3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 ジュニアカップが開かれるカゴメタウンに集まる若き勇士たち。
 その熱き闘志はサトシとアイリスの胸を打ち、彼らの飛躍への期待と、自身のさらなる進歩を誓う原動力となっていた。


死闘!PWT 開会式 エキシビジョンの波乱

「宣誓!僕たち!」

 

「私たちは!」

 

「ポケモントレーナーとしての規範を守り、文武を修め、ポケモンを愛し!」

 

「フェアプレー精神のもと、育て上げたポケモンたちとともに、最後まで真剣に戦い抜くことを誓います!」

 

パチパチパチパチパチ…ヒューヒュー!

 

 サトシたちが屋台コーナーでそれぞれ別れてから、程なく始まった開会式。

 選手宣誓として、事前にくじ引きで選ばれた参加者の男女が壇上に上がっての選手宣誓。

 男子の方は得意げに、女子の方は恥ずかしがりながら、それぞれ渡されたカンペの中身をとりあえずは噛まずに読み切り、赤っ恥を免れていた。

 

 

 

「全国のポケモントレーナーの皆さん!ポケモンバトルを愛する皆さん!ここ、カゴメタウン特設スタジアムより、明日のスーパースターへの第一歩を踏み出そうとする若き才能たちが集結し、その輝きを競い合います!ポケモンワールドトーナメント・ジュニアカップ!中継は私、ジッキョーがお送りいたします!」

 

 カゴメスタジアムのバトルフィールドを眼下に見下ろす形で設置されている放送席から、ジッキョーが得意の調子でアナウンスをしている。

 

「さて、現在は選手宣誓が終わり、フィールドに整列した参加者たちが退場して、開会式の目玉とも言えるエキシビジョンマッチの時を今か今かと待っている状況であります!このエキシビションを戦うのは、イッシュリーグ挑戦経歴もある、今や推しも押されぬワールドチャンピオンサトシ!迎え撃つはイッシュリーグ四天王にして、前チャンピオンアデク氏の一番弟子としても名高いレンブ氏となっております!」

 

 スタジアムの電光掲示板にはサトシと、彼がこの後戦う予定の褐色の青年の、近頃の公式戦の動画がハイライトとして流されている。

 

「解説はポケモン評論家のナンテさん。ゲストには、今大会の優勝者とエキシビジョンマッチにて対戦予定である、イッシュリーグのチャンピオンアイリスにお越しいただいております!お二方、今日はよろしくお願いします!」

 

「よろしくお願いします。」

 

「よろしくお願いしまーす!」

 

「お二方、今大会どこか注目すべきところはありますでしょうか?」

 

「そうですね。やはり、若いトレーナーの熱いガッツ!でしょうか。なんと言いますか、細々とした戦術、戦略は後からでも頭に入れられますからね。」

 

「どこかのワールドチャンピオンさんは、未だにノリとガッツが大半を占めてるみたいだしー?」

 

 ジッキョーに合わせ、解説のナンテとゲストのアイリスは一礼し、軽妙にオープニングトークを展開していた。

 

 

 

「チャンピオンサトシ、時間です。入場お願いします。」

 

「はい!よし、行くぞピカチュウ!」

 

「ぴっぴかちゅう!」

 

 スタジアムの控え室に大会スタッフが入場時間を知らせにきては、サトシは、テーブルに雑に置き広げてあった普段より着慣れている青のジャケットを白と赤のツートンのシャツの上に重ねて袖を通す。

 袖を通した肩を差し出せばそこにピカチュウが飛び乗った。

 

『レンブさんはホント強いわよ。』

 

 耳にオクタンが出来るほどアイリスからされた力説は、サトシを燃えに燃え上がらせていた。

 強い相手を前にすればするほど熱くなるのがサトシの性分なのだ。

 

「あっ?すいませんチャンピオンサトシ、ちょっと待ってください!」

 

「えっ?」

 

「ぴかぁ?」

 

 控え室を出ようとしたサトシを、先ほどの大会スタッフが引き止める。

 何かトラブルでもあったのか?そう聞く前に彼は一枚の封筒を差し出した。

 

「なんです?コレ?」

 

「四天王レンブの側の控え室から、貴方に届けるようにと…。」

 

「んー?」

 

 試合が始まる直前になんだろう?

 そんなことを思いながらサトシは封を切り、中の手紙を読み始めれば、そこに書いてある内容に即座にOKを出し、改めてフィールドに向かった。

 

 

 

 時は遡り、場所を移す。

 もう片方の選手控え室。褐色肌の屈強な肉体を持つ青年が、その鍛え抜かれた上体から湯気を立ち上らせながら中腰のまま静止し続け、瞑目している。

 站椿(タントウ)…肉体を鍛えつつ、イメージトレーニングを重ね心身ともに磨き上げる鍛錬だ。

 四天王レンブは、開会式が始まってから入場のコールがかかるギリギリまでコレを続けていた。

 そこに関係者として控え室に入る気配。

 レンブは站椿を中断し、その気配の主に一礼した。

 

「調子はよさそうじゃのう。」

 

「これはこれは我が師アデク。直々の激励痛み入ります。」

 

 燃える炎のような髪に、首元にはモンスターボールを数珠繋ぎして、ポンチョ風の上着と裾がボロボロなズボン、何より秘める覇気こそが、男が歴戦の勇士であることを見る者に印象付ける。

 イッシュリーグ前チャンピオンにしてバンジロウの祖父、レンブやシューティーの師であるアデクはよう、と気さくに挨拶を返した。

 

「相手は強いぞ。どう低く見積もってもお前さんが3年前に戦った時のアイリスよりも数段な。」

 

「だからこそこの高揚感が清々しく思えてきます。」

 

