3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
敗れてなお衰えぬ無敵の男に、昇竜の如き才覚を花開かせた少女が挑む。
現代の頂点が威を示すか、竜の牙が無敵の首を食い破るか。現出する光景は、どっちだ。
時を遡り場所を移す。
ガラル地方ナックルシティのナックルスタジアム。
シュートスタジアムに負けず劣らずの熱狂がそこにあった。
「みなさんお待たせしました!3年ぶりに開催されますポケモンワールドチャンピオンシップス、夢の2大オープニングマッチ企画!こちらでは、ガラルチャンピオンダンデ氏とイッシュチャンピオンアイリス氏の試合が執り行われます!放送席の実況は、この私ジッキョー!解説役にはナックルジムのジムリーダーキバナさん、スペシャルゲストにはカロス地方四天王のドラセナさんにお越しいただいてます!お二方、本日はよろしくお願いします!」
「ドラセナさん、もうちょっと顔こっちに寄せてくれないッスか?」
「あらあら、いいのかしらこんなおばさんがカッコいいキバナくんと映っちゃって。」
「何言ってるんスか、まだまだお若いくせして。カロスに可愛い彼氏クン待たせてるんでしょ?」
「あらーいやだ。もーキバナくんたらそういうことも詳しいのね、おばさん困っちゃうわ。」
「いてて、いて、いて。」
プライベートを突かれたドラセナが、バシバシとキバナの背中を何度も平手で叩いた。
「あのー、試合が始まりましたらそれぞれよろしくお願いしますねー?」
絶賛SNS用の写真を撮るのではしゃぐ解説とゲストを、ジッキョーは軽く流す。下手に止めるより、この光景を垂れ流している方が数字もいいだろうと判断したからだ。
ワァァァァァ…!ワァァァァァ…!
「青コーナー!イッシュリーグチャンピオン!PWCS前回大会最終ランク7位!イッシュ地方竜の里出身!アイリス選手の入場ォォォ!!」
オオオオオオオ!!アイリスたーん!!
鳥ポケモンたちがスタジアム上空を飛び回り、空中文字を描く開幕セレモニーの後の、選手入場。
3年前と一見同じようで、微妙に細部のデザインが異なっており、新調されたと見える豪奢なチャンピオンドレスを身に纏い、両手を振り上げアイリスは入場する。
サトシと同い年なのだから肉体は成長して当然と言える。
側から見て身長が伸びたくらいしかひと目見て分かる違いはイマイチ認められない。
有り体に言えば、女性らしさが強調されるような部分の成長は見られないことを彼女がどう考えているのかはまた別の話…。
「赤コーナー!ガラルリーグチャンピオン!PWCS前回大会最終ランク2位!ガラル地方ハロンタウン出身!ダンデ選手入場ォォォ!!」
ダンデ!ダンデ!ダンデ!ダンデ!ダンデ!ダンデ!
姿を現し、お決まりのリザードンポーズを決め観客を大いに沸かす。
地元ガラル開催の試合なのもそうだが、3年前の敗戦がダンデの人気を落とす、などということはなかった。
むしろ、ムゲンダイナ騒ぎの後、失踪した元ガラルリーグ委員長兼リーグスポンサーであるマクロコスモスの代表を引き継ぎ、今大会の開催まで持ち込んだその手腕と労力を目の当たりにして、誰が後ろ指を指せようかという論調が支配的となっていた。
しかしそれはそれ。これはこれ。
ポケモンバトルで問われるものは、トレーナーの腕とポケモンの力、そして両者の絆。この3つの要素を総合してぶつけ合わせ、優った方が勝つ以外の結果はありえないのだから。
「(悪いわねサトシ、先越させてもらっちゃうわ。)」
我に勝算あり。そうアイリスは表情で雄弁に語る。
3年前のPWCS決勝戦、サトシとダンデの死闘。結果これを制したのはサトシとはいえその中身を見てみるならば、ダンデはダイマックス2回使用に対してサトシはメガシンカ、Zワザをそれぞれ1回ずつ、これに加えてダイマックスを2回使用している。
ダイマックスが2回使用できた理由としては、試合中に保護されていたムゲンダイナのスタジアム乱入という珍事があったからではある。
に、してもだ。
PWCSマスターズトーナメントのルール上、メガシンカ、Zワザ、ダイマックス(現在はここにテラスタルも加えられている。)の使用は1試合につきどれか1つだけ、と定められている中、それら全てを使用したと言う事実が見た側にアンフェアな印象を抱かせることになるのは否めない。
ただ、試合直前にルールに対して特例を出し、サトシ側の縛りを撤廃させたのは誰あろう対戦したダンデ本人なのだが。
そう言った事情から、ダンデ本人以外はサトシ含めほぼほぼ"サトシがダンデを越えた"という認識は抱いていないというのが大っぴらに語る者はいないにしても一般的であった。
アイリスの"先を越す"という表現は、その辺りの意図以外の何物でもない。
「(大きくなってる、3年前とは別人だな。)」
無論、背格好だけを指しての印象ではない。
アイリスが放つ王者の覇気の凄まじさが、周囲の景色を歪ませていた。3年前には無かった変化だ。
間違いなく彼女のポケモンたちも大きくレベルアップしていて、以前までのデータはまるで役に立たない事をダンデに直感させた。
だが、それがアイリスに恐れを抱く理由になるはずもない。
好戦的な笑みを浮かべダンデも覇気を放つ。互いに周囲の空気を歪ませながらスタジアム中央まで歩み、がっちり握手をする。
ワァァァァァァァァァァァ!
