3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 アデクのバトルに臨む目的は、伸び悩む弟子のシューティーに、自らの戦う姿でもって刺激を与えるためであった。
 往年と変わらぬウルガモスの熱気は、ミジュマルの太刀を跳ね飛ばすのだった…。


死闘!PWT エキシビジョンマッチ サトシvsアデク②

 サトシとアデクが互いに先発を引っ込める。

 序盤の差し合い、それ以前にウルガモスの放つ熱気に観客席同様、放送席も茹だるような暑さに見舞われていた。

 

「アデク氏のウルガモスの渾身のオーバーヒートにより、たまらずチャンピオンサトシはミジュマルからポケモンをチェンジ!しかし、機先を制したように見えるアデク氏もまたウルガモスを引っ込めました。ナンテさん、この辺りはどう見てますでしょうか?」

 

「はい。オーバーヒートのような類の技は、ポケモンの攻撃能力、その限界を一時的に超越するほどの技エネルギーを放出し、絶大な破壊力を実現します。その分デメリットも大きい。凄まじいほのおエネルギーを解き放ち、排熱状態となったウルガモスはパワーダウンが避けられず、そのままの戦闘続行を嫌ったアデク氏が速やかに交代させた。コレは間違い無いでしょう。」

 

「あのおじいちゃん、そこまで戦略的にモノを見るタチでもないのよね。」

 

 豪放磊落にガハハと大笑いするアデクの様が、アイリスの脳裏に浮かんでいた。好人物なのは間違い無いのではあるが。

 

「オーバーヒートの撃ち逃げは、あくまで基本戦術の領域です。ハッキリ言えば、教科書通りの戦い方で、誰でも思いつく。この技の選択の意図とは、どちらかと言えば挨拶…のようなニュアンスでしょうか。"老いてますます盛んなり"。こう、チャンピオンサトシや我々に伝えてみせる意味合いもあるような気はしています。」

 

 大会スタッフが放送席に冷たいドリンクとタオルを持ってくる。

 渡されたタオルで汗を拭いながらアイリスは、この解説が、アデクの行動の真意に対し的を得ていることを感じ取った。

 そしてそれは、アデクにとってこの試合が何の為にあるのかも、なんとなくであるが察しさせた。

 

「あの馬鹿…お師匠様にここまでさせてまだ蹲ったままのつもりなのよ。」

 

 アイリスの呟きは、次の動きが見えたフィールドへの大歓声により塗り潰され、拾われない。

 アイリスとしても無意識に出た一言であったが故に、話を広げるようなことにならずに済んだのは幸運であった。

 本人のいないところで恥の上塗りをする趣味は、チャンピオンであろうがなかろうがアイリスにはないのだ。

 

 

 

ウオオオオオオオン!

 

「よし、ツタージャ、キミに決めた!!」

 

「たーじゃッ!」

 

「出てこい、バッフロン!!」

 

「ぼわぁぁぁッふぅぅぅッ!!」

 

 今度は2人同時に次鋒と言える2体目を繰り出す。

 サトシはくさへびポケモンのツタージャ、アデクはずつきうしポケモンのバッフロンだ。

 

 

 

「チャンピオンサトシはツタージャ、アデク氏はバッフロンをそれぞれ2体目のポケモンに選出!フィールドに送り込みましたー!!これは体格の差は一目瞭然!!パワーは完全にバッフロン優勢でしょう!!」

 

「それだけではありません。チャンピオンアイリス、あのバッフロン、どうです?」

 

「うん。同じです、多分。あたしがバトルした時と、同じ個体。」

 

「と、なれば特性はくさタイプの技を無効化した上で自らの攻撃力に吸収してしまう"そうしょく"で間違いはないでしょう。ツタージャの持ち味であろうくさタイプの技は、ほぼほぼ使い物になりません。」

 

 

 

「無茶だサトシ!そのバッフロンには、僕のジャローダでだって勝てやしないんだぞ!」

 

 街頭モニターから試合を見続けているシューティーが、本人に届きはしない警鐘をサトシに鳴らす。

 それは、アデクとシューティーの師弟にとっては、その関係が結ばれる前に実現した、最初で最後の公式の舞台でのマッチアップ。

 PWTジュニアカップ優勝を飾ったシューティーがエキシビジョンマッチにて、最大のエースであるジャローダをぶつけてアデクのバッフロンに挑み、格の違いを見せ付けられた戦いである。

 シューティーからすれば、思い返すに勝負とすら言えない代物であった。

 ジャローダは、ツタージャの最終進化形ポケモンである。

 進化を重ねたジャローダでさえ歯が立たなかった相手に、体も小さく、パワーも足りないであろうツタージャで挑むというのは、如何にサトシという人物を多少は知るシューティーからしても明らかな無謀としか見えなかった。

 

 

 

「(あの凄いオーバーヒートを受けて、ミジュマルは多分この試合もう戦えない…。)」

 

