3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
アデクから投げかけられた魂の叫びに、サトシも応える。
サトシの闘志に、チャオブーもまた応えようとしていた…。
「こ、これはッ!?チャオブーの両肩になんと!?ツタージャとミジュマルが乗っているように見えますが、ナンテさん!?い、一体何が起きているのでしょうか!?」
「ぬうう…これは、パッと浮かんだ仮説でしかありませんが…。」
初めて見る現象に、ナンテは一呼吸置く。
「ほのおのちかい及びそれに近い類の技は、発動前にフィールドに存在していたタイプエネルギーと掛け合わさり、様々な追加効果を及ぼします。おそらくですが…先発に出たミジュマルがシェルブレードの際に放っていたみずエネルギーと2番手に出たツタージャが内包していたくさエネルギー。それぞれの残滓がチャオブーのほのおのちかいに反応し、彼の元に結集したのではないでしょうか?」
「なるほど〜。」
「それらが、原理まではわからないですがエネルギーを放っていたそれぞれポケモンの姿を象り、チャオブーに寄り添っている、と。」
これを狙っての3体の編成だとするならば、マサラタウンのサトシ、やはり末恐ろしい。
そこまではナンテは口には出さない。更なる奇跡に、フィールドに視線を奪われたからだ。
「ちゃあおッ!おおおおおおお!!」
肩に乗るツタージャの姿を模したくさエネルギーが、ミジュマルの姿を模したみずエネルギーが、チャオブーの体内にそれぞれ取り込まれていく。
漲る力を前に、チャオブーの雄叫びがスタジアム中に轟けば、その身体は進化の光に包まれていった。
「この気配、やはり…進化か!!」
「サトシ!いっけえええええ!!」
理外の奇跡、興奮を前にこの試合1番の絶叫を、アイリスは放っていた。
もはや完全に解説役の立場を忘れている。
「ぶおおおおおおおお!!」
「ぴっかちう!」
「チャオブーが…エンブオーに進化した…!」
驚きが、すぐに喜びに変わる。
ただチャオブーから進化を果たしただけではない。進化したエンブオーの放つ波導が、三色に絡み合っていた。
それは、ミジュマルとツタージャのパワーを受け取って辿りついた、サトシのエンブオーだけの、到達点であった。
「ぶぉあ!」
ゴゴゴゴゴ…!!
「くるぅッ!?」
「な、なんと!!」
エンブオーが自ら炎の柱から出ては、左手でなおも放たれ続ける劫火を抑えながら、悠然と歩みを進め出す。
もはやウルガモスのオーバーヒートが、彼の身を、闘志を焼き尽くすことはない。
「エンブオー…!!」
コレならいける、サトシはそう確信した。
「いけーッ!!フレアドライブ!!」
「ぶおおおおおおお!!」
サトシの指示に、エンブオーはしかと頷いてから全身に炎を纏う。
その炎は、くさの緑、ほのおの赤、みずの青、3色のエネルギーが混ざり合っていた。
ニトロチャージから、技自体が進化した以上の作用が働いているのは誰の目にも明らかであった。
ドドドドドドドド…!!
3つのタイプエネルギーを身に纏ったエンブオーの巨体が、オーバーヒートの劫火の中を突っ切り、全力疾走してゆく。
それは、紛れもなく、突っ走るやじるし。
その反撃として迫り来る巨体に、アデクもウルガモスも戦慄させられる。
「それで、よい…。」
そんな戦慄の中に、一抹の安堵が含まれてもいた。それをアデクは、不覚にも口から漏らしてしまっていた。
「ぶるおおおおッ!!」
ドッゴオッ!!
3色の炎を纏ったエンブオーの渾身の肉弾突撃を、全身全霊のオーバーヒートを突き破られながら直撃させられては、ウルガモスはひとたまりもなかった。
「くるぉぉぉ…!!」
ウルガモスははるか後方、フィールドのフェンスに叩きつけられ、めり込んでいる。
アデクからすれば、審判が入るまでもない事であった。
「見事…。」
アデクは瞑目する。あえて審判のコールを待ったのは、第三者によってはっきりと決着を告げられなくては、この挑んだバトルそのものの意義も薄れるであろうと判断したからだ。
審判がウルガモスに駆け寄れば、アデクの予測通りのジャッジを高らかに告げた。
「ウルガモス、戦闘不能!エンブオーの勝ち!よって勝者、アローラチャンピオンサトシ!!」
「ウルガモスダウーン!ここで試合終了!ほのおのちかいからチャオブーより進化、覚醒したエンブオーが、チャンピオンサトシに快勝をもたらしましたーッ!」
「くさ、ほのお、みずの3つの誓い…さしずめ『三誓モード』とでも言うでしょうか。」
試合が終わり、アイリスはふぅ、と一息つきながらドリンクを喉に流し込む。
熱せられ続けて完全に冷たさが消し飛んでいたが、水分補給の概念的にはそこまで大きな問題ではなかった。
それに、アイリスは元より寒いのや冷たいのがあまり好きではないのだ。
「まったく、ヒヤヒヤさせてくれちゃって。」
アイリスはポツリ、そう呟いていた。
「ぶおおおおおおお!!」
「やったぜエンブオー!!」
「ぴぃかちゅう!」
鼻から息のように炎を吐いてからの、エンブオーの雄叫び。
それは勝利の凱歌に他ならない。サトシとピカチュウも喜びを全開に駆け寄った。
「ぶぉ。」
「あぁ。ホント凄いよ。強くなったな、エンブオー。」
『強くなった。』
それは、心無いトレーナーに捨てられ、裏切られ、傷付けられたポカブだった頃にサトシに受け入れられたエンブオーにとって、何より嬉しい言葉であった。
