セレモニーにてエキシビジョンで対戦する相手だ。

 アイリスもチャンピオンまで駆け上がる際に一度対戦し、これを下している。

 コイキング焼きをかじり出すそのアイリスに何とも言えない表情をさせるくらいなのだから、その実力の高さは疑うべくもない。

 サトシは沸々と闘志を燃え滾らせた。

 

「あっ、いたいた。サトシー!」

 

「ぴかぴ、ぴかぴか。」

 

 こちらを認め、駆け出してきたのはマサトとユリーカ。

 方角的にスタジアムから一旦出てきたようだった。

 

「マサトにユリーカ。無事エントリーに間に合ったみたいだな。」

 

「サトシじゃあないんだし、そこはバッチリさ。」

 

「こいつぅ。」

 

 生意気言って見せるマサトの首元にサトシは腕を回して軽く戯れる。

 アイリスは辺りを見回して何かに気付いた。

 

「あら?バンジロウは?一緒じゃなかったの?」

 

「あっ、チャンピオンアイリス!?」

 

「アイリスでいいわよ。」

 

 畏まるマサトとユリーカに、コイキング焼きをかじったままアイリスは笑顔で気さくに返す。

 

「えっと、3人でここまで来て、エントリーを済ませてから別れたの、です。」

 

 フランクなアイリスを前に、それでも緊張を抜ききれないユリーカが語るにはこうだった。

 

 

 

 サトシとアイリスがサザナミタウンの浜辺から飛び去った後、マサト、ユリーカ、バンジロウの3人は、1週間かけてカゴメタウンへの旅を満喫した。

 現地民であるバンジロウの案内もあり、野生ポケモンの穴場に連れて行ってもらう中で3人の仲は深まっていった。

 そして今日、大会当日に合わせてジュニアカップの為にカゴメタウンへ到着し、今し方エントリーを済ませたのちの事である。

 

「おい。おい!おいッ!」

 

 大声でバンジロウはマサトとユリーカに呼び掛ける。

 こうやって3回言葉を続けるのがバンジロウの癖だと言うのを、2人は旅の中で理解していた。

 

「なに?バンジロウくん。」

 

「どうかした?」

 

「おう…。」

 

 返事をしてみれば、バツが悪そうにバンジロウはそっぽを向く。

 トイレにでも行きたいのかと辺りを見回し探してあげるユリーカが見つけ出す前にバンジロウは口を開いた。

 

「この1週間、おいらは本当に楽しかった!なんせ同い年のトレーナーで骨があるやつなんて、滅多に会えねーからな!」

 

「それは僕もだよ。ねぇ、ユリーカちゃん?」

 

「ユリーカも!」

 

「だから、だから!だからッ!おいらはここでおめえらと別れる!今度会う時は、試合で戦う時だッ!」

 

 マサトとユリーカにとってはもちろんのこと、バンジロウにとってもこの1週間は新鮮な体験であった。

 だからこそ、情が移ってバトルに影響するのを避けたい。理屈としてはこうであった。

 2人が大切な友となったからこそ、真剣勝負を心ゆくまで楽しみたい。そんな男気に、マサトとユリーカは感じ入った。

 

「そうだね。バンジロウくんがそう言うなら、僕たちは止めやしないよ!」

 

「ありがとうねバンジロウくん!ユリーカたちのこと、ここまで案内してくれて!」

 

「お、おめーら…。」

 

 マサトが右拳を突き出せばユリーカもそれに倣う。危うく目を潤ませかけたバンジロウもまた、それに続いた。

 3つの拳をコツン!ぶつけ合う。

 

「バトルの時は全力勝負!」

 

「恨みっこなしだからね!」

 

「俺たちは友達で、ライバルだ!」

 

 

 

「いいわね〜青春真っ盛り!そういうのあたし大好きよ。」

 

「俺も。」

 

「えへへ…。」

 