「よろしくお願いします!あたし、勝ちに来てますから。」
「俺もさ。いい試合にしようぜ。」
「さぁお互い健闘を誓い合う握手の後、トレーナーサークルに入り両者共に試合に投入予定のポケモンのオーダーを6匹分ジャッジに申告します。今大会よりポケモンリーグ公認大会でも用いられる"CD方式"の運用が裁定されておりますが、解説のキバナさん。この新ルールはどうでしょうか?」
「面白いと思うぜ?最初はどいつに任せて、そのカバー役や試合を決め切る役目をあらかじめ決めるもよし。まぁ実際の試合の流れ次第で事前の想定なんかいくらでも崩れちゃうからさ。そこら辺はその場の判断だよな。」
「なるほど。ありがとうございます!さぁスタジアム中央に審判が向かい試合開始の流れに入るようです!両者最初はどのポケモンから投入するのか、目が離せません!」
「これよりPWCS公式戦、ガラルチャンピオンダンデ対イッシュチャンピオンアイリスの試合を行います!試合方式は3C1Dルール!試合中メガシンカ、Zワザ、ダイマックス、テラスタルの使用はそれぞれどれか1つのみ可能です!ドローンロトム、試合開始準備を!」
「リョウカイ。オーディエンスホゴバリアフィールド、テンカイ。ジンコウガラテラリュウシ、サンプ。」
シュートスタジアムでの試合と同様の流れが消化され、観客席への流れ弾防止と各種奥義の使用態勢が整えられる。
そして後は互いの最初のポケモンが投入されるのを待つばかり。ほどなく投げ入れられるモンスターボール…。
「いけ!ドラパルト!」
「頼んだわよ!ヌメルゴン!」
「ぎゅるぱぁ!」「めしや〜!」「めしゃっ!」
「め〜ごっ!」
ボールから飛び出すドラパルトと、そこに付き従う2匹のドラメシヤが揃って威嚇をすれば負けじとヌメルゴンもべぇ〜、と舌を突き出し応戦する。
両者共に気合いが乗っている状態だ。
「ダンデ氏の初手はドラパルト!アイリス氏の初手はヌメルゴン!ドラゴンタイプ同士の対面となりました!キバナさん、ドラセナさん両名ともドラゴンタイプのエキスパートでありますがこの対面はどう見ますか?」
「あのドラパルトはよーく知ってる。ダンデの野郎はよくあいつらを先発させるからな。てかオレ様何回も戦ってるし。アイリスちゃんのヌメルゴンは…分からないかな。3年前のPWCSが終わったすぐ後、しばらくウチのジムで一緒にトレーニングしてたんだけど、手持ちの中には見なかった。」
「あら、あらあら。間違いないわ。あのヌメルゴンは2年前、カロスの竜の里にアイリスちゃんが下宿してた頃、私がプレゼントしたタマゴから孵った子ね。」
「マジっすか。」
「マジマジ。嬉しいわ〜立派に育て上げてくれたみたいで。竜の里からカルネちゃんの所にも色々教わりに行ってたらしくってね?すっごく勉強熱心で可愛いでしょ?アイリスちゃん。」
「カルネさんとこにも出入りしてたんだ、そりゃあすげぇや。よく見てみりゃあのヌメルゴンデカいな。ヌメルゴンってだいたい2mちょうどくらいなんだけどありゃあ2.5mはあるぜ。」
「両者初手に投入されたポケモンのエピソードが飛び出して審判からのコールも秒読み!いよいよ試合開始です!!」
「試合、開始ィィィィィィィ!!」
睨み合う竜同士、人同士。
スタジアムという縄張り争いの始まりを審判が告げた。
『ダンデ』
28歳。ガラルリーグチャンピオンであり、リーグ委員会の委員長とリーグのスポンサー企業マクロコスモスの代表を兼任している。
PWCSにて無敵時代を築いていたが、3年前にサトシに敗れ、その席を開け渡している。
エースポケモンは全てのリザードン使いの憧れであり、圧倒的なキョダイマックスで全てを捩じ伏せる相棒のリザードンだ。