ことサトシの元には、似たような身の上のポケモンが多くいる。
その中で切磋琢磨を続けた成果が、今日この場で実ったのだ。
リザードンにも、ゴウカザルにも負けないくらいの実績を、エンブオーは手にしたのだ。
「ぶお〜!ぶお〜!」
「おっ?ははは!おいやめろよエンブオー!目が回っちゃうよー!」
サトシを持ち上げ、エンブオーがくるくると回る。
強くなり、勝利を掴めた喜びをエンブオーなりに噛み締めているのを見ては、サトシもほんの少しだけ振り回されることにした。
「くるぅ…。」
「すまんのうウルガモス。もう本当に、このような無茶は今日限りだ。」
目を回していたウルガモスが意識を取り戻し、主人をじっと見る。
『目的は果たせたのか?』そんな問いかけをしてるようにアデクは感じた。
「あぁ。バッチリだ。ご苦労であったな。ゆっくり休んでくれい。」
ウルガモスを労い、ボールに戻すアデクは、置いていた数珠を首に掛け直し、サトシの元へ歩み寄る。
あっ、とアデクに気付いた声をサトシが出せば、はしゃいでいたエンブオーはすぐにサトシを解放した。
「対戦、ありがとうございました。アデクさん。」
サトシが右手を差し出す。
強い相手と戦えたことへの満足感でいっぱいのその表情には、今回の対戦カードにおける話の記憶などどこかへすっ飛んでいっているのが明らかであった。
「いやーやられた。こりゃあかなわんわい。」
そんなサトシに合わせて笑い飛ばして見せながら、アデクは握手にがっちりと応じてからサトシの体を引き寄せ、その右手を高々と上げさせた。
ウオオオオオオオ!ウオオオオオオオオ!!パチパチパチパチパチ…!!
文字通りに熱い試合を繰り広げた2人に、惜しみない歓声と拍手が送られる。
ジュニアカップの始まりを告げ、花を添える目的のエキシビジョンとしては申し分のないひとときは、この後本番を迎える若き才能たちの闘志に盛大に火を付けたのだった。
試合を終えたアデクは、そのままスタジアムを後にすることにした。
サトシとのバトルはあくまでエキシビジョン。この後に大会の試合予定が詰まっているのだ。
速やかに立ち去れば、面倒臭い報道陣に囲まれることもない。
そう思って通路を足早に歩けば、途上に浅黒い影が立ちはだかり、一礼してから道を譲り、後に続いて来た。レンブだ。
「ワシは、お前さんの晴れの舞台を台無しにしたのだぞ。縁を切られても文句は言えぬ。」
「何を仰られる。」
マスコミを避けるべく、2人して早歩きしながら、スタジアムを無事出ては町中に躍り出る。
師弟の会話は町の喧騒に呑まれ、当人同士の耳にしか入らない状況だ。
「自分とシューティーは、貴方を師と仰ぎ、教えをいただく兄弟弟子。で、あるならば彼は自分にとって弟も同然。兄として、弟の苦悩を知らず、師父自ら動かねばならぬようなところまで、何の助けにもなれなかったこの身で、どうして自分1人だけ、武を試す資格がありましょうや。」
レンブとて、イッシュリーグの四天王。世のポケモントレーナーたちの模範足るべきと振る舞い、それが評価されているひとかどの人物だ。
当身をくらって意識を手放し、そこから目を覚ました時には、アデクの凶行には、相応の事情あってのことであろうと分かりきっていた。
レンブからすれば、この程度のことで師を見限るなどはありえないのだ。
「ぬう…。」
アデクは不意に立ち止まり、天を仰ぐ。
空には、青雲の志を抱く若者たちの飛躍を見守るように太陽が輝いていた。
「暑いのう、レンブよ。暑くて、かなわんわい。」
「はい。とても暑うございます。師匠。」
アデクの目からは、『汗』が流れ続けた。誰がなんと言おうと、それは『汗』であった。
やれることはやった。
あとはサトシとのバトルの意図を、シューティーが察するか、という話であった。
アデクは、ただひたすらに、そこを願った。それをさせてくれる一番弟子にも、感謝していた。
「アデクさんが、負けた…。」
3年前、アイリスに敗れたアデクの姿を見た時は、酷く動揺させられた。
これは夢だ、何かの間違いだ。そう何度も師を奮い立たせようと言葉をかけるも、アデクはすっきりとした表情のまま自分に首を横に振って見せ、そのままトレーナーとしては表舞台から姿を消した。
そして不意にバトルをしたと思えば、今またサトシに敗れたアデクの姿をモニター越しに見せつけられている胸中に、3年前のようなザワつきはなかった。
「あぁ、あぁ…。」
認めたくないが、どうしても認めざるを得なかった。
3年前ならばいざ知らず、現在における全国という舞台は、アデクの全力を以てして通用する環境ではなくなっていたのだ。
そしてそれは、アデクを至上とするシューティーにとって、彼の教えを学び取るだけでは、決して頂点には立てないという、紛れもない事実。
シューティーは、聡明な少年である。
叩きつけられた現実を前に、もはや、見て見ぬ振りなど出来なくなっていた。出来なく、させられたのだ。
「なら…僕は…。」
血の気が引き、幽鬼のような顔でフラフラとモニターから離れ、歩き出すシューティーの姿は、程なくソウリュウシティから消えていた。
PWTジュニアカップエキシビジョンマッチ サトシvsアデク
3C1D方式
ミジュマル→ツタージャ ウルガモス→バッフロン
ツタージャ→チャオブー バッフロン→ウルガモス
チャオブー(試合中進化によりエンブオー)○ ウルガモス●
勝者 サトシ