 アデクが投げ渡すバスタオルを受け取れば、レンブは鍛錬で流した汗を拭う。この後のサトシとの試合を楽しみにしているのだ。

 それを認めたアデクが申し訳なさそうに自分を見るのを、その高揚感からレンブは感知できていなかった。

 

「ふむ…。」

 

 それが、不味かった。

 

「すまぬのう、レンブ。」

 

トンッ。

 

 当て身。

 後ろ首筋を正確に撃ち抜く手刀は、レンブの意識を瞬く間に刈り取った。

 意識を手放し、ドサリと倒れるレンブを横にして、傍に封筒をそっと置き、アデクは控室を後にする。

 その双眸には、悲壮感の混じった闘志が宿っていた。

 

「さてと、ゆくとするかの。」

 

 

 

「さぁまずは青コーナーからの入場で、っと、はい?」

 

 ジッキョーが裏方の大会スタッフより何やら通達の書かれた紙を受け取り、思わず上がった声にナンテとアイリスは何かあったのだろうか、と彼を見る。

 直後、ナンテはすぐ青コーナーの出入り口に視線を移した。これより姿を現すのがレンブではないことを感じ取る覇気から悟ったのだ。

 アイリスも、即座に予定外の事態を察知する。

 

「なにかあったんです?」

 

 なんとなく事情を察しながら、ナンテはジッキョーに聞く。その視線はフィールドより動いていない。

 

「あぁ、はい!それが、四天王レンブは"急な体調不良"により試合を辞退、代わりの選手として…あーっと!出てきました!」

 

 

 

ザワ…?ザワ…?

 

 ジッキョーのアナウンスが終わる間もなく、青コーナーより出てくるその炎の髪に会場がざわめく。

 アデクがサッ、と右手を挙げ、握り拳を突き立てる。それは、彼の若い頃からの往年のパフォーマンスであった。

 

ウオオオオオオッ!!

 

 困惑のざわめきが、瞬く間に歓声に変わる。王座より退いてなお、そのカリスマはやはり絶大であった。

 

マジカヨー!?タマンネーゼ!!ヒューヒュー!!

 

 

 

『前チャンピオンアデク、今宵限りの復活!!今しがた、ワールドチャンピオンサトシより対戦相手の変更に対する仔細は全て了解と返答がありました!イッシュ地方が誇る偉大なるレジェンドと、新進気鋭のバトル世界一の大激突が、ここに実現するのです!!』

 

「えっ?」

 

 日課のトレーニングを済ませたポケモンバトルクラブの帰り、ソウリュウシティの街頭モニターに映し出されていたジュニアカップの中継は、シューティーには青天の霹靂であった。

 慌ててモニターに近づき、特等席で見上げる。アデクはアイリスとのタイトルマッチに敗れたのを契機に、トレーナー活動の引退を表明。

 後進教育に本格的に取り組むようになり、その過程で厳しい選抜を潜り抜け、弟子入りを認められたのがシューティーであった。

 

「いったい、どういうことなんだ?」

 

 そのアデクが、今更表舞台に顔を出し、さらには因縁あるサトシとこれからバトルをする。

 シューティーは困惑する他なかった。

 

「なにか、アデクさんに深い意味があってのことだとは思うけど。」

 

 ともあれアデクを崇拝、もはや妄信の域にあるシューティーは困惑を無理矢理高揚感に置き換える。

 師匠の本気のバトルを今一度その目で見ることが出来たらば、それを学びとして取り込むのが弟子の在り方なのだ。

 つまり、これは僥倖なのだ。

 そうやって、気持ちを置き換えることが出来た辺りで、モニターにはフィールドにサトシが姿を見せていた。

 

 

 

「すまぬのうサトシくん。急なことで。」

 

「いえ。レンブさんとバトルしてみたかったのはもちろんありますけど、アデクさんとも同じくらいその気持ちはありましたから!」

 

 フィールド中央、まずは謝罪から入るアデクを制し、入場したサトシは右手を差し出す。

 強い相手と凄いポケモンバトルが出来るならオールオッケーというサトシの清々しさが、無意識にアデクを助けた。

 

ウオオオオオオ!ウオオオオオオ!!

 

 ガッチリとした握手に会場のボルテージがさらに上がる。

 本来対戦が組まれていたレンブには気の毒ではあるが、観客の脳裏にはすでに彼の存在はほぼほぼ消失していた。

 

「これよりPWTジュニアカップエキシビジョンマッチ、アローラリーグチャンピオンサトシと前イッシュリーグチャンピオンアデクの試合を始めます!試合形式は3C1D方式!メガシンカ、Zワザ、ダイマックス、テラスタルはそれぞれをどれか1つのみ使用可能となっております!」

 

 両者がトレーナーサークルに入り、審判がコールすれば上空のドローンロトムよりバリアフィールドが展開され、フィールド内に人工ガラテラ粒子が散布される。

 PWCS覇者の称号である『ワールドチャンピオン』の呼称がサトシに用いられなかったのはPWT運営側の意図によるものである。

観客たちからすれば、そんなちっぽけなこだわりも、目の前のドリームカードには些細な話であった。

 

「胸を借りさせていただこう!ワールドチャンピオン!!」

 

「俺も全力でいきます!!アデクさん!!」

 

 忌避したい称号をあっさり使うアデクにぐぬぬと歯噛みする手合いの人間もいるにはいるが些細な話である。

 審判が両手を振り上げ、高らかに告げた。

 

「試合開始ィィィィィィ!!」

 

 

 




 『レンブ』
 35歳。イッシュリーグ四天王。
 前チャンピオンアデクの一番弟子であり、シューティーからしたら兄弟子に当たる。とてもストイックでポケモンバトルに真摯に向き合っている。
 エースポケモンは彼に鍛え抜かれた強力なかくとうタイプのローブシンだ。
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