 ぶつかり合うならば、ライバルとしてお互い全力を尽くす。爽やかなルーキーのやり取りにアイリスがうんうん、と頷けば、コイキング焼きを頬張るサトシも同意する。

 ユリーカは照れ臭そうに笑った。

 

「失礼致します。ワールドチャンピオンのサトシさんに、イッシュリーグチャンピオンのアイリスさん。」

 

 サトシたち、半ば身内同士の中に声をかけ、恭しく頭を下げる男性の容姿としては、白髪で頬はこけており、髪と同じ色の顎髭は均等に整えられていた。

 白色の眼鏡をかけた奥には物腰柔らかな視線。フォーマルなスーツ姿のミドル世代であろう紳士に1番に反応したのは名を呼ばれたアイリスだった。

 

「クラベルさん!ご無沙汰してます。」

 

「アイリス、知り合い?」

 

「クラベルさん。パルデア地方のオレンジアカデミー附属の研究員さんで、あたしが留学してた時お世話になったのよ。」

 

「ぴかぴかちゅうー。」

 

「パルデア地方…。」

 

 パルデア地方。

 コノヨザルを始めとした既存種の新しい進化先や、現地のみに生息する固有のポケモンの存在が、ここ最近全国規模で知名度を増してきた地方である。

 最新のバトルシステムとして注目を集めるテラスタルも、ここから発信されたものであることをサトシは思い出していた。

 

「私などはほんの少し宿の手配をさせていただいただけです。今回はアイリスさんの尽力により、こうしてアカデミーからPWTへの参加を支援してくださったこと、心よりお礼を言わせてください。」

 

「そっ、そんな!あたしこそ大したことしてないですよ!それより、オープンカップ、凄かったとグズマさんに伝えてください。」

 

「もちろんです。彼にとってもアイリスさんがそう言っていたと聞けば更なる励みとなるでしょう。」

 

 アローラを飛び出したグズマは、すっかりパルデアの人間として扱われているようであった。

 アローラでの姿を知るサトシとしては、本人にとってもそれがいいのだろう…そう考えるサトシは感知した見上げて来る視線に顔を向ける。

 オレンジアカデミーという、その名の通り橙色が取り入れられた制服に身を包む黒髪の褐色少女は、サトシがこちらの視線に気付いたとあらば前に出て、一礼した。

 

「初めまして。私はオレンジアカデミーの1年生、オモダカと申します。今回、学業で得た知識や経験を試すべく、クラベルさんの引率のもと、ジュニアカップに参加しにきました。」

 

 物腰は柔らかく、それでいて威風堂々とした佇まい。凛とした涼やかな口上は、聞く者に只者ではないということを察知させる。

 

「彼女は1年生ながら生徒会長も勤めてるアカデミーきっての秀才なのですよ。」

 

「そういえばいたわね。」

 

 アイリスの中でイマイチ印象が薄いのは、短期留学になったのと、クラスが違っていたからである。

 

「よろしくなオモダカ。マサト、ユリーカ。また1人、強力なライバル出現だぜ。」

 

 サトシが語りかけて返事はない。

 2人を見ればそれぞれに彼女の内に秘める凄まじいポテンシャルを肌で感じ取っていたようだった。

 

「僕はミシロタウンのマサト。ホウエン出身さ。よろしくね。」

 

「あたしユリーカ。カロス地方のミアレシティから来たの。」

 

「これはこれはご丁寧に。よろしくお願いしますね。」

 

 少し遅れて2人とも自己紹介をする。

 その表情は引き締まり、戦う者の顔をしていた。それはオモダカも同様であるようだ。

 

「面白くなりそうだな。アイリス。」

 

「えぇ。」

 

 マサト、ユリーカ、バンジロウ、そしてオモダカ。

 この4人がジュニアカップにおける台風の目になる。そう、サトシとアイリスは確信した。

 

 

 




 『クラベル』
 45歳。パルデア地方オレンジアカデミー傘下の研究チームのスタッフ。
 ジュニアカップには生徒たちの引率としてやってきた。
 物腰柔らかい紳士であり、柔和な態度を崩すことはない。
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