 モンスターボールの中で休んでいるミジュマルの波導からサトシは感知する。ホタチによるガードで、辛うじて戦闘不能だけは免れた状態に過ぎないのだ。

 

「頼んだぞツタージャ!」

 

「たじゃッ!」

 

 アデクに持っていかれた序盤のペースを引き戻すには、この盤面から巻き返すしかない。

 サトシの号令にツタージャは力強く応えた。

 

「ぶふぉーう!ばっふぉぉぉ!!」

 

「ようしようし。意気軒昂。」

 

 鼻息を勢いよく吹きながら、前足で地面を何度も蹴るバッフロンにアデクは我ながらと万全な仕上がりを見た。

 これならば思う存分に戦える!

 

「ゆくぞバッフロン!!アフロブレイク!!」

 

「ばっふおおおおおお!!」

 

 アデクの指示に応えるバッフロンの双眸がギラリ!発光しては、ツタージャを視界に捉え、ロックオン。

 頭の体毛を膨張させながら突撃を開始した。

 

ドドドドドドド!!

 

 

 

「凄まじい地響きとともにバッフロン突撃ーッ!ツタージャはこれにどう対処するのかぁーッ!」

 

「あー、狙ってますね、チャンピオンサトシ。ちなみにチャンピオンアイリス、あのバッフロンの性別は?」

 

「あの子に限らずおじいちゃんのポケモンはだいたい雄ですよ。」

 

 テンションのままに机に片足を乗せ、マイク握りながらのジッキョーを尻目に、ナンテとアイリスは細かな情報を確認し合う。

 旅仲間として付き合いのあるアイリスからすれば、サトシの狙いはツタージャが出てきた時点で見えている。すぐにそれを看破するこの解説も、よく調べていると感心していた。

 

 

 

「ギリギリまで引き付けるんだツタージャ、いいな!」

 

「たじゃ。」

 

「ぶもおおおおおおお!!」

 

 鼻息荒いバッフロンの猛進に、大地が揺れる。

 迫り来る四つ足の巨体を前に、サトシとツタージャに焦りはない。焦りは一瞬の隙を仕損じる要因にしかならないのだ。

 相手はアデクだ。おそらく『この手』は一度しか通じない…。

 

「(アデクさんは油断してるわけじゃあない。凄い技を中心に戦略を組み立てて、パワーで押してきているんだ。)」

 

 サトシの波導使いとしての見聞が、トレーナーとしての嗅覚が、アデクを精密に捉える。

 迫り来る、バッフロン。カウンターの一手は、ギリギリを読まねばならない。

 

「たじゃ!」

 

 ツタージャが跳躍する。指示するまでもなくドンピシャリのタイミングで動く彼女の才知が、アデク側にはサトシ側の一手を押し隠す事に繋がったのは、この時点では放送席のアイリスとナンテしか読めなかった。

 

「メロメロ攻撃!!」

 

「ぬううッ!?しかしッ!!」

 

「たぁぁぁじゃッ!」

 

 ツタージャが全身から雌のフェロモンを放出すれば、それが凝縮された真っ赤なハート型のエネルギーとなり、バッフロンに着弾。

 

「もぉ〜ッ!!」

 

 メロメロ状態となったバッフロンの目の中にハートマークが浮き上がった。

 だが、それは激突する直前まで引き付けてのやり取り。当然タダでは済まない。

 

ドゴォ!!

 

 全力疾走のバッフロンの足が、メロメロ状態になったところでピタリと止まる道理もない。

 突撃によりツタージャの小さな体が空中へ突き上げられた。

 コレが初心者トレーナーのポケモンならひとたまりもないが、彼女はサトシのポケモンである。

 

「つるのムチでバッフロンに飛び乗れッ!」

 

「たー、じゃッ!」

 

「ぐぬう!バッフロン!止まれ!止まらぬか!」

 

 空高くのツタージャは空中で姿勢を整え、首元から蔓を伸ばし放つ。

 メロメロ状態でアデクの指示も通らないバッフロンの角に蔓を巻き付けてはそれを縮ませ、ツタージャはバッフロンの背に乗る。

 

「たぁじゃぁ!」

 

 さながら騎手のように角に巻き付けた蔓で爆走し続ける巨体を制御して見せては、思い切り手綱を引っ張った。

 

「ぶもぉぉぉぉぉ!?」

 

 ズシン!ツタージャが手綱代わりに引っ張った蔓によりバランスを奪われたバッフロンの巨体が前足から宙に浮き、そのまま真後ろに頭をぶつける形で激しく転倒。

 その間にツタージャは蔓を首元に巻き戻しては軽やかに離脱してみせた。

 

ウオオオオオオ!アネサンシビレルー!!

 

「たじゃ。」

 

「ナイス!ツタージャ。」

 

 興奮と歓声の坩堝において、サトシもツタージャも決して気を緩めない。

 相手はアデクのバッフロン。あれしきで倒れるはずがないのだ。

 

「バッフロン!」

 

 アデクの号令に反応し、バッフロンの頭の体毛がボフッ!と瞬間的に大きく膨張。

 全身を飛び上がらせては空中で姿勢を直し、再度四つ足で着地してみせた。

 目の中のハートマークは消えている。ひっくり返された際、頭を強打した事によりメロメロ状態も解除されたのだろう。依然鼻息も荒いままだ。

 

「戻れぃ。」

 

 アデクはボールを構え、バッフロンを引っ込めた。メロメロの脅威を前に抗し難いのはそうだが、それ以上に背中に乗り上げられたことが痛かったのだ。

 

 

 

「おっとアデク氏、ここでポケモンをチェンジだ!!」

 

「四つ足のポケモンに取って、背中に飛び込まれるのはほとんどまな板の上のコイキングと変わらないことになりますからね。体力以上に、精神的なダメージが大きい。」

 

「精神ダメージは、ある意味肉体へのダメージより深刻よ。私たち人間もポケモンも、精神の下に肉体を動かすわけなんだから。精神を揺さぶられれば動揺が生まれ、動揺は身体を強張らせ、平静ならどうにでもなるような一発も通しちゃう。」

 

 アイリスにナンテも大きく頷く。この辺りのリアリスティックな戦闘理論は、ポケモンとの信頼関係をまず何よりのものとしてメディアで語りがちなリーグチャンピオンのコメントとしては異例の部類であった。

 アイリスは、先達たちが語らないところを赤裸々に口にしたのだ。

 それは、新世代のチャンピオンとしての自負からきていた。当たり障りのない応対に終始しきれないのは、彼女の若さ故だろう。

 

 

 

 替えのポケモンの入るボールに持ち替えれば、またスタジアム中に熱気が立ち込める。現地で観戦するものたちはアデクが繰り出すポケモンを特定出来ていた。

 

「今一度頼むぞ、ウルガモス!!」

 

「くるるるるるぅいいいいい!」

 

 

 

「アデク氏、ツタージャに翻弄されたバッフロンからポケモンをチェンジ!そして再び姿を現しました、エースのウルガモス!!」

 

「オーバーヒートにより発生したパワーダウン、その為のクールダウンはボールの中で済ませたみたいですね。タイプ有利を活かして一気に決めに来たのでしょうか。」

 

「サトシも流石にここでツタージャを突っ張らせるような無茶はしないみたいね。」

 

アイリスがいち早くサトシの動向をキャッチする。ボールを取り出せばツタージャを引っ込めた。

 

「戻れツタージャ!」

 

 

 

「おや。これはこれは。ありがとうございます。グズマ先輩。」

 

 青コーナー側、フィールドへ繋がる通路から試合を観戦しているオモダカの頬にヒンヤリとしたものが当てられる。

 ウルガモスの撒き散らす熱気の前に、既にぬるくなり始めている缶ジュースを受け取れば、彼女は差し出してきたグズマに一礼して見せた。

 

「観戦に夢中なのは結構だがこの暑さだ。水分だけはとっとけ。」

 

 彼の相棒であるグソクムシャは、暑さにやられたアカデミーの生徒たちを何人も抱え運んでいる。これから医務室に連れて行くのだ。

 

「忠告、痛み入ります。」

 

 アカデミーの先輩として彼女を知るグズマとしては、彼女が何かを差し出された際に気付かないような事自体がとても珍しかった。

 周囲に気を配り、決して油断しない、いやできない性格の持ち主である事を知っていた。

 それだけに、頬に触れられるまで差し入れを渡される気配に勘付けないほど、試合に熱中していたのが分かるのだ。

 

「彼ですか。先輩が常々話してくださったのは。」

 

「あぁ。俺様をクソッタレな地元から引き剥がしてくれた、大恩ある能天気野郎さ。」

 

 その微妙な表情をオモダカが見ることはない。

 グズマがいくぞ、という意図のもと軽く首を振ればグソクムシャは歩き出す。

 オモダカが視線を向け直すフィールドの試合模様を、グズマが振り返る事はなかった。

 可愛い後輩たちを医務室に運ぶというお題目以上に直感が働いたのだ。どちらが勝つかなど見るまでもなく分かる、と。

 

「いつまでも年寄りの時代じゃあねぇんだよ。」

 

 ひとりごちるグズマは、その一言に自嘲した。

 そんなグズマに、グソクムシャは何か言った?と首を傾げていた。

 

「なんでもねぇ。」

 

 

 




 エキシビジョンマッチ サトシvsアデク

 3C1D方式(使用ポケモン3体からの1体戦闘不能で決着)
 
 サトシ側     アデク側
 ミジュマル    ウルガモス
 ツタージャ    バッフロン
 ???      